スマートホームの「スイッチレス」とは? 「操作しない家」を考える Living Insight vol.13

 取材/LWL online編集部

スマートホームの究極は、スマートフォンや音声で「操作できる家」ではなく、そもそも操作を意識しない家なのかもしれない。では「スイッチレス」がよいのか? LWL onlineが提示する「スイッチレス」とは、物理スイッチをなくすことではなく、センサーや自動制御によって住宅設備を意識する回数を減らす設計思想である。人感センサーとプレゼンスセンサーの違いから、照明・空調・シェードの連動、音声操作、そして物理スイッチを残す意味まで、「操作しないスマートホーム」の可能性を考える。

この記事のポイント

スマートホームの「スイッチレス」とは?

勘違いされがちだが、「スイッチレス」とは、壁から物理スイッチを完全になくすことではない。人感・プレゼンスセンサーや時間、外光、温湿度、在宅状況などの情報をもとに、照明、空調、シェードなどを住宅側が自動制御し、住まい手が設備を「操作する回数」を減らす設計思想である。ただし、例外的な操作や第三者の利用に備え、直感的な物理スイッチを残すことも重要となる。

スマートホームが目指す「スイッチレス」とは何か?

スマートホームというと、スマートフォンや音声で照明や空調を操作したりする住宅を思い浮かべることだろう。あるいは、本格的な建築統合型スマートホームでは壁にCrestronなどの純正のタッチパネルが設置されたイメージを持つ人も少なくないだろう。

しかし、スマートホームの本来の意味を鑑みると、「操作」は本当に必要なのか。

スマートフォンを取り出してアプリを開き、部屋を選び、照明のアイコンを押すという行為は、外出先から操作する場合は別として、それは本当に「スマート」なのか? 壁のスイッチを押すよりも手順が増えてしまうのであれば、それは必ずしも「スマート」とはいえないのではなかろうか?

スマートホームが目指す究極の姿は、スイッチを高機能化することではなく、そもそも人が操作しなくても住宅があたかも知性を宿したかのように適切に動く「スイッチレス」という姿なのかもしれない。

では、スマートホームが「スイッチレス」を目指すとはどのようなことを意味するのか?

スイッチレスという言葉からは、壁からすべてのスイッチを取り除いた住宅を想像しやすい。だが、目指すべきなのは、物理スイッチを完全になくすことではなく、住まい手が日常的に行っている細かな操作を、住宅側が代わりに判断することである。

スイッチレスなスマートホームをイメージしたミニマルなリビング空間
スイッチレスとは、壁から物理スイッチをなくすこと自体が目的ではない。住宅側が環境を判断し、住まい手が設備を操作する回数を減らすことが本質となる(イメージ)
Image:ARCHWIN-AKIRA /Shutterstock.com

たとえば、夜間に廊下へ出れば、まぶしすぎない明るさで足元の照明がほんのりと点灯する。外が暗くなれば、プライバシーを確保するためにシェードが自動的に下がり、リビングの間接照明が自動的に立ち上がる。

こうした一連の動作が自然に行われるのであれば、住まい手は照明や空調を一つずつ意識して操作する必要がない。住まいが季節と時間、そして温度や湿度、空気環境を考慮して自動的にその時々に最適な環境をつくりだすこと。それこそが「スマートホーム」の目指すべきところである。

スイッチレスとは、スイッチという部品を排除することではなく、住宅設備を意識する回数を減らす設計思想なのである。

人感センサーだけでは「操作しない家」にならない

人感センサーとプレゼンスセンサーの違い

操作を減らすための基本となるのが、センサーとシーン制御である。

一般的な人感センサーは、人の動きを検知して照明を点灯させる。トイレ、廊下、収納、洗面室など、短時間利用する場所では非常に有効だ。

ただし、リビングや書斎のように、人が座ったまま長時間過ごす空間では問題が起こりやすい。身体の動きが少なくなると、センサーは「不在」と判断してしまう。まだ人がいるにもかかわらず照明を消してしまうことがある。

KNX Associationも、モーションセンサーは比較的大きな動きを捉えるのに対し、プレゼンスセンサーはホームオフィス、リビング、寝室など、人が静止して過ごす場所に適していると説明している。

近年は、赤外線だけでなくミリ波レーダーなどを組み合わせ、呼吸や身体のわずかな動きまで捉えるプレゼンスセンサーも登場している。Matter対応製品にも、PIRセンサーとミリ波レーダーを組み合わせ、在室、動き、照度、温度、湿度を検知するものが見られる。

もっとも、センサーの精度を高めるだけでは十分ではない。

時間帯、外光、室温、在宅状況、開閉センサー、そして住宅内の動線など、複数の情報を組み合わせることにより、住宅は「何をすべきか」を適切に判断できる。

スマートホームは「人がいる」だけでなく、状況を読む

たとえば、リビングに人が入ったからといって、毎回同じ明るさで照明を点灯すればよいわけではない。昼間で十分な自然光が入っていれば、照明は必要ない。夕方なら間接照明を中心に点灯し、夜間なら色温度を下げた落ち着いた光が適している。映画を見ているときと、来客を迎えているとき、読書をしているときでは、必要な照明環境はまったく異なる。

外光を調整する電動シェードを備えたスマートホームのリビング
電動シェードは、時間帯や外光と連動させることで、住まい手が操作しなくても採光やプライバシーを自動的に調整できる(イメージ)
Image:Astibuk /Shutterstock.com

時間・外光・温度・在宅状況を組み合わせて判断する

Crestronの照明・環境センサーには、在室・不在と周囲の照度を組み合わせ、照明だけでなく空調なども制御できる製品が用意されている。また、LutronのHomeWorksでは、カクテル、ディナー、デザートといった時間の流れに合わせ、照明シーンやシェードを連動させる考え方が示されている。

時間帯、外光、室温、在宅状況などの複数の情報を入力情報として組み合わせ、照明、カーテン、空調、床暖房、換気、オーディオ、防犯設備といった複数の設備が生活の場面に応じて一つの環境として動作することこそが重要である。インプットと各種設備が統合されることによって、はじめて住まい手は設備の存在を意識せずに過ごせるようになる。

音声操作やスマホアプリも「スイッチ」の一種

音声操作は、手を使わずに設備を動かせるため、スイッチレスの代表的な機能として紹介されることが多い。だが、よくよく考えてほしい。いちいち「照明をつけて」「カーテンを閉めて」「エアコンを26度にして」と指示しなければならないのであれば、物理スイッチが音声コマンドへ置き換わったにすぎない。これが本当に「スマート」なのか?

スマートフォンのアプリも同様である。多数のスイッチを一つの画面に集約できても、住まい手がその都度アプリを開かなければならないなら、操作負担は残る。

音声やアプリは、自動制御だけでは対応できない例外的な要求を伝えるための補助的なインターフェースと考えるべきだろう。

日常の大半は住宅が自動的に処理し、必要なときだけ人が介入する。その関係が理想に近いだろう。

スマートフォンアプリで照明を操作するスマートホーム
スマートフォンによる操作は便利だが、それ自体は物理スイッチをアプリへ置き換えたものともいえる。本当のスイッチレスでは、日常の制御をできるだけ住宅側に委ねる(イメージ)
Image:Gorodenkoff /Shutterstock.com

なぜスマートホームにも物理スイッチを残すべきなのか?

となると、次の課題が浮かび上がる。必要なときに人が介入する、その際のインターフェースには何が必要なのだろうか?

それこそが物理スイッチである。

物理的なスイッチを完全になくしてしまうことがスマートホームの目指す「スイッチレス」とは言い難い。もちろん、技術的には可能な場所もあるが、住宅全体で物理操作を排除することは推奨しにくい。

自動制御は、住まい手の行動や意図を完全には予測できない。たとえば、普段は暗く保っている深夜のリビングを、探し物や作業のために一時的に明るくしたいこともある。こうした通常の生活パターンから外れた要求まで、自動制御だけですべて判断することは難しい。

普段より明るくしたい日もあれば、来客のために通常とは異なる空調設定にしたい日もある。通信障害、センサーの誤検知、機器交換、システム更新などにより、自動制御が期待どおりに働かない可能性もある。

また、家族以外の来客、清掃スタッフ、管理会社の担当者が利用する場合、操作方法が見ただけで理解できることも重要だ。

そのため、照明や空調の主要な機能には、直感的に使える物理操作を残しておくべきである。ただし、従来のように大量のスイッチを並べる必要はない。高級住宅でスイッチが増える理由については、「なぜ高級住宅ほどスイッチが増えるのか?」でも詳しく解説している。

「起床」「リラックス」「来客」「就寝」といった、照明、ウインドウトリートメントを一括で操作できる生活シーンをあらかじめ設けて、数個のボタンにまとめれば、壁面を整理しながら、自動制御が意図どおりに働かない場合や例外的な場面での操作手段も確保できる。

究極のスイッチレス住宅とは、スイッチが完全に存在しない家ではなく、普段はスイッチに触れる必要がなく、必要なときには迷わず使えるスイッチがある家なのである。

「操作しない家」はなぜ建築段階から設計する必要があるのか?

後付けのスマートデバイスでも、部分的な自動化は可能である。しかし、照明、空調、シェード、セキュリティ、オーディオなどを横断して「操作しない家」を実現するには、建築段階からの計画が欠かせない。

どこにセンサーを配置するのか。どの設備から状態情報を取得するのか。不在、帰宅、就寝といった状態をどのように判定するのか。自動制御が失敗したとき、どの操作手段へ戻れるようにするのか。

これらは、完成後にアプリの設定だけで解決できる問題ではない。

Crestron、Lutron HomeWorks、KNXによる建築統合

Crestron、Lutron HomeWorks、KNXなどの建築統合型システムでは、システム構成に応じて、在室センサーの情報をきっかけに、複数の設備やシーンを連動させることができる。Crestron Home OSにも、在室、猶予在室、不在といったイベントに対して動作を割り当てる機能が用意されている。

必要なのは、機器をたくさん導入することではなく、住宅全体の動作を設計することである。

スマートホームの価値は「操作できること」から「意識しないこと」へ

これまでのスマートホームは、スマートフォンから操作できることや、音声で設備を動かせることを価値としてきた。しかし、これからの住宅に求められるのは、住まい手の存在、季節や時間、光の状態、温度や湿度、さらには生活リズムまでを読み取り、必要な環境を先回りして整えることだ。いわば「知性を宿した住まい」である。

普段は何も操作しなくても快適で、例外的な場面では簡単に人が介入できる。そのような住宅では、テクノロジーは目立たず、背景から支える。Invisible Technologyとなる。

壁からスイッチが完全になくなることが、スマートホームの完成形なのではなく、住まい手がスイッチの存在を意識しなくなることこそが、本当の意味での「スイッチレス」なのである。

Lutronの照明と電動シェードを統合したスマートホームのリビング
LutronのHomeWorksは照明とウインドウトリートメントを連動させることが可能だ。外光や時間帯などに応じて照明やシェードを連動させれば、住まい手が個別に設備を操作する必要を減らすことができる
画像提供:Lutron

スマートホームの「スイッチレス」に関するFAQ

Q1. スマートホームの「スイッチレス」とは何ですか?

スイッチレスとは、住宅から物理スイッチを完全になくすことではありません。センサーや時間、外光、温度・湿度、在宅状況などの情報をもとに、照明、空調、シェードなどを住宅側が自動的に制御し、住まい手が設備を操作する回数を減らす考え方を指します。普段は住宅が自動的に環境を整え、必要なときだけ人が介入できる状態が理想となります。

Q2. スイッチレス住宅では物理スイッチは必要ないのでしょうか?

物理スイッチを完全になくすことは推奨していません。自動制御だけでは住まい手のすべての行動や意図を予測できず、普段とは異なる明るさや室温を求める場合もあります。また、来客や清掃スタッフなど、システムに慣れていない人が住宅を利用することもあります。そのため、通常は自動制御に任せながら、必要なときには直感的に操作できる物理スイッチを残しておくことは重要だと考えています。

Lutronの空調コントロールとシーンキーパッドを設置した高層住宅のリビング
空調や生活シーンの操作を壁面に整理したLutronのキーパッドの例。設備ごとの多数のスイッチではなく、必要な機能をわかりやすく集約する
画像提供:Lutron

Q3. 人感センサーとプレゼンスセンサーは何が違うのでしょうか?

一般的な人感・モーションセンサーは、人が歩くといった比較的大きな動きを検知するのに適しています。一方、プレゼンスセンサーは、より小さな身体の動きまで検知できるため、リビングや書斎、寝室など、人が座ったり横になったりして長時間過ごす場所に向いています。スイッチレス住宅では、空間の用途に応じてこれらを適切に使い分けることが重要になります。

Q4. 音声操作やスマートフォンアプリも「スイッチレス」ではないのでしょうか?

音声操作やスマートフォンアプリはたしかに便利なインターフェースです。しかし、住まい手がその都度「操作する」という点では物理スイッチと同様です。日常的な制御はできるだけ住宅側が自動的に行い、音声やアプリは通常とは異なる要求を伝えるための補助的な操作手段として使うのが理想的です。

Q5. スイッチレス住宅を実現するには、どのようなシステムが必要ですか?

単一の製品だけで実現するものではありません。在室・プレゼンスセンサー、照度や温湿度などの環境センサー、照明、空調、シェード、セキュリティといった住宅設備と、それらを統合して制御する仕組みが必要になります。

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