南青山が「デザインの聖地」に。DESIGNTIDE TOKYO 2025、16日間の祝祭へ
取材/LWL online編集部
12月の南青山には、特有の熱が生まれる。WebやSNSでは決して捉えきれない、デザインが放つ「手触り」「温度」「衝動」。それらを空間の中でまるごと体験する国際的デザインイベント 『DESIGNTIDE TOKYO 2025』 が、2025年12月6日に開幕する。本展は、単なるデザインフェアでも、物販イベントでもない。思想の交換、文化の交差、そして創造の萌芽を立体化する「都市的プラットフォーム」。建築・インテリア・アート・クラフト・サウンド・思想——多様な分野が同じ熱源のもとに集う、極めて現代的な“デザインの祝祭”である。
都市のただなかに、デザインの「祝祭」が立ち上がる
12月の南青山が帯びるあの特有の熱。
それは、展示を見るという行為を超え、人々が集い、交わり、都市が一時的に「祭りの場」へと変わる瞬間の空気だ。
今年の『DESIGNTIDE TOKYO 2025』は、まさにその「祝祭性」を核心に据える。
文化人類学者ヴィクター・ターナーが語る「リミナリティ(境界)」、マルセル・モースが示した「贈与と交換」、そして「都市の深層を呼び覚ます祝祭的装置」としての市。
こうした祝祭の構造が、南青山の空間に静かに流れ込んでくる。
情報の渦から一度距離を置き、感性・身体・都市空間が同期する16日間の「デザインの祝祭」が始まる。

三つのフェーズで構成される、現代デザインの現在地
Week1:Class of 2025 — 新しい感性の胎動
教育者が推薦する学生たちの作品が集うプレイベント。
次代のデザイナーが秘める「未分化のエネルギー」は、成熟したクリエイションと同じ熱量を放ち、毎年DESIGNTIDEの重要な存在となっている。
ここで選出された優秀者は、そのままメイン展示へと「通過」していく。
この構造はターナーが語る「通過儀礼」そのものである。
教育と実践のリミナリティ(境界)を超える仕組みそのものが、すでに先端のデザイン思考を体現している。
Week2:Main Exhibition — 思想を可視化する合同展
ロンドン、ニューヨーク、東京を拠点とする国際色豊かなディレクター陣が選抜した作品群が並び立つメイン展。
国・ジャンル・手法を横断するこの展示室は、現代デザインの「今」を最も純度の高い状態で提示する場である。
ここでは、作品と鑑賞者の対話に加え、出展者同士の相互作用が新たな創造を誘発する。
また、モース的な「贈与の循環」が最も濃密に発生する場でもある。
デザイナーは作品を「贈り」、鑑賞者の反応は「返礼」として還流し、その往還が都市空間の中で新たな共同体感覚を生みだす。
この場から、世界へ羽ばたくクリエイターも少なくない。
Main Exhibitionは、DESIGNTIDEの中核であり続けている。
Week3:Market — デザイナーの「衝動」を所有する場所
60組以上の作り手が集うデザインマーケット。
企業製品ではなく、デザイナー自身が手を動かし、素材と格闘し、衝動のように生まれたプロダクトやプロトタイプが並ぶ。
クラフトとプロダクト、アートと日用品の境界が溶け、作り手の思想がそのまま形になる。
青山の街は、この4日間だけ「現代の市」となる。
作り手が自らの手で生み出したプロダクト、プロトタイプ、クラフト。
それらを「買う」という行為は単なる所有ではない。
中沢新一が語るように、市は古来、貨幣や商品が流通する以前から「場所に宿る力」と「人の生命力」が交差する場だった。
DESIGNTIDEのMarketはその現代版である。
デザイナーが注ぎ込んだ時間・試行錯誤の痕跡を手に取るという行為は、祝祭における「記念物の獲得」に近い。
それは単なる「買い物」ではなく、人の精神的エネルギーと都市の気(き)が交差する一点を持ち帰る行為である。
マーケットが始まると、青山の街は「古層」を取り戻す。
ギャラリーやショールームは「贈与と交換の場=市(いち)」へと変容し、行き交う人の動きが古い祝祭のリズムを呼び覚ます。
都市の深部に眠っていた力が再び立ち上がる4日間。
DESIGNTIDE TOKYOのMarketは、都市の記憶をデザインの姿で呼び戻す、最も祝祭的な時間である。
思想を都市にひらく「Extension Program」──祝祭が都市へと解き放たれる
DESIGNTIDEは建物内部だけでは完結しない。
南青山~渋谷エリアのギャラリーやショールーム、ホテルへと拡張され、都市そのものが「デザインのネットワーク」として立ち上がる。
都市全体がひとつの「巡礼路」になる。
- all day place shibuya:長岡 勉「Box on the table」
- Karimoku Commons Tokyo:辰野しずか「Traces of Life」
- information 南青山:北林加奈子「lanugo」
- KEF Music Gallery TOKYO:Michael Young「Mid Nineties Modern」
家具、木工、陶、サウンド、建築——異なる素材と思想が、青山・渋谷の街角で呼応する。
都市を歩く行為そのものが、デザイン体験となる稀有な2週間である。
そして同時に、祝祭が都市そのものを「メディア」へと変えていく2週間でもある。
都市がメディアへと変容する —— 新しい都市の知覚=DESIGNTIDE TOKYO
ベンヤミンは『複製技術時代の芸術作品』において、芸術が持つ力を「アウラ」(儀式性/一回性/距離)と「複製技術」(再生産/流通/新しい感覚)の緊張関係として捉えた。
アウラとは、作品が持つ一回性・距離・儀式性であり、複製技術はそれを解体しながら、同時に新しい感受性・新しい集合的経験を解き放つ。
DESIGNTIDE TOKYO のエクステンションプログラムは、まさにこの両者を同時に動かす装置になっている。
青山のギャラリー、渋谷のホテル、南青山のショールーム。
それぞれが固有のアウラを持つ「小さな儀式空間」でありながら、街全体に散りばめられた「メディア的ノード(結節点)」としても機能する。
鑑賞者は、都市を歩きながらメディアを横断し、移動そのものが巨大なインターフェースとなる。
これはベンヤミンがいう「集合的身体」による都市の知覚がアップデートされた現代的形態である。
- 長岡 勉の「Box on the table」は、空間を境界で切り取る装置として、都市のアウラを抽出する。
- Karimoku×辰野しずか「Traces of Life」は、木という記憶媒体が語る「生の痕跡」を都市文脈に接続する。
- 北林加奈子「lanugo」は、触覚を介した知覚の深層を都市の雑踏にそっと重ね合わせる。
- KEF×Michael Young「Mid Nineties Modern」は、音の複製技術と空間のアウラが交差し、技術革新による「知覚の変容」自体が新しいアウラを生み出す。
こうした展示が点在することで、都市全体が編集可能な巨大なメディアとして立ち上がる。
DESIGNTIDEは作品と都市、身体と光、音と対話のあいだに新しいアウラを生成する祝祭である。
鑑賞者は作品を「見る」のではなく、都市というテキストを「歩き、読み、身体で編集する」。
鑑賞者自らが祝祭の共作者となる。
これこそが、DESIGNTIDE TOKYO 2025が青山・渋谷にもたらす最大の文化的革新であり、「新しい都市の知覚」そのものだ。

国際デザインの「頭脳」が集結するディレクター陣
- Oli Stratford(Disegno Journal 編集長)
- Monica Khemsurov & Jill Singer(Sight Unseen 共同創設者)
- Yuri Suzuki(サウンドアーティスト/エクスペリエンスデザイナー)
- 秋本裕史(E&Y ディレクター)




政治・社会・環境・文化まで射程に入れる批評性、アメリカの先鋭的スタイル、音と身体感覚を扱うエクスペリエンスデザイン、日本の家具・建築文化の深層。これほど背景が異なる5者が同じ場所に集う希少性こそ、DESIGNTIDE TOKYOの象徴といえる。
会場デザイン:UMが生む「変化し続ける空間」
会場デザインを担うのは、東京とブリュッセルを拠点とする建築・デザインコレクティブ UM。
単一素材を用いたモジュールシステムで、Weekごとに異なる展示内容へ柔軟に応答する空間を設計する。
提示されたアクションワード群「Touch it, bring it, place it… update it.」に象徴されるように、空間そのものが絶えず変化するインスタレーションとなる。


会場音楽:nagaladeが生む「音の展示空間」
音楽を手掛けるのは、桜新町〈buff〉と縁深いレーベル nagalade。
展示にあわせて編集・再構成されるサウンドスケープは、鑑賞者の体験をさらに立体化する。
Marketでは、Toshphic.のアルバム『still life』が先行販売される。
DESIGNTIDE TOKYO 2025は、何を提示するのか
本展が「日本のコンテンポラリーデザインのプラットフォーム」を公式に名乗っている点は注目に値する。
- 若手デザイナーの発掘
- 国際的批評家との接続
- 都市空間への拡張
- クリエイターのビジネス支援
- コミュニティ形成
これらすべてを統合し、日本のデザイン・建築・クラフトの「現在地」を世界へ発信する構造が明確に描かれている。
DESIGNTIDEが単なるイベントではなく、日本のコンテンポラリーデザインの〈祝祭〉として存在しはじめたこと。これは大きな文化的転換点である。
祝祭には三つの効能がある。
- 共同体の再編
- 価値観の更新
- 未来への再出発
教育から実践へ、作品から思想へ、都市から世界へ。
DESIGNTIDE TOKYO 2025は、日本のデザイン文化が次のフェーズへと移行する「通過儀礼」そのものだ。
南青山という都市の深層に、新しいデザインの息づかいが静かに、そして力強く刻まれる。
青山の空間、音、光、人の動き——そのすべてを媒体として、デザインという文化のエコシステムを16日間かけて可視化するイベント。
これがDESIGNTIDE TOKYOの本質である。
KEF Music Gallery TOKYO:Michael Young「Mid Nineties Modern」— 青山の「音の神殿」で行われるデザインの通過儀礼
DESIGNTIDE TOKYO 2025の中でも、特に重要な展示がKEF Music Gallery TOKYO を舞台にしたMichael Young「Mid Nineties Modern by Michael Young」である。
青山という“感性の磁場”に建つKEF Music Galleryは、単なるオーディオショールームではない。
英国発のKEFが掲げる「Listen and Believe(聴けば確信)」を、建築・光・音・アートが交差する“都市の聖域”として結晶化させたフラッグシップ空間である。
そこに、インダストリアルデザインの第一人者 Michael Young が自身の「90年代」をテーマにした特別プロジェクトを投げかける。
YoungはLSシリーズをはじめ、長年にわたりKEFとともに「音のためのインダストリアルデザイン」を追求してきた。
音・空間・光が統合されたこのギャラリーは、彼の作品が本来の姿を現すための「必然の容器」と言える。
外観を象徴する巨大なUni-Q ドライバーのファサードは、中沢新一が言う「都市の見えない磁場」を可視化する装置のようだ。

館内では、Youngのプロダクトの硬質な素材感とKEFのサウンドが生む柔らかな空気の振動が呼応し、空間全体が一つのインスタレーションとして立ち上がる。
DESIGNTIDE期間中、この場所はデザインと音楽が交差する「祭壇(altar)」のような役割を担う。
来訪者は、作品をただ見るのではなく、音の閃き、光の揺らぎ、素材の息づかいを浴びるように体験し、まるで“参拝”するかのように空間を漂うことになる。
そして忘れてはならないのは、KEF Music GalleryがDESIGNTIDEの期間だけでなく、一年を通して「音とデザインの祝祭」を継続してきた文脈の上に位置するということだ。
Youngの作品とKEFのサウンドが交差するこの展示は、青山という都市の記憶に深く刻まれ、会期後もなお、訪れた人々の中で「音のある生活」の理想像を更新し続けるだろう。
KEF Music Gallery TOKYO、オープン2周年。青山が「音の聖地」になる12月限定キャンペーン開催
音楽と香りで味が変わる。KEFの点音源とサイレントプール ジンカクテルが生み出す、特別な夜の記憶
開催概要
- 会期:2025年12月6日〜21日
- 会場:東京都港区南青山4-18-16 フォレストヒルズ ウエスト 1F
- Week1:Class of 2025(学生展)
- Week2:Main Exhibition
- Week3:Market
- 時間:10:00〜19:00
- 詳細・チケット:公式サイト
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取材
LWL online 編集部