カルティエ、大阪・心斎橋に新旗艦店をオープン。永山祐子が手掛けた建築と日本の伝統工芸が融合

 取材/LWL online編集部

フランスのラグジュアリーメゾン、カルティエ(Cartier)が2026年11月6日、大阪・心斎橋に西日本最大の旗艦店「カルティエ 心斎橋ブティック」をオープンした。建築家・永山祐子がファサードと最上階のプライベート空間「レジデンス」を設計し、1階・2階のインテリアはバルセロナを拠点とするデザインスタジオ「g4 group」が担当。西陣織や金沢箔、木象嵌、多治見のモザイクタイルなど、日本各地の伝統工芸を取り入れ、メゾンが受け継ぐサヴォアフェール(職人技)と日本の美意識が響き合う空間を創出した。

※アイキャッチ画像:DAICI ANO © Cartier
建築家・永山祐子が設計した「カルティエ 心斎橋ブティック」のファサード。大阪の水の文化から着想を得た立涌文様と、波打つガラスが印象的だ

永山祐子が設計したファサード。水都・大阪の記憶を建築に表現

新たな旗艦店が誕生したのは、大阪・心斎橋の「クオーツ心斎橋」。ハイジュエリーをはじめ、ウォッチ、レザーグッズ、アクセサリー、フレグランスなどを展開する。

建築的なシンボルが永山祐子の手掛けたファサードだ。永山は、2025年大阪・関西万博の「ウーマンズ パビリオン」や、カルティエ ブティック 麻布台ヒルズ店のファサードデザインも担当している。

今回のデザインでは、水都として発展してきた大阪の歴史にインスピレーションを得て、水の流れを思わせる曲線を描く日本の伝統文様「立涌(たてわく)」をモチーフに、カルティエの伝統的なギヨシェ装飾を想起させる繊細なメッシュを重ね合わせた。さらに、波打つガラスによって水面のような光と陰影の変化を生み出している。

都市の表情や太陽光の変化に応じて、その印象を移ろわせるファサード。ブランドの存在感の提示に加えて、土地が持つ文化的な記憶を建築の表情へと置き換えている点に注目したい。

西陣織とフランスの職人技。カルティエの世界観を表現する1階空間

Cartier Shinsaibashi boutique first floor jewelry display area with sculptural lighting
カルティエ 心斎橋ブティックの1階。曲線を描くショーケースと彫刻的な照明が、ジュエリーを引き立てる優美な空間を構成する。DAICI ANO © Cartier

1階・2階のインテリアはバルセロナを拠点とする「g4 group」が担当した。店舗の空間構成には、都市の躍動感から徐々に静寂へと移行していくストーリーが与えられている。

1階で来訪者を迎えるのは、カルティエを象徴するパンテール(ヒョウ)を描いたアートウォールだ。このアートウォールの制作を担当したのは、ストローマルケトリ(麦わら細工)のメートルダール(フランス人間国宝)であるリゾン・ドゥ・コーヌ。メゾンのエンブレムであるパンテールが凛々しく優美に描かれている。

さらに、カルティエのクリエイションにたびたび登場する動植物をテーマにした西陣織のアートウォールも配置された。

フランスの装飾工芸と京都の伝統的な織物技術。異なる文化の職人技をひとつの空間に取り入れることで、ジュエリーを展示する場そのものが、クラフツマンシップを体験する場所にもなっている。

同フロアには、ハイジュエリーの常設展示に加え、ジュエリーやレザーグッズ、アクセサリーなど幅広いコレクションが並び、プライベートなサロンスペースも設けられている。

Cartier Shinsaibashi private residence indoor terrace with mosaic tiles and lush greenery
1階のインテリア。植物を描いたアートウォールが空間のアクセントとなり、カルティエのジュエリーと伝統工芸が響き合う。DAICI ANO © Cartier
Cartier Shinsaibashi boutique luxury leather goods display and seating area
レザーグッズやアクセサリーを展開する1階の一角。柔らかな色調と曲線を基調とした家具が、落ち着きのある空間をつくり出している。DAICI ANO © Cartier

金沢箔と枯山水が彩る2階。日本の自然観をインテリアに

Cartier Shinsaibashi second floor watch and jewelry displays with sculptural ceiling installation
2階の展示空間。曲線的な天井の意匠と繊細な光の演出が特徴。ウォッチ、ダイヤモンドクリエイション、ブライダルなどのコレクションを展開する。DAICI ANO © Cartier

2階へ向かう階段には、日本古来の藤をモチーフとした繊細な装飾が施されている。藤はカルティエが1903年に制作したブローチにも取り入れられた、メゾンとゆかりの深い意匠のひとつである。

2階では、天井に枯山水を思わせる曲線が描かれ、金沢箔を用いた壁面のアートパネルが柔らかな光を受け止める。金箔が生み出す繊細な反射と、自然の風景を抽象化した曲線。これらの要素によって、都市の喧騒から離れた落ち着きのある空間が構成されている。

フロアにはウォッチ、ダイヤモンドクリエイション、ブライダル、フレグランスなどが揃い、またアフターサービスカウンターや複数のプライベートスペースを備える。素材、光、空間の連続性を通して、ラグジュアリーな購買体験をデザインしている。

Cartier Shinsaibashi private residence jewelry display with wisteria artwork and staircase
階段には日本古来の藤をモチーフとした繊細な装飾が施されている。DAICI ANO © Cartier
Cartier Shinsaibashi third floor private residence jewelry display and seating area
DAICI ANO © Cartier

最上階「レジデンス」も永山祐子が設計。自然と工芸が共鳴する空間

Cartier Shinsaibashi private residence lounge with pink seating and wood marquetry panther artwork
3階「レジデンス」のラウンジ。山並みを思わせる壁面や、カルティエの象徴であるパンテールを描いた木象嵌など、日本の自然観と職人技を空間に取り入れている。DAICI ANO © Cartier

そして、今回の旗艦店でもうひとつ注目したいのが、3階に設けられたプライベート空間「レジデンス」だ。国内では銀座4丁目ブティックに続き、レジデンスを併設する国内2店舗目となる。

インテリアは、ファサードと同じく永山祐子が手がけた。上階へと進むにつれ、都市的な華やかさから、自然の気配を感じる静謐な空間へと移り変わる構成となっている。

その空間づくりには、水が大地を育み、自然へと還る循環という日本の自然観が取り入れられた。山並みを思わせる柔らかな壁面、植物の芽吹きを連想させる意匠。植栽は2025年大阪・関西万博のウーマンズ パビリオンでも永山と協働した造園家・荻野寿也が担当した。

室内には、木象嵌によってパンテールを描いた扉や、雲を思わせるシャンデリアを配したオープンサロンが設けられている。

さらに、インドアテラスには多治見のモザイクタイル、イエローオニキスを用いたバーカウンターを採用。自然光によって素材の色彩や質感が変化し、時間帯ごとに異なる表情を見せる。

石、木、タイル、植物、光という異なる要素を装飾にとどまらず、空間体験を構成する素材として用いている。工芸品を展示するのではなく、工芸そのものを建築とインテリアに組み込む。その設計思想は現代のラグジュアリー空間のひとつの方向性を示している。

Cartier Shinsaibashi private residence salon with long stone table and suspended decorative lighting
「レジデンス」のオープンサロン。大きなテーブルを中心に、柔らかな曲線を描く壁面と繊細な装飾照明が配され、住宅のリビングを思わせる空間に仕上げられている。DAICI ANO © Cartier
Cartier Shinsaibashi first floor interior featuring a floral art wall and jewelry display cases
3階「レジデンス」のインドアテラス。造園家・荻野寿也が手掛けた植栽と、多治見のモザイクタイルが、室内に自然の豊かさを取り込んでいる。DAICI ANO © Cartier

ラグジュアリーを建築と伝統工芸から再定義する

近年、世界的なラグジュアリーブランドは、店舗やショールームをブランドの文化や美意識を体感する場所へと進化させている。カルティエ心斎橋ブティックはその流れを象徴するプロジェクトである。

水都・大阪の歴史を映し出すファサード、フランスと日本の伝統工芸が融合するインテリア、そして自然とのつながりを感じさせるプライベート空間。それぞれが異なる表情を持ちながらも、建物全体には一貫した物語が与えられている。

高価な素材や華やかな装飾だけが、ラグジュアリーを決定づけるわけではない。土地の文化を読み解き、職人の技を尊重し、光や自然の変化を空間に取り込むこと。その積み重ねが、ほかでは得られない体験価値を生み出している。

カルティエの新たな旗艦店は、世界的メゾンの空間づくりに、日本の建築と伝統工芸がどのように貢献できるのかを示す好例といえるだろう。

カルティエ 心斎橋ブティック

  • 所在地:大阪府大阪市中央区南船場3-12-14 クオーツ心斎橋
  • オープン:2026年11月6日(金)
  • 営業時間:11:30〜19:30(不定休)
  • 取扱製品:ジュエリー、ウォッチ、レザーグッズ、アクセサリー、フレグランス
  • 公式サイト:https://www.cartier.jp/
  • 取材

    LWL online 編集部

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