CEDIA Expo/IFA 2026で見えた「Invisible Wellness」の現在地。スマートホームの完成形は「何もしなくていい家」へ
取材/LWL online編集部
スマートホームの進化は、機器や機能を増やすことではなく、その存在や操作を意識しなくて済む方向へ向かっている。CEDIA Expo 2026とIFA 2026では、建築にテクノロジーを溶け込ませる「Invisible Technology」に加え、Soundcoreのスリープテック、Health & Longevity、住宅ロボティクスまでが大きなテーマとして浮上した。そこから見えてくる次の住宅像「Invisible Wellness」を読み解く。

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CEDIA Expo 2026で前面に出た「Invisible Technology」
スマートホームは、どこへ向かっているのだろうか。
スマートフォンには住宅設備を操作するアプリがいくつも入り、何かをするたびに音声アシスタントへ話しかける。少なくとも、高級住宅におけるスマートホームの完成形が、そのような姿ではないことは明らかになりつつある。
2026年9月、米デンバーで開催された「CEDIA Expo 2026」と、9月4日から8日までベルリンで開催された「IFA 2026」。
性格の異なる二つの展示会から発信されてきた個別の情報を見ると、ある共通項が浮かび上がってくる。
優れたテクノロジーほど、見えなくなり、やがて意識されなくなっていく。スピーカーやスクリーンを建築のなかへ隠す「Invisible Technology」から、光、音、空気、温度、睡眠、家事、さらには健康管理までを、人がいちいち操作しなくても住宅側が静かに支える「Invisible Wellness」へ。2026年秋のCEDIA ExpoとIFAから見えてきたのは、そんなスマートホームの次の姿である。
CEDIA Expo 2026では、「Invisible Innovation: Integrating Hidden Technology into Design」と題したデザイナー/ビルダー向けプログラムが開催された。
埋込型スピーカー、プロジェクター昇降機、モニター昇降機、建築化照明、収納式スクリーンなどのプロダクトを使って、美観や性能を損なうことなく住宅へ組み込むことがテーマだ。また展示会場を巡るテーマにも「Designed to Disappear」が設定された。

テクノロジーを建築の中に隠すには、建築家、インテリアデザイナー、ビルダー、システムインテグレーターが早い段階から協働し、構造、配線、電源、ネットワーク、制御まで計画する必要がある。
テクノロジーを後から追加するほど、それは「機械」として住空間の前面に現れる。逆に、設計初期から統合するほど、テクノロジーは後景となる。
これはLWL onlineが継続して取り上げてきた「建築統合型スマートホーム」の基本でもある。
スマートホームは「操作する家」から「操作しなくていい家」へ
そして、今回のCEDIA Expoでは「機器を隠すこと」以上の議論まで踏み込んだ。住人が行う操作そのものを減らそうとする考え方が広がっているのだ。
Calm Tech Instituteはインテグレーター向けの「Calm Tech Certified Partner Program」を開始した。直訳すると「穏やかなテクノロジーの認定パートナープログラム」。Calm Techは、人に過度な操作や注意を求めないテクノロジーと捉えた方が良いだろう。
このプログラムで見られるのは、ある機能を使うために、住人がどれだけ考えたり、操作する必要があるのかという、これまであまり顧みられなかった視点である。
たとえば、朝起きるたびに照明を調整し、シェードを開け、空調を設定する必要があるとすれば、それは確かに便利ではあるが、まだ住人が住宅を操作している。スマートフォンのアプリを開き、操作ボタンをタッチするスマートホームであれば、この一連の操作を簡略化できる。ただし、ここでも「操作」は残る。
一方、朝になれば自然にダイニングの照明が明るくなり、日射に応じてシェードが動き、外気温や在室状況に合わせて空調が調整されるのであれば、住人はその都度スマートフォンやタッチパネルを操作する必要がなくなる。これこそ「Calm Tech」が目指す考え方に近い。
次世代のスマートホームで目指されているのは、「何でも操作できる住宅」から「そもそも操作する必要がない住宅」への変化である。
Invisible Technologyをもう一段進めた考え方といえる。
機器の姿を消すことに加えて、操作の手間すら消す。テクノロジーが目立たず、住人もそれを意識せずに済むという状態になってはじめて、スマートホームは生活のなかに本当の意味で溶け込んだといえるのかもしれない。

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「Invisible Wellness」とは何か? 住宅そのものをウェルネス化する
Invisible Wellnessとは、住人がテクノロジーを意識したり操作したりすることなく、光、音、温度、空気、睡眠などの生活環境を住宅側が整えるという考え方だ。
CEDIA Expoでは「The Sound of Wellness」というセッションも行われた。
音が気分や集中、快適性、そしてウェルビーイングにどのような影響を与えるかが議論された。高音質なオーディオを導入することにとどまらず、インテリアデザイナー、システムインテグレーター、メーカーが協働し、音環境そのものをより健康的で、心地よい住空間の一部として設計していく。
「Wellness Roomをつくる」という発想とは少し異なる方向が見える。
ウェルネス住宅というと、サウナやジム、ホームジム、室内プールなどを備えた住宅を考えがちだ。もちろん、それらにも十分な価値がある。
しかし、人は毎日寝室で何時間も眠り、常に室内の空気を吸い、光や音、温度の影響を受けている。だとすれば、本来のWellness Technologyは、特別な時間だけ使う設備よりも、普段ほとんど意識していない住宅環境を整える技術なのかもしれない。
今年初めてCEDIA Expoへ出展した企業群にも、睡眠システム、照明、シェード、ロボティクスといった、従来のcustom integrationから一歩外側にあったカテゴリーが増えた。CEDIA自身も、スマートホームという市場の定義が広がっていると指摘する。

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Soundcore SleepLab Pro。「寝室そのものが人を読む」スリープテック
IFA 2026で、このInvisible Wellnessを最も分かりやすく具体化した製品の一つが、Anker Innovations傘下のSoundcoreだった。
「SleepLab Pro(IFAでの展示名称はsoundcore Sleep Device Pro)」。最大の特徴は睡眠を測定するために腕時計もリングもイヤホンも必要としないこと。
ベッドサイドに設置した本体から60GHzのミリ波レーダーを利用し、身体に触れることなく胸部などの微細な動きをセンシング。心拍や呼吸を継続的に追跡し、睡眠状態を把握する。
さらに蓄積したデータから、その人に適した就寝前ルーティンを学習し、acoustic beatsなどの音とアンビエント照明を組み合わせてリラクゼーションを促す。スマートフォンを必須とせず、サブスクリプションも不要とされている。

※Soundcore公式サイトより
従来のSleep Techは、人の身体側へセンサーを装着し、「昨夜どれだけ眠れたか」を記録する方向が中心だった。SleepLab Proでは、そのセンサーが空間側へ移ったと言っていい。
人がテクノロジーを身につけるのではなく、寝室が人を感じ取る。
IFA Innovation Awards 2026では、IFAで「Anker soundcore Sleep Device Pro」として展示された同製品が「Best in Audio」を受賞。さらにSleep Earbuds 4とSleep Earbuds 4 Proも同部門のHonoreeに選出された。睡眠テクノロジーが、ウェアラブルの領域から、住宅環境を構成する技術へ近づいていることを象徴する評価といえる。
Sleep Earbuds 4 Proとの違い。身体側と空間側から睡眠をセンシング
Soundcoreは同時に「Sleep Earbuds 4」「Sleep Earbuds 4 Pro」も発表した。

※Soundcore公式サイトより
上位のSleep Earbuds 4 Proには耳内で脈波を測るPPGセンサーを搭載。心拍、HRV(心拍変動)、睡眠ステージ、夜間の行動などを把握する。BioSync機能では、心拍に合わせてリラクゼーション用のサウンドを動的に変化させる。
充電ケースにはOLEDディスプレイを搭載し、アラームや睡眠状態、サウンドなどをスマートフォンを開かず確認・操作できる。
Sleep Earbuds 4 Proは身体側から人を読むPersonal Sensingであり、SleepLab Proは空間側から人を読むAmbient Sensingである。
この二つを並べると、Sleep Techの次の方向が見えてくる。
将来的に、身体側と空間側の情報がHome OS上で連携したらどうなるだろう。
眠りについたことを住宅が検知すれば、残っていた照明を消す。あるいは、深夜に室温が上がれば、起こさない程度に空調を調整する。起床時間が近づけば、照明の色温度、室温、シェード、ベッド環境を順番に変えていく。睡眠状態そのものが住宅オートメーションのトリガーになりうるのだ。
もちろん、現段階ではSoundcore製品が住宅の照明やHVACを統合制御するわけではない。
だが、人がボタンを押すことを起点とするスマートホームから、人間の状態を住宅がセンシングして環境を変えるスマートホームへという方向性は、かなりはっきりしてきた。 ここがInvisible Wellnessの重要なポイントだ。
IFA 2026が提示した「Health and Longevity at Home」

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IFA 2026後半には、この議論をさらに広げるセッションが開催された。
9月7日の「How Tech Will Transform Food, Health, and Longevity at Home」でテーマとなったのは、スマート家電、ウェアラブル、デジタルヘルス技術をつなぐことで、住宅をより健康的な生活を支えるプラットフォームへ変えられるか、という問いである。
登壇者にはフード・香料大手Givaudanのイノベーション担当、ウェアラブル/代謝ヘルスを手掛けるUltrahumanなどが入り、データによる栄養や生活習慣のパーソナライズ、そして高齢者がより長く自立して暮らすための住宅技術が議論された。
IFAの会期後半の総括でも、健康とウェルビーイングがスマートホームの新しい焦点になったと明記されている。
家電、ウェアラブル、デジタルヘルスから得られるデータを組み合わせ、個々の人に合わせて食生活や日常習慣を調整する。そして、それが自宅で自立して生活できる期間を延ばす可能性があるという。
スマートホームの目的が大きく変わる可能性がある。
現在のスマートホームでは、Convenience=利便性が主要な価値として語られることが多い。しかし、その先で問われるのはWellbeingとLongevityである。
その家に住むことで、よりよく眠れるか。より健康的な生活習慣を維持できるか。そして年齢を重ねても、できるだけ長く自宅で自立した生活を続けられるか。
スマートホームの価値そのものが、利便性から生活の質へ広がり始めている。
ロボティクスと「aging in place」。生活支援インフラへと向かうロボット
そしてHealth & Longevityと切り離せないのが、今年のIFAで大きく存在感を増したロボティクスだ。
IFA Next 2026は過去最大規模のヒューマノイドロボット展示を打ち出した。
Agibot、Unitree、EngineAI、Dobot、DEEP Roboticsなど多数の企業が集まり、「Robots on the Runway」ではヒューマノイドが歩き、踊り、アクロバティックな動きまで披露した。IFAはAIが情報を処理するだけでなく、物理空間を認識して行動する「Physical AI」を、次の大きなテーマとして位置づけている。
しかしLWL onlineとして注目したいのは、ロボットが宙返りできるかどうかではない。
IFAの「Robots in the Kitchen and Home: From Task-Specific Tools to Humanoids」では、調理や清掃に特化したロボット、ロボット機能を組み込んだ家電、移動型アシスタント、ヒューマノイドまでを連続的に捉えたうえで、aging in placeが大きなテーマとして設定された。
aging in place、要するに、ロボットが支援することで、高齢者が尊厳と自立性を保ちながら、自宅で暮らし続けられる可能性を議論したのである。

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ロボットは「未来の家電」から、「住宅における生活支援インフラ」へ近づき始めている。
もちろん、IFAに多数のヒューマノイドが並んだからといって、数年後に一家に一台の人型ロボットが普及すると考えるのは早計だ。
住宅は工場とは違う。床には物が置かれ、家具配置は変わり、階段があり、子どもやペットも動く。ヒューマノイドよりも、むしろ、ロボット掃除機、ロボット芝刈り機、窓拭きロボット、ロボットプール掃除機など目的別のロボットをAIが連携させる構造の方が現実的である。

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照明には照明設備、空調にはHVAC、シェードにはモーター、AVには専用機器があり、それをHome OSが上位レイヤーで統合する。ロボティクスも同じ道を歩く可能性がある。
Invisible TechnologyからAutonomous Homeへ
CEDIA Expo 2026とIFA 2026は、まったく異なる市場から住宅の未来を見ている。
CEDIAは、建築・インテリア側からテクノロジーの存在を消していく。IFAは、AI、センシング、Sleep Tech、デジタルヘルス、ロボティクスによって、日常生活の判断や作業を住宅側へ移していく。そもそもの起点が異なっているのだろう。
ただし、両者をつなぐと、Invisible Technologyから、Ambient Intelligence、Invisible Wellnessを経て、最終的にはAutonomous Homeに至る流れが見えてくる。最初に消えるのは「機器」であり、センサーやスイッチが建築へ溶け込む。次に消えるのは「操作」である。住まい手がいちいち設備機器を操作しなくても、センシングテクノロジーとAIによって、環境側が状況に合わせて変化する。
さらに、その先では「測る」という行為も消える。Soundcore SleepLabのように、何も身につけなくても寝室が睡眠状態を読み取る。
この表現は、今年のCEDIAとIFAをつなぐ言葉として極めて示唆的だ。
スマートホームの完成形は、スマートフォンから家中の設備を何でも操作できる住宅ではないのかもしれない。
何も操作しなくても、その人にとって心地よい環境が静かに保たれている住宅。そして、年齢や身体状態が変わったとしても、その住宅が人に合わせて支え方を変えていく。
Invisible Technologyの到達点は、テクノロジーを意識しなくても、健康で、快適で、安心して、できるだけ長く自分らしく暮らせること。
CEDIA Expo 2026とIFA 2026は、スマートホームという言葉の意味が、いままさにそこまで拡張され始めていることを示していた。
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LWL online 編集部