【AIスマートホーム/ホームオートメーション特集】赤外線制御に潜む罠。赤外線リモコン依存を避けるべき5つの理由
取材/LWL online編集部
以前、ある建築家とスマートホームについて話をしていた時のことだ。テストも兼ねて、自宅にIoTガジェット型のスマートホームを一部採用したものの、外出先からエアコンを操作して「オンにしたつもり」が、実際にはオフのままだったことがあったそうだ。赤外線リモコンで制御しているため、本当のところ機器がオンになっているのか、オフになっているのか、状態がわからないことに疑問を持ったという。
クレームという大げさなものではないが、実際に住まいを扱う中で出てきた率直な違和感である。実は、この何気ない話、雑談の中で出てきた感想はスマートホームを考えるうえで極めて重要な論点を含んでいる。
赤外線リモコンは、そもそも住宅全体を制御することを目的とした技術ではない。建築統合型スマートホームに必要なのは、単に信号を送ることではなく、住まいの状態を正しく把握することである。
この記事の結論
スマートホームで赤外線リモコンを基幹制御に使うべきではない最大の理由は、機器の状態フィードバックが取れないこと。
赤外線は目の前にある家電を操作するための一方通行の信号であり、住宅全体を遠隔制御・自動制御・連動制御するための建築インフラではないことは知っておいてほしい。
建築統合型スマートホームでは、操作できることと同時に、機器の状態を正しく把握できることが重要になる。
建築統合型スマートホームに必要なのは「操作」に加えて「フィードバック」
スマートホームというと、スマートフォンやスマートスピーカーで家電を操作できることだと捉えがちだ。その理解は間違いではないが、それがすべてではない。
操作とともに重要なのは、住まいの状態を把握し、光、空調、セキュリティから、動線、時間の流れまでを統合的に整える仕組みである。そうした意味では、赤外線リモコンを中核に据えたIoTガジェット型のスマートホームには限界がある。
結論から言えば、建築統合型スマートホームを目指すのであれば、赤外線リモコンを基幹制御に使うべきではない。赤外線信号依存を避けるべき最大の理由は、機器の状態フィードバックが取れないことだ。赤外線は本来、目の前にある家電を操作するための一方向にしか信号を送出できないリモコン信号である。目の前にある機器を操作させるための信号であることをまずは理解しておいてほしい。赤外線リモコンは、住宅全体を遠隔・自動・連動制御するための建築インフラが目的ではない。
もちろん、赤外線スマートリモコンそのものを否定するつもりは全くない。テレビやルームエアコンをスマートフォンから操作する。賃貸住宅で工事をせずに少し便利に使う。あるいは、ガジェットとして楽しむ。そうした用途であれば、赤外線にも一定の価値はある。
しかし、建築家、インテリアデザイナー、デベロッパーが関わるラグジュアリー邸宅において、それを「スマートホーム」と呼ぶのは危うい。まして、建築統合型スマートホームを目指すのであれば、赤外線頼みは避けるべきだ。2026年の今、システムインテグレーターが設計するスマートホームにおいて、赤外線を住宅設備制御の中心に置くことは、あまりにリスクが大きい。

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そもそも赤外線はスマートホームのための技術ではない
赤外線リモコンは、もともと目の前にある機器を、わざわざ本体のスイッチまで近づかずに操作するための技術である。テレビ、エアコン、AV機器などを、人がその場で見ながら操作する。それが赤外線リモコンの基本的な使われ方だった。
つまり赤外線は、「その場にいる人間が、機器の反応を確認しながら使うこと」を前提としている。自宅外からの遠隔操作、複数機器の連動、住宅全体のシーン制御、状態監視までを担うために設計されたものではない。
想定していない役割を背負わせれば、当然ながら無理が出る。スマートホームで赤外線信号に頼ってはならない理由は、大きく5つある。
理由1:状態フィードバックが取れず、トグル問題が起こる
赤外線スマートリモコンの最大の問題は、機器の状態を正しく把握できないことだ。
スマートホームにおいて重要なのは、「操作できること」ではない。「状態がわかること」である。エアコンはオンなのかオフなのか、照明は点灯しているのか、いまはどのようなシーンになっているのかなど、こうした状態情報が戻ってこなければ、住宅全体を安全かつ快適に制御することはできない。
この問題は、いわゆる「トグル問題」として表面化する。多くの家電リモコンでは、電源ボタンが「オン専用」「オフ専用」に分かれておらず、同じボタンを押すたびにオンとオフが切り替わる。つまり、現在オフであればオンになるが、現在オンであればオフになる。
人が目の前で操作しているのであれば、問題にはならない。エアコンのランプが点いた、音が出たといった動作を直接人間が見て確認できるからだ。しかし、外出先からスマートフォンで操作している場合は違う。機器の現在状態がわからないまま「電源オン」信号を送ると、オンにしたつもりが、実際にはオフになってしまうことがある。 赤外線スマートリモコンは「信号を送った」ことは記録できる。しかし、「機器がどういう状態になったか」は確認できないのだ。

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理由2:少しずれただけで、信号が届かないことがある
赤外線は光である。電波のように空間全体へ柔軟に回り込むものではない。壁や天井に反射して届くことはあっても、それは環境に依存した偶然性の高い挙動であり、建築設備として信頼すべきものではない。
赤外線ハブを棚の上に置く。エアコンの受光部に向ける。テレビの前に置く。家電リモコンの延長であれば、それで済むかもしれない。しかし、住まいのインフラとして考えた瞬間に、それはあまりにも脆弱である。 家具の位置が少し変わる。カーテンが動く。観葉植物を置く。テレビボードを変更する。それだけで信号の届き方は変わる。建築統合型スマートホームに必要なのは確実な再現性である。「たぶん届く」は住宅設備の言葉ではない。
理由3:複数機器のシーン制御に弱い
スマートホームの価値は複数の機器を連動させること、要するにシーンをつくりだすことである。
たとえば「帰宅」シーンで、照明を点け、エアコンを動かし、ブラインドを閉める。「シアタースタート」シーンで、照明を落とし、スクリーンを下ろし、AV機器を起動する。「就寝」シーンで、足元灯だけ残し、空調を睡眠モードにし、不要な機器を停止する。
こうした連動制御こそがスマートホームの魅力、醍醐味である。しかし、赤外線は複数の命令を同時多発的に扱う制御には向いていない。信号を順番に送る、遅延を入れる、再送するといった工夫が現場ごとに必要となる。
ラグジュアリー邸宅において、これは致命的である。ボタンを押したのに一部だけ反応しない。こうした不一致は体験価値を大きく損なう。
理由4:人、ペット、家具。障害物に弱い
赤外線は障害物に弱い。電波と異なり、光による信号だから当然だ。
赤外線ハブとエアコンの受光部の間を、たまたま人が横切る。ペットが通る。ソファの背が高くなる。観葉植物を置く。風でカーテンが揺らぐ。こうした日常の小さな変化だけで、信号が届かないことがある。
目の前で操作しているのであれば、反応しなければもう一度押せばよい。しかし、スマートホームではそうはいかない。外出先からエアコンを入れたつもりで帰宅したら、実は動いていなかった。夜間のシーンで照明を落としたつもりが、一部だけ点いたままだった。こうしたことが起こらないとは言えない。 スマートホームで最重要なのは再現性である。生活の裏側で確実に動いていなければならない。空間内の偶然に左右される方式は、住宅のインフラ、基幹制御には向いていない。
理由5:家電更新、コード管理、保守性に弱い
見落とされがちなのが、保守性の問題である。
赤外線スマートリモコンは、家電ごとのリモコンコードを学習したり、メーカーや型番ごとのコードデータベースを使ったりして制御する。では、家電を買い替えたらどうなるのか。リモコンコードが変わったらどうなるのか。電源ボタンがオン/オフ兼用のトグル式だった場合、現在の状態をどう判断するのか。
また、赤外線の送信部である赤外線LEDそのものについて、一部で言われている「数年で必ず寿命を迎える」と断定するのは避けるべきだろう。適切に設計された赤外線LEDは一般的には長寿命の部品とされる。そのことは知っておいた方が良い。問題は発光素子単体の寿命ではなく、赤外線ハブの設置位置、電源、ネットワーク環境、アプリ、クラウド、リモコンコード、家電更新まで含めたシステム全体の保守性である。
住宅は10年、20年、30年と、長期間使われる。数年ごとに家電もアプリもクラウドサービスも変わる。その変化に耐えられない仕組みを、住まいの制御基盤にしてよいのかというきわめて大きな課題がここにはある。

※図版はAIで作成
建築統合型スマートホームに必要なのは状態がフィードバックされる制御である
本気でスマートホームを住宅に組み込むのであれば、赤外線ではなく、状態取得を前提とした制御系を選ぶべきである。
たとえば、KNX、BACnet、DALI、Modbusなどの建築・設備系プロトコル。あるいは住宅規模であれば、リレー、I/O、JEM-A/HA端子などを適切に組み合わせる方法もある。重要なのは、高度な方式を使うことそのものではない。機器に命令を送るだけでなく、現在の状態を確認できる設計にすることだ。
たとえばJEM-Aは非常に原始的な制御方式である。日本がスマートホームの最前線を走っていた頃の規格であり、IP制御全盛のいまの時代、古い規格だと思われがちだ。しかし、少なくとも、赤外線のように「信号を送っただけ」で終わる方式とは異なり、状態確認を組み込める余地がある。たとえばエアコンや床暖房のオンオフや電子錠では、未だに活躍している。 フィードバックを確実に取れること。これこそが建築統合型スマートホームの考え方である。
赤外線以前にクラウド依存にも注意すべき
さらに、LWL onlineでは何度も記事にしているが、IoTガジェット型スマートホームには、赤外線以前の問題もある。インターネット依存、クラウド依存である。
過去には、スマートホーム企業Insteonのサービス停止によって、ユーザーがアプリ経由で照明などを操作できなくなる事態が起きた。これは、スマートホームを考えるうえで非常に示唆的な教訓である。 遠隔操作や音声操作でインターネットを使うことは当然ある。しかし、住宅の基幹制御そのものをクラウドやインターネットに依存させるべきではない。インターネットは補助的な経路であり、住宅設備の根幹ではない。クラウドが止まっても、照明が点き、空調が動き、ブラインドが制御できる。そうしたローカルネットワークで完結できる仕組みこそ、長く使われる住まいには必要である。

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赤外線はリモコンであって住宅設備ではない
赤外線リモコンは便利である。安価で、導入しやすく、既存家電にも使える。その意味では、生活を少し便利にする道具としての価値がある。
ただし、赤外線は住宅設備ではないことは知っておいていただきたい。少なくとも、建築統合型スマートホームを選択するのであれば、中核に据えるべきものではない。
スマートホームを「おもしろガジェット」として楽しむなら、赤外線でも充分だろう。しかし、ラグジュアリー邸宅の光、空気、温熱環境、セキュリティ、動線、時間の流れまでを設計する基幹インフラとするのであれば、赤外線では足りない。
建築統合型スマートホームとして必要なのは、信号が確実に届き、状態を把握でき、長期の保守に耐えることである。さらに、クラウドが止まっても住宅として機能し続けることも必要である。
数年前とは違い、2026年のいま、スマートホームをめぐる状況は変わりつつある。IP制御に対応する設備が増え、海外から新たなHome OS、建築統合型のスマートホームシステムが次々と上陸しつつある。その多くは、クラウドだけに依存するのではなく、ローカルネットワーク、専用バス、フィールドバスなどを組み合わせ、住宅内で安定して制御できる構成を重視している。数年前とは状況がガラリと変わった。
建築に組み込まれ、設備として信頼でき、住み手に意識させずに住空間の環境全体を整えるものこそが、これからの住まいに必要なスマートホームである。
スマートホームと赤外線操作にまつわるFAQ
Q1. スマートホームで赤外線リモコンを使ってはいけないのはなぜですか?
赤外線リモコンは基本的に一方通行の信号であり、機器の状態フィードバックを取得できないためです。スマートリモコンは「信号を送った」ことは把握できますが、エアコンや照明が実際に動作したかどうかを正確に確認できません。建築統合型スマートホームでは操作だけでなく状態把握も必要です。
Q2. 赤外線スマートリモコンはまったく使うべきではないのですか?
そんなことはありません。簡易的な家電操作や賃貸住宅での利用、既存エアコンやテレビなどの家電群をスマートフォンから操作する用途であれば、赤外線スマートリモコンにも価値があります。ただし、住宅全体の照明、空調、ブラインド、セキュリティを統合制御する建築統合型スマートホームの中核には適していません。
Q3. 建築統合型スマートホームでは何を使うべきですか?
KNX、BACnet、DALI、Modbusなどの建築・設備系プロトコルや、リレー、I/O、JEM-A/HA端子など、状態取得や確実な制御が可能な方式を検討すべきです。重要なのは、機器に命令を送るだけでなく、現在の状態を確認できる設計にすることです。
Q4. 赤外線リモコンとスマートホームの最大の違いは何ですか?
赤外線リモコンは、目の前にある家電を人が操作するための技術です。一方、スマートホームは、住宅内の機器や設備を統合し、状況に応じて自動制御する仕組みです。スマートホームでは、遠隔操作、複数機器連動、状態監視が求められるため、赤外線だけでは限界があります。
Q5. スマートホームでクラウド依存が危険なのはなぜですか?
クラウドサービスに依存したスマートホームは、サービス終了や通信障害によって操作できなくなる可能性があります。住宅は長期間使われる建築インフラであるため、照明、空調、ブラインドなどの基幹制御は、クラウドに依存せずローカルでも機能する設計が望ましいです。

Image:Pixel-Shot /Shutterstock.com
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