エアコンは“心”まで整える。三菱電機「エモコアイ」という新しい知性
オーディオ&サブカルライター/杉浦 みな子
かつて家電が掲げた理想は、“利便性の追求”であった。しかし今、その目標は“住人の心身を慈しむ、全自動のホスピタリティ”へと深化している。その最前線に立っている存在のひとつが、空調家電だ。例えば三菱電機のエアコン「霧ヶ峰」が提示する「エモコアイ」。空調システムは、部屋の温度を整える段階から、住人の心を調律するフェーズへと足を踏み入れている。
リビングの過ごし方が多様になると、より細やかな空気調整が求められる
長らく、住まいにおける“快適さ”とは、物理的な数値をコントロールすることと同義であった。夏は室温を25度に保ち、冬は湿度を50%前後で維持する……そんな風に設定されたゴールに向かって、空調システムは機械的にその役割を果たしてきた。
しかし今、エアコンは温度や人感などの各種センサーとAI技術を搭載し、その測定結果を元に、その場の環境・状況に応じてフレキシブルに運転を切り替える時代になっている。
さてその背景には、現在のリビングが、単なる“一家団欒・くつろぎの場”ではなくなっていることがある。
そう、コロナ禍を契機に、リビングにおける人々の過ごし方は変わった。そこをテレワークを行う仕事場にしたり、ヨガ・エクササイズなどのオンラインレッスンを受ける練習場としたり……。もちろん、従来通りにテレビを見ながらくつろぐ場所でもある。
つまり、リビングの過ごし方が広がったことにより、そこに設置されるエアコンが作り出す“快適さ”にも、より精密な調整が求められるようになったのである。
「物理的な正解」から「心理的な正解」へ
今回ご紹介する三菱電機のルームエアコン「霧ヶ峰」は、赤外線センサー「ムーブアイmirA.I.+」で室内温度を細かく測るのに加え、バイタルセンサー「エモコアイ」で住人の脈拍を非接触で測定するのが特徴だ。
特に後者、「エモコアイ」で測定した脈拍データから、「住人の“感情”を推定する」と謳っているのが興味深い。いわば、“人の気持ちがわかるエアコン”なのだ。

同じリビングにいても、ゆったりくつろいでいるときと、仕事中で意識がシャキッとしているときでは、人の脈の間隔や形は変わってくる。そこを「エモコアイ」が測定し、現在の住人の“感情”を推定し、「ムーブアイmirA.I.+」の温度測定結果と組み合わせて、快適な室内環境に自動調整する仕組み。“温度情報”と“感情情報”、双方を取得し、ベストな空気環境を整えることを、同社では「エモコテック」と提唱している。
ここにあるのは、かつてのユーザーがリモコンを操作して「暑いから下げる」というパッシブ=受動的な快適さではない。システム側が住人の状態を察知し、不快を感じる前に環境を最適化するプロアクティブ=能動的なケア。そこに、バイタルセンサー「エモコアイ」を通じて“心を読む”という要素が入っているのが、三菱電機「霧ヶ峰」の面白いところだ。
なお、「エモコテック」という名称は、「エアーコンディショナーから、エモーションコンディショナーへ」との思いが込められた造語で、emotion conditioning technology=略して「emoco-tech(エモコテック)」となった。そして、センサーで“住人の気持ちを見つめる”という意味を込め、バイタルセンサー単体に「emoco-eye(エモコアイ)」という名称が冠されたという。
心を読むエアコンがもたらす、ウェルビーイング
スマートホームの理想とは、テクノロジーが主張することではない。むしろ、その存在を忘れさせるほど住人のライフリズムに溶け込んでいる状態こそが、至高と言えるだろう。
空調管理をAIがミリ単位で実行し、住人にとって常に適温の環境があると、そこにいる人間には“機械を操作している”という感覚は存在しなくなる。あるのは、目に見えないコンシェルジュが常に寄り添い、環境を整えてくれているという安心感だ。
ウェルネスの観点で見ると、三菱電機の「エモコアイ」および「エモコテック」は、感情からのウェルビーイング(情緒的健康)を支える存在とも言えるだろう。人間の快・不快の感情(喜び、満足感など)が安定し、心身ともに満たされた状態を維持することにつながっていく技術。それは、極めてパーソナルなラグジュアリー体験を支えるものだ。
最新の「霧ヶ峰」2026年モデルでは、人が不在時の消費電力量削減率を引き上げる省エネ性能がアップしたほか、操作音を消すなどの細やかな配慮も加わり、より気配りのできるコンシェルジュへと進化した。


これからの豊かな暮らしは、住まいそのものが住人を理解し、慈しんでくれるような、有機的なつながりにある。その中で空調家電は、エアコンを筆頭に、最も身近なヘルスケアパートナーとなる姿が示されている。いわば、空調の“ウェルネス・デバイス”への深化だ。
エアコンが人の心に寄り添う時代。それは、私たちが家の中で、より自分らしく、より健やかにいられる未来の始まりと言えよう。私たちは今、空調の風の中に、知性と温もりを感じる時代に生きている。
関連記事
AIがいよいよ住宅に入り始めた⁉ そしてAI家電は「エージェント」へと進化する
AIスマートホームとは何か? ロボット掃除機が「住まいのセンサー」になる理由
住宅に入り始めたAI。いよいよ住まいを理解し始める?
-
オーディオ&サブカルライター
杉浦 みな子
1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://sugiuraminako.edire.co/