スーツのように家具をテーラーメイドする。東京発のビスポーク家具ブランド「IYB.」

fy7d(エフワイセブンディー)代表/遠藤義人 

東京・江東区の自社工場から生まれる「IYB.」 東京都現代美術館にほど近く、最寄りは住吉駅。位置でいえば、錦糸町と東陽町の中間あたりだ。都心へのアクセスに優れつつ、下町情緒も併せ持つ住宅街の一角に、IYB.のショールーム […]

東京・江東区の自社工場から生まれる「IYB.」

東京都現代美術館にほど近く、最寄りは住吉駅。位置でいえば、錦糸町と東陽町の中間あたりだ。都心へのアクセスに優れつつ、下町情緒も併せ持つ住宅街の一角に、IYB.のショールームがある。

ここはイヨベ工芸社の本社であり、東京工場も擁する。都内に自社工場を構える、数少ない本格的な木工家具メーカーといっていいだろう。

イヨベ工芸社の五百部宗一社長は、暑い中、スーツ姿でご対応くださった。

IYB.ブランドを前面に打ち出す現在のショールームをグランドオープンしたのは2026年2月で、ようやく本格的に販売を開始したばかり。とはいえ、すでにハウスメーカーの高額案件を中心に、国内外の有名ブランドを差し置いて選ばれ始めているという。

住宅からオフィスへ。広がるビスポーク家具の需要

もっとも、いざ蓋を開けてみると、意外とニーズがあるのがオフィス案件だ。売上の3割以上を占める。

その理由のひとつに、イヨベ工芸社がもともと法人・オフィス向けに家具を製作してきたことがあるのだろう。1964年の創業以来62年間、宮内庁や迎賓館、国会議事堂といった国の重要施設に家具を納品し、大手企業の役員フロアにも多く採用されてきた実績があるからだ。

広島サミットのワーキングで使用された椅子など、イヨベ工芸社が請け負った家具も

もともと家庭用として開発されたIYB.が、コロナ禍を経た現代のオフィスのニーズにぴったり符合したということだと思う。

それまでオフィスといえば、パリッとした緊張感のあるフロアで、一人ひとりが回転椅子に座りデスクワークする場であった。それが今では、リラックスできる環境で豊かなコミュニケーションを図る場へと変貌している。

「オフィスもカジュアルになり、ルースファニチャーが選ばれるようになりました。大型のダイニングテーブルを想定した製品が会議机として採用されたり、座り心地がよく、張り地にもやや皺が寄ったようなダイニングチェアがそのまま採用されたりするようになっています」

しかも、都内に本社から工場までを擁するイヨベ工芸社は、すべてカスタム。仕様や予算に応じた製品の開発から発注、製造、そして納品まで、東京で時差なく一気通貫にできる。中間マージンがない分、リーズナブルに仕立てることもできる。

その最たるものが、IYB.である。

東京工場の様子。多くの熟練した職人が丁寧に作業している。なお、工場の従業員数は、東京本社に約60名、埼玉工場に約70名、茨城工場に約20名

「Timeless beauty, crafted in every moment.」に込めた家具づくりの哲学

そこで思い出されるのが、2025年11月のプレス発表で五百部社長が打ち出したブランドコンセプトだ。

「これからの時代、住まいにおける贅沢とは、高価なものを持つことではありません。長く愛着を持って使い続けられることにあり、家具はそんな空間の一部として育まれていくものだと考えています。イヨベ工芸社は、IYB.ブランドを通じ、日本のものづくりが持つ繊細さや誠実さを、新たな形で発信していきたいと思っております」

創業以来培ってきた椅子張りや木工技術、修繕の経験を生かし提供するのは、「Bespoke Furniture」。

設置環境や使う人の体格、用途に合わせて最適な仕様を設計し、丁寧に仕立てる。いわば、自分だけの理想の住まいを叶えたいと願い、手仕事が生み出す量産品では得られない価値を分かる人に向けた、豊かな暮らしの提案であった。

ちなみにIYB.のB.は、Be Spoken、つまり顧客と職人が直接対話しながら完全なオリジナルで仕立てていくBespoke(ビスポーク)。すなわちIYB.製品は、イヨベが作るあなただけの特別な一品という意味である。

「『Timeless beauty, crafted in every moment.』。一瞬の手の動きが、時を超える美しさになるという意味です。この言葉には私たちの哲学が凝縮されています。流行に左右されず、本質的な美しさを追い求める。そして職人の手と思いが重なる瞬間の積み重ねが、長く愛される家具を生み出す力になると私たちは考えています」

そんな多様な感性を取り入れ、ブランドに広がりを持たせるために、世代や感性の異なる3名のデザイナーを起用している。

複数のデザイナーを起用しながら、デザイナー同士が一定のコミュニケーションを取りつつ、IYB.ブランド全体の方向性を積み上げるようにデザインしていった。

ここで、その3名が2025年11月に行われたプレス発表会で語ったコンセプトを振り返る。

3人のデザイナーが描く、IYB.のビスポーク家具

松岡智之:ユーザーがカスタマイズできる「余白」をつくる

一人目は、松岡智之。デンマークに2年ほど留学したのち、2001年にTOMOYUKI MATSUOKA DESIGNを立ち上げ、家具を中心としたプロダクトを各メーカーと協業して開発している。

ギャラリー
〒135-0022 東京都江東区三好2−11−6 桜ビル2B
Tel:03-6458-5163
Fax:03-6458-5163
info@tmdstilgalleri.jp

「生地を変えるとか木の樹種を変えるといったカスタマイズに加えて、モノにとって何がこれから必要かを考えました。そこで得た結論は、ユーザーがもう少しモノづくりに能動的に関わることができる“余白”を持たせることが大切ではないかと」

と語るように、ユーザー側でアレンジする余白がみられる。

ソファ「BAVA(バヴァ)」。BAが場所の「場」、居場所の「場」で、実際に使われるユーザーがそこに心地よく居られる場所、VAがバリエーションを表す。フラットな座面で奥行きがあるため、シートポジションを自由に取れるうえ、クッションなどでアレンジする余地もある。中央のリビングテーブル「FLOCK(フロック)」は、“群れ”の意味。スチールのフレームに30cmと60cmのパネルがパズルのように組み合わさる。天然石や木の板、塗装など異なる素材が群がることで、ユーザーのセンスを生かせる
発表会場での展示。奥がBAVA
発表会場でのダイニングシーン。ショールームでも打ち合わせに使われる3本脚のテーブル「SANPOH(サンポウ)」は、建築的要素を窺わせる三方向に開いた脚が、安定して天然石の天板を支える。もちろん天板をオークやウォールナットなどに変更可能。ダイニングチェア「YUU(ユウ)」は、U字型のフォルムと、“あなただけ”を意味する。張り地の素材はもちろん、座面の奥行きや脚の高さもカスタマイズできる
オーディオルームやホームシアター、読書に好適なパーソナルチェア「CUFFS(カフス)」。素材の変更はもちろん、施された“折り返し”部分の中身を少し硬くしたり、厚みを持たせたりといった余地を残している
「SOHGO(ソウゴ)」は、“相互”、つまり互いに支え合うスツールないしサイドテーブルのようなファニチャー。豊かな暮らしの中には絵画や写真が飾られていたり、音楽があったりする。家具にも機能だけではなく、感性に訴えるモノがあっていいのではないかを問うオブジェクト
発表会場でのCUFFSとSOHGO
サロンチェア「COROMO(コロモ)」。ダイニングとリビングの中間のような空間で、ちょっとお茶をするイメージを抱かせる。被せているカバー(=衣)自体はシンプルな平面で構成されているため、好きな生地で自分だけの“衣”を作ってほしいという、ビスポークデザインの根本を謳う
発表会場でのCOROMO

清水慶太:購入した後も、暮らしに合わせてカスタマイズする

清水は、40代から50代ぐらいの世界観や価値観に合致するようなデザインを目指したという。

「ビスポークの解釈を、私の場合は少し広い意味に捉えました。より大切にしたのは、家具を実際に生活に採り入れた後です。購入した後も、ユーザーにビスポークしていただきたいのです。日本語で“身の丈”という言葉があります。ライフスタイルや価値観の変化に合わせて、“身の丈”に合った家具に変化していくことを意識しました。そういった家具は自由空間の中に美しい景色を生み出したり、居心地の良い場所を創り出したりするからです」

「HITOU(ヒトウ)」は、温泉の秘湯の意。至福のシーンとして、露天風呂で座りやすい平らな石に身を委ねてゆったりしている場面を想定し、リビングで完全にリラックスできるソファを開発したという。モジュール式で、“葺き石”を好みで組み合わせて温泉を形成するのが楽しい。また、ライフスタイルの変化に伴い組み替えることもできるのが、ビスポークデザイン
HITOUの対岸に佇むテーブルが「SAWAISHI(サワイシ)」。水流で丸みを帯びた石がランダムに並ぶ景色、動線を妨げない機能性といったところも魅力
発表会場でのHITOUとSAWAISHI
ダイニングチェア「MICHAELI(ミカエリ)」は、見返り美人から着想。製品写真では正面からのカットが多いダイニングチェアも、実際に生活空間に置かれる場合は、ほとんど背面からのフォルムしか視覚に入らない。そこで、チェア単体としても、座った人の姿としても、背面から美しく見えることを大切にデザイン。SAWAISHIのように角のない丸いダイニングテーブル「CASAGMO(カサグモ)」は、富士山とその上にかかる笠雲を思わせる
発表会場でのMICHAELIとCASAGMO
サロンチェア「MARCHESA(マルケーザ)」とサロンテーブル「FONTANA(フォンターナ)」は、女性の来客というシチュエーションを想定して制作。友人が到着した際のおしゃべりの場、いわばホワイエのようなスペースに好適。脇にバッグを置きやすい幅広スタイルになっており、テーブルのガラス天板の中に小ネタとなる物を仕込んでおくことで会話が盛り上がる。場面や景色を想定した設えとなっている
発表会場でのMARCHESAとFONTANA
男性が感じる至福として、自分だけの時間を確保できるパーソナルチェア「BARITONO(バリトーノ)」の提案も。大きく張り出したヘッドレスト次第で、こもったものにも開放感のあるものにもできる

進藤篤:家具から空間の“空気感”までデザインする

進藤は、オフィス、商業空間、インテリアのデザインのほか、“空気感(ATMOSPHERE)をデザインする”をテーマにしたオブジェやアート作品なども制作している。

「今回デザインしたものは、シンプルでタイムレスではありながら、その中にちょっと気になる光る何か、ワクワクするようなこだわりのポイントが存在しています。とくに、お子さんが生まれるなど家族構成が変わったり、大きな変化が生じやすい30代〜40代をターゲットにしています」

ソファ、サイドテーブル、センターテーブル「TAILOR(テーラー)」は、まさにIYB.のブランドを分かりやすく表現したシリーズだ。ユーザーそれぞれの手触りやライフスタイルを、テーラーメイドで仕立てる。

松岡や清水の作品より全体的に小ぶりで、いわば“ポジティブキッチュ”なポジションを狙った印象だ。比較的狭小な環境でもしっかり奥行きが取れ、堂々としながらも美しいプロポーションを保っている。

TAILORソファには、赤オレンジのテラコッタ色のクロスステッチが施されている
テーブル「HEM(ヘム)」は、衣服の袖からインスピレーションを受けて脚部をデザイン。天板を石や木など異なる素材とすることで印象を変えられる
チェア「ROBE(ローブ)」。異素材を組み合わせたレイヤー構造が、空間にまで広がっていくようなデザイン。発表会場ではHEMと組み合わされていた
発表会場でのTAILOR、HEM、ROBE

家具を誂えることから、極上のエンタテインメント空間へ

イヨベ工芸社は、2026年6月に東京ビッグサイトで開催された「オルガテック東京2026」にも出展。例年はオフィス家具のイヨベ工芸社としての展示を行ってきたが、今年はIYB.を使った空間展示で多くの来場者を集めていた。

順調な船出を見せたIYB.。

東京発の上質な家具ブランドであり、しかもカスタムインストーラーともタッグを組めそうなビスポークデザインの今後は、ホームシアターを中核とした豊かな暮らしを標榜する立場としても重要だ。

この秋には、そんなわれわれにとっても注目の新商品が追加されるという。

期待して待ちたい。

[問い合わせ先]

株式会社イヨベ工芸社 / 本社 / 東京工場 / IYB.ショールーム

〒135-8331 東京都江東区千田23−13
ショールーム営業時間:10:00〜17:00(事前予約制、土曜・日曜・祝日定休、事前相談で予約可能)
TEL:03-3647-3119
https://iyb.jp/

  • fy7d(エフワイセブンディー)代表

    遠藤義人

    ホームシアターのある暮らしをコンサルティングするfy7d(エフワイセブンディー)代表。ホームシアター専門誌「ホームシアター/Foyer(ホワイエ)」の編集長を経て独立、住宅・インテリアとの調和も考えたオーディオビジュアル記事の編集・執筆のほか、システムプランニングも行う。「LINN the learning journey to make better sound.」(編集、ステレオサウンド)、「聞いて聞いて!音と耳のはなし」(共著、福音館書店。読書感想文全国コンクール課題図書、福祉文化財推薦作品)など。

Related articles 関連する記事

  1. home Home
  2. NEWS
  3. スーツのように家具をテーラーメイドする。東京発のビスポーク家具ブランド「IYB.」