北欧デザインの知られざる物語。“スウェーデン・テキスタイル”の黄金期に迫る展覧会
オーディオ&サブカルライター/杉浦みな子
北欧デザインは、暮らしと自然に息づくもの――。これまで日本人があまり知らなかった“スウェーデン・テキスタイル”の魅力を深掘りする展覧会が開催されている。世田谷美術館で開催中の「スウェーデン・テキスタイル 暮らしと自然に息づく北欧デザイン」。スウェーデン在住の個人コレクター、サラ・アクステイリウス氏のヴィンテージ・テキスタイルを中心に約200点を紹介。20世紀半ばに花開いたデザインの黄金期と、北欧の暮らしに根づく美意識をひもとく。会期は11月15日まで。
知られざる“スウェーデン・テキスタイル”の世界
心地よい住まいづくりや日々の生活を豊かに彩る存在として、今や日本の暮らしにも深く定着している北欧デザイン。インテリアショップなどで見かける鮮やかなファブリックやパターンは、我々の心をあたたかく和ませてくれる。
そんな北欧デザインの中でも、スウェーデンで制作されたテキスタイルにスポットを当てた企画展「スウェーデン・テキスタイル 暮らしと自然に息づく北欧デザイン」が、東京・世田谷の世田谷美術館で開催中だ。期間は2026年9月19日(土)〜11月15日(日)。

そう、ひと口に北欧といっても細かく見ればその文化は様々。スウェーデンと聞くと我々にとっては「IKEA」の家具が身近だが、そこに重ねられるテキスタイルの特徴については、これまで日本ではあまりフォーカスされてこなかった。
本展では、スウェーデン在住の個人コレクターが所蔵するヴィンテージ・テキスタイルのコレクションを中心に、スウェーデン国内の美術館やアーカイヴの協力を得て、約200点もの貴重な作品と関連資料が揃う。その奥深い世界を覗いてみよう。

10代の少女が再発見したヴィンテージ・コレクション
本展が実現した背景には、スウェーデンの個人コレクター、サラ・アクステイリウス氏の存在がある。
現在40代を迎えているサラ氏は、かつて10代の頃、家族から受け継がれ日常の中にあったテキスタイルデザインの魅力にふと気づき、以来、個人で精力的に各年代の作品を集めてきた。その魅力をSNSで発信したところ大きな話題を呼び、書籍を出版するまでに。そしてそのブームは本国にとどまらず海を渡り、このたび日本での展覧会へと結実した。

本展に並ぶ約200点もの貴重な作品・資料のうち、およそ半分がサラ氏の2,000点を超えるコレクションから選りすぐられたもの。一人の女性の情熱と暮らしへの愛着から始まったストーリーが、展示空間全体を包み込んでいる。

20世紀半ばに花開いた、独自のスウェーデン・テキスタイル黄金期
自然や暮らしに密接したモチーフ、明るい色彩、モダンな中にもかわいらしさを感じさせる親しみやすいパターン……見ているだけで心が躍るようなスウェーデンのテキスタイルデザインは、季節を問わず室内を明るく彩り、スウェーデンの人々の日常に喜びを与えてきた。
他の北欧諸国と同様に、長い冬を過ごす同国において、「デザインは日々の生活を心地よく過ごすための大切な手段である」という視点が根付いている。


そのルーツを紐解くと、古くはバイキングの時代にまで遡る伝統的な織物文化に端を発しており、各地方や家庭内で代々受け継がれてきた。しかし、1930年代頃までのプリント・テキスタイルは、パリなどヨーロッパ中央からの輸入デザインが主流だったという。
大きな転機となったのは、1930〜1940年代の第二次世界大戦の影響によって、ヨーロッパ本土との往来が断絶されたことだ。これを機に「自国のデザイナーを育てよう」と国を挙げたデザイン教育が開花し、1950年代から70年代にかけて、スウェーデンのプリント・テキスタイルは独自の黄金期を迎える。今回のサラ氏のコレクションも、まさにこの黄金期にデザインされた作品が中心となっている。


プロローグ+全三章+エピローグで辿る魅力
そんな歴史的流れの中から、本展のプロローグではまず、20世紀前半、スウェーデンのテキスタイル産業が大きく発展する前夜に活躍した女性たちを紹介。自国のテキスタイルをブランディングしたエルサ・グルベリとアストリッド・サンペ、戦火の中で陶芸から手染めテキスタイルへ転向し、豊かな自然を表現したリスベット&ゴッケンのヨブス姉妹などの力強い足跡を辿る。



続く本編では、第一章で我々日本人にも親しみやすいよう、「ボタニカル」「動物」「幾何学」といったテーマ別モチーフでの展示を展開。さらに第二章では、スウェーデン・テキスタイルの黄金期を牽引した6人の代表的デザイナーをピックアップし、それぞれの個性あふれる作品世界を紹介している。




加えて第三章では、テキスタイルと密接に関わるファッションやインテリアの分野に注目した展示が行われており、スウェーデンの暮らしの中でどのようにテキスタイルが活かされてきたかを知ることができる。



そしてエピローグでは、スウェーデンの老舗ブランド「スヴェンスク・テン」にデザインが採用された実績を持つ日本人アーティスト・宇都宮琴音さんの作品も登場。さらに展示室外の廊下には、宇都宮さんと20人の子どもたちがワークショップで共同制作した巨大なコラボレーション作品(2点)が展示され、北欧デザインの伝統が海を超えて未来へと受け継がれる躍動感が演出されている。

デザインは、長い冬をあたたかく過ごすための知恵
色鮮やかで気持ちを明るくするスウェーデンのデザインは、単に部屋を飾るためのものではない。北欧の長い冬、日照時間が極端に短くなる季節の中で、人々の心にぬくもりをもたらす大切な役割を果たしてきた。
自然豊かな砧公園の緑に包まれながら、秋の深まりとともにスウェーデンの温かな美意識に触れる――。日々の暮らしを慈しむためのヒントを探しに、ぜひ世田谷美術館へ足を運んでみてはいかがだろうか。

【開催概要】
展覧会名:スウェーデン・テキスタイル 暮らしと自然に息づく北欧デザイン
会期:2026年9月19日(土)~11月15日(日)
会場:世田谷美術館(東京都世田谷区砧公園1-2)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日(※9月21日、10月12日は開館)、9月24日(木)、10月13日(火)
観覧料:一般 1,400円 / 65歳以上 1,200円 / 大高生 800円 / 中小生 500円 / 未就学児 無料
公式サイト:https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00230
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オーディオ&サブカルライター
杉浦みな子
1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://foriio.com/minako-sugiura