Cassina 2026新作コレクションを読む。素材、光、記憶が織りなす「マテリアル・インテリジェンス」

 取材/LWL online編集部

家具はひとつの物体として空間に置かれるだけではない。素材のきめ、光の反射、色彩の深度、身体を受け止める柔らかさ、そして過去のデザインが現在へと呼び戻される時間の層。そうした複数の要素が交差したとき、家具は住空間そのものを読み替える装置となる。

Cassinaはミラノデザインウィーク期間中、Via DuriniのCassina Store Milanoにて2026年の新作コレクションを発表した。Cassinaが2026年新作コレクションで提示した「The Cassina Perspective 2026」は、家具を単体のプロダクトではなく、素材、光、色彩、動線が響き合う空間思想として読み解くべき試みである。

今年のCassina Store Milanoでは、「マテリアル・インテリジェンス」というコンセプトを軸に、建築的ディテールとプロダクトの仕上げが呼応する展示が展開された。新作家具を単体で並べるのではなく、素材、壁面、色彩、照明、動線を含めた空間全体がひとつの知的な風景として構成されている。

本稿では、Cassina 2026新作コレクションの第1回として、《Ardys》《Plana》、そして照明コレクションを中心に、同ブランドが示す素材と光の思想を読み解く。

Cassina Store Milanoに現れた「マテリアル・インテリジェンス」

「マテリアル・インテリジェンス」という言葉には、単に高品質な素材を用いるという意味以上のものがある。素材がどのように光を受け、身体に触れ、周囲の建築的要素と対話し、空間の記憶を立ち上げるのか。Cassinaはその問いを2026年の展示全体に埋め込んでいる。

店舗のウィンドウでは、パトリシア・ウルキオラによる新作ソファシステム《Ardys》の包み込むようなフォルムが壁面レリーフとして反復されている。そこには、ソファのモジュール性や多用途性を、空間そのものの造形へと転写しようとする意図が見える。
また、シャルロット・ペリアンによる《Plana》ローテーブルに新たに導入されたラッカー仕上げを想起させる表面表現も取り入れられ、家具の色彩と建築的ディテールが連続する。 さらに、ミカル・ハーセンによる《Ghost-Wall》は、リビング、ダイニング、ベッドルーム、ウォークインワードローブを横断する動線を描き出す。
ウォールシステムは、収納や間仕切りという機能にとどまらず、空間の連続性を編集するインテリア・インフラとして提示される。パトリシア・ウルキオラがデザインした壁紙をパネルに施すことで、家具と壁、機能と装飾、個別の部屋と住まい全体の境界が、静かにほどかれていく。

Cassina Store Milano。撮影:Francesco Dolfo

《Ardys》 快適さを視覚化するソファシステム

今回の新作群の中でも、《Ardys》は「マテリアル・インテリジェンス」を最もわかりやすく体現するプロダクトのひとつだ。パトリシア・ウルキオラがCassinaのためにデザインしたこのソファシステムは、クッションの柔らかさを、触れる前に視覚で感じ取らせる。深いステッチによって輪郭づけられた豊かなボリュームは、現代的なキルトのようでもあり、床に近いフロアソファとして、空間に低く、穏やかな重心をつくり出す。

盛り上がりと凹みが交互に現れる造形は、グラフィカルなリズムを持ち、身体を受け止める前に、まず視線を受け止める。快適さが、身体的な感覚であると同時に、視覚的な質として立ち上がるのである。

また、《Ardys》はモジュール性を核にしたシステムでもある。2人掛け・3人掛けソファ、アームチェア、オットマン、エンド、コーナー、センターモジュールなどを組み合わせることで、空間に応じた自由な構成が可能となる。しかも、各モジュールは移動・分離・単体使用ができ、住まいの変化に応じて再構築できる。ソファはもはや固定された家具ではなく、生活のリズムに追随する柔らかなプラットフォームとなる。

素材面でもCassinaの現在地が示されている。ソフトなクッション材には、リサイクル由来のポリオールを一部含むポリウレタンフォームを採用し、内部には再生ポリエステルわたのライニングを用いる。さらに、従来の成形方法に依存しない構造により、製品寿命の終わりには素材を分離し、リサイクルしやすい構成としている。快適性と循環性を対立させるのではなく、ひとつの家具の中で両立させようとする態度が、ここにはある。

《Plana》 シャルロット・ペリアンの記憶に色彩が宿る

Cassinaの2026年コレクションでは、過去の名作もまた、現在の感覚で再び空間へと招き入れられている。シャルロット・ペリアンによる《Plana》ローテーブルは、その象徴的な存在だ。

《Plana》は、1969年にパリの日本大使公邸のためにデザインされた作品である。同年には、国連ジュネーブ事務局のためのバージョンも制作され、総会議場のホワイエに設置された。今回Cassinaは、ペルネット・ペリアンとの協働のもと、このローテーブルに新たなラッカー仕上げを加えた。アプリコットクリーム、ヌヴォラ・ライトブルー、オーベルジーヌなどの新色を含む豊かなカラーパレットが、量感あるフォルムに新しい奥行きを与えている。

《Plana》の魅力はその静かな流動性だ。長方形の木製天板には、波のような緩やかな傾斜が刻まれ、一端から他端へと磨かれたかのような動きが中央で収束する。ミニマルでありながら、どこか触覚的で、幾何学的でありながら、身体の記憶を呼び起こす。そこに新たなラッカーの色彩が重なることで、モダンデザインの記憶は保存されるのではなく、現在の空間の中で再び息を吹き返す。

Cassina 2026における光。光は空間の気配を編む

Cassina 2026を読み解くうえで、照明も重要な役割を果たす。
ここでの光は単なる照度の問題ではなく、空間の気配を変え、視線の向きをつくり、物質の輪郭を浮かび上がらせる要素として扱われている。

チャールズ&レイ・イームズによる《Dot Pattern Light》は、抽象的なグラフィックを三次元の照明へと発展させるプロジェクトである。発光するロッドと球体を十字形に組み合わせたこのランプは、今年、新たに垂直方向へと展開され、ペンダントライトとして発表された。6つの発光球が暗がりの中を縦に連なり、高天井のレジデンシャル空間やコントラクト空間に、リズムと垂直性をもたらす。

チャールズ&レイ・イームズによる《Dot Pattern Light》

ネリ&フーによる《Samambu》は、竹林の奥深くに身を置いたときの静けさや没入感を、光のランドスケープとして再解釈した照明器具である。細身のメタルステムは、竹が自由に伸びていくような視覚的リズムを描き、頂部のオパールガラスディフューザーから柔らかな光が広がる。テーブルランプでは2本、フロアランプでは3本のステムが並び、小さな森のように空間へ立ち上がる。

ネリ&フーによる《Samambu》

さらに、リンデ・フレイヤ・タンゲルダーによる《Fluid Joinery Light》は、素材と光をひとつのジェスチャーとして表現する詩的なオブジェである。マウスブローによるガラスは、光を受け止め、拡散し、空間をやわらかく包む。2025年発表の《Fluid Joinery Side Table – I》を照明として再解釈したこの作品は、彫刻的な量感と光の透明性のあいだに佇む。

リンデ・フレイヤ・タンゲルダーによる《Fluid Joinery Light》

これらの照明に共通するのは光を設備やアクセサリーとして扱わない態度である。光は空間の知覚を変える。素材の見え方を変え、距離感を変え、時間の流れすら変える。Cassina 2026において、照明は家具と同じように、住空間を構成する主要な言語となっている。

The Cassina Perspectiveとは何か

「The Cassina Perspective」とは、単に多様なプロダクトを集めたコレクション名ではない。そこには、モダンデザインの記憶と、現代の素材研究、クラフツマンシップ、サステナビリティ、空間演出を結び直す視点がある。

家具は、過去から切り離された新しさだけで成立するものではない。かといって、過去の名作をガラスケースの中に保存するだけでも、現在の住空間には届かない。Cassinaは、アーカイブを現在の生活へと再び差し出し、同時に新作によって、これからの住まいの感覚を探ろうとしている。

素材は語り、光は編み、色彩は記憶を呼び戻す。
Cassina 2026が示しているのは、家具を選ぶことが、空間の思想を選ぶことでもあるという事実である。

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