【AIスマートホーム/ホームオートメーション特集】サーカディアンライティングは窓で決まる
取材/LWL online編集部
前々回の記事で論じたサーカディアンライティングを住まいの技術として成立させるならば、照明器具の話だけで終わるわけにはいかない。朝の光をどう取り込み、昼の眩しさをどう抑え、夕刻の減衰する自然光をどう受け止め、夜の静けさへどう接続するか。その成否を握っているのは、実のところ窓廻りである。
にもかかわらず、日本では、シェードやロールスクリーン、カーテンといったウィンドウトリートメントの制御が、照明や空調ほどには建築統合の領域へ到達していない。
ここで言う建築統合とは、設計の初期段階から、窓の制御が照明や空調と同列のシステムとして組み込まれている状態を指す。本稿では、スマートホームがなぜ窓廻りで失速しやすいのかを紐解き、本来あるべきサーカディアンライティングへの道筋を論じたい。
サーカディアンライティングは、窓を含んで初めて成立する
サーカディアンライティングの要点は、単に「昼は白く、夜は暖かく」といった色温度の変化にあるのではない。住まいが時間の推移に応答し、光の環境を破綻なく受け渡していくことにある。
住まいにおける最大の光源は、照明器具ではない。窓の向こうにある太陽、すなわち自然光である。朝日をどう導き入れるか。西日をどう抑えるか。外光が減衰する時間帯に人工光へとどう主導権をつなぐべきか。夏の日差しをどう遮るべきか。冬の日差しをどうすべきか。景観との整合性をいかにすべきか。ここが滑らかに整っていなければ、光の秩序は保てない。
つまり、サーカディアンライティングとは照明計画の一部ではなく、窓を含んだ環境制御の思想である。
この視点に立つと、窓は単なる開口部ではなくなる。窓は、光を受け入れ、あるいは抑え、時間の移ろいを住まいへ翻訳する装置である。言い換えれば、窓、ウィンドウトリートメントは設備である。

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日本のスマートホームはなぜ窓で失速するのか
照明や空調がスマート化されても、窓廻りはしばしばインテリア、すなわち装飾の領域へ押し戻される。結果として、昼光制御の境界面だけがシステムの管理外に取り残される。
この問題の本質は、窓廻りの制御体系が、照明ほどにはネットワーク化・階層化されていないことにある。

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たとえば国内主要メーカーの電動ロールスクリーン類を見ても、赤外線、RF、接点といった制御方式が中心であり、単体操作やゾーン制御としては成立していても、最初からネットワーク上の機器として扱い、他設備と同じようにプロトコルで束ねる発想はまだ限定的である。もちろん、接点(リレー)制御自体を否定するつもりはない。だが、照明や空調、床暖房、セキュリティ、AVがすでにネットワーク制御を前提に再編されつつあるなかで、窓廻りだけがそこから取り残されているとすれば、住まい全体の環境制御はどうしても中途半端になる。
この点で、LutronのHomeWorksは象徴的である。
Lutronでは、HomeWorksを、照明だけでなく電動ウィンドートリートメントや空調まで含む高級住宅向けの統合制御システムとして位置づけている。LWL onlineの言葉で言えば、これは住宅を環境として束ねるHome OSに近い上位制御層である。さらに、HomeWorksと組み合わされるLutronのSivoia QS/QED系では、Intelligent Hembar Alignmentによって複数シェードのヘムバー位置を高精度に同期させる仕組みが用意されている。ここで重要なのは、単に「電動で動く」ことではない。複数のシェードが建築のファサードに対して乱れず、そろい、止まるべき位置で静かに止まること。その挙動そのものが、建築の秩序を支えている点にある。
HOMMAの思想もまた、この問題を考えるうえでたいへん示唆的である。HOMMAは、照明や空調などのハードウェアと制御ソフトを設計段階から垂直統合し、住まい手の動線やセンサー配置まで含めて環境全体を構成していくことを特長としている。ここで目指されているのはアプリを立ち上げて個々の機器を操作することではない。技術の存在感を後景へ退かせ、住まいの側が人を静かに受け止めることである。そう考えると、窓廻りだけが依然として「動く布」のまま残されている状態は、建築統合型スマートホームの思想から見て明らかに不均衡である。

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調光調色だけでは光の秩序はつくれない
サーカディアンライティングが「アプリで電球の色を変えるだけ」に堕してしまうのは、窓廻りの制御が不在だからだ。
朝、強い光が無造作に流れ込み、日中は眩しさが画面に映り込み、夕刻にはまだ残しておきたい自然光を殺すように照明が立ち上がる。こうした無秩序な環境では、どれだけ照明の色温度を調整しても、心地よい光の質は得られない。
前回の記事で論じたように、良質な夜は光を足すことではなく、不要な光が退くことで生まれる。だとすれば、日中の光をどう処理したか、夕刻にどれだけ自然光の余韻を残せたか、そして窓面が夜にどのような反射体へ変わるかまで含めて、窓廻りは決定的に重要になる。建築の環境制御として窓を捉え直さない限り、サーカディアンライティングは成立しない。

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建築統合型スマートホームのレイヤーは窓でも問われる
照明でも窓廻りでも、重要なのは単体機器の性能ではなく、レイヤー構造である。
上位に住宅全体を束ねる統合制御(Home OS)があり、その下層レイヤーに照明側のDALI-2のようなプロトコルや、シェード側の制御系、各種センサーが並び、そのさらに下に器具やシェードといった末端デバイスが接続される。この構造があって初めて、住まいは個別機器の集合から、一つの環境システムへと昇華する。例えば、HomeWorks配下でDALI-2電源モジュールが使われ、最大64のDALI負荷を扱えるという事実は、照明側ではすでにその階層化が進んでいることを示している。
ところが窓廻りでは、この階層化と標準化が照明ほどには進んでいない。だからこそ、複数のシェードが並ぶ空間で、動き出しも停止位置も美しく揃えること、他設備と同じシーンのなかで破綻なく連動させること、遠隔監視や保守の体系に乗せることが難しくなりやすい。ここに、日本のスマートホームが窓で失速する理由がある。
窓廻りこそ、次にIP化と建築統合が問われる領域なのである。

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ヒントは窓ではなく映像用スクリーンにあった
この閉塞を破るヒントが、意外な場所から現れた。映像を投影するためのスクリーンである。
スクリーンメーカー、オーエスの電動スクリーン「EZ」は、機構・制御系を刷新したイーサネット対応の多機能スクリーンであり、ネットワーク制御に標準対応する。有線LANやWi-Fiを通じて他のAV機器と同様に制御でき、システム構成によっては遠隔監視にも対応する。
一見すると、住宅の窓廻りとは無関係に見えるかもしれない。だが、実はそうではない。スクリーンの昇降は、シェードの動作ときわめて近い。これまで接点制御や専用操作系に閉じ込められていたエレメントが、ネットワーク機器として再定義され始めているのであれば、それは窓廻りの未来に対しても強い示唆を与える。
なぜシェードは照明やAVより遅れているのか。なぜ窓廻りは統合制御の体系にもっと深く組み込まれていないのか。
映像用スクリーンがその更新を先に始めているのだとすれば、ここには明らかに次の論点がある。
光の環境の半分以上は、窓の側で決まる。窓廻りがプロトコルで制御され、複数台が美しく揃い、昼光制御と夜の静けさがひとつの設計として接続されて初めて、サーカディアンライティングは建築統合型スマートホームの実践へと変わる。
次は、この視点をさらに具体化するために、オーエスという企業と、その電動スクリーン「EZ」が投げかける可能性について、より深く掘り下げてみたい。映像用スクリーンの世界で起きているネットワーク制御の更新は、住宅の窓廻りを考え直すうえでも、きわめて示唆的だからである。

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LWL online 編集部