HOMMA×ブレインスリープ、睡眠に合わせて寝室が変わる「Sleep-Adaptive Room」構想
取材/LWL online編集部
建築統合型スマートホームを手掛けるHOMMA Group、ブレインスリープ、リアライズ・イノベーションズの3社が、次世代睡眠空間「Sleep-Adaptive Room」構想の検証を開始した。睡眠ステージに合わせて空調・照明・カーテンを自動制御し、寝室そのものが睡眠環境を整えることを目指す。「操作しない住宅」を追求してきたHOMMAの技術が、睡眠という生理的な領域へと踏み出す。建築と睡眠科学の融合は、テクノロジーが暮らしに溶け込む「Invisible Wellness」の新たな可能性を示している。
睡眠に合わせて寝室が変わる「Sleep-Adaptive Room」とは?
わたしたちは普段、就寝前にエアコンの温度を設定し、照明を消し、カーテンを閉めて眠りにつく。ただし、睡眠中、人の身体は一定の状態を保っているわけではない。
浅い睡眠、深い睡眠、レム睡眠など、睡眠ステージは一晩のうちに移り変わり、それに伴って体温調節や外部環境への反応も変化する。季節や体調、生活リズムによっても、快適な睡眠環境は異なる。
にもかかわらず、多くの寝室では、就寝時に設定した温度・照明・空気環境が固定されたままであり、睡眠状態に応じた環境の変化に対応できていない。
こうした状況を変えようというのが、HOMMA Group、ブレインスリープ、リアライズ・イノベーションズの3社が共同で推進する「Sleep-Adaptive Room(スリープ・アダプティブ・ルーム)」構想である。2026年10月1日、3社は次世代睡眠空間の実現に向けた協業と検証の開始を発表した。

この協業のベースには、人が寝室の環境を自分に合わせて調整するのではなく、寝室の側が人の睡眠状態に応じて自動的に変化するという発想がある。
例えば、睡眠の深さや時間帯に応じて室温を調節したり、覚醒しやすいタイミングに合わせて照明を点灯させたりする。あらかじめ決められた時刻に設備を作動させるだけでなく、その日の睡眠状態に応じて、よりきめ細かく室内環境を制御することを目指している。

スリープテックは、睡眠時間や睡眠ステージを計測し、その結果をスマートフォンなどで確認する「睡眠の可視化」を中心に発展してきた。
対して、今回の取り組みは、睡眠解析によって得られた情報を住宅設備の制御へと直接結び付けようとしている。
いわば、「睡眠の可視化」から「睡眠環境の自律的な最適化」への進化である。
睡眠ステージをリアルタイムに解析。空調・照明・カーテンを自動制御へ
今回の構想では、3社がそれぞれの専門領域を担い、睡眠解析と住宅設備の統合制御を組み合わせる。
まず、睡眠状態の解析を担うのが、リアライズ・イノベーションズが提供する「SleepHub(powered by Asleep)」だ。
SleepHubは、専用タブレット単体で睡眠状態を解析し、入眠、深睡眠、レム睡眠、覚醒といった睡眠ステージをリアルタイムに推定する。
その解析結果を受け取るのが、HOMMA GroupのHome OSである。
HOMMAのHome OSは、睡眠ステージの推定結果に応じた設備制御ロジックと連携し、空調、照明、カーテンなどの室内環境を自動的に調整。入眠から睡眠中、起床まで、それぞれの段階に適した環境づくりを目指す。
そして、睡眠科学に基づく専門知見を提供するのがブレインスリープ。同社は構想全体を監修し、効果測定を担うとともに、睡眠関連製品を組み合わせた総合的な睡眠環境の改善を目指す。
睡眠状態を推定するセンシング技術、その情報を住宅設備の制御へと結び付けるHome OS、そして睡眠科学に基づく専門知見がひとつの住空間の中で統合される。


マットレスや枕、睡眠計測デバイスなど、それぞれ独立した製品として発展してきたスリープテックが住空間そのものへと拡張されていく取り組みといえる。
なお、現段階は構想の検証・製品化を進めるフェーズであり、睡眠改善効果が実証された完成済みの商用システムというわけではない。今後の検証によって、実際にどのような睡眠改善効果が得られるかが注目される。
HOMMAとは?「Built-in Intelligence」が目指す建築統合型スマートホーム
ここで、今回の取り組みでHome OSと建築設備の統合制御を担うHOMMA Groupについて、改めて紹介しておきたい。
HOMMAは2016年に米国シリコンバレーで創業した住宅テクノロジー企業だ。ソニーや楽天などを経て起業した本間毅氏が率い、建築とソフトウェアを融合させた次世代住宅の開発を進めてきた。
同社が掲げるコンセプトが「Built-in Intelligence(ビルトイン・インテリジェンス)」だ。
スマートスピーカーやIoT家電を住宅に後付けする「IoTガジェット型」ではなく、建築の設計段階からセンサー、照明、空調、シェード、セキュリティなどを一体的に計画し、住まいそのものに知性を組み込む「建築統合型スマートホーム」である。
さらに、住宅ごとにシステムをゼロから構築する従来のレガシー型(フルカスタマイズ型)とも異なり、共通基盤となるHome OSを中心に住宅設備を統合する「ユニット型」という新しいアプローチを採用している。

住宅OS「Cornerstone OS」が実現する「操作しない住宅」
この住宅システムの中核となるのが独自開発のHome OS「HOMMA Cornerstone OS」だ。
住宅内の各種センサーから情報を取得し、居住者の動きや時間帯、周辺環境に応じて設備を自律的に制御する。エッジコンピューティングを採用し、基本的な制御をクラウドに依存せず、宅内で処理できる。
例えば、居住者の移動に応じて照明が自然に点灯・消灯したり、時間帯に合わせて照明の明るさや色温度が変化したりする。居住者がいちいちスイッチを押したり、スマートフォンのアプリを操作したりしなくても、住宅そのものが生活に合わせて環境を整える。
これは、LWL onlineがこれまで繰り返し紹介してきた「建築統合型スマートホーム」の代表的なアプローチのひとつだ。

「ブランシエスタ木場」など国内住宅への実装も進む
LWL onlineでは、2025年12月の「テクノロジーが“住まい”を再定義する~HOMMAが描く、ラグジュアリー・スマートホームの未来」をはじめ、HOMMAの住宅思想や技術開発について継続的に取り上げてきた。
また、2026年2月と4月には、建築家や住宅開発関係者を対象とした体験型セミナー「HOMMA Built-in Intelligence Session」が開催され、LWL onlineもその取り組みを紹介している。
第2回セッションのレポートでは、HOMMAのシステムを、後付けのIoTガジェット型とも、案件ごとに高度なシステムインテグレーションを行う従来型とも異なる、「ユニット型」の建築統合型スマートホームとして紹介した。
Home OSを建築にあらかじめ組み込み、ソフトウェアの更新によって機能を進化させていく。こうした方式は、長期運用が前提となる住宅インフラにおいて、重要な意味を持つ。
日本国内での実装も進んでいる。
長谷工コーポレーションの新築賃貸マンション「ブランシエスタ木場」では、総戸数129戸のうち11戸にHOMMAのシステムを導入。人感センサーによる照明の自動制御、サーカディアンライティング、空調との連携などを実現している。さらに、2026年3月にはアイリスオーヤマとの資本業務提携を発表するなど、住宅設備メーカーとの連携も広げている。
HOMMAがこれまで目指してきたのは、居住者の行動や周辺環境に合わせて、住宅が自律的に振る舞うことだった。
今回の「Sleep-Adaptive Room」ではさらに一歩踏み込んだ。
従来の人感センサーや環境センサーによる制御に、睡眠ステージという人の生理状態に関する情報を加えることで、住宅の自律制御をよりパーソナルな領域へと拡張しようとしている。
「人の行動に反応する住宅」から「人の身体の状態に適応する住宅」へ。
今回の構想は、HOMMAが掲げる「Built-in Intelligence」の新たな展開として位置づけることができる。
デバイスレスの睡眠環境へ。目指すのは「Invisible Wellness」
今回、中長期的な開発方針も発表された。
現在の構想では、睡眠ステージを推定するためにSleepHubの専用タブレットを利用するが、将来的には特定のタブレットに依存せず、睡眠状態の推定から室内環境の制御までをシームレスに実現することを目指しているという。より自然かつ継続的に利用可能な睡眠空間最適化ソリューションの検討を進めていくという。
この方針は、ウェルネスを支えるテクノロジーが、住宅の中でどのような存在であるべきかという問いにもつながる。例えば、睡眠の質を改善するために、居住者が毎晩デバイスを装着したり、専用アプリを操作したり、多くの設定を変更したりしなければならないとしたらどうだろう。健康や快適さを得るために、別の負担が生じてしまう。
テクノロジーの存在をほとんど意識せず、普段どおりに暮らしているだけで、住環境が自然に整えられることが理想的だ。
住宅設備が居住者の状態を把握し、必要なタイミングで必要な制御を行う。そして、その働きが生活空間の中で過度に主張しない。
こうした考えは、今年世界の建築・デザイン界から注目を集める新たな概念、「Invisible Wellness(見えないウェルネス)」にも通じる。Invisible Wellnessとは、健康を維持・改善するための機器や設備を前面に押し出すのではなく、建築やインテリアに溶け込んだテクノロジーによって、居住者の心身の快適さを自然に支える住環境のあり方である。
睡眠を改善するために特別な操作をするのではなく、眠っているあいだに住宅側が環境を調整する。そこではテクノロジーは主役ではなく、主役はあくまでもその空間で暮らす人間である。
もちろん、タブレットに依存しない仕組みを実現するためには、新たなセンシング技術の検討や測定精度の検証などが必要になるだろう。
それでも、居住者の負担を最小限に抑えながらウェルネスを実現するという方向性は、今後の高付加価値住宅において重要なテーマとなりそうだ。
寝室を「設備の集合」から「統合された睡眠環境」へ
「Sleep-Adaptive Room」が示す意義は睡眠の質の改善というテーマに限定されない。
建築家やインテリアデザイナー、住宅開発事業者にとっても、寝室をどのように設計するかという課題に、新しい視点をもたらす可能性がある。
従来、寝室の設計では、ベッドや寝具の選択、室内の意匠、照明計画、遮光性能、空調性能などが、それぞれの専門領域で検討されてきた。
それらはいずれも快適な睡眠空間を実現するための重要な要素だ。
だが、それぞれの設備が優れていても、必ずしも住空間全体として最適な環境が実現するわけではない。例えば、空調による温熱環境の制御と、照明による光環境の制御は、それぞれ独立して行われることが多い。カーテンやシェードの制御も、別のシステムとして設計されることが少なくない。
今回の構想は、こうした数々の設備を睡眠というひとつの体験のために統合するものだ。睡眠という人間の生理的な営みを支える、ひとつの統合された環境として捉え直すことになる。
となると、重要になってくるのが建築設備を横断的に制御するHome OSの存在である。
スマートホームというと、「照明をつける」「エアコンを操作する」「カーテンを閉める」といった個々の設備操作を、いかに便利にするかという側面が強かった。
今後、Home OSと生体情報の解析が結び付くことで、「この人が今、どのような状態にあるか」という情報をもとに、複数の住宅設備を協調して動かすことが可能になる。住宅を操作するためのシステムから、居住者の状態に合わせて環境を調整するためのシステムへの転換でもある。
先般LWL onlineで取り上げた、Appleのスマートホーム本格参入予測記事でも触れたが、スマートホームは今後、あらかじめ設定された条件によって設備を動かす段階から、居住者の状態や住宅内外の環境情報を横断的に把握し、設備を自律的に制御する方向へ進化していくと考えられる。
今回の「Sleep-Adaptive Room」は、その方向性を睡眠という領域から具体化しようとする取り組みとして注目したい。
高級住宅・ラグジュアリーホテルへ。睡眠環境が新たな空間価値に
3社は今後、住宅業界やホテル業界をはじめ、居住・滞在空間を提供する幅広い事業者への導入を想定している。事業者とのPoC(概念実証)や導入を通じて、ユーザー体験や制御アルゴリズムの高度化を進めるとともに、高付加価値住宅や宿泊施設における新たなウェルネス体験の実現を目指すという。
特に、上質な滞在体験が求められるラグジュアリーホテルや高級レジデンスでは、睡眠環境そのものが、空間の付加価値となる可能性がある。
これまで高級住宅やラグジュアリーホテルの寝室では、上質なベッドや寝具、素材、照明器具、空調設備など、個々の製品や設備のグレードが重視されてきた。
しかし今後は、それらを統合することによって、居住者の体験価値を向上させる試みがより重要になる。
高価な設備を備えていることと、そこで過ごす時間が快適であることは、必ずしも同義ではない。むしろ、住む人や泊まる人が設備の存在を意識することなく、自然に快適な時間を過ごせることこそ、新しいラグジュアリーの価値となりうる。
今回の「Sleep-Adaptive Room」は、その可能性を睡眠という身近でありながらも本質的なテーマから追求する取り組みとなる。
住宅が単に生活を便利にする場所から、ウェルネスを積極的に支える環境へと進化していくとすれば、建築やインテリアの設計思想そのものにも変化が求められるだろう。
人が住まいに合わせるのではなく、住まいが人に寄り添う。「Sleep-Adaptive Room」は、建築統合型スマートホームが目指してきたその方向性を睡眠という領域で具体化しようとする取り組みといえる。
-
-
取材
LWL online 編集部