Karakter x Cassina 2026を読む。Peacock Chair、CH66に見るモダンデザインの復刻
取材/LWL online編集部
モダンデザインの名作の時代を超えるフォルムは、常に現在の空間に問いを投げかけ続ける。なぜ、このプロダクトは半世紀以上を経てもなお、現在の空間に新鮮なのか、と。
Cassinaの2026年コレクションにおいて、Karakter x Cassinaの新作群はそうした問いを引き受ける存在である。Cassina Store Milanoでは、アルド・バッカーの《AB Dining》テーブルに、ニコス・ゾグラフォスの《CH66》復刻版が組み合わされて展示され、さらに店内ではヴァーナー・パントン生誕100周年を記念した《Peacock Chair》が強い存在感を放った。ジャンフランコ・フラッティーニの《780/783》サイドテーブルもまた、生誕100周年を祝う新たな仕上げで提案されている。
《Peacock Chair》 ヴァーナー・パントンの前衛がいま羽を広げる
この回の中心となるのはヴァーナー・パントンの《Peacock Chair》である。デンマーク人デザイナー/建築家であるパントンは、スカンジナビアン・デザインの文脈にありながら、その常識を鮮やかに破った存在だった。木の温もり、節度ある造形、控えめな佇まい。そうした北欧デザインの一般的なイメージに対して、彼は金属、色彩、透明性、工業生産の可能性を押し広げた。
《Peacock Chair》は1959年、パントン初期の作品として誕生した。スチールワイヤーによる「Wire」シリーズの一環として制作され、木製家具を中心としてきたスカンジナビアの伝統に決定的な距離を置くプロジェクトだった。金属メッシュは光と空気を通し、シートをほとんど非物質的な存在へと変える。そこに、鮮やかなクッションカラーが加わることで、家具は静かな道具ではなく、空間の中で色彩と身体を結びつける舞台となる。
孔雀が羽を広げる姿を想起させるこのチェアは、7つの円形クッションによって構成される。中央の1つはフレームに固定され、残る6つは自由に配置できる。座るたびに、身体との関係が少しずつ変わる。さらに、回転式の切頭円錐ベースにより座面の高さ調整が可能であり、専用金具によって2段階のリクライニング角度も選択できる。ベースを外せば、ロッキングチェアとしても使える。
今回の復刻では、Verner Panton Design AGとの協働のもと、オリジナルドローイングに忠実に基づき、プロジェクト本来の複雑性が回復された。ステンレススチール製の構造体は電気溶接され、接合部が見えないように仕上げられている。さらにエレクトロポリッシュによって、光と表面の対話が際立ち、クッションの色彩や周囲の環境を映し込む。前衛はここで単なる過去の記号ではなく、現代の空間に再び作用する力となる。

《CH66》 バウハウスの精神と構造の軽やかさ
ニコス・ゾグラフォスによる《CH66》もまた、Karakter x Cassinaを語るうえで欠かせない。1966年にデザインされたこのチェアは、バウハウスの思想に根ざしながら、カンチレバーチェアの構造を独自に反転させた作品である。ゾグラフォスは建築家、プロダクトデザイナー、インテリアデザイナーとして活躍し、機能と造形、素材の質、細部の精度を重視した。
《CH66》のフレームは、クローム仕上げまたはブラック塗装のステンレススチールパイプによって構成される。背もたれから座面にかけて描かれる二重のカーブは、厳格でありながら身体に寄り添う。座面と背もたれは同じカーブを描き、サドルレザーが金属スプリングによって張力を保ちながら固定される。構造そのものが意匠であり、弾力性そのものが美しいディテールとなる。
《CH66》はニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションにも収蔵されている。今回の復刻は、ゾグラフォスの娘であるアテナとフォティニ・ゾグラフォスとの綿密な協働研究を経て実現したものだ。ゾグラフォス自身は、この椅子を「純粋で正確なチェア」に近づいた作品として語っている。


《AB Dining》 家具と彫刻のあいだにあるダイニングテーブル
アルド・バッカーによる《AB Dining》は家具と彫刻の狭間に位置する作品である。2017年に発表された《Console Table》を再解釈し、ダイニングシーンに向けてプロポーションを拡張したこのテーブルは、人が集い、時を共有するための中心となる。
一体感のある木製天板は広がりのある面をつくり、その下面には輪郭に沿って柔らかなカーブが施されている。丸みを帯びたエッジは、高度な技術を要する工程によって生み出され、天板に静かな動きを与える。天板を支える2本の楕円形リジッド・ポリウレタン製レッグもまた、全体のバランスを支える彫刻的な要素として機能する。
マットラッカー仕上げは、アプリコットクリームとダーク・セピアから選択可能で、複雑な工程を経て手作業で仕上げられる。接合ラインは視覚的に消え、固定金具も内部に隠される。そこに残るのは、あくまで静かな面と量感、そして食卓を囲む時間を受け止めるための余白である。

《780/783》 ジャンフランコ・フラッティーニの100年
ジャンフランコ・フラッティーニ生誕100周年を記念して、Karakter x Cassinaでは《780/783》サイドテーブルシリーズの新たな解釈も登場した。1966年にフラッティーニがCassinaのためにデザインしたこのシリーズは、1960年代デザインを象徴する存在となった。高さの異なる4つのエレメントを美しく積み重ねることができ、コンパクトなボリュームの中に機能性と造形美を同居させている。
今回、新たにアプリコットとピノノワールのマットラッカー仕上げが加わり、さらにスモークグレーのガラストップも用意された。天板は、片面がチョコレート、もう片面がベージュのバイカラー仕様も選択でき、反転させることで配色の変化を楽しめる。




《Accelsa》と《Dip Collection》 小さなオブジェに宿る造形の思想
アンジェロ・マンジャロッティによる《Accelsa》は、1985年にテーブルランプとしてデザインされた作品をペンダント仕様として再構築したものだ。ムラーノの伝統を受け継ぐヴェネチアン・オパールホワイトガラスを、ひとつの塊から吹きガラスで成形する。逆さのベル型のシルエットに包まれた光は、柔らかく均一に広がり、空間に控えめながら確かな個性を与える。

同じくアルド・バッカーによる《Dip Collection》は、ひとつのシルエットをスケール、素材、機能の異なるオブジェクトへ展開するシリーズである。コルク製スツール、ホウケイ酸ガラスのタンブラー、セラミックのベースやローテーブル。用途ではなく、共有された幾何学によって結びつくこれらのオブジェクトは、日常の中に小さな連続性を生み出す。

記憶は現在の空間で再び動き出す
Karakter x Cassinaが示しているのは、復刻という行為の豊かさである。復刻とは、過去の形を忠実になぞることだけではない。オリジナルの思想、素材、技術、時代背景を精査し、それを現在の空間で再び作用させることだ。
《Peacock Chair》はパントンの前衛をいまに羽ばたかせる。《CH66》は構造の軽やかさとバウハウス的な厳格さを現代に手渡す。《AB Dining》は食卓を彫刻的な存在へと変える。《780/783》は1960年代の知性を、現在の色彩へと開く。
Karakter x Cassinaが示しているのは、モダンデザインの記憶が決して過去に閉じ込められてはいない、ということだ。Cassinaはそれを現代の住空間の中で、もう一度、生きた時間へと変えている。

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LWL online 編集部