グッチ、ミラノデザインウィークで「Gucci Memoria」開催。デムナが105年の記憶を空間化

 取材/LWL online編集部

グッチは、ミラノデザインウィーク2026「フォーリサローネ」の開催に合わせ、アーティスティック・ディレクターのデムナがキュレーションを手がける没入型エキシビション「Gucci Memoria(グッチ メモリア)」を、イタリア・ミラノのサン・シンプリチャーノ大回廊にて開催した。

会場となったサン・シンプリチャーノ大回廊は、歴史的な建築空間そのものが強い時間性を帯びた場所だ。グッチはこの空間を舞台に、105年にわたるブランドの記憶、フィレンツェに根差すクラフツマンシップ、そして現在進行形のクリエイティビティを、ひと続きの物語として立ち上げた。

ファッションブランドがなぜミラノデザインウィークで「空間」を語るのか

ミラノデザインウィーク、そしてフォーリサローネは、家具や照明、インテリアプロダクトの新作発表の場であると同時に、いまやラグジュアリーブランドが自らの世界観を空間的に表現する文化的な舞台でもある。

グッチもまた、ファッションの枠にとどまらず、インテリア、建築、アート、食、クラフツマンシップを横断しながら、ブランドの物語を立体化してきたメゾンのひとつだ。たとえば2017年には、アレッサンドロ・ミケーレのクリエイティブ・ディレクションのもと、クッション、キャンドル、チェア、スクリーン、壁紙、テーブルウェアなどを含むホームコレクション「Gucci Décor(グッチ デコール)」を発表。単に「グッチの家具」を提案するのではなく、住空間をブランドの美意識で装うという発想を提示した。

2019年のミラノデザインウィークでは、「Gucci Décor」のポップアップを展開。家具、テキスタイル、セラミックを、シルクウォールペーパーやアンティーク、フローラ&ファウナのモチーフとともに構成し、住空間そのものを〈Guccification〉された世界として表現した。

一方で、近年のグッチのミラノデザインウィークにおける表現は、単独のプロダクト訴求から、よりコンセプチュアルな空間体験へと移行しているようにも見える。2024年の「Gucci Design Ancora」では、イタリアンデザインの名作5点をロッソ アンコーラで再解釈し、ミラノのフラッグシップストアにおいて没入型展示として提示した。

今回の「Gucci Memoria」も、その流れに連なるものだろう。ここで前面に出るのは、新作家具やホームコレクションの直接的な訴求ではない。むしろ、ブランドの記憶、象徴、クラフツマンシップ、そして芸術性を、歴史的建築空間全体を使って体験させる試みである。

12点のタペストリーが描く、グッチ105年の物語

「Gucci Memoria」の中心となるのは、ブランドの歩みを視覚的に表現した12点のタペストリーである。フィレンツェの伝統的な織物技術を背景に制作されたこれらの作品は、グッチの歴史における象徴的な瞬間を、重厚なタブローとして描き出す。

物語は、創設者グッチオ・グッチの若き日に遡る。ロンドンの名門ホテル、ザ・サヴォイでポーターとして働いていた時代。世界中から訪れる上流階級の旅行者たち、そのラゲージ、旅の所作。そこに触れた経験が、のちにフィレンツェでラゲージとレザーグッズの工房を開く原点となった。

Images Courtesy of Gucci
Early Beginnings(原点)。最初のタペストリーはブランド創設前の時代。若き日のグッチオ・グッチがポーターの制服に身を包み、ロンドンのホテル ザ・サヴォイで経験を重ねていた日々が描かれている

続くタペストリーでは、フィレンツェの最初の工房、グッチ クレスト、国際的なラグジュアリーブランドへの成長、〔グッチ ジャッキー 1961〕や〔グッチ バンブー 1947〕といったアイコンの誕生が描かれる。さらに、トム・フォード、フリーダ・ジャンニーニ、アレッサンドロ・ミケーレ、サバト・デ・サルノといった歴代クリエイティブ・ディレクターたちの時代を経て、デムナのもとで始動する新たな章へとつながっていく。

Images Courtesy of Gucci
The Birth of a House(グッチの誕生)。第2のシーンでは、インスピレーションが形となって現れる。ブランド創設の地フィレンツェのルンガルノ・グイッチャルディーニ通り11番地に構えた最初のグッチの工房で、職人たちが仕事に打ち込む姿が描かれている。道具やレザーに囲まれた空間で、トスカーナの都を背景にグッチのヴィジョンが具現化。1955年、「グッチ クレスト(Gucci crest)」の商標登録を機に、グッチの神話が形成される。このタペストリーには、その瞬間がアーティストのキャンバスに描かれたスケッチとして表現されている
Images Courtesy of Gucci
La Famiglia(ラ ファミリア)。最後から2番目のタブローは、グッチの現在の姿を提示する。澄み渡る青空の下、「La Famiglia」コレクションを象徴するルックが彫像として再解釈され、アーティスティック・ディレクター デムナによる新たな時代の幕開けを告げる
Images Courtesy of Gucci
Work in Progress(創造は続く)。最終章となるタペストリーでは、視線を再びグッチのスタジオへと戻し、ブランドのすべてのクリエイションを支えるクラフツマンシップの芸術性に焦点を当てている。デムナとそのチームが「La Famiglia」コレクションを象徴する鮮やかなレッドのコートの前に集まる。デムナの背後に置かれたゲーミングチェアが、伝統的な空間の中に意外性をもたらし、過去と現在の対話を物語る

タペストリーというメディアの選択も興味深い。布は、身体に近い素材であると同時に、空間を包む素材でもある。ファッションとインテリアのあいだを行き来し、装飾でありながら記憶の媒体にもなる。グッチはここで、服を見せるのではなく、ブランドが歩んできた時間を「織物」として提示している。

フローラ プリントを身にまとう柄から空間へ

大回廊の中庭では、グッチを象徴するフローラ プリントを立体的な空間へと再構築したインスタレーションが展開された。

フローラ プリントは、1966年にヴィットリオ・アッコルネロがデザインしたグッチの代表的なモチーフのひとつ。四季折々の花々、ベリー、蝶、昆虫を37色で表現したこのプリントは、シルクスカーフとして知られるだけでなく、時代ごとに再解釈されながら、グッチの豊かなイマジネーションを象徴してきた。
今回の展示では、そのフローラが「身にまとう柄」から「歩き入る風景」へと変換される。プリントは平面ではなく、ランドスケープとなり、来場者の身体を包み込む。これは、ファッションと空間デザインの境界を越える、きわめてグッチらしい表現といえるだろう。

グッチはフィレンツェの「Gucci Garden」でも、アーカイブ、広告、レトロなオブジェ、シグネチャーコード、自然史的なイメージを重ねながら、ブランドを単なる商品群ではなく、歩いて体験する物語として構成してきた。「Gucci Memoria」におけるフローラの空間化もまた、その延長線上にあるといえるだろう。

インタラクティブな体験としてのラグジュアリー

小回廊には、特注の自動販売機が設置された。そこでは、フィレンツェのシニョーリア広場に店を構えるグッチのオールデイ カフェ&カクテルバー「Gucci Giardino(グッチ ジャルディーノ)」が手がけた缶入りドリンクを販売。同店は、メゾンのコードとフィレンツェの空気感、かつてそこにあった花屋の色彩や香りを重ね合わせた場所だ。今回の展示では、その体験がミラノの回廊へと持ち込まれる。

ドリンクは、「La Famiglia(ラ ファミリア)」のキャラクターたちに着想を得た4種類。Fashion Icon、Drama Queen、Super Incazzata、Mega Pesantoneという名前を持ち、ランダムに提供される。ここには、ラグジュアリーを荘厳な鑑賞対象に閉じ込めるのではなく、少しのユーモアや偶然性を含んだ体験として開いていく、デムナらしい感覚も読み取れる。

過去と現在をつなぐ、文化的な対話としての「Gucci Memoria」

「Gucci Memoria」はグッチの歴史を回顧するだけの展示ではなく、むしろ、過去のアーカイブを現在の視点から再編集し、次の創造へと接続するための空間体験である。

グッチオ・グッチのロンドンでの体験、フィレンツェの工房、バンブーやジャッキーといったアイコン、トム・フォードの官能性、ミケーレの折衷的な幻想、サバト・デ・サルノのロッソ アンコーラ。そして、デムナのもとで始まる新たな時代。これらは直線的なブランド史として並べられるのではなく、タペストリー、庭園、自動販売機、ドリンク、建築空間という複数のメディアを通じて、ひとつの身体的な体験へと変換されている。

今回、家具やインテリアプロダクトそのものが主役ではない。ラグジュアリーとはもはや単独のプロダクトだけで成立するものではない。空間、記憶、素材、香り、味覚、身体の動き、そしてその場に流れる時間までも含めて、ひとつの世界観として設計される。

ファッション、インテリア、建築、アートのカテゴリーは、ここでは明確にわかれていない。グッチは、ミラノデザインウィークという舞台で、ブランドの過去と現在をつなぎながら、ラグジュアリーがいかに空間化され、文化的な体験へと変わりうるのかを示している。

グッチ ジャパン

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