NOT A HOTEL、安藤忠雄とヘルツォーク&ド・ムーロンの新プロジェクト発表。ジャン・ヌーヴェル「YAKUSHIMA」も公開
取材/LWL online編集部
NOT A HOTELが、世界的建築家とのプロジェクトをさらに加速させる。新たに発表されたのは、安藤忠雄が近畿地方の海沿いに描くヴィラと、ヘルツォーク&ド・ムーロン(Herzog & de Meuron)が沖縄の崖に計画する1棟のヴィラ。さらに、ジャン・ヌーヴェル率いるAteliers Jean Nouvelによる「NOT A HOTEL YAKUSHIMA」の最新ビジュアルも公開された。
安藤忠雄、ヘルツォーク&ド・ムーロン、ジャン・ヌーヴェルはいずれもプリツカー賞を受賞した、現代建築を代表する建築家である。
これは単なる「著名建築家を起用した別荘」のニュースではない。建築そのものを目的地とし、そこに「住む」「滞在する」「所有する」という体験を組み合わせてきたNOT A HOTELが、世界最高峰の建築家たちとの協働によって、その思想をさらに先へ進めようとしている。
※アイキャッチ画像 : ©Diana Pfammatter / ©Kinji Kanno / ©Albert Watson
安藤忠雄が描くNOT A HOTEL。「海とともに生きる」建築

安藤忠雄建築研究所が設計する新しいNOT A HOTELの舞台は近畿地方の海沿いである。
豊かな自然に包まれた半島を敷地とし、斜面には5棟のヴィラを配置する。地形に合わせてレベルを少しずつ変えながら、建築を森と海の風景へ溶け込ませていく。湾を挟んだ半島の先端には、水平線へ向かって開かれた円形のヴィラを計画する。
円形のフォルムと、その中心に設けられた空へ開くヴォイド、そして建築の周囲に広がる有機的な形状の水盤が特徴である。
コンクリート、幾何学、光と影、水、そして自然。安藤忠雄が長年追求してきた建築の語彙が、海を臨む住宅というスケールのなかに集約されようとしている。
安藤氏はこのプロジェクトのコンセプトについて「目指したのは、海を眺めるための建築ではない。海とともに生きる、精神の豊かさが息づく場所だ」としている。
また、「美しく、そして激しい、半島の風景。その力に負けない建築を、どうつくるか。何とも難しい。けれど、心高ぶる挑戦です。」と語る。
住宅から美術館、教会まで、コンクリートという強い人工物を用いながら、光や風、水といった自然の存在をむしろ際立たせてきた安藤建築。その思想が、滞在と生活の場であるNOT A HOTELにどう落とし込まれるのか。非常に楽しみである。







ヘルツォーク&ド・ムーロン、沖縄の崖に「3枚のスラブ」を置く

もうひとつの新プロジェクトを手掛けるのが、スイス・バーゼルを拠点とするヘルツォーク&ド・ムーロン。
ジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンによって1978年に設立された建築設計事務所で、ロンドンの「テート・モダン」をはじめ、北京国家体育場、ハンブルクのエルプフィルハーモニーなど、世界各地で数々の建築を手掛けてきた。
NOT A HOTELとのプロジェクトの舞台は沖縄である。
計画されているのは、崖から海へ向けて水平に張り出すスラブによって構成された、1棟のヴィラだ。
建築の基本となるのは3枚のスラブ。2枚の水平スラブが海へ向かって張り出し、沖縄の水平線へ視線を導く。3枚目のスラブにはインフィニティプールが設けられ、テラスとしても機能する。陸地と果てしなく広がる海との境界に立つ建築。
外観は極めてミニマルだが、内部では、天井高を生かした大きな共用空間と、より彫刻的に構成されたプライベート空間が展開する。
さらに、丁寧に仕上げたオーク材によるスクリーン状の壁を建物全体に通すことで、巨大な構造体のスケールを人間の身体へ引き寄せながら、開かれた空間と閉じた空間の関係をつくり出すという。
ヘルツォーク&ド・ムーロンが目指しているのは、最小限の建築的操作によって、その土地にすでに存在する崖や海、水平線を、これまで以上に強く知覚させること。
「そこにしかない風景をどう体験させるか」から建築を考える姿勢が鮮明に表れている。
なお、本プロジェクトは沖縄で開発実績を持つASAKAとの共同開発となる。






ジャン・ヌーヴェル「NOT A HOTEL YAKUSHIMA。屋久島に「岩とガラス」の建築が姿を現す
そして今回、最新ビジュアルが公開されたのが、ジャン・ヌーヴェル率いるAteliers Jean Nouvelが手掛ける「NOT A HOTEL YAKUSHIMA」だ。
既に2025年にプロジェクトが発表されていたが、今回公開されたビジュアルによって、その建築像がさらに具体的になった。
屋久島の深い森の中に現れるのは、大地からそのまま隆起してきたかのような、岩とガラスによる建築。
ジャン・ヌーヴェルは、パリのアラブ世界研究所やカルティエ現代美術財団、ルーヴル・アブダビなどで知られ、光、透明性、反射、そして建築が置かれる場所固有の環境を扱ってきた建築家でもある。
屋久島で着目したのも、石、庭、むき出しの大地、雨、水の音、森。特に、年間を通じて豊かな雨が降る屋久島において、「雨」そのものを建築体験へ取り込もうとしている。
岩とガラスによって構成された建築が雨の影を映し、水の音を受け止める。晴天の日だけを理想的なリゾートとして切り取るのではなく、その土地に本来存在する気候や時間の移ろいそのものを滞在の価値へと変換する。
ジャン・ヌーヴェルが一貫して取り組んできた、場所ごとに異なる建築をつくるという姿勢とも重なるだろう。







安藤忠雄、HdM、ジャン・ヌーヴェルに共通する「場所から建築をつくる」思想
3つのプロジェクトを並べてみると、ある共通点が見えてくる。
安藤忠雄は、近畿の半島と海。
ヘルツォーク&ド・ムーロンは、沖縄の崖と水平線。
ジャン・ヌーヴェルは、屋久島の岩、森、雨。
建築家の作風はまったく異なる。だが、いずれも「自分たちらしい建築を土地に置く」という発想ではなく、まずその場所を読み解き、そこから建築の形を導き出している。
この考え方は、現在のラグジュアリーレジデンスを考えるうえでも重要な視点である。
豪華な素材や広大な床面積、最新設備だけで住宅の価値が決まる時代ではなくなりつつある。
その土地でなければ成立しない建築であること。そこで過ごす時間にしか得られない感覚があること。そして建築、インテリア、ランドスケープ、光、音、気候までをひとつの体験として統合すること。
ラグジュアリー住宅の価値はそうした「代替できない体験」へ移りつつある。
世界的建築家の住宅を「所有する」。NOT A HOTELが変える建築体験
NOT A HOTELはこれまでも、BIG(Bjarke Ingels Group)が手掛けた瀬戸内・佐木島の「NOT A HOTEL SETOUCHI」や、Wonderwall®︎の片山正通による北軽井沢「MASU」など、建築家やクリエイターの思想を前面に打ち出した拠点を展開してきた。
とりわけ2026年4月に開業した「NOT A HOTEL SETOUCHI」は、ビャルケ・インゲルス率いるBIGにとって日本初の完成建築となった。
今回、安藤忠雄、ヘルツォーク&ド・ムーロンによる新プロジェクトが加わり、さらにジャン・ヌーヴェルによるYAKUSHIMAの建築像が具体化してきた意味は大きい。
かつて「名建築に泊まる」といえば、歴史的建築物をホテルへ転用した施設などが中心だった。
NOT A HOTELが試みているのはその逆のように見える。
最初から「住むこと」「滞在すること」を目的として、世界的な建築家と新しい建築をつくり、それを所有できるものとして社会へ送り出す。建築を鑑賞する対象から、生活する対象へと転換する。
さらにいえば、世界的建築家がつくる建築が一部の個人クライアントだけのものではなく、独自の所有・利用の仕組みを介して体験可能に変えている。
NOT A HOTELという事業の本質はホテルと別荘の境界をなくすことだけではないのかもしれない。
安藤忠雄、ヘルツォーク&ド・ムーロン、ジャン・ヌーヴェルという世界最高峰の建築家が参加することで、NOT A HOTELは「建築を所有するとは何か」という本質的な問いをより強く、より鮮明に提示し始めているように感じる。
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