ヴィコ・マジストレッティ「OZU」、40年越しの誕生秘話。IXC青山本店の特別展示を訪ねて

fy7d(エフワイセブンディー)代表/遠藤義人 

イタリアンデザインの巨匠、ヴィコ・マジストレッティが約40年前に構想したラウンジチェア「OZU(オヅ)」が、カッシーナ・イクスシーのオリジナルブランド「IXC」から製品化された。その名は、マジストレッティが敬愛した日本の映画監督・小津安二郎に由来する。2026年10月22日から青山本店で始まった特別展示「Living in Motion」では、IXCのアートディレクターを務めるデザインデュオ、ガムフラテージのエンリコ・フラテージが登壇。創業者・武藤重遠との交流に端を発する開発秘話と、時代を超えて受け継がれるデザインの思想が語られた。

ガムフラテージが刷新したIXCのデザイン哲学

カッシーナ・イクスシーは、2025年にオリジナルブランド「ixc. EDITION(イクスシー・エディション)」改め「IXC(イクスシー)」とし、ガムフラテージにブランディングから製品開発まで委ねた。第1弾となったのがPLATO、TOGE、LENDONで、その発表当時すでに「わたしたちは、IXCのアーカイブを探る中で、豊かな歴史を発見しました。私たちはそれを新たな章へとつなげていきたいと考えています」と意味深な語り口だった。

しかも、「私たちの役割は、過去の象徴的なデザインを名高いデザイナーとの意義深いコラボレーションによって蘇らせるとともに、強く統一されたブランドのアイデンティティを確立し、刷新されたストーリーを形作ることです」とも。すでに新旧さまざまなデザイナーを起用しつつ、一貫した共通言語で表現する世界を思い描いており、『OZU』誕生につながる方向性が、すでに示されていたことがうかがえる。

25年の直線的な一連の作品と真逆の曲線基調ながら不思議と馴染む26年新作ダイニングテーブルARISA(アリーザ)とチェアSOLAGE(ソラージュ)も展示

ヴィコ・マジストレッティと武藤重遠。約40年前に始まった『OZU』の物語

カッシーナ・イクスシー代表取締役社長アレッシオ・ジャコメルが登壇し、知られざる過去を語った。

「マジストレッティとカッシーナ・イクスシー創業者・武藤重遠は友人で、『OZU』は1986年に武藤が日本のための椅子をデザインしてほしいと依頼したときのスケッチに基づいています。ご覧の通り、即興的な雰囲気ながら、複雑でなく、人を関心させるようなところもない、シンプルで遊び心に富んだアイデアに溢れています。2004年に武藤が、2006年にマジストレッティがこの世を去りましたが、2005年に『OZU』は試作品まで作られながらもお蔵入りしていたのです」

そして、今回の『OZU』誕生に至るいきさつについて次のように明かした。

「2025年にマジストレッティの姪のマルゲリータやガムフラテージとミラノサローネで話題になりました。IXCとしては、その単純な復刻ではなく、マジストレッティの思い描いたであろうシンプルさと遊び心を守り、再解釈して製作することにしました」

そして、「『OZU』のプロトタイプは、コペンハーゲンのデザインイベント『3daysofdesign』で発表し、日本発のアイデアが世界で注目されたことを喜ばしく思います」とも語った。

カンチレバー構造とモールドウレタンが生む「OZU」の快適性

『OZU』には、カンチレバー構造のスチールフレームに、そっと布団を掛けたかのようなシンプル構造になっており、最小限の要素で快適性を追求する構造主義的発想が色濃く反映されている。シートハイも低く、日本人ならば胡座をかくなど、ラフな姿勢を取りたくなるデザインなのもいまのトレンドに合っている。また、連結させることも可能で、機能性にも優れる。

エンリコは、「当時は製品化することが技術的に難しかったのだと思う」と語る。今回の復刻では、オリジナルの思想を尊重しつつも、モールドウレタンを採用することで快適性も備えた。

40年前にイタリアンデザインと日本が交錯することで生まれたデザイン言語を基に、現代の技術で再構築された『OZU』。単なるノスタルジーに留まらない、先人たちが磨いてきた感性を活かして現代の暮らしに引き継ぐデザインのあり方を鋭く提示したものと言えるだろう。

ガムフラテージが手がけた特別展示「Living in Motion」

カッシーナ・イクスシー青山本店限定の特別展示「Living in Motion」は、ガムフラテージが1970年代のプロダクト広告に着想を得たもので、『OZU』を人の動きとともに変化する存在として表現している。

そのタイトルに込めた意味として、エンリコは「『OZU』は、ソファとも椅子とも定義づけできないし、座る人によって動的に変わる存在であるとともに、いつでも動かせるということを意味します」と説明。さらに「ファッションと同じように、カバーリングを変えることで、印象がまったく異なるという趣旨も含んでいます」とも語った。

家具を固定物として捉えるのではなく、日々の所作や暮らしのシーンに応じて多様な使い方を受け入れる。その可能性を以下3つのシークエンスを通して描き出す興味深い展示となっている。ぜひ足を運んで雰囲気を感じ取ってほしい。

アーカイブ資料からたどる「OZU」の原点

(写真42)

マジストレッティによるオリジナルスケッチやドローイング、アーカイブ資料。あわせて、「OZU」の着想や開発背景を紹介するストーリーを通して、そのコンセプトの源流を紐解く。製品の現代的な解釈に触れる前に、デザインが生まれた背景や思考のプロセスを知ることで、「OZU」に込められた思想への理解を深めてもらうのが狙いだ

ファッションの視点から描く家具と人の関係

小さな額装写真を集めたギャラリー。ポートレートが並ぶ壁面は、ファッションのムードボードやバックステージのキャスティングウォールを想起させるもので、多彩な個性が共存する世界観を描き出す。さまざまな人物やカラー、ファブリックの組み合わせを通して、プロダクトの高い柔軟性と、それぞれのライフスタイルに寄り添う魅力を表現している

暮らしの動きとともに変化するラウンジチェア

(写真44)

展示の中心には、暮らしの中で多様な表情を見せる「OZU」を配置。使い手の動きやシーンの変化に呼応しながら、その機能美と柔軟性を体感できるインスタレーションを展開する

カッシーナ・イクスシー青山本店の展示情報

  • カッシーナ・イクスシー青山本店
  • 住所 東京都港区南青山2-12-14ユニマット青山ビル1,2,3F
  • 営業時間 11:00-18:00(水曜休)
  • 公式サイト:https://www.cassina-ixc.com

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  • fy7d(エフワイセブンディー)代表

    遠藤義人

    ホームシアターのある暮らしをコンサルティングするfy7d(エフワイセブンディー)代表。ホームシアター専門誌「ホームシアター/Foyer(ホワイエ)」の編集長を経て独立、住宅・インテリアとの調和も考えたオーディオビジュアル記事の編集・執筆のほか、システムプランニングも行う。「LINN the learning journey to make better sound.」(編集、ステレオサウンド)、「聞いて聞いて!音と耳のはなし」(共著、福音館書店。読書感想文全国コンクール課題図書、福祉文化財推薦作品)など。

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