日伊国交160周年。ヤマハ×在日イタリア大使館が響かせる“音楽と名建築”のダイアローグ
オーディオ&サブカルライター/杉浦みな子
2026年7月22日、株式会社ヤマハミュージックジャパンと在日イタリア大使館は、日伊間の文化交流の発展を目的としたパートナーシップ契約の締結を発表した。本記事では、東京都港区三田に位置する在日イタリア大使公邸で開催された、記者発表会の模様をお届けする。
日伊の感性が交差する「和モダンの名建築」と、ハイグレードピアノの出会い
2026年、日本とイタリアは国交樹立160周年という特別な節目を迎えた。
このたび発表された、株式会社ヤマハミュージックジャパンと在日イタリア大使館によるパートナーシップ契約は、この記念すべきイヤーに関連する行事などの実施にあたり、日伊間の文化交流のさらなる発展を目的とするものだ。両者がタッグを組むのは、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)以来となる。


そう、ヤマハミュジックジャパンは、大成功に終わった大阪・関西万博のイタリアパビリオンに協賛し、同社のコンサートグランドピアノを館内に設置するなど、主に楽器を通じてイタリア音楽文化の普及に携わってきた。
このたびのパートナーシップ契約でも、同社グランドピアノのハイグレードモデル「S6X」をイタリア大使公邸に設置し、記念イヤーを彩るさまざまな催しでの演奏機会の創出により、日伊両国の文化交流を協働で推進。また、音楽を通じた対話の促進や、次の世代を担う才能の発掘・育成に取り組んでいく。
昨年、イタリアパビリオンで結ばれた両者の絆が、東京・三田の地でさらなる深化を遂げようとしている。


なお、イタリア大使公邸といえば、1965年にイタリアの建築家ピエルフランチェスコ・ボルゲーゼ氏と、日本の建築界を支えた村田政真氏の共同設計によって誕生した建物だ。入母屋造の屋根や深い庇といった、日本の伝統的な建築意匠を取り入れた建築の内部には、トスカーナ風の美しい調度品や洗練されたモダンデザインが見事に調和する。




日伊双方の美学が結実したこの和モダンの名建築に、「伝統と革新の出会い」をコンセプトに掲げるヤマハのS6Xが据えられたのは、まさに必然と言えるだろう。格式高くも温かみのある公邸の空間に、S6Xの佇まいがしっくりとなじんでいる。





万博から大使公邸へ。「音楽サロン」として広がる未来
大使公邸で行われた記者発表会の冒頭では、マリオ・アンドレア・ヴァッターニ駐日イタリア大使が登壇。万博でのコラボレーションを振り返りながら、今回の取り組みへの期待を語った。

「昨年の大阪万博のイタリア館では、劇場にヤマハのコンサートグランドピアノ『CFX』が設置され、6ヶ月間毎日音楽が響く特別な空間となりました。オペラからジャズ、クラシックから現代音楽まで幅広いプログラムを展開できたことは、イタリア館の成功を支える大きな要素でした」
この万博で生まれた情熱を、今度は東京の大使公邸へと引き継ぐ。ヴァッターニ大使は、この場所を日伊の音楽家や関係者が集う「音楽サロン」にしたいと強い想いをのぞかせた。
「これからイタリア大使館とヤマハミュジックジャパンは、この大使公邸で定期的に音楽イベントを共同で開催していきます。そのイベントではオペラ、クラッシック音楽、ジャズ、現代音楽、そして新たな音の可能性まで幅広いテーマを扱っていきます」
さらに話題は、現代における音楽教育や「人間性の育み」へと及んだ。
「AIの時代であっても、自分の力で何かを作り上げる喜びは変わりません。技術は人を助けてくれますが、人の才能や感性、努力に置き換わるものではないのです。楽器を習うことは自分を信じ、努力によって成果を得る体験であり、若い世代に自信と心の健康を与えてくれます。文化や創造性を通じた豊かな未来を、次の世代へ伝えていきたいですね」
イタリアを愛するヤマハ松岡社長の情熱
続いて登壇したヤマハミュージックジャパン代表取締役社長・松岡祐治氏は、自身とイタリアとの深い縁を明かした。

「私はこれまで20年海外駐在し、その中でイタリア駐在が一番長く、本当に大好きな国です。駐在時は、イタリアの小学校に音楽教室を広げました」
実はイタリアでは、小学校の義務教育として音楽の授業がない。専門的な音楽学校はあっても高額な授業料の問題もあり、一般の人々が幼少期に音楽の感性を育む場として、ヤマハの音楽教室が非常に喜ばれるという背景があるそうだ。その教室数はすでに150を超えているという。
いわば、イタリアではヤマハの手がけた音楽教室で育っていく子どもたちも増えているわけだ。その実績をよく知るヴァッターニ大使から「ぜひ松岡氏と共に」と、日伊国交160周年記念事業で協業するアイデアが出されたという。
「大使からお声がけいただいた際は大変嬉しく、即答で『やりましょう』とお答えしました。ヤマハが持つ銀座や渋谷の施設も活用しながら、160周年にふさわしい文化交流と次世代の才能の発掘・育成に、共に楽しく取り組みたいと考えています」
言語を超えて、大使公邸を音楽が包む
発表会の後半では、イタリアのピアニスト、アルベルト・ピッツォ氏と、万博のイタリア館アンバサダーを務めたソプラノ歌手・藤井泰子氏による特別パフォーマンスが披露された。


ピッツォ氏がピアノ演奏したのは、万博のイタリア館で来場者を迎えた楽曲「Sky」。そして藤井氏により、シェイクスピア原作のオペラ『オテロ』のアリアが歌われた。静謐な公邸内に、S6Xの豊かで力強い響きと伸びやかな歌声が満ち、出席した人々を魅了した。
演奏後、ピッツォ氏は「2ヶ月前にこの場所でこのプロジェクトがスタートしました。実現できて本当に嬉しい」と感慨深げにコメント。

藤井氏も「音楽とは、言語を超えた言葉だと思います。この大使公邸に設置されたピアノから、今後様々な交流が生まれると思うと楽しみです」と語った。

また、発表会後に開催された懇親パーティでは、出席者たちでヴェルディ作のイタリアオペラ『椿姫』の「乾杯の歌」を歌い、大使がスパークリングワインの栓を抜く華やかな一幕も。




堅苦しい記者発表会の枠を超え、まさにヴァッターニ大使が思い描く「音楽サロン」の第一歩を思わせる、温かく高揚感に満ちた空気の中でこの日の催しは幕を閉じた。
日伊のデザインが融合する名建築と、日本の誇るヤマハの音響技術。二つの文化が美しく重なり合うこの場所から、次の160年に向けた新たな対話が始まろうとしている。

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オーディオ&サブカルライター
杉浦みな子
1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://foriio.com/minako-sugiura