【スマートホーム/ホームオートメーション特集】AIスマートホームのリスクを再検証──IoT型と建築統合型の決定的な違い
取材/LWL online編集部
スマートホームという言葉は、いまや一般消費者の間でも広く知られるようになった。照明やエアコン、家電をスマートフォンで操作する――そうした機能は、多くの家庭にとって身近なものになりつつある。しかしその一方で、「スマートホームは危険ではないか」「プライバシーは大丈夫なのか」といった懐疑的な声も少なくない。
だが、この議論の多くは実はある特定の構造――クラウドに依存するIoTガジェット型スマートホームに起因している。
LWL onlineではこれまで繰り返し指摘してきたが、IoTガジェット型スマートホームと、建築設備を統合する建築統合型スマートホームは、まったく異なる設計思想を持つシステムである。
AIスマートホームの時代が始まりつつあるいま、この違いを改めて整理しておきたい。
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現在、一般家庭で導入されているスマートホームの多くは、次のような構造をしている。「スマート照明」「スマートロック」「スマートカメラ」「スマートリモコン」「スマート家電」など、それぞれが独自のアプリとクラウドサービスを持ち、スマートフォンから操作される。
スマートフォンは直接機器を操作するのではなく、いったんクラウド(サーバー)にインターネット経由で接続し、スマートフォンから受け取った信号をクラウドからそれぞれの製品に向けて指令を出している。
つまりこのタイプは住宅システムではなく「IoTガジェットの集合体」である。一見便利に見えるが、この構造にはいくつかのリスクが存在する。
まず、クラウド型IoT機器の最大の弱点は、サービスが終了すると機器が機能しなくなる可能性である。
住宅設備は通常、10〜30年単位の寿命を前提に設計される。しかしクラウドサービスの寿命は不透明である。海外ではスマートホームサービスを提供していた企業が、ある日突然サービスを停止した事例もある。この不透明さに不安を覚えるユーザーも少なくない。
また、プライバシーについて不安を覚える人も少なくないはずだ。
IoT機器の多くは常時インターネットに接続され、生活データをクラウドに送信する。在宅状況や生活リズム、それにカメラ映像や音声データなどの情報が外部のクラウドに蓄積される構造は、利便性と引き換えに一定のリスクを伴う。
さらに、クラウド依存型システムでは、回線障害やクラウドサーバー障害が発生すると機器が操作できなくなることがある。
住宅設備において「ネットが落ちたら動かない」という構造は、本来望ましいものではない。

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見落とされがちな問題。赤外線依存という構造
実はIoTガジェット型スマートホームのハブやスマートリモコンの多くにはもう一つ特徴がある。赤外線リモコンへの依存である。多くのスマートリモコンは、エアコン、テレビ、AV機器、照明などを赤外線信号で操作している。
しかし赤外線は本来、住宅設備を統合的に制御するための技術として設計されたものではない。目の前にある家電などをやや離れた位置から操作するための技術である。
赤外線制御の弱点を挙げてみると、双方向通信ではなく、機器の状態フィードバックがないことが挙げられる。要するに、本当にONになっているのかOFFになっているのかを確認できない。
また、遮蔽物に弱く、誤動作が起きやすいという性質もある。
つまり赤外線は住宅設備の制御方式としては、安定性や状態管理の面で限界がある。
参考記事
スマートホームをめぐる問題── 赤外線、トグル、そして状態不可視

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問題はスマートホームではなく設計思想
IoTガジェット型と建築統合型で異なる設計思想
ここで重要なのは、スマートホームという概念そのものはリスクを内包しているわけではないという点だ。問題はIoTガジェット型・クラウド依存型という設計思想である。スマートホームを「IoTガジェットの集合体」として構築するのか、それとも「建築設備の統合システム」として設計するのか。この違いは非常に大きい。
LWL onlineが提唱しているのが建築統合型スマートホーム(Building Integrated Smart Home)である。

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このモデルでは次のような階層構造を持つ。
住宅設備(照明・空調・ブラインド・セキュリティ)/プロトコル(KNX / BACnet / DALI)/Home OS(統合制御)/ユーザーインターフェース。この構造ではスマートホームはガジェットではなく建築インフラとして設計される。
また、以前記事にもしたが、ネットワーク設計もまったく異なる。IoT型スマートホームでは、家庭用Wi-Fiがシステムの基盤になることが多い。
一方、建築統合型スマートホームではネットワーク設計そのものが異なる。
たとえば、制御ネットワークの分離、VLANによるネットワークセグメント化、有線ネットワークの採用、フィールドバスによる設備制御といった構造が採用される。
IoT型スマートホームは、スマートフォンとクラウドを中心に機器を接続する構造を持つ。一方、建築統合型スマートホームでは、住宅設備そのものをネットワークとして統合し、Home OSとローカルAIによって制御する。この違いを構造として整理したものが下図である。

こうした構造はもともとビルディングオートメーションの思想に基づく設計であり、照明や空調などの設備はWi-Fiガジェットではなく、建築設備ネットワークとして扱われる。結果として高い安定性と長寿命が担保され、高いセキュリティが実現される。
誤解されやすいのが、建築統合型スマートホームはIoTガジェットを否定するものではないという点だ。むしろ住宅の基盤を建築統合型システムにしておくことで、ガジェットは後付けで柔軟に組み込めるようになる。
ここで登場するのが以前記事にした考え方「Matter Ready」という思想だ。

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ローカルネットワーク対応「Matter Ready」という思想
Matterとは何か? スマートホームの共通規格
Matterはスマートホーム機器の共通接続規格として登場した。メーカーごとに分断されていた機器が、標準プロトコルで接続できるようになる。
建築統合型スマートホームの文脈では、Matterは住宅インフラにガジェットを接続するための標準インターフェースとして機能する。
住宅の基盤は建築統合型システムのまま維持し、その上で家電やセンサー、ロボットなどをMatterで接続する。これがMatter Readyである。
この「Matter Ready」という考え方は、スマートホーム共通規格Matterを推進するConnectivity Standards Alliance(CSA)日本支部代表の新貝文宏氏が、日本市場における住宅設計の文脈で提唱している考え方である。
住宅におけるスマートホームの本質はガジェットを増やすことではなく、住宅側がそれらを受け入れる基盤を持つことにある。つまり住宅はまず建築インフラとして設計され、その上にMatter機器が接続される――そのような構造こそが、長期的に持続するスマートホームを実現するという考え方である。
参考記事
Matter Readyとは何か? 建築統合型スマートホームとMatter 1.5の現在地
ロボット掃除機は「移動するセンサー」になる
さて、この構造に今後はAIが入ってくる。AIについてはこれまでいくつか記事を掲載しているので、下記を参照してほしいが、今後のAIスマートホーム時代において、重要な役割を果たすのがロボット掃除機である。
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AIエージェント住宅とは何か?スマートホームは「環境OS(Environment OS)」へと進化する⁉
現在のロボット掃除機はLiDAR、カメラ、AI認識、3Dマッピングといった高度なセンサーを搭載している。部屋の構造、家具配置、生活動線、人の存在などを常に観測しているのである。つまりロボット掃除機は住宅内を移動するセンサーとして機能する。
いまはまだAIスマートホームの先兵までは至っていないが、いずれロボット掃除機がその先兵としての役割を担う可能性は非常に高い。
将来的にはロボット掃除機が収集した情報がMatter連携によってスマートホームシステムに接続される可能性がある。そのときロボット掃除機は、掃除機としての機能だけではなく住宅のセンサーネットワークの一部になる。
参考記事
AIがいよいよ住宅に入り始めた⁉ そしてAI家電は「エージェント」へと進化する
ロボット掃除機が「住まいのセンサー」になる理由

Image:AlpakaVideo/Shutterstock.com
次世代スマートホームは「建築統合型スマートホーム × ローカルAI × Matter」
SwitchBot AIハブが示すローカルAIの可能性
さて、スマートホームは次の段階に入りつつある。「AIエージェント住宅」だ。センサーやカメラから得られる情報をAIが分析し、住宅設備を自律的に制御する。
しかしここでも重要なのは、AIがどこで動作するかである。
もしAIがすべてクラウドで動作するなら、再びプライバシーや通信遅延、あるいはサービス停止といったリスクが発生する。
そのため次世代住宅では「ローカルAI」が重要になる。
クラウドに依存しないローカルAI処理の可能性として注目されるのが、SwitchBotが展開する「SwitchBot AIハブ」だ。まだ発展途上の部分はあるものの、クラウドに依存せず住宅内でAIエージェントが動作する構造を示した点は画期的であり、スマートホームにおいてローカルAIへ移行していく方向性を示す先行事例と言えるだろう。
参考記事
【SwitchBot AIハブ × OpenClaw対応】ローカルAIで実現する「知性を宿した住まい」とは?

このように考えると、近未来のスマートホームは次のような構造になるだろう。
「センサー / ロボット掃除機 → ローカルAI → Home OS → 住宅設備・家電」。ここにおいて、スマートホームはIoT機器の集合体ではなく、建築インフラとしての知能を持つことになる。
IoTガジェットの寄せ集めではなく、建築設備として統合された住宅。その基盤の上にMatter機器が接続され、ローカルAIが住まいの状況を理解しながら環境を調整する。
そのとき住宅は、単に「操作する空間」ではなく、状況を理解し、環境を整え、生活を支える空間へと変化する。
LWL onlineが提唱しているのは、ガジェットとしてのスマートホームではない。建築として成熟したスマートホーム――それこそが、これからの住まいの本当の姿だと考えている。

FAQ スマートホームと建築統合型住宅の基礎知識
Q1. スマートホームのリスクとは何でしょうか?
スマートホームそのものにリスクがあるわけではありません。問題になるのはIoTガジェットやクラウドサービスに強く依存したスマートホームの構造です。
クラウド依存型システムでは、サービス終了やインターネット障害、プライバシー問題などのリスクが指摘されています。一方、建築統合型スマートホームでは設備制御の多くをローカルネットワークで行うため、こうしたリスクを抑えることができます。
Q2. IoT型スマートホームと建築統合型スマートホームの違いは何ですか?
IoT型スマートホームは、スマート家電やスマートリモコンなどのガジェットを組み合わせて構成するシステムです。一方、建築統合型スマートホームは、照明や空調、ブラインドなどの住宅設備をフィールドバス(KNX、BACnet、DALIなど)によって統合し、住宅全体を制御する仕組みです。前者はガジェット中心、後者は建築インフラ中心という違いがあります。
Q3. スマートホームでよく使われる赤外線制御にはどんな問題があるのでしょうか?
多くのスマートリモコンは赤外線信号で家電を操作していますが、赤外線は本来住宅制御のための技術ではありません。赤外線は一方向通信のため、機器が実際に動作したかどうかを確認できないという問題があります。また、遮蔽物や距離の影響を受けやすく、住宅設備の制御としては安定性に限界があります。
Q4. Matterとは何ですか?
Matterはスマートホーム機器の共通接続規格です。メーカーごとに異なっていたスマートホーム機器の接続方式を統一することで、照明、センサー、家電などを共通の仕組みで連携できるようにすることを目的としています。建築統合型スマートホームの文脈では、Matterは「住宅インフラに家電を接続する標準インターフェース」として活用される可能性があります。
Q5. AIスマートホームとはどのような住宅ですか?
AIスマートホームとは、センサーやカメラから得られる情報をAIが分析し、住宅設備を自律的に制御する住宅のことです。例えば、生活パターンに合わせて空調や照明を調整したり、エネルギー消費を最適化したりすることが可能になります。
近年はクラウドではなく住宅内でAIを動作させる「ローカルAI」の重要性が指摘されています。ロボット掃除機などのセンサー機器とMatter連携することで、住宅全体が知能化する未来も見え始めています。
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LWL online 編集部