アストンマーティンはなぜ「住宅」をつくるのか。VIBROAと国内不動産開発で独占提携
取材/LWL online編集部
英国のウルトララグジュアリーブランド、アストンマーティンが、日本での不動産・住宅開発を本格化させる。VIBROAは2026年8月18日、アストンマーティンと日本国内の不動産開発における独占的パートナーシップを締結したと発表した。2025年に完成した「Nº 001 Minami Aoyama Designed by Aston Martin」に続き、京都・南禅寺エリアでも新プロジェクトを進める。なぜ自動車ブランドであるアストンマーティンが住宅をつくるのか。その背景から、ラグジュアリーブランドと住空間の新たな関係を考える。
「Nº 001 Minami Aoyama」から始まった、アストンマーティンの住宅開発
VIBROAとアストンマーティンの協業を象徴する存在が、2025年6月に竣工した「Nº 001 Minami Aoyama Designed by Aston Martin」である。
東京・南青山に建つ4層のプライベートレジデンスで、アストンマーティンがアジアで初めてデザインした戸建て住宅でもある。地下にはジムやワインセラー、ゴルフシミュレーター、プライベートスパなどを備える一方、地上階には2台のアストンマーティンを『彫刻作品』のように見せるオートモーティブギャラリーも設けられた。
ただし、自動車の意匠をそのまま住宅へ持ち込んだわけではないことは記しておきたい。当時のプレスリリースで、アストンマーティンのチーフ・クリエイティブ・オフィサー、マレク・ライヒマン氏が語っているように、そのデザインに通底するのは、プロポーション、素材への向き合い方、クラフツマンシップ、視覚的なドラマといった、同社が自動車づくりで培ってきたデザイン哲学である。アストンマーティンが住宅へ持ち込もうとしているのは、「自動車の形」ではなく「アストンマーティンらしさ」そのものなのである。
Bowers & Wilkinsとの協業からも見える、「モノ」から「体験」へのラグジュアリー
この考え方は、自動車以外の分野にも表れている。
たとえばアストンマーティンは、英国のハイエンドオーディオブランドBowers & Wilkinsを公式オーディオパートナーとし、DB12を皮切りに車両空間に合わせて共同開発したサラウンドシステムを展開している。自動車にとどまらず、そこで耳にする『音』までブランド体験として設計する取り組みといえる。
住宅への進出も、同じ哲学に基づいていると考えてもいいだろう。
ラグジュアリーブランドにとって、顧客との接点はもはや商品を所有する瞬間だけではない。どのような場所で過ごし、何を見て、何を聴き、どのような素材に触れ、どのようなサービスを受けるのか。ラグジュアリーブランドの価値を、生活の時間そのものへ広げることが重要になっている。
アストンマーティンはすでに、自動車の外側の領域へとこの世界観を拡大している。
2024年には、同社初の不動産プロジェクトとなった『Aston Martin Residences Miami』が完成。住戸向けのインテリアコレクションに加え、フィットネス、スパ、アートギャラリー、シアターなど、複数フロアにわたる共用空間にもアストンマーティンのデザインが導入された。現在では米国をはじめ各地で不動産プロジェクトを展開しており、同社自身もリアルエステートを、自動車を超えてブランドを成長させるための重要な領域と位置づけている。
VIBROAが目指す、「ブランドを冠した建物」ではなく体験を統合する不動産

今回の提携で最も注目したいのが、アストンマーティンと組むVIBROA側の不動産に対する考え方だ。
VIBROAは、空間、体験、サービス、資産価値をひとつのデザインとして統合するという考えに基づいた不動産デベロッパーである。また、コンセプト策定やブランド戦略から、プロジェクトマネジメント、デザインディレクション、さらに完成後の運営計画までを一貫して担う独自のアプローチに強みを持つ。
さらに今後は、プロジェクトを展開する各地域に「VIBROA Design Lab」を設置する構想も掲げている。
建築、インテリアデザイン、アート、ランドスケープ、ホスピタリティなど異なる領域の専門家やクリエイターを集めたプラットフォームであり、プロジェクトごとにチームを組成し、その土地の文化や自然、歴史まで読み解きながら、各地域の価値を引き出すという試みだ。
これは従来型の「有名ブランド×不動産」というコラボレーションとは少し意味が異なる。
ブランドのロゴや象徴的な意匠を建物へ持ち込むことにとどまらず、建築、家具、アート、ランドスケープ、テクノロジー、サービスといった複数の要素を統合し、そこに暮らすことで初めてブランドの価値を完成させる。
ブランドを「見る」空間ではなく、ブランドを「体験する」空間をつくろうとしているのだ。
次の舞台は京都・南禅寺。アストンマーティンのデザインDNAと京都の文化的文脈の融合
その意味でも注目したいのが、両社が次のプロジェクトのひとつとして京都・南禅寺エリアを選んだことだ。
現在明らかになっているのは、2026年9月に着工予定であることまでで、建物の用途や規模など詳細は発表されていない。
だが、南禅寺周辺という土地を考えれば、そこでは南青山とは異なるアプローチが求められるだろう。
アストンマーティン自身も、日本について、デザインやクラフツマンシップ、細部へのこだわりへの深い理解を持つ重要な市場だとしている。また今回のパートナーシップでは、「その土地との深いつながり」を持ちながら、アストンマーティンならではの個性やクラフツマンシップを表現する場所を創造していく考えを示している。
英国のウルトララグジュアリーブランド、アストンマーティンが持つデザインDNAと、京都という極めて強い文化的文脈をどのように融合させるのだろうか。興味は尽きない。
アストンマーティンがつくろうとしているのは「住宅」なのか
ラグジュアリー住宅はこれまで、立地、広さ、設備、希少性といったスペックによって、その価値を語られることが多かった。だが、今回のようなブランドレジデンスの広がりを見ていると、その価値基準にも変化が生まれつつある。
どのような思想で建築され、どのような素材に囲まれ、どのような光や音を感じ、どのようなサービスを受けながら時間を過ごすのかという、そこで得られる「体験」がラグジュアリーの価値を左右する時代へ向かっている。
VIBROA代表取締役の吉田利行氏も今回の発表で、単にブランド名を冠した不動産開発ではなく、「空間、体験、サービス、資産価値を一体としてデザイン」することで、日本発の新しいラグジュアリー開発モデルを世界へ発信したいとの考えを示している。
だとすれば、アストンマーティンがつくろうとしているものを、単純に「住宅」と呼ぶだけでは不十分なのかもしれない。
そこは、自動車、建築、インテリア、アート、音、ランドスケープ、そしてホスピタリティまでをつなぎ、ひとつの世界観として体験できる空間である。
アストンマーティンとVIBROAの独占的パートナーシップは、ラグジュアリーブランドと住宅の関係が、「ブランドレジデンス」の段階から、その先へ進もうとしていることを示す動きとして注目したい。
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