Living Insight vol.1 ―なぜ日本の住空間は「一室一灯」になったのか?

 取材/LWL online編集部

日本の住宅では、天井中央のシーリングライトひとつで部屋全体を明るくする「一室一灯」が長く標準とされてきた。しかし海外の住宅や高級ホテルでは、複数の照明を組み合わせ、光の陰影によって空間をつくる例が多い。

では、なぜ日本では、一室一灯の照明文化がこれほど定着したのか?
その背景には、戦後の住宅供給、蛍光灯の普及、そして「明るさ」を快適さと捉えてきた住文化がある。

かつての日本の住まいは、部屋全体を明るくしていなかった

障子とろうそくの光がつくる日本家屋の陰影
電気照明が普及する以前の日本の住まいでは、部屋全体を均一に照らすのではなく、必要な場所に光を置く暮らしが中心だった
Image:kazu326 /Shutterstock.com

一室一灯は日本の伝統のように思われるかもしれない。だが、実際にはそうではない。

電気照明が普及する以前の日本の住まいでは、行灯や提灯、灯明など、必要な場所だけを照らす光が中心だった。部屋全体を均一に明るくするというよりも、手元や足元など、暮らしに必要な範囲を最小限に照らす光である。

日本の住まいはもともと「暗さ」と共存していた。そもそも畳、障子、襖、床の間といった空間には、強い光よりも、やわらかい陰影が似合っていたともいえる。

状況が大きく変わったのは、電化が進み、住宅の中に電灯が入ってからだ。特に第二次世界大戦後に著しく状況が変わった。

畳の部屋に置かれた行灯風の照明
畳や障子、襖のある空間には、強い光よりも、やわらかな陰影をつくる光が似合っていた
Image:Pegion /Shutterstock.com

戦後の住宅供給が「中央にひとつ」の照明を合理的にした

戦後の高度経済成長期の日本では、都市部を中心に、大量の住宅供給が急なスピードで求められた。限られた面積、限られた予算、限られた工期のなかで、できるだけ効率よく住まいをつくる必要があった。

そのとき、照明計画として最も合理的だったのが、部屋の中央に照明器具をひとつ設ける方法だった。

照明器具が少なければ、配線も単純になる。施工もしやすく、コストも抑えられる。入居者にとっても、ひとつのスイッチで部屋全体が明るくなるため、使い方がわかりやすい。

こうして、天井中央の引掛シーリングに照明器具を取り付けるという形式が、住宅の標準仕様として広がっていった。一室一灯は、デザイン思想ではなく、戦後住宅の量産と生活の合理化が生み出した形式だったのである。

白い部屋の天井中央に設置されたシンプルな照明
天井中央に照明をひとつ設ける形式は、配線や施工がシンプルで、住宅の標準仕様として広がりやすかった
Image:years44 /Shutterstock.com

蛍光灯が「部屋全体を明るくする」文化を後押しした

一室一灯をさらに定着させたのが、蛍光灯の普及である。戦後の高度経済成長期と同じタイミングで蛍光灯が普及・定着した。

蛍光灯は、白熱灯に比べて明るく、消費電力が少なく、寿命も長い。とりわけ日本では、昼白色や昼光色の蛍光灯によって、部屋全体を均一に明るく照らす感覚が広がっていった。また、勉強、家事、食事、団らんなど、ひとつの部屋で複数の行為を行う暮らし方が多い日本の生活文化と相性が良かった。

畳の部屋で食事をし、同じ部屋でくつろぎ、子どもが宿題をする。そうした多目的な住空間では、局所的な光よりも、部屋全体を均一に明るくする光が便利だった。

高度経済成長期に、環形蛍光灯を用いたシーリングライトが家庭に広がると、「明るい部屋=快適な部屋」という感覚も一般化していく。

結果として、日本の住宅では、空間に陰影をつくる照明よりも、まず部屋全体の明るさを確保する照明が重視されるようになった。

環形蛍光灯を用いたシーリングライト
環形蛍光灯を用いたシーリングライトは、部屋全体を均一に明るくする日本の一室一灯文化を象徴する存在だった
Image:loveshiba /Shutterstock.com

LED時代になり、一室一灯の常識は変わり始めた

だが近年、この一室一灯の常識は少しずつ変わり始めている。大きな理由はLEDの普及である。LEDは小型化しやすく、発熱も少なく、調光・調色もしやすい。そのため、ダウンライト、間接照明、棚下照明、ブラケットライトなどを組み合わせた照明計画が、一般住宅でも取り入れやすくなった。

また、住まいに求められる価値も変化している。
かつては「部屋を明るくすること」が照明の主な役割だった。だが現在では、食事を楽しむ光、映画を見る光、仕事に集中する光、眠りに向かう光など、時間帯や行為に合わせて光を使い分ける考え方が広がりつつある。

高級住宅やホテルで一室多灯が採用されるのは、単に見た目が美しいからではない。光によって、空間の奥行き、素材の質感、滞在時の心地よさを引き出すためである。

間接照明とダウンライトを組み合わせた現代的なリビング
Image:murattellioglu /Shutterstock.com

何気ない照明にも、住まいの歴史が映っている

一室一灯は、日本の住宅に深く根づいた照明形式とされる。いまでも賃貸マンションは、環形蛍光灯を用いたシーリングライトを取りつけることを前提とした仕様になっているケースが多い。しかしそれは、もともとの伝統というより、戦後の住宅事情と蛍光灯の普及がつくり上げた、近代日本の住文化だった。

もちろん、一室一灯そのものが悪いわけではない。均一な明るさが必要な場面もある。大切なのは、ひとつの照明だけで住空間のすべてをまかなうのではなく、暮らし方に合わせて光を選ぶ視点を持つことだ。

日本の住宅で一般的な天井中央のシーリングライト
日本の住宅では、天井中央のシーリングライトひとつで部屋全体を明るくする「一室一灯」が長く一般的だった
Image:Scott Prokop /Shutterstock.com

天井を見上げると、そこには単なる照明器具以上のものがある。住まいがどのようにつくられ、どのような快適さを求めてきたのかという歴史的な変遷が光の在り方に表れている。

ラグジュアリー邸宅に求められるのは、ただひたすら明るい空間ではなく、時間や気分、過ごし方に寄り添う光である。照明を見直すことは、住まいの質を見直すことでもある。

FAQ

Q.一室一灯は、もう古い考え方なのでしょうか?

A.一室一灯は戦後の住宅事情と、シーリングライト・蛍光灯がつくった照明文化

一室一灯は、「古い考え方」というよりも、日本の戦後高度経済成長期に、大量の住宅供給に迫られ、環形蛍光灯を用いたシーリングライトがつくった照明文化です。
一室一灯が必ずしも悪いわけではありません。掃除などの作業や、部屋全体を明るくしたい場面では今でも有効です。ただし、くつろぎ、食事、映画鑑賞、音楽鑑賞、就寝前など、均一な明るさだけでは心地よくならない時間やシーンもあります。主照明に加えて、間接照明やスタンドライト、調光・調色機能を組み合わせることで、暮らしに合わせた光の環境をつくることが快適な暮らしを実現するうえで重要になります。

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