海外スマートホーム月報:Matter、CEDIA、照明・シェード連携に見る建築統合型スマートホームの現在地
取材/LWL online編集部
スマートホームをめぐる海外の動きが、再び「建築」の側へ近づいている。2026年4月は、Matter 1.5.1によるカメラ/ドアベル対応の前進、SamsungとIKEAのMatter直結、Deakoの住宅プラットフォーム化、CEDIAの新部門設立、そしてSomfyを軸としたシェード/照明連携など、建築統合型スマートホームを考えるうえで重要なニュースが相次いだ。IoTガジェットデバイスを後付けで追加していくスマートホームから、住宅仕様・設備仕様・運用サービスを一体で設計するスマートホームへ。4月の海外動向をニュースダイジェストとして整理する。
Matter、CEDIA、Somfyが示す住宅テックの新潮流。海外スマートホーム最新ニュースまとめ
スマートホームをめぐる海外の動きはより一層「建築統合型」に近づいた。
ここ1か月間の海外のスマートホーム/ホームオートメーション関連のニュースを追うと、話題の中心がIoTガジェットの多機能化ではなく、住宅に組み込まれる制御基盤、設計・施工チャネル、照明・シェード・セキュリティといった建築設備の統合へと移っていることがわかる。
3月31日に公開されたMatter 1.5.1では、カメラやビデオドアベルの実用性を高める改良が進んだ。SamsungとIKEAはMatter-over-Thread対応デバイスをSmartThingsへ直接統合する取り組みを発表した。Deakoは自社の位置づけを「モジュール型スマート照明」から「インテリジェントホームプラットフォーム」へ広げている。
とりわけ本サイトが注目したいのは、建築統合型スマートホームの設計・施工・インテグレーションを担う専門家団体であるCEDIAが、建築家、インテリアデザイナー、ビルダーとの接点を強化する新部門を設立したことだ。
さらにSomfyはJosh.aiとPoEシェーディングの連携を進め、CasambiとSomfyは照明とシェードの統合に向けた提携を発表している。
本サイトがこれまで繰り返し論じてきたように、建築統合型スマートホームはIoTデバイスを後から足していく発想とは異なる。Home OSのもと、建築プロトコルを使用して、照明、空調、シェード、セキュリティ、オーディオ・ビジュアルを、設計段階からひとつの環境として統合する考え方である。この4月の海外ニュース群は、その流れが一段深まっていることを示している。

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Matter 1.5.1公開。カメラとドアベルは「住宅設備」へ近づく
まず押さえておきたいのが、Connectivity Standards Alliance(CSA)が2026年3月31日に公開したMatter 1.5.1である。Matter 1.5ではカメラとビデオドアベルへの対応が進んだが、1.5.1はその実装面を補強する更新といえる。
具体的には、カメラやドアベルカメラが、用途に応じて複数の映像データを同時に扱えるようになった。例えば、録画には高画質の映像を使い、スマートフォンで外出先から確認するときには通信量を抑えた軽い映像を送り、AIによる人物検知や荷物検知には解析しやすい別の映像を使う、といった使い分けが可能になる。
また、静止画を効率よく保存するHEIC形式、録画映像を安定して配信するHLS/DASH、首振りやズームができるPTZカメラの操作改善にも対応する。さらに、ドアベルのチャイムやインターホンとしての呼び出し・応答に関する仕様も整理された。これにより、カメラやドアベルは単なるIoT機器ではなく、玄関、見守り、セキュリティを担う住宅設備として、より統合しやすくなる。
これは一見すると、Matterの小さな仕様更新に見える。しかし建築統合型スマートホームの視点では、重要な意味を持つ。玄関ドアベル、インターホン、外周カメラ、室内カメラ、録画システム、AI解析、スマートロックは、住まいの入口と安全性を構成する設備群である。そこに相互運用の標準が整い始めることは、「カメラがスマートホーム周辺機器から住宅設備の一部へ近づく」動きと読める。
ただし、ここで注意したいのは、MatterがHome OSそのものになるわけではないという点だ。LWL onlineの過去記事でも整理したように、MatterはコンシューマーIoT層の共通言語であり、Crestron、Control4などのHome OSとは役割が異なる。つまり、建築統合型スマートホームにおいて重要なのは「Matter対応」そのものではなく、Home OS側がMatterデバイスをどのように取り込めるか、すなわち「Matter Ready」な設計思想である。
Matter Ready参考サイト
Matter Readyとは何か? 建築統合型スマートホームとMatter 1.5の現在地

Image:nnattalli /Shutterstock.com
SamsungとIKEAがMatter直結。普及価格帯スマートホームの現実解
4月21日にはSamsung SmartThingsとIKEAの連携強化も発表された。Samsungは、IKEAのMatter-over-Thread対応スマートホームデバイス25機種をSmartThingsへ統合し、SmartThingsハブから直接接続できるようにした。対象は、スマート電球、プラグ、温湿度センサー、空気質センサー、モーションセンサー、ドアセンサー、水漏れセンサーなどである。
IKEAという量販・家具ブランドのスマートホーム機器が、Samsungのプラットフォームにより深く入っていくことになる。これまでIKEA側のハブとSmartThings側のハブとの併用が求められる場面もあったが、SmartThingsハブを中心に据えることができ、扱いやすくなる。この点は、Matter時代であっても、実運用にはプラットフォーム側の追加検証や調整が不可欠であることを示している。
この動きはラグジュアリー邸宅向けの本格的Home OSとは異なる層の話に見えるかもしれない。実際、IKEAのMatterデバイスは、照明、センサー、プラグなど、コンシューマーIoT層に近い製品群である。しかし、住宅全体の運用を考えると、こうした普及価格帯のデバイスが標準化され、Home OSや上位プラットフォームに取り込まれることには意味がある。
たとえば、高度な照明制御やシェード制御はLutron HomeWorksやKNX、DALIなどで構成しつつ、補助的なセンサーや簡易デバイスはMatter経由で取り込む。そうしたハイブリッド構成は、今後の住宅テックにおいて現実的な選択肢になるだろう。Matterは主役ではない。しかし、Home OSが周辺デバイスを柔軟に扱うための共通語としては、重要度を増している。
Deakoはスマート照明から住宅プラットフォームへ。新築住宅に埋め込まれる「将来拡張性」
4月2日、米国のDeakoは創業11周年にあわせて、自社のビジョンを「スマート照明」から「インテリジェントホームプラットフォーム」へ広げると発表した。同社は新築住宅向けのモジュール型スマート照明システムで知られてきたが、今後はDeako Intelligenceを軸に、照明、センサー、インターホン、高齢者見守りなどへ領域を広げていく構えだ。
Deakoの特徴は、新築住宅の段階で壁内インフラとして導入される点にある。発表によれば、同社は50社を超えるホームビルダーと連携し、35万戸超の新築住宅に導入され、累計3,200万以上の製品を出荷しているという。
このモデルは、スマートホームを「あとから買う便利機器」としてではなく、「住宅仕様の一部」として組み込む発想に近い。特筆すべきは、独自のモジュール構造により、入居者が入居後に一切の再配線工事を伴うことなく、標準的なスイッチからスマート機能付きへと自らアップグレードできる点にある。これは単なる電源の確保を超えて、更新のしやすさ、すなわちアップグレードの可能性そのものを住宅の基本性能として仕様に埋め込むアプローチであり、建築統合型スマートホームの普及において極めて重要な示唆を含んでいる。
ただし、Deako Intelligenceは、Home OSそのものではない。むしろ、スマート照明スイッチというIoTガジェット由来のデバイス群を、新築住宅の仕様に組み込むことで、住宅側に、将来スマート化できる余白を埋め込む試みである。本サイトが重視する建築統合型スマートホームとは厳密には異なるが、スマートホームが家電売場から住宅仕様へ近づいていることを示す事例としては、非常に示唆的である。
ラグジュアリー邸宅におけるHome OSとは規模も価格帯も異なるが、Deakoが示しているのは、スマートホーム市場の重心が「デバイス販売」から「住宅に埋め込まれた継続アップグレード可能な基盤」へ移りつつあるということだ。
CEDIAが新部門を設立。スマートホームは設計・施工の上流へ
4月のニュース群の中で、本サイトとして特に重視したいのがCEDIA(Custom Electronic Design & Installation Association)の新部門設立である。
CEDIAは、現在では「Association for Smart Home Professionals」を掲げる、スマートホーム/ホームテクノロジー統合の国際的な業界団体である。1989年に設立され、ホームシアターやカスタムインストールの文化を背景に、現在では住宅における照明、電動シェードやブラインドなどのウィンドウトリートメント、ネットワーク、セキュリティ、空調などを統合するスマートホーム専門家の教育・認定・標準化を担っている。
参考記事
Home OSの源流を辿る──「ホームシアター体験の質向上」から始まり、CEDIAが育んだ建築統合型スマートホームの思想
このCEDIAが、4月22日、Design & Build Outreach部門の新設と、Andrea Harvey氏のDirector of Design & Build Outreach就任を発表した。その目的はCEDIA会員がインテリアデザイナー、建築家、ホームビルダーとより強い関係を築き、住宅プロジェクトの上流段階からスマートホーム技術を組み込めるようにすることである。
そもそもCEDIAは、北米のホームシアター文化とカスタムインストール文化の中で育ってきた業界団体である。本サイトの過去記事でも、Home OSの源流はホームシアター体験の質を高めるために、AV、照明、窓まわり、空調を統合制御してきた文化にあると整理してきた。CEDIAは設立当初、ホームシアターの施工業者(インストーラー)の団体だったが、2010年頃を境に住宅全体の体験を設計するスマートホーム専門職(システムインテグレーター)の教育・認定機関へと進化してきた。
今回の新部門設立はその進化をさらに建築側へと押し出す動きである。照明回路、シェードボックス、低電圧配線、ネットワーク、ラック、センサー位置、壁面UI、天井スピーカー、電源計画は、実施設計初期段階で決めるべき項目である。CEDIAが建築家、インテリアデザイナー、ビルダーとの連携を正式な部門として扱うことは、スマートホームが住宅設計の「上流」に入ることを意味する。
この点は、日本のスマートホーム市場にとっても大きな示唆を持つ。スマートホームを家電売場の延長として扱う限り、建築統合型スマートホームは広がりにくい。むしろ、設計者、インテリアデザイナー、デベロッパー、施工会社、システムインテグレーターが同じ初期段階で議論する体制が不可欠である。

Image:Pickadook /Shutterstock.com
Somfy×Josh.ai。電動シェードはラグジュアリー邸宅の標準統合設備へ
ウィンドウトリートメントの領域でも見逃せない動きがあった。Somfyは4月20日、Josh.aiエコシステム向けの認証済みドライバーを発表した。基盤となるのはSomfyのPoEモーターで、1本のEthernetケーブルで給電と通信を行うため、施工の簡素化、信頼性向上、スケールしやすさが強調されている。
シェードやブラインドは、ラグジュアリー邸宅における環境制御の重要な要素である。日射を制御し、眩しさを抑え、家具やアートを紫外線から守り、空調負荷にも影響を与える。さらに、ホームシアターやリビングのシーン制御では、照明とシェードの連動が体験の質を大きく左右する。
今回の連携では、自動モーター検出、ネットワーク自動復旧、プリセット位置、エリア割り当てなど、施工現場の手間を減らす機能も示されている。ユーザー側では、Josh.aiの音声、タッチ、テキスト操作を通じて、たとえば「Movie Night」でシェードを下げ、照明を落とすといったシーン制御が可能になる。
単なる「音声操作対応」ではなく、シェードをより標準的な建築設備として統合しやすくする動きであることがポイントだ。PoE化と認証済みドライバーにより、施工、設定、保守の負担を下げた。ラグジュアリー邸宅におけるシェード制御は設計段階で織り込むべき標準装備へ近づいている。
Casambi×Somfy。人工光と自然光を一体で制御する時代へ
さらに4月14日には、CasambiとSomfyが照明制御とシェード制御の統合に向けた戦略的提携を発表した。CasambiのLightingOSと、SomfyのSDNモーター技術を組み合わせ、照明とシェードを一体的に扱うことを目指す。
CasambiとSomfyは、昼光利用、グレア低減、エネルギー最適化、自動シーンを打ち出している。本サイトがこれまで論じてきたスマートウェルネスホームの方向性とも重なる。照明とシェードを別々の設備として扱うのではなく、光環境をひとつの体験として設計する。その考え方が住宅だけでなく建築全体の制御領域に広がりつつある。
参考記事
サーカディアンライティング。住まいが時間を設計するとき
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Image:Astibuk/Shutterstock.com
まとめ:スマートホームは再び「建築の問題」に回帰する
この1か月の海外ニュースを並べると、ひとつの傾向が見えてくる。スマートホームの主戦場は、家電や単体ガジェットの競争から、建築レイヤーへ戻りつつある。
Matter 1.5.1は、カメラ、ドアベル、インターホンといった住宅の入口まわりを標準化の俎上に載せた。
SamsungとIKEAの連携は普及価格帯デバイスをプラットフォームへ取り込む現実解のひとつの選択肢である。
Deakoは新築住宅の壁内インフラをアップグレード可能なプラットフォームとして捉え直している。
CEDIAは、スマートホーム専門家を建築家、インテリアデザイナー、ビルダーの近くへ送り込もうとしている。
SomfyとJosh.ai、CasambiとSomfyの動きは、シェードと照明を建築的な環境制御として再定義している。
そのどれもがスマートホームを「あとから便利にする家電」ではなく、「住宅仕様・設備仕様・運用サービスを一体で設計する市場」として捉えている。
後編では、これらのニュースを踏まえ、LWL onlineの視点から「なぜ住宅テックの主戦場が家電から建築レイヤーへ戻っているのか」、そして日本の建築・住宅業界はこの流れをどう受け止めるべきかを考察する。

Image:thanmano /Shutterstock.com
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