【スマートホーム/ホームオートメーション特集】別荘から考える建築統合型スマートホーム──スマートホームのセキュリティは動線設計で決まる
取材/LWL online編集部
スマートホームのセキュリティは、どの機器を導入するかではなく「動線をどう設計するか」で決まる。本稿では、顔認証ドアホンと警備システムを連動させ、門扉・電気錠・シャッター・照明・空調まで統合制御したラグジュアリー邸宅の実例をもとに、ホームオートメーション視点からセキュリティ設計の本質を解説する。IoT機器では実現できない、Home OSによる統合設計とは何か。
スマートホームのセキュリティは機器選定ではない
スマートホームにおけるセキュリティは、しばしば「どの機器を入れるか」という話に矮小化される。顔認証ドアホン、スマートロック、防犯カメラ、センサー、警備会社との契約──。たしかにどの機器を導入するのかも重要ではある。しかし、ポイントはそこではない。
本当に重要なのは、「誰が、どこから、どのように出入りするのか」という動線設計である。
わたしはかつて、海沿いの別荘地に建つ大規模邸宅(別荘)のホームオートメーションを手がけた。床面積だけで1,000平米超。敷地は広く、正面ゲートからの主動線とは別に、外構工事や管理会社が使用する裏動線が存在していた。
この邸宅では、顔認証ドアホンを2か所に設置した。ひとつは正面ゲート。まず大きな門扉があり、その奥に大きなシャッターがあり、ガレージにつながる。もうひとつは庭園へつながる入口である。ここにもシャッターがある。
しかも、単に2台設置したわけではない。そこには明確な「役割分担」があった。

顔認証と警備解除を連動させる設計思想
正面ゲートと裏動線の役割分担
正面ゲートは家族や来客が使用する。
庭園への入口は主に外構工事業者や管理会社が使用する。
わたしたちチームは認証方式を三層に分けた。家族は顔認証、管理会社はICカード、一時業者(主に庭園側から出入りする)は期限付きQRコード顔、カード、QR。この三層に対応する顔認証ドアホンとして、AKUVOXを選んだ。
認証手段を分けることで、「誰が」「どのルートで」入るのかを明確にする。
重要なのは、セキュリティを「強化」しているわけではないという点だ。セキュリティではなく、制御の精度を上げているのである。

顔認証×警備連動による統合制御の実際
門扉・シャッター・エレベーター・照明・窓廻り・空調・床暖房の連動
この邸宅では、顔認証による解錠と警備システムの解除を連動させた。
家族が正面ゲートで顔認証を行うと顔認証ドアホンのリレー出力から信号が発せられ、「門扉が開く」→「同時に警備が解除される」→「ガレージのシャッターが自動で開く」→「エレベーターがガレージ階に着床」→「照明とシェードがウェルカムモードに入る」というシーン設計を行った。
空調や床暖房は季節に合わせたシーンを作成し、別荘に出かける前に(都内のマンションを出発する際に)「別荘」アイコンを押せばシーンが動作するようにプログラムした。
外出ボタンで全施錠・警備セット
外出時は、スマートフォンの「外出」ボタンをタッチするだけで、「全扉施錠」「シャッター閉鎖」「警備セット」「照明とシェードが留守宅シーンになる」「床暖房・空調が一斉オフ」が一括で実行される。
また、ガレージシャッター脇にあるタッチパネルの「外出」アイコンをタッチすると1分後に、スマートフォンの「外出」ボタンをタッチするのと同様の動作が始まるようにもした。
ここで目指したのは「便利さ」ではない。セキュリティ状態と物理的動作を一致させることである。スマートホーム/ホームオートメーションでは、複数の設備を連動させてシーンをつくりだす。
セキュリティでも同様なシーンを設計した。要するに「セキュリティシーン」を設けたわけだ。
顔認証ドアホンAKUVOXはリレー出力が3系統あるため、このような動作が可能だったのだが、AKUVOX単体だけではこの連動は成立しない。顔認証がトリガーとなることで、セキュリティ解除シーン、あるいはセキュリティ警備シーンを呼び出すことをできるようにした。
解錠信号(リレー出力)、警備ブロック制御、ゲート開閉信号、照明・シェード/ブラインド・空調・床暖房連携、さらにはAV機器連動……こうした一連の複雑な動作をローカルで連動させるには、統合制御層(Home OS)が必要になる。この案件ではCrestronをHome OSとして使用した。

セキュリティは「動線設計」である
動線設計・ゾーニング設計の重要性
CrestronをHome OSとして使い、ドアホンにはAKUVOXを採用したわけだが、この案件で最も時間をかけたのは機器選定ではない。事前のヒアリングだった。わたしは建築家、施主に以下の内容を尋ねた。
・家族はどの動線を使うのか?
・ゲストの動線はどうなっているのか?
・パーティルームへのゲストの動線は?
・管理会社はどの時間帯に、どこから入り、どこまで入るのか?
・工事業者や造園業者が出入りする庭園側からの動線では、どの範囲まで警備を解除するのか?
・どこまでのゾーンをゲストに開放するのか?
・プールはどのブロックに属するのか?
・ワインセラー室まで管理会社は入れるのか?
・完全なプライベート空間となる施主のベッドルームまで管理会社は立ち入ることができるのか?
ざっと見てお気づきになると思うが、これらは動線設計であり、ゾーニング設計である。この案件では建築家・設備設計者と綿密に打ち合わせを行い、動線・ゾーニング設計を進めていった。
建築統合型スマートホームにおけるセキュリティは単純な「守る技術」ではない。空間と動線を制御する設計思想そのものなのだ。

別荘における複雑な動線
一般的にラグジュアリー邸宅は、敷地が広く、設備が多く、動線が複雑になる。特に別荘となると、邸宅の裏側に山林があったり、前面に庭園があるなど、邸宅以外の敷地面積が広いことが多い。インフィニティプール、インフィニティ露天風呂、ワインセラー室、複数棟構成など、ラグジュアリー邸宅は意匠・構造・設備のすべてが複雑な設計となることが多い。
こうした空間では、単純なオン・オフの警備では足りない。誰が、どのエリアに、どの時間だけアクセスできるのか。
別荘では、家族、ゲスト、管理会社、工事業者、造園業者など、さまざまな人が出入りする。そこでは動線設計とゾーニング設計が非常に重要になる。そして、その設計の精度こそがセキュリティの質を決めるのだ。

スマートホームの成熟度はセキュリティに集約される
建築統合型スマートホームの源流はホームシアターにあった。LWL onlineでは、その源流をたどった結果、北米のホームエンターテインメントとCEDIAに行き着いた。
しかし、いま、スマートホームの精度を最も厳しく問われるのは、ホームエンターテイメントではなく、セキュリティ領域である。
・認証と警備が連動しているか?
・物理動作と状態表示が一致しているか?
・異常時の処理が明確か?
前述した案件のスマートホームを担当した際、わたしは設備設計者と相談し、ドア(電子錠)は当然のこと、シャッターや大型門扉など、ほぼすべての設備の動作状態をフィードバックできるようにそれぞれの設備の制御盤を改造してもらった。設備の現在の状態を把握できなければ、セキュリティの精度を高めることはできない。
ちなみに、電気錠はJEM-Aという90年代に日本で登場したホームオートメーション規格を使用することで遠隔操作のみならず、状態のフィードバックも確認することが可能である。かなり原始的な仕組みになるが、電気錠や空調・床暖房のオンオフの操作では広く使用されている。
さて、スマートホームは、「便利な家」で終わることもできる。しかし、建築統合型スマートホームを採用する住宅のセキュリティには、動線とゾーニングの徹底した設計が必要である。特に、さまざまな人が出入りする別荘においては、建築統合型スマートホームの導入が必須であるとともに、動線・ゾーニング設計が必要となってくる。
スマートホームのセキュリティとは鍵を増やすことではない。スマートロックなどのデバイスをやたらと増やす前にやるべきことがある。
誰がどこから入り、どの範囲が解除され、どの設備が連動するのか。動線とゾーニングを整理できていない邸宅に高度な設備機器を導入しても意味はない。
動線・ゾーニング設計と制御が噛み合ったとき、初めて「安心できる家」が完成するのだ。

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LWL online 編集部