ヤマハ、ノイトラ邸で「Companionship」を開催。カリモク家具と探る、音と暮らしの新しい関係
取材/LWL online編集部
ヤマハは2026年10月2日から4日まで、ロサンゼルスのリチャード・ノイトラ設計「VDLハウス」で企画展「Companionship」を開催する。カリモク家具との共同研究から生まれた「波音のなる家具」や、ヤマハの演奏再現システム「Real Sound Viewing」などを通して、人と楽器、家具、建築、そして時間との関係を問い直す。
本企画展は、米国・ロサンゼルスで開催されるデザインイベント「ロサンゼルスデザインウィークエンド」への初出展として実施するものだ。
「共にあること」「寄り添う関係」を意味する「Companionship」という言葉を手掛かりに、音や楽器が人間の暮らしのなかでどのような存在になり得るのかを問い直す試みだと言えるだろう。
※アイキャッチ画像:Photo by Johnny Le

楽器は人間の暮らしに何をもたらすのか?
ビリー・ジョエルの代表作のひとつに「Piano Man」がある。
そこで描かれているのは、土曜日の夜、ピアノバーに集まってくる人々。常連客は満たされない思いや孤独を抱えている。それでも彼らは主人公が奏でるピアノと歌に耳を傾け、その時間だけは日常の現実から離れていく。
「Piano Man」におけるピアノは音楽を演奏するための道具というよりも、人々と人々をつなぎ、孤独な暮らしや厳しい現実に寄り添う「媒体」であり、一夜の「救い」をもたらす存在である。
楽器とは人にとってどのような存在なのか? 演奏するための道具にとどまるのか、それとも、人生と長い時間をともにする存在なのか? その問いにつながるのが、ヤマハが今回の展覧会で掲げる「Companionship」というテーマである。
ヤマハのデザイン研究所は、楽器を演奏する道具だけではなく、長く使い続けることで愛着や信頼関係が育まれていく、人生に寄り添う「伴侶」として捉える。
今回の展示では、そこから視点をさらに広げ、人と楽器、人と人、人と自然、そして地域コミュニティまで、「共にあること」の意味をデザインによって探っていく。
リチャード・ノイトラのVDLハウスで「共にあること」を考える
ヤマハのデザイン研究所の思想を提示する場所として選ばれたのが「Neutra VDL Studio and Residences」(以下、VDLハウス)だ。
VDLハウスは、リチャード・ノイトラが自身の住居兼スタジオとして設計した建築で、現在は米国国定歴史建造物(National Historic Landmark)に指定されている。
このモダニズムの歴史的建造物の各フロアから庭園までを使い、計10点のデザイン作品や楽器が展示される。
今回の展示がホワイトキューブのようなニュートラルな展示空間で開催されず、「住宅」で行われることに注目してほしい。
「住宅」には人が生活してきた記憶が残るが、楽器や家具を「暮らしのなかに存在するもの」として捉える思想がここでは前景化される。
その意味で、VDLハウスという場所そのものが「Companionship」というテーマを構成するひとつの展示物になっているともいえる。
楽器と「ともに暮らす」。ギタースタンド「solo」「classic」
「Companionship」という展示テーマを非常にわかりやすく可視化しているのが、ギターとともに暮らすためのギタースタンド兼スツール「solo」「classic」という展示作品だ。
楽器を収納してしまうのではなく、家具のように生活空間のなかに存在させ、人の近くに置き続ける。この発想はまさに「Companionship」という展示テーマを象徴している。


Bluetooth機能を用いて音楽を奏でる「TransAcoustic Guitar」なども展示され、人と楽器との関係をさまざまな角度から提示する。

カリモク家具×ヤマハ。「波音のなる家具」を初公開
本展示会では、カリモク家具とヤマハのデザイナーによる共同研究から生まれた「波音のなる家具」のプロトタイプが初公開される。

一見すれば、身体をゆったりと預けることのできるローチェアである。
しかし、クッション部分に座って体を揺らすと、内部を転がる小さな鉄球が擦れ合い、波音に似たホワイトノイズのような音が生み出される。体の動きに合わせて、打ち寄せる波から静かなさざ波まで、多彩な音の変化を楽しむことができる。
人間の身体の動きによって、その場で異なる音が生まれる仕組みだ。
LWL onlineが注目したのは「音を再生する家具」という位置付けではない点である。ローチェアにスピーカーを内蔵し、用意された環境音を再生するだけなら、それはオーディオ機器と家具の融合にとどまる。だが、「波音のなる家具」では身体の動きが家具を介して音に変換される。
人がいて、家具があり、その両者が関係を持つことで、初めて音が生まれるという関係性はまさに「Companionship」というテーマそのものだ。
プロダクトそのものではなく、人とモノの「関係性」をデザインしたものだと言っていい。
家具メーカーであるカリモク家具と、「音」を扱い続けてきたヤマハだからこそ成立したアプローチである。
Real Sound Viewingが蘇らせる、ノイトラ邸の「音の地層」
もうひとつ、特筆したいのが、VDLハウスを設計した建築家リチャード・ノイトラ氏の妻、ディオーネ・ノイトラ氏がチェリストであったことにちなみ、ヤマハの演奏再現システム「Real Sound Viewing」により、彼女の生前の演奏データをもとにチェロの自動演奏でリアルな音色を再現している点である。
自動演奏技術のデモンストレーションとは意味が異なる。
かつてこの住宅で暮らしていた人物の演奏が、時を超えて、その人物が実際に暮らした建築空間で再現される。

建築には人が暮らした記憶が幾層にも堆積している。
家具の配置や床についた傷、窓から見える景色や光、交わされた会話や流れていた音楽など、目に見えるものだけが建築の記憶なのではない。
ここで思い起こされるのが、中沢新一の『アース・ダイバー』だ。
中沢は、現在の東京の地図に縄文期の地形を重ね合わせながら、都市の表面からは見えなくなった地形や文化の層へと潜り、その土地に潜在する「地形の無意識」を読み解いていった。
その視点をあえて一軒の住宅へと縮尺を変えて当てはめれば、VDLハウスにもまた、現在目にしている建築の下に、いくつもの時間の層が折り重なっていると考えることができる。
ディオーネ・ノイトラのチェロの音も、そのひとつだ。
Real Sound Viewingによる再現は、かつてこの住宅に確かに存在しながら、現在では失われている「音の地層」を掘り起こすような行為でもある。
プロダクトではなく、「関係」をデザインする
ヤマハのデザイン研究所は1963年に設立され、楽器や音響機器などの製品デザインと並行して、音楽や楽器のあり方そのものを探る「デザインスタディ」を続けてきた。「Companionship」もその延長線上に位置する。
わたしたちはプロダクト単体のデザインに目を向けがちだが、「波音のなる家具」は人と家具と音との関係をつくり、「solo」「classic」は楽器と生活との距離を変え、Real Sound Viewingは、人と記憶と建築をもう一度結び直す。
本当に豊かな住空間を考えるのであれば、「何があるか」だけでなく、そこにあるものが人とどのような関係を結ぶのかまで考える必要があるのではないだろうか。
美しい椅子があることと、その椅子に座ることで穏やかな気持ちになることは同じではないし、高性能なオーディオがあることと、音楽が暮らしの一部になっていることも同じではない。そして、高度なテクノロジーが存在することと、それが人の暮らしに寄り添っていることも同義ではない。
「Companionship」が問いかける「豊かな住まいとは?」
「Companionship」とは、人とモノの関係だけではなく、人と時間、人と場所との関係をデザインすることでもある。
ビリー・ジョエルの「Piano Man」に登場するピアノが人々の孤独と孤独の間に音楽を介在させたように、楽器も、家具も、建築も、テクノロジーもそれ自体で暮らしを豊かにするわけではない。人とどのような関係を結び、どのように人生に寄り添うのかという関係性が重要である。
ノイトラの住宅を舞台に開かれるヤマハの「Companionship」は、「音のある暮らし」を通して、住まいと人とプロダクトの関係を改めて問いかけている。
「Companionship」開催概要
- 名称:Companionship
- 開催期間:2026年10月2日 13:00~15:00、10月3日~4日 11:00~15:00
- 会場:Neutra VDL Studio and Residences
- 所在地:2300 Silverlake Blvd, Los Angeles, CA 90039
- 入場料:一般15ドル、学生10ドル
- 入場方法:事前登録制 https://app.squarespacescheduling.com/schedule.php?owner=23698438&appointmentType=25261985
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