隈研吾はなぜプロダクトをつくるのか? 新作テーブルウェアから家具・家電まで、プロダクトデザインの系譜を辿る

 取材/LWL online編集部

建築家・隈研吾氏は、なぜ椅子やテーブル、器、照明といった「小さなもの」をデザインし続けるのか? 隈研吾建築都市設計事務所(KKAA)と建築家・隈研吾氏の創造活動を、建築だけでなくプロダクト、アート、フィルムまで横断して紹介するイベント「KKAA 隈研吾の建築とプロダクト ― アート、デザイン、フィルムと共に」が、2026年9月9日から15日まで、伊勢丹新宿店 本館5階で開催される。

会場には、KKAAがメーカー各社と共同開発してきた新作テーブルウェアをはじめ、家具、照明、家電、アート作品などが集結する。

建築から家具へ、家具から器へと、スケールを変えながらも一貫している隈研吾のデザイン思想を、日常生活にもっとも近い場所から読み解く機会でもある。

隈研吾/KKAA、新作テーブルウェアを伊勢丹新宿店で発表

本イベントでは、隈研吾の建築から広がる創造を、「ART」「PRODUCT」「FILM」の3つの視点から紹介する。

イベントの中心となる「PRODUCT」では、designshopとKKAAが、ニッコー、菅原工芸硝子、トーダイなどのメーカーと共同開発してきた新作テーブルウェアを発表する。

開発期間が5年に及ぶものもあり、磁器、ガラス、ステンレスという異なる素材を用いたカトラリーやテーブルウェアが登場。一部は吉野杉による特製木箱に収めた数量限定セットとして販売される。

そのひとつが「枡○ masumaru」である。吉野杉の木箱に収めた14ピースセットに、隈研吾のサイン入りスケッチ版画を組み合わせた20エディションの限定品も用意される。

また、「ART」では、日本橋三越本店の環境デザインを描いた新作スケッチ版画「樹冠 jukan ― 白く輝く森」(サイン入り・証明書付き)を発表する。三越製作所が製作した「topo chair」「topo table」と、それぞれのオリジナルスケッチをもとにした版画を組み合わせた作品も展示される。

隈研吾デザインのtopo chairとtopo table、オリジナルスケッチ版画
三越製作所が製作した「topo chair」「topo table」と、それぞれのオリジナルスケッチをもとに制作した版画。建築、家具、アートを横断する隈研吾のデザインを見せる

さらに、「FILM」では、映画監督・岡博大が約15年間にわたり隈研吾を記録してきたドキュメンタリー映画『粒子のダンス』を紹介する。

建築、家具、器、ドローイング、そして映像。ひとつのカテゴリーに隈研吾を閉じ込めるのではなく、異なるスケールを往復する創造活動として見せることが、今回の企画の大きな特徴である。

隈研吾の新作スケッチ版画「樹冠 jukan ― 白く輝く森」
日本橋三越本店の環境デザインを描いた、隈研吾氏の新作スケッチ版画「樹冠 jukan ― 白く輝く森」。サイン入り・証明書付きの10エディションで展開する

隈研吾のプロダクトデザイン。その原点は1970年大阪万博

2025年5月13日にKKAAが公開したニュースレター「二つの万博と僕」において、隈は高校1年生だった1970年大阪万博を振り返っている。

そこでは、1964年の東京オリンピックで丹下健三設計の代々木競技場を見て建築家を志したが、その後、公害問題などを目の当たりにし、巨大な都市や建築をつくることへの疑いや迷いを抱くようになったと語っている。

大阪万博の中に、その疑問への答えがあることを期待して足を運んだ隈は「期待して訪れた万博の印象は最悪であった」と記した。「建築家という仕事自体に対する夢が消えていくようだった」とも書いている。

だが、その絶望の大阪万博で二つだけ気に入ったものが見つかったという。

ひとつは、隈氏が「ひねくれたパビリオン」と表現するスイス館。大きな建築物の代わりに、金属でできた大きな樹が小さな広場に立つ姿に、大きな建築物への批評性を感じたという。

そして、もうひとつで惹かれたものが、フランス館のカフェに置かれていたトレイだった。

トレイの凹凸が器としての機能や人間の身体動作に対応し、ナイフやフォークまで同じリズムでデザインされていることに感銘を受けた隈は、後に「身体により近い徹底的に小さいモノ」をつくりたいと思ったと振り返っている。

「建築家・隈研吾」というと、国立競技場やV&A Dundeeのような大規模建築がまず思い浮かぶ。しかし、その出発点のひとつに「トレイ」と「カトラリー」があったというのは実に興味深い。

55年以上を経て、新たな器やカトラリーを発表する今回のプロジェクトは、隈研吾の活動の新しい枝というより、むしろ若い頃から抱き続けてきた「人間の身体に近いデザイン」へ回帰する試みと見ることもできるだろう。

テーブルウェアを手にする建築家・隈研吾氏
建築家・隈研吾氏。建築だけでなく、家具、テーブルウェア、照明など、身体に近いスケールのプロダクトを数多く手掛けてきた

聡くあれアリアドネ、おまえは小さな耳をしている

この「小さなモノ」への眼差しから、やや遠い連想が許されるのなら、ニーチェが『ディオニュソス頌歌』の「アリアドネの嘆き」で描いた「小さな耳」を思い起こすこともできる。ニーチェは自らの「小さな耳」をロバの「長い耳」と対置しているが、そこには物事を繊細に聞き分ける感性を読み取ることもできる。

もちろん、両者に直接的な思想的関係があるわけではないのだが、巨大で大仰なものではなく、小さなものを通して世界をより繊細に知覚しようとする姿勢には、どこか響き合うものがあると感じる。隈にとってプロダクトとは、建築を単に縮小したものではなく、身体や素材の声をより近くで「小さな耳で聴く」ためのスケールなのかもしれない。

家具・ベッド・家電へ。広がり続ける隈研吾のプロダクト

日本ベッド「ウッドネスト」は「身体を包み込む小さな建築」

もちろん、隈研吾/KKAAがプロダクトデザインに取り組むのは今回が初めてではない。

KKAAの公式サイトには、家具、照明、テーブルウェア、ファッション、家電など、数多くのプロダクトプロジェクトが掲載されている

最近では、日本ベッド創業100周年を記念して、KKAAがデザイン監修した木製ベッドフレーム「ウッドネスト」も発表されている。そのコンセプトは「身体を包み込む小さな建築」。隈氏は「森の中に身を置くようなプリミティブな体験を目指した」とコメントしている。ベッドフレームの構造と素材によって身体の居場所をつくり、暗い寝室の中で人を守る、ひとつの小さな建築として捉え直したプロダクトと言えるだろう。

more trees「TSUMIKI」から「KODACHI」へ

過去には、たとえば2015年には、坂本龍一が創立した森林保全団体more treesとの協働から「TSUMIKI」をデザインしている。

一般的な積み木のような「塊」を積むのではなく、細く軽いパーツを組み合わせ、編むように構造をつくる。建築において隈が繰り返してきた「小さな部材を集積する」という考え方が、そのまま手のひらのサイズまで縮小されたようなプロダクトだった。

その考えをさらに展開したシェルフ「KODACHI」では、TSUMIKIの形を縦方向に伸ばして樹木に見立て、棚に置かれたものが木立の中で見え隠れするような構成としている。

隈研吾/KKAAとmore treesによるシェルフ「KODACHI」
more treesとKKAAによる「KODACHI」。TSUMIKIの形を垂直方向へ伸ばして樹木に見立て、木立の中でモノが見え隠れするようなシェルフとして構成した

ラタンに虫食い材。素材からプロダクトを考える

虫食い材「AKANE」と木でつくるシャープの空気清浄機

もうひとつ、隈研吾のプロダクトを理解するうえで重要なのが「素材」である。

たとえば、2024年には、鹿田産業とともにラタン家具を開発。籐が持つ「軽さ」と「曲げられる」という性質を生かし、一本の線を描くように家具全体を構成する「ひとふでがき」のデザインを試みた。

また、同じ2024年発表の家具「アカネ」では、通常なら欠陥材として廃棄されることもある虫食いの紀州材に着目した。強度や耐久性には問題がないにもかかわらず、虫が残した跡があるため価値が低いとされてきた木材を、逆にひとつの「表情」として家具へ取り込んだ。

虫食いの紀州材を生かした隈研吾/KKAAの家具「AKANE」2種類のチェア
虫食いの跡を持つ紀州材に着目した「AKANE」。一般には価値が低いとされてきた木材の痕跡を、素材の「表情」として家具へ取り込んでいる

さらに、同じく2024年のシャープ「プラズマクラスター空気清浄機 FU-90KK」では、プラスチックが主体になりがちな家電製品に本物の木を採用。障子など日本の木製建具で培われた技術を応用し、家電を家具や建築に近い存在へと引き寄せる試みとも言える。

隈研吾/KKAAがデザインしたSHARPプラズマクラスター空気清浄機 FU-90KK
SHARP × KKAA「プラズマクラスター空気清浄機 FU-90KK」。木製建具の技術を応用し、本物の木を家電へ取り入れたプロダクト

こうして並べてみると、「隈研吾のプロダクト」が持つ共通項が見えてくる。素材が持つ特性と、それを扱ってきた職人の技術を探り、人間の身体や暮らしとの新しい関係をつくることである。

「建築からプロダクトへ」ではなく、「建築とプロダクト」

隈氏は2025年の大阪・関西万博を振り返り、マテリアルを建築の表面を飾るためだけに用いるのではなく、「マテリアルと人間との関係が感じられるような場所をデザインしてみようと思った」と記している。

そして最後に再び、1970年大阪万博で出会ったフランス館の小さなトレイに触れ、「小さなマテリアルを通じて建築をよみがえらせたい」と結ぶ。巨大な建築を、小さなマテリアルを通してもう一度考え直す。

人が空間を経験するとき、建築は壁や屋根だけで成立しているわけではなく、身体に触れる家具や器、光、素材まで含めてひとつの環境となっている。

今回発表されるテーブルウェアは、その意味で「建築より小さいもの」ではなく、建築と同じ問いを身体にもっとも近いところで考えるプロダクトだと言える。

1970年大阪万博の「小さなトレイ」から、新作テーブルウェアへ

国立競技場のような巨大建築から、一枚の皿や一本のフォークまで。

スケールには大きな差がある。ただし、隈研吾氏/KKAAが長年追い続けてきた、素材、身体、地域、自然との関係というテーマが一貫して流れている。

「KKAA 隈研吾の建築とプロダクト ― アート、デザイン、フィルムと共に」は、その約半世紀に及ぶ思考を、家具や器、照明、アート、映像を通して見ることができる展覧会とも言える。

1970年大阪万博でひとりの高校生を魅了した小さなトレイのエピソードを知ってから会場を見ると、「隈研吾のプロダクト」という言葉の意味も、少し違って見えてくるはずだ。

書籍 / 隈研吾 場所の建築(グラフィック社 / Thames & Hudson)/  隈研吾氏  数量限定  直筆のサイン本になる

「KKAA 隈研吾の建築とプロダクト ― アート、デザイン、フィルムと共に」開催概要

  • 会期:2026年9月9日(水)~9月15日(火)
  • 時間:10:00~20:00
  • 会場:伊勢丹新宿店 本館5階 センターパーク/ザ・ステージ#5
  • 住所:東京都新宿区新宿3-14-1
  • 主催:株式会社designshop
  • 特別協力:隈研吾建築都市設計事務所(KKAA)、プレステージジャパン、湘南遊映坐

会期初日の9月9日には、隈研吾と映画監督・岡博大による映画トーク「建築を、映画で見る。『粒子のダンス』が映し出す、隈研吾の世界」、KKAAの宮澤一彦、諏訪智之によるプロダクトトーク「建築からプロダクトへ― 隈研吾 KKAAのものづくり、その現場から ―」も予定されている。
なお、映画/粒子のダンスの上映スケジュールは下記公式サイトをご覧ください。
https://www.particledance.jp/

「KKAA 隈研吾の建築とプロダクト」公式ページ

KKAA プロダクト一覧

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