Bang & Olufsenの100年をたどる日本初コンセプトブック刊行
取材/LWL online編集部
デンマーク発のオーディオブランド、Bang & Olufsen(バング & オルフセン)は、創業100周年を記念した日本初のコンセプトブック『バング & オルフセンの音とデザイン』を刊行する。一般発売は2026年5月中旬。著者はバング & オルフセン ジャパン、アートディレクションは田部井美奈氏が担当する。

ストルーアの屋根裏から世界のデザイン史へ。音と美をめぐる100年を一冊に
Bang & Olufsenの歴史は、1925年、デンマーク北西部の小さな町ストルーア近郊にある農家の屋根裏部屋から始まった。若きエンジニア、Peter Bang(ピーター・バング)とSvend Olufsen(スヴェン・オルフセン)が、ラジオの製造を始めたことが、その出発点である。
1925年という年はデザイン史においても象徴的な年だった。パリでは「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」、いわゆるアール・デコ博が開催され、装飾の美がひとつの頂点を迎える。一方で、ル・コルビュジエによる「エスプリ・ヌーヴォー館」は、過剰な装飾とは異なる、機能性と合理性を重視した新しい建築の方向性を示していた。同じ年、バウハウスはワイマールからデッサウへ移転し、翌年にはモダニズム建築の象徴となる校舎の建設が始まる。
モダニズムが萌芽を迎えつつある時代の空気の中で、Bang & Olufsenは生まれたのである。最初のプロダクトはラジオであり、1927年には家庭用電源から直接ラジオに電気を供給する「The Eliminator」を発表。ラジオを電池から解放するという技術的な革新を通じて、Bang & Olufsenは「音を暮らしの中へ導く」歩みを始めた。
1930年代に入ると、Bang & Olufsenのプロダクトには、バウハウスの機能主義を思わせるモダンデザインの影響が現れていく。1934年のラジオ蓄音機一体型システム「Hyperbo 5 RG」は、その初期の象徴的な存在といえる。オーディオ機器は、単なる機械ではなく、住空間の中に置かれる家具であり、生活文化を形づくるオブジェクトでもある。Bang & Olufsenは早くからそのことを深く理解していたブランドだった。
1960年代以降、そのデザインの方向性を決定づけたのが、北欧を代表するインダストリアルデザイナー、Jacob Jensen(ヤコブ・イェンセン)だった。彼はBang & Olufsenにミニマルで水平的な造形感覚をもたらし、機能と美を一体化させるプロダクトデザインを確立していく。1972年発表の「Beogram 4000」はその代表作のひとつであり、水平に移動するトーンアームの美しい所作によって、音を再生する行為そのものを視覚的な体験へと変えた。
Jacob Jensenが手がけたBang & Olufsenのプロダクトは、ニューヨーク近代美術館、MoMAのコレクションにも収蔵されている。さらに1978年には、MoMAで「Bang & Olufsen: Design for Sound by Jakob Jensen」展が開催された。これは、Bang & Olufsenが単なるオーディオメーカーではなく、20世紀のプロダクトデザイン史に刻まれる存在であることを示す象徴的な出来事だった。
その後、David Lewis(デイビッド・ルイス)らによって、Bang & Olufsenの造形言語はさらに洗練されていく。6連奏CDプレーヤー「BeoSound 9000」、彫刻的なスピーカー「BeoLab 5」、そして近年のBeosoundシリーズやBeoplayシリーズに至るまで、そのプロダクトはつねに「音を鳴らす装置」であると同時に、「空間の風景を整える存在」であり続けてきた。
今回刊行される『バング & オルフセンの音とデザイン』は、そうした100年の歩みを、歴史、製品、人物、空間の視点から立体的にたどる一冊である。

日本初のコンセプトブックとして、Bang & Olufsenの100年を読み解く
『バング & オルフセンの音とデザイン』は、農家で組み立てたラジオから始まり、最新のサウンドシステムへと至るBang & Olufsenの歩みを、多彩なコンテンツによって紹介する。
本書には、歴代の名品を年代順に紹介する製品カタログ、ブランド100年の軌跡をたどるヒストリー、クリエイターやアーティストが自らの愛用品について語るインタビュー、そして現在のBang & Olufsenを支えるデンマーク人デザイナーへの取材が収録される。
オーディオブランドの記念本という枠を超え、「音とデザインが、どのように暮らしの風景を変えてきたのか」を読み解くためのビジュアルヒストリーである。美しい音、タイムレスなデザイン、そしてクラフツマンシップ。Bang & Olufsenが100年にわたって守り、更新し続けてきた価値が、一冊の本として編み直される。
藤原ヒロシ氏が語るBang & Olufsen。90年代の日本のカルチャーと結びついた美意識
本書の大きな見どころのひとつが、藤原ヒロシ氏へのスペシャルインタビューである。
藤原氏は、音楽、ファッション、プロダクト、空間など、幅広い領域で世界的に注目されるクリエイターとして知られている。1980年代初頭から日本におけるDJカルチャーの先駆者として活動し、1990年代には作曲、編曲、プロデュースへと活動の幅を広げていった。
同時期、藤原氏のライフスタイルがメディアで紹介される中で、自宅に置かれたBang & Olufsenのプロダクトもまた、多くの人々の記憶に残る存在となった。特に、いまなお根強い人気を誇る「BeoSound 9000」は、音楽を再生する装置であると同時に、CDというメディアを美しく見せるためのディスプレイであり、オブジェであった。
BeoSound 9000の魅力は、機能を隠すことではなく、機能そのものを美しい所作として見せる点だ。6枚のCDが垂直に並び、ピックアップが水平に移動する。その動きは、オーディオ機器の内部にあるはずのメカニズムを、生活空間の中で鑑賞可能な体験へと変えていた。
藤原氏のインタビューは、Bang & Olufsenが日本の音楽、ファッション、デザインカルチャーの中でどのように受け止められてきたのかを知るうえでも、貴重な証言となるだろう。

片山正通氏、中村拓志氏、三好良氏らが語る「My Bang & Olufsen」
本書では「My Bang & Olufsen」と題し、Bang & Olufsenを愛用するクリエイター、アーティスト、デザイナーら10組の声も紹介される。
登場するのは、片山正通氏(Wonderwall®)、中村拓志氏、三好良氏、イ・カンホ氏、ヌリ・ヨン氏、川村明子氏・宅間頼子氏、相澤真諭子氏・大長将之氏、八木沢俊樹氏、NO AGE、関根将吾氏、そしてカリモク家具。建築、インテリア、ファッション、音楽、家具といった領域を横断しながら、それぞれの暮らしや仕事の場に置かれたBang & Olufsenのプロダクトについて語っている。
たとえば、インテリアデザイナーの片山正通氏の事務所には、さまざまな時代を代表するBang & Olufsenの製品が並ぶ。中学生のころから音楽を愛してきた片山氏が、同ブランドとの出会いや、そのデザインが空間にもたらす意味について語るパートは、LWL onlineの読者にとっても興味深い内容となるはずだ。
Bang & Olufsenのプロダクトはオーディオファンだけのものではない。より広く建築家やインテリアデザイナー、そしてファッションやアートに携わるクリエイターたちが、Bang & Olufsenに惹かれてきたのは、音響機器でありながらも、空間を構成する要素でもあるからだ。
音が鳴っていない時間であっても、そこに美しく佇む。家具、照明、アートピースと同じように、住まいの風景を整える。Bang & Olufsenのデザインが長く支持されてきた理由は、まさにその静かな存在感にある。

Cecilie Manz、Torsten Valeurらが語る、現代のBang & Olufsen
本書には、現在のBang & Olufsenを支えるデザイナーたちへのインタビューも収録される。
「Design Matters」では、David Lewisの弟子であるTorsten Valeurをはじめ、Cecilie Manz、Norm Architects、GamFratesiらが登場。デンマーク現地で行われた貴重なインタビューを通じて、Bang & Olufsenがどのようにデザインと音響技術を結びつけてきたのか、そしてこれからどのようなプロダクトを生み出そうとしているのかが語られる。
なかでもCecilie Manzは、家具、食器、照明、電化製品など幅広い領域で活動する、デンマークを代表するデザイナーの一人。日本のブランドとも縁が深く、Bang & OlufsenにおいてもBeolit 20をはじめ、現在のブランド像を語る上で欠かせない製品に関わってきた。
Bang & Olufsenにおけるデザインとは、外観を美しく整えることだけを意味しない。音の広がり、素材の質感、操作の所作、光の反射、家具や建築との距離感までを含めて、ひとつの体験として設計することにある。
だからこそ、Bang & Olufsenのプロダクトは音響装置でありながら、家具や照明、建築の一部のように空間へと溶け込んでいく。音を聴くための道具でありながら、暮らしの中の沈黙さえも美しく見せる。そこにBang & Olufsenならではの美学がある。

音響技術とクラフツマンシップ。Bang & Olufsenが守り続けるもの
Bang & Olufsenの魅力はデザインだけにあるわけではない。むしろ、その美しい造形を支えてきたのは、つねに先進的な音響技術だった。
デジタルアンプ技術であるICEpower、音を水平方向に均一に拡散するAcoustic Lens Technology、室内環境に応じて音響を補正する技術、マルチルーム/マルチゾーンの思想、統合リモコンの設計。Bang & Olufsenは見た目の美しさだけでなく、音と操作、空間との関係性においても、常に時代に先駆けた提案を行ってきた。
LWL onlineではこれまでも、Bang & Olufsenを「音響×モダニズム×ラグジュアリー」の交差点に立つブランドとして紹介してきた。Beolab 90 Titan EditionやBeosound Premiere、The Centennial Collectionといった100周年関連モデルは、いずれも過去を単に懐かしむものではなく、100年にわたって培われた思想を現代の技術と素材で再解釈する試みだった。
その意味で、今回のコンセプトブックは、Bang & Olufsenの100周年を締めくくるだけの出版物ではない。ストルーアの屋根裏から始まった音とデザインの探求を、いま一度、日本の読者に向けて開くための一冊である。
100年後もなお、住まいの風景を変えるオーディオへ
オーディオは住まいの中でどのような存在であるべきか。
単に高音質であればよいのか。あるいは、最新の機能を備えていればよいのか。Bang & Olufsenの100年は、その問いに対して、別の答えを示してきた。
音は空間を変える。プロダクトは暮らしの所作を変える。
『バング & オルフセンの音とデザイン』は、音響技術とデザイン、クラフツマンシップと生活文化が、どのように結びついてきたのかを考えるための一冊である。
100年前、デンマークの小さな町ストルーアで始まったブランドは、いまなお世界の住空間に美しい音を届け続けている。その100年の軌跡をたどることは、これからのラグジュアリーな暮らしにおいて、オーディオがどのような役割を果たしうるのかを考えることでもある。
書誌情報
書名:『バング & オルフセンの音とデザイン』
著者:バング & オルフセン ジャパン
アートディレクション:田部井美奈
一般発売:2026年5月中旬
判型:B5変
総頁:208頁
製本:並製
定価:4,400円(本体4,000円)
ISBN:978-4-86831-043-3 C0070
主なコンテンツ
- Interview with Hiroshi Fujiwara:藤原ヒロシ
- My Bang & Olufsen:片山正通 Wonderwall®/中村拓志/三好良/イ・カンホ/ヌリ・ヨン/川村明子・宅間頼子/相澤真諭子・大長将之/八木沢俊樹/NO AGE/関根将吾/カリモク家具
- History of Bang & Olufsen
- Iconic Products
- Design Matters:Torsten Valeur/Cecilie Manz/Norm Architects/GamFratesi
公式ウェブサイト:https://www.bang-olufsen.com/ja/jp
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LWL online 編集部