「住まいの詩学」―第4回:“光”という名の素材~窓辺から照明計画まで―
一級建築士・統括デザイナー・ストレスアナリスト/町田瑞穂ドロテア 取材/杉浦みな子
インテリアは、さまざまな素材の重なりによって形作られます。当連載でも、これまで空間を構成する素材や家具など、“目にみえる要素”を取り上げてきました。対して、第4回となる今回は、形を持たず刻々と移ろう“光”に焦点を当てていきます。インテリアコーディネーターの町田瑞穂ドロテアさんは光をどのようにとらえ、住まいに落とし込んでいるのでしょうか。
ここでいう「光」とは、自然光と人工光の両方を含めた環境としての光を指します。

一級建築士
統括デザイナー
ストレスアナリスト
スイス生まれ。
武蔵工業大学工学部建築学科卒業(現:東京都市大学)
日本の住宅メーカーをはじめ、米国の設計事務所RTKL International ltd.にて勤務。
2000年の帰国後より、町田ひろ子アカデミーにて教育・商品企画・インテリアデザインなどに関わる。英国ロンドンにあるKLC School of Designインテリアデザインとインテリアデコレーションのディプロマ(資格)を取得。海外の経験を活かし、日本の住空間にあったデザイン&コーディネートを独自の視点でデザイン提案。現在は、nat株式会社にてCDO(最高デザイン責任者)として、空間設計事業及びインテリアデザインブランド「青山スタイル」を統括し、提供している。
単なる設備ではなく、体験を彩る素材としての光
私たちは自宅の中にある光について、単に“部屋を明るくするための設備”として認識しがち。しかし、瑞穂さんは「光はインテリアの最後の仕上げであり、空間の体験そのものを演出する大きな要素」と、その存在の重要性を語ります。
「インテリアで光を取り扱うとき、まず“時間”という軸が大きく存在します。窓から入ってくる自然光は1日の時間帯によって刻々とその質が変わっていくので、それも踏まえて室内のデザインに生かしていきます」(以下、太字カッコ内の言葉は瑞穂さん)

「また、人工光である室内照明においては、何をする場所なのかによって最適な光が変わってくるのも大きな要素。光は、空間における体験そのものを演出する存在だからです。住まいのリビングならくつろげるやわらかい光、キッチンやデスクだったら、手元を見えやすくする明るいタスクライティングが適しています」

「一方で、ホテルであれば非日常空間を、医療現場であれば待合室に清潔感や安心感を演出します。さらに物販なら商品をよりよく見せるための光、飲食店だったら食欲を促す光といったように、その場所が何のためにあるのかという根本に応じて、あるべき光は自ずと変わってきます」
光を単なる設備としてではなく、その場にいる人の感情を揺さぶり、場を表現する素材のひとつとして再定義すること。それが、ラグジュアリーな空間を生む第一歩なのです。
窓辺のデザイン:自然光が持つ“時間軸”と“温度”
インテリアにおける光のデザインは、太陽という圧倒的な自然光とどう向き合うかから始まります。そこで重要となるのが、自然光を取り込む“窓”という装置。瑞穂さんは、「ウインドウトリートメント」=窓まわりの装飾を整えることについて語りました。
「窓辺は光の入り方を左右する場所であり、インテリアのスタイルと密接に連動します。部屋全体の印象を決定づける、非常にクリエイティブな領域です。レースの質感、カーテンのひだの取り方、タッセルのあしらい……。やり始めたらきりがないほど奥が深いですよ」

さらに瑞穂さんは、これらを単なる装飾ではなく「シェーディングコントロール(光制御)」という概念と合わせてとらえることを提唱します。
「自然光は、“時間”とともに変化するだけでなく、“温度”という要素も持っています。たとえば、夕方という時間帯に差し込む“西日”。これは、強くて熱を帯びた光です。
その光をどう遮り、どう取り込むか。この調整は、空間の美しさだけでなく、室内の快適性にも大きく関わってきます」
カーテンやブラインドは、単に光を遮るためのものではありません。光の量や質を整えると同時に、熱の影響を調整し、時間とともに変化する環境をコントロールする装置でもあるのです。
インテリア照明は、“影”も設計する
さらに人工光、つまり照明器具の計画に話題が移ると、瑞穂さんの言葉にはより熱がこもります。現代の日本の住宅における照明の現状について、静かに明確に指摘しました。
「日本の住宅でよく見られる、天井の中央にシーリングライトをひとつ置いて部屋全体を均一に照らしてしまうスタイルは、少しもったいないと感じています。オフィスであれば合理的ですが、住まいは本来、くつろぐ場所です。
5000ケルビン(昼白色)のような明るい白い光の中に居続けると、人は交感神経が優位になり、体は休まりません。くつろぎの空間には、3000ケルビン(電球色)ほどのあかりを意識してデザインすることが、快適な暮らしにつながると思います」

LEDの普及によって、照明器具のデザインの自由度は広がりました。瑞穂さんは「アイデア次第でいろいろな照明デザインが実現できる時代になったことは、インテリアコーディネーターとしても楽しいです」と嬉しそうに語ります。
そんな照明の考え方の中で挙げられたのが、“影”の存在。
「インテリアで照明を考えるとき、そこには“影”の設計も含まれます。たとえば何もない壁面があったら、そこに光をあてて影模様をつくるといったテクニックがあります。影の生まれる場所を意識した光の設計によって、空間に奥行きと情緒が生まれるのです」

インテリア照明には、光を「ベース(部屋を均一に照らす基本照明)」「アクセント(特定のものを照らすスポットライトなど)」「アンビエント(空間全体のムードをつくるやわらかい間接照明など)」の3つのレイヤーとする基本構成があります。
この組み合わせかたについても、瑞穂さんは、LED時代ならではのとらえかたを説きます。
「最近はLEDの進化により、ダウンライトの光がよりシャープになっています。こういった現状に合わせて、心地よい空間をつくるにはダウンライトの数を抑え、光のバランスを整える設計が重要ではないかと思っています。代わりに、壁や天井に光を反射させる間接照明を効果的に取り入れた光の使い方が求められる時代になってきていると思うんですね」

サーカディアンリズムと心の儀式
近年、スマートホームで注目される照明といえば、“サーカディアンライト”です。
朝の光で健やかに目覚め、夕暮れの薄明かりとともに心身はリラックスモードへと導かれていく……。そんなふうに、自然な光の変化によって人間のバイオリズムを整えるのが“サーカディアンリズム”の考え方。このサーカディアンリズムを自動化して照明に組み込んだサーカディアンライトが、近年のスマートホームにおけるひとつのトピックとなっています。

「サーカディアンリズムという概念は昔からありましたが、その環境をスマート照明で自動化して作り出すというのは、近年の技術ですよね。こうしたウェルビーイングな視点での光環境は、現代の住まいにとても合っていると思います。シーン制御によって仕事と休息の光を切り替えることも、いまや空間デザインの一部になりつつあると感じています」
一方で、瑞穂さんは「効率化だけが正解ではない」とも語ります。自身がニューヨークで過ごした際の大切な記憶が、その理由を物語っていました。
「ニューヨークで叔父と叔母の家に滞在したとき、そこには天井照明がなく、帰宅すると部屋にあるスタンド照明を一灯ずつ、手で灯していく暮らしだったんです。それはまるで1日の終わりを告げる“儀式”のようで、とても心地良かったんです。効率的な自動制御もすばらしいものですが、あかりを自らの手で灯す時間を慈しむ感覚も、同時に大切にしていきたいですね」
心地よい光を手に入れる最初の一歩
では、私たちが今ある住まいで“よい光”を手に入れるには、どうしたらよいのでしょうか。瑞穂さんは「高価な照明器具に買い換える前に、できることがあります」とほほえみます。
「まずは、光の配置を見直してみてください。くつろぎの空間を作るなら、照明を床に近い場所に置くなど光の重心を下げるだけで印象は大きく変わります。スタンド照明を取り入れたり、テレビボードの裏にライン照明を忍ばせたりして、間接照明を後付けするのも効果的です」

もうひとつのポイントは“色温度の統一”です。
「3000ケルビン程度の温かみのある電球色でそろえ、異なる色の光を混ぜないこと。これだけで、空間にまとまりが生まれ、落ち着きが感じられるようになります。あと、LDKがつながっている間取りの場合、キッチンを使っていないときはその明るいタスクライトを消し、くつろいでいるリビングの照明だけ灯すなど。そんなシンプルな工夫が、リラックスできる空間への近道です」
詩的な空間を生み出す光
最後に、瑞穂さんにとっての“光”について訊いてみました。
「私にとって光をデザインすることは、心地よさをデザインすることと同義です。照明は室内を明るくする装置というよりは、時間の移ろいが感じられたり、エモーショナルなライティングによって感情が変わったり、自分の暮らしを彩ってくれるもの。そういう光がそろっているのがよい空間だと思いますね。
インテリアでは、自然光は常に時間と熱を一体として考えて設計します。人工光は、そんな自然光を補ったり、空間のあり方を演出して整えるもの。両方の要素をうまく重ねてデザインすることで、より心地よく豊かなインテリアがつくれるのです」
自然光が運んでくる季節の熱と、人工光が作るやわらかな影。そのふたつの光を丁寧に編み込んでいくことで、住まいは単なる場所を超え、住まう人の人生を潤す詩的な空間へと昇華していくのです。
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一級建築士・統括デザイナー・ストレスアナリスト
町田瑞穂ドロテア
スイス生まれ。武蔵工業大学工学部建築学科卒業(現:東京都市大学)。日本の住宅メーカーをはじめ、米国の設計事務所RTKL International ltd.にて勤務。 2000年の帰国後より、町田ひろ子アカデミーにて教育・商品企画・インテリアデザインなどに関わる。英国ロンドンにあるKLC School of Designインテリアデザインとインテリアデコレーションのディプロマ(資格)を取得。海外の経験を活かし、日本の住空間にあったデザイン&コーディネートを独自の視点でデザイン提案。現在は、nat株式会社にてCDO(最高デザイン責任者)として、空間設計事業及びインテリアデザインブランド「青山スタイル」を統括し、提供している。
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取材
杉浦 みな子
1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://sugiuraminako.edire.co/