時のシチズン×音のヤマハ。日本のインハウスデザイナー10人が仕掛けた“リズムの可視化”という実験
オーディオ&サブカルライター/杉浦みな子
時を刻み続けてきたシチズンと、音を鳴らし続けてきたヤマハ。日本を代表する2社のインハウスデザイナー10人が、「時間」と「音楽」に共通するリズムをテーマに共同研究を行った。東京・世田谷のHOME/WORK VILLAGEで開催中のデザイン展「FIND RHYTHM」では、両社の技術と感性が交差する10点の研究試作品を公開。正確さや効率性だけでは捉えられない、人間らしいリズムの心地よさを探る実験的な作品の数々を紹介する。会期は2026年11月8日まで。
“リズム”を可視化するデザイン
時計は一秒の狂いもなく正確に時を刻み、楽器は正しい音程とテンポで美しい音楽を奏でる。では、時間と音楽の分野におけるトップランナーの世界観がデザインで交差すると、そこにはどんな鼓動が生まれるのか?
ヤマハ株式会社とシチズン時計株式会社による共同開催の展覧会「シチズン×ヤマハ デザイン展 “FIND RHYTHM”」は、異なる商材を扱う2つの企業のインハウスデザイン部門による、異業種交流から派生したイベントだ。




会場には、2社のデザイナー10名による考察と研究試作品が公開されている。現地に足を踏み入れて何よりも惹きつけられるのは、“リズム”を組み込んだデザインの手ざわりだった。
そう、趣味性の高い商材を扱う両社ならではの感性価値の視点や、互いの領域を横断する音や時に関する哲学的考察、さらには創造行為の根幹にあるデザイナー個人の原体験の共有などを経て、両者は時間と音楽に共通するもの=“リズム”を可視化するデザインアプローチに辿り着いたのだ。

以下より、10の展示作品を順番にご紹介していこう。

音のヤマハが作り出す、気まぐれなリズム
ヤマハ デザイン研究所 所長の川田氏の作品である『Swing Strings』は、ピアノ線を使って振り子運動と物質の固有振動数の属性を組み合わせ、4つの異なるリズムを手動で発生させられる装置である。まるで鳥や昆虫の羽ばたきのような、不思議で美しいピアノ線の動きが心地よい。


『Paper Cup Horse』は、ゆらゆら揺らすことで、馬の足音が織りなす心地よいリズムを奏でるプロダクト。「リズムによって、ある情景を想起させることはできるか?」という問いから生まれたという。歩く馬と走る馬、それぞれの足音が刻むリズムが持つ心地よさを可視化・物質化しているのが特徴だ。

『Metronome Bouncer』は、伝統的なメトロノームの底面をドーム状にデザインすることで、あえて不安定なリズムを生み出す作品。正確なテンポを刻むはずの道具がゆらゆらと不規則に揺れることでもたらす、プリミティブな“揺らぎ”が面白い。

『Drip, Drop, Drip』は、水滴と毛細管現象を用いた水時計だ。水滴が自然と落ちる際の不規則なリズムを楽しめるもので、時計としては非常に非効率。しかし、本来あるはずの連続性からこぼれ落ちてしまったような、自然の水の“気まぐれ感”が現れていて、そのランダム感にむしろ心安らぐ。


また、時計のチック・タック音を自分のタイミングで演奏できる楽器『Playing Tick-Tock』には、ヤマハらしい音への偏愛とクラフトマンシップが交差する。マリンバの廃材を用いて制作されたそのアプローチは、インダストリアルデザインが単なる機能の器ではなく、感性を刺激する装置になり得ることを物語っている。


時のシチズンが人の感情や風景を翻訳する
一方でシチズン側の出展は、メーカーが製品開発で培ってきた高精度なメカニズムや素材のノウハウが、有機的なコンテクストへ翻訳されているのも面白い。
シチズン デザイン部 部長の井上氏が制作した『Kuru・Guru・Byun』は、すべての人に等しく同じリズムで刻まれる “絶対時間”と、個人が主観的に感じる“感覚時間”の差を視覚化した作品。同じリズムで周回する3つのオモリがそれぞれ異なる速度で動くことで、楽しい時間は短く、退屈な時間は長く感じられることや、年齢によって異なる時間の流れ方が目で見てわかるようになっている。

『Pixelation』は、普段見ている現実の景色の中に単純なグリッド構造を重ねる展示。すると、その前を動く人や影は解像度を落とし、小さなピクセルへと形を変える。いわば、アナログな手法で現実の風景をピクセル化するもので、これまでシチズンが時計で手掛けてきた機械式とデジタルの表現を自由に行き来する、遊び心のあるデザインだ。

『Cocoro Rhythm』は、時計の心臓部であるモーターや針の動きを使い、人の感情のゆらぎを針の動きで表現する作品。3つの時計がひとつの場所に集まると、針のリズムが盛り上がりを表す三三七拍子に変換し、機械仕掛けのパーツで人と人の距離感を描いている。

『Fuwari-Hirari』は、光を含んだレースのカーテンが風を受けてふわり・ひらりと揺れることで、有機的で心地よいリズムを表現する作品。光、影、風の3つの要素によって生まれるリズムは、音楽のような抑揚で春を表現しており、毎回異なる動きになる。

『Kumi-Rhythm / Matataki』は、小さく粗い電光モニタに、様々な風景の映像を組写真のように組み合わせて表示させた展示。風景が手ざわりのある光の粒に変換されて表示されることで、近づいたり遠ざかったりして変わる記憶の見え方を楽しむことができる。


モノが奏出する有機的なリズムの自由さ
様々な場面でスピードと効率化が最適化された現代において、我々はともすれば時間に追われる感覚に疲弊しがちだ。しかし、「FIND RHYTHM」の会場に満ちていたのは、効率の良さとはまったく別の軸でモノと対話する楽しさだった。
正確さを極めたメーカーのプロたちがその実験の中に見出したのは、スペックシートの数字には表れない、モノが奏出する有機的なリズムの自由さである。シチズンとヤマハのデザイナーたちが切り拓いたこの異業種共創の試みは、来場者の好奇心を刺激し、胸の中に眠る探究心を呼び起こすきっかけとなるだろう。

<開催概要>
タイトル:シチズン×ヤマハ デザイン展 “FIND RHYTHM”
日程:2026年10月30日(金)~ 11月8日(日) 12:00〜18:00 (金・土・日・祝日は11:00~21:00、最終日は18:00終了) 10月30日(金)、10月31日(土) 13:00〜17:00(時間内随時、事前予約不要)
会場:HOME/WORK VILLAGE 2階スペース+MIDORI.so Ikejiriギャラリー(東京都世田谷区池尻2-4-5)
入場料:無料
主催:ヤマハ株式会社、シチズン時計株式会社
協力:株式会社HIROBA
関連リンク:DESIGNART TOKYO 2026
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オーディオ&サブカルライター
杉浦みな子
1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://foriio.com/minako-sugiura