カリモクが3daysofdesign 2026へ。MAS初出展、Karimoku CaseはDynaudioと共演
取材/LWL online編集部
木の肌理、手触り、香り、陰影。そして、空間に宿る静けさ。日本を代表する木工家具メーカー、カリモク家具が、デンマーク・コペンハーゲンで開催されるデザインイベント「3daysofdesign 2026」に出展する。会期は2026年6月10日(水)から6月12日(金)まで。カリモクが展開する木工家具ブランド〈MAS〉が初出展を果たすほか、昨年に続いて〈Karimoku Case〉も参加。なかでも注目したいのは、〈Karimoku Case〉がデンマークのハイエンドオーディオブランド〈Dynaudio〉とともに展開する展示「A MOVING PRESENCE」である。
家具と音。木工と音響。そしてクラフツマンシップとエンジニアリング。
一見すると異なる領域がコペンハーゲンの舞台ではひとつの空間体験として編み直される。
カリモクは声高に日本らしさを語るのではなく、素材、構造、余白、精度によって空間の空気を整える。カリモクの抑制された、「いき」と呼んでもよい美意識が、北欧のデザインシーンのなかで響き始めている。
3daysofdesignという舞台。北欧で問われる日本のものづくり
3daysofdesignはデンマーク・コペンハーゲンを舞台に開催されるデザインイベントである。家具、照明、インテリア、クラフト、建築的なインスタレーションまで、都市の各所で多様な展示が展開される。北欧デザインの現在地を示す場であると同時に、世界各国のブランドが、素材、サステナビリティ、クラフツマンシップのあり方を提示する場でもある。
その佇まいはミラノサローネのような規模と祝祭性とは少し異なる。コペンハーゲンの街に点在する会場を巡りながら、来場者は家具や照明を、より生活や建築に近い距離で体感する。大きなトレンドやブランドの世界観を発信するというよりも、素材、手仕事、空間の質をひとつずつ確かめていくような、静かだが濃い密度が3daysofdesignにはある。
カリモクはこの舞台で2つの異なる表情を見せる。
ひとつは、木工家具ブランド〈MAS〉の初出展。もうひとつは、〈Karimoku Case〉によるDynaudioとのコラボレーション展示である。
〈MAS〉は、日本の森林資源、特にヒノキという素材の可能性を、現代の家具として提示する試み。一方の〈Karimoku Case〉は、音響、建築、家具を一体化させる空間体験として、カリモクの木工技術をよりラグジュアリーな文脈へと接続するものだ。 「日本の家具を海外に紹介する」という単純な構図ではなく、むしろ、日本の素材や職人による手仕事、そして日本の抑制された美意識が、北欧のデザイン文化とどのように響き合うのかという、その交点に、今回の出展の面白さがある。
〈MAS〉が初出展。「素材に宿る知性」をヒノキで表現する
今回初出展となる〈MAS〉は、Jens H. Jensen氏とOEO Studioの共同企画による合同展示「Japanmade Vol.1」に参加する。出展ブランドは、Naowashi、NEW LIGHT POTTERY、SEKISAKA、sheep、そしてMASの5ブランド。展示全体のテーマは「素材に宿る知性」。
〈MAS〉は針葉樹を中心とした日本の木材と向き合う木工家具ブランドだ。ブランド名に込められた意味は、日本で親しまれてきた酒器や計量器としての「枡」と、国産材を用いた量産=マスプロダクションへの挑戦である。二つの意味が重ねられた〈MAS〉である。
家具において、ヒノキのような柔らかな木材を用いることは容易ではない。強度や耐久性、構造の工夫など、多角的な技術が求められる。カリモクはその製造技術と木材への深い知見によって、ヒノキの木肌、手触り、香りを活かした家具へと昇華させている。
会場では、熊野亘がデザインした「WK Sofa 01 Series」、Daniel Rybakkenによるブランド初の照明アイテム「DR Light 01 Series」、藤城成貴による「SF Basket 01」などを展示する予定だ。日本の座布団から着想を得たソファ、ヒノキの表情を静かに照らす照明、民芸的なやわらかさを持つバスケット。いずれも、素材を過剰に装飾するのではなく、素材の輪郭が自然に立ち上がるように設計されている。
ヒノキは、立ちのぼる香りによって記憶に触れ、手触りによって身体に近づく素材である。〈MAS〉の家具はその魅力を声高に主張しない。空間に静かに入り込み、使い手の身体の近くで、ゆっくりと存在感を深めていく。
そこにあるのはわかりやすい「和」や「日本」という記号ではない。日本の木材が持つ香りや触感を現代の住空間にどう置き直すかという問いに対する、控えめでありながら明確な回答である。

WK Sofa 01 Seriesは、日本の座布団から着想を得て生まれた、ソファとベンチの中間的なスタイルの家具。ヒノキの軽やかさと強度を活かしたフレームに、ふっくらとした座面と背もたれを配置し、心地よいくつろぎを演出。1~3 シーター、ベンチ、デイベッドなど豊富なサイズ展開とラインアップに加え、サイドテーブルとの組み合わせで自在な空間構成が可能となっている。軽やかな佇まいが空間にゆとりをもたらし、心地よいくつろぎの場を生み出す。

WK Sofa 01 Series と合わせて利用するためにデザインされた、シンプルで機能的なサイドテーブル




DR Light 01 Series は、日本のヒノキの木肌を静かに見つめるために生まれた照明。淡く差し込む光が木目の美しさを際立たせ、心をそっと穏やかに整える。縦型と横型の 2 タイプは、それぞれ異なる角度から光を当て、ヒノキの持つ表情を豊かに演出。空間の灯りとしてはもちろん、オブジェやアートのように、佇まいそのものが美しい存在である。


SF Basket 01 は、無垢材のフレームと平紐を格子状に編み上げたネットを組み合わせた収納バスケット
Dynaudioとは何か。北欧の音響文化を代表するスピーカーブランド
今回の展示を読み解くうえで、もうひとつ押さえておきたいのが、Dynaudioというブランドの存在である。LWL onlineの読者には、まだ馴染みの薄い名前かもしれない。
Dynaudioは1977年にデンマーク・スカナボーで創業したスピーカーブランドである。ハイエンドオーディオ、プロフェッショナル向けモニタースピーカー、カーオーディオ、カスタムインストール領域まで幅広く展開し、北欧を代表する音響ブランドのひとつとして海外ではよく知られている。
音を過度に演出するのではなく、録音された音楽の情報をできる限り正確に再現しようとするスタンスを持っている。Dynaudioは、スピーカーユニットやキャビネット、ネットワーク、チューニングに至るまで、音の透明性と一貫性を追求してきたブランドでもある。
本サイトの読者に向けて言うならば、Dynaudioは単なる「音響装置メーカー」ではない。音のある空間をどう整えるか、音響機器が住空間やインテリアの中でどう存在するべきかを考えるうえで、きわめて重要なブランドのひとつである。
特に近年の高級住宅やラグジュアリーインテリアにおいて、オーディオは単に「音を出す装置」ではなくなっている。スピーカーは、壁面や家具、照明、素材、視線の抜け、居場所の設計とともに、空間体験を構成する要素となる。Dynaudioとカリモクの協業は、まさにその流れの中に位置づけられる。
〈Karimoku Case〉×〈Dynaudio〉。音と家具がひとつの空間をつくる
〈Karimoku Case〉は、Dynaudioの新しいフラッグシップストアを舞台に、コラボレーション展示「A MOVING PRESENCE」を開催する。
会場となるのは、コペンハーゲンのMøntergade 19番地に誕生するDynaudioの欧州常設フラッグシップストア。空間設計はNorm Architectsが手がける。3つのフロアにわたる空間は、音楽と向き合い、人が集うための場として構想されている。
中心に据えられるのは、Dynaudioの高性能サウンドシステム「Opus One」。カリモク家具は、この製品において木部パーツの製造を担っている。すなわち、スピーカーは単なる音響機器としてではなく、木の素材感と職人の手仕事を纏い、空間の中に置かれるオブジェとして立ち上がる。
実はDynaudioとカリモクの関係は、今回の展示だけにとどまらない。Dynaudioは芦沢啓治建築設計事務所とカリモクとの協業によるスピーカー「The Bookshelf」も展開している。芦沢啓治建築設計事務所がデザインを手がけ、カリモクが日本の北海道産オーク材を用いたスピーカーキャビネットを製作。Dynaudioが音響技術を組み込み、チューニングを行うという、デンマークと日本を結ぶプロジェクトとなっている。
この協業が示しているのは、木工と音響の深い接点だ。スピーカーにおいてキャビネットは、音を収める箱であると同時に、空間の中で視覚的な存在感を持つ家具的な要素でもある。音のための構造であり、インテリアの中に置かれるオブジェでもある。その両義性にカリモクの技術とDynaudioのエンジニアリングが交差する。
今回の「A MOVING PRESENCE」は、その関係性をさらに空間へと拡張するものといえる。音は耳だけで受け取るものではない。空間に広がり、床や壁、家具の表面に触れ、身体の内側にまで響きわたる。リスニング体験とは音響機器だけで完結するものではなく、空間全体の質によって深められるものでもある。
Dynaudioとカリモクの協働はオーディオと家具のコラボレーションであると同時に、住空間におけるリスニング体験の再定義でもある。音響機器を置くのではなく、音が生まれる空間そのものを設える。その発想はラグジュアリー邸宅における体験価値のあり方とも深く響き合う。

海外で受け止められる、カリモクの主張しない美意識
カリモクの海外展開で興味深いのは、日本的な意匠を記号として前面に押し出しているわけではない点だ。
和紙、格子、障子、文様といった、わかりやすい「日本らしさ」を用いなくとも、そこには確かに日本の感性がある。木目の扱い、接合部の精度、表面仕上げ、家具が空間に対して出しゃばりすぎない佇まい。そうした細部の集積が、静かな品位をつくっている。
この在り方は、九鬼周造が『「いき」の構造』で論じた「いき」の感覚にも、どこか通じている。過剰に飾らず、しかし無味乾燥ではない。距離を保ちながらも、人の身体や気配に近づいていく。強く主張するのではなく、筋の通った美意識によって空間に残る。そうした抑制と洗練の美意識がカリモクの家具には宿る。
ただし、それは古典的な日本趣味の再現ではない。単純な古典的日本趣味の再現ではない。むしろ現代の住空間の中で、素材、構造、機能、手触りをどう調和させるかという、きわめて実践的なデザインなのである。
〈Karimoku Case〉はNorm Architects、芦沢啓治、Norman Fosterら国内外の建築家やデザイナーとのプロジェクトを通じ、特定の空間のために家具を考えるブランドとして展開されてきた。家具を単体のプロダクトとしてではなく、建築やインテリア、そこに流れる時間とともに考える。この姿勢は北欧のデザイン文化とも高い親和性を持っている。
ミニマルでありながら、ミニマルデザインにありがちな冷たさは感じない。クラフトでありながら感傷に流れない。日本的でありながら、記号としての「日本」に閉じず、オリエンタリズムに安住していない。
カリモクの家具は国籍を声高に主張するのではなく、空間のなかで静かに振る舞う。その姿勢が、コペンハーゲンという洗練されたデザイン都市の空気のなかで、むしろ鮮やかに浮かび上がることだろう。

家具は音の居場所をつくる
住まいの豊かさは必ずしも目に見える豪華さだけで決まるわけではない。
手で触れたときの木の温度。座ったときの身体の沈み方。音が部屋に満ちたときの響き。光が素材の表面をなぞる瞬間。そうした細かい感覚の積み重ねが空間に深い記憶を刻んでいくのだ。
〈MAS〉はヒノキという日本の素材を通じて、暮らしに寄り添う新しい木工家具の可能性を示す。〈Karimoku Case〉はDynaudioとの共創によって、音と家具と建築が一体となる体験を提示する。
そこに共通するのは、家具を「置かれるもの」としてではなく、空間の質を整える存在として捉える眼差しである。そしてDynaudioとの協業はその眼差しを「音の居場所」へと広げていく。
ラグジュアリーとは必ずしも強い主張や高価な素材の誇示ではない。むしろ、光、音、手触り、静けさが過不足なく調和していること。そして、その状態を日々の暮らしの中で自然に感じられること。
カリモクの静謐な美意識は、いまコペンハーゲンで、北欧の感性と響き合おうとしている。家具は空間を満たすものではなく、空間に余白を与えるもの。音は背景ではなく、住まいの質感をつくるもの。
3daysofdesign 2026におけるカリモクの展示は、日本の木工技術がこれからグローバルなラグジュアリー空間の中でどのような役割を担っていくのか、そのひとつの美しい予兆となりそうだ。

展示概要
MAS「Japanmade Vol.1」
- 会期:2026年6月10日(水)〜6月12日(金)
- 時間:10:00〜18:00
- 会場:Dampfærgevej 2, Nordhavn, Copenhagen(Pakhus 11隣接)
- 出展ブランド:Naowashi、NEW LIGHT POTTERY、SEKISAKA、sheep、MAS
- プロデューサー:Jens H. Jensen
- 会場デザイン・キュレーション:OEO Studio
- プレスアワー:2026年6月11日(木)9:30〜11:30
- トークセッション:10:00〜
- 登壇:熊野亘、Thomas Lykke、Daniel Rybakken
Karimoku Case「A MOVING PRESENCE」
- 会期:2026年6月10日(水)〜6月12日(金)
- 時間:10:00〜18:00
- 会場:Dynaudio Flagship Store
- 住所:Møntergade 19, 1116 Copenhagen
- 会場デザイン:Norm Architects
- スタイリング:中田由美
- プレスプレビュー:2026年6月9日(火)11:00〜12:30
- 当日はNorm ArchitectsのFrederik Wernerが在廊予定。
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