漆黒のステンレスを聴く! ABEL BLACK PROJECT 第2弾、スピーカーを発表

fy7d(エフワイセブンディー)代表/遠藤義人 

2024年4月にミラノデザインウイークでデビューした「ABEL BLACK PROJECT」が、第2弾となるスピーカー「Tone of Black」を発表した。「Listening to Black(黒を聴く)」をコンセプトに、Teruhiro Yanagihara Studioと音響の専門家たちが、素材、プロダクト、空間、音を融合。神戸のVAGUE KOBEで行われたエキシビションを取材した。

「ABEL BLACK PROJECT」第2弾を神戸で披露

アベル株式会社は、金属表面処理加工を専門に行う日本の企業。従前から、加工したステンレス素材などをコイル状にして企業に販売している。

「ABEL BLACK PROJECT」は、同社が開発した漆黒のステンレス素材「Abel Black」の素性に、黒の文化的・芸術的文脈を掛け合わせ、再構築を試みるプロジェクトである。素材と色にまつわる背景や文脈、ディテール、プロセスを柔軟に読み解き、従来の感覚にとらわれることなく自由なリサーチと実験を繰り返すことで、未知のクリエイティブな感覚と表現の可能性を追究している。

今回、その第2弾として、第1弾「STUDIES ON BLACK」に続き、クリエイティブディレクターにTeruhiro Yanagihara Studioを起用。スピーカー「Tone of Black」を発表し、7月17日(金)から7月20日(月・祝)まで、兵庫・神戸のVAGUE KOBEでエキシビションを行った。

アベル株式会社 経営企画部部長 居相美和子
Teruhiro Yanagihara Studio 柳原照弘
VAGUE KOBE 3階

コンクリート打ちっぱなしの会場は、ギャラリーホールさながら。Abel Black処理された作品や素材が、無機質な空間の中で、怪しげな深みの奥に潜むきらりとした輝きを放っていた。

この深みの訳は、電気や薬品などによる処理によって、ステンレス表面の酸化皮膜の厚みを調整し、発色をコントロールしているためである。塗装ではないため、Abel Black処理前に研磨やヘアライン加工を施しても、Abel Black処理後に加工しても、剥がれて色が変わることはない。筆者が訪れたのは日暮れ前だったが、朝や昼にはまた異なる表情を見せるという。

2024年のミラノデザインウィークで披露した「STUDIES ON BLACK」。素材としての美しさを見せるため、あえてコンセプチュアルな展示とした
鏡のように研磨した後、Abel Black処理を施した「Large Pan 1」。サイズは1200×3500mm、薄さは1.5mm
ヘアライン処理を施したステンレスも、Abel Black処理によってこの通り
薄いステンレス板も立派なアートに
サンドブラスト加工なども可能
薄く、光を吸収するため、カメラ内部の反射防止にも重宝する。黒が剥離せず、耐熱性にも優れる
特殊研磨を施し、意匠性を高めることもできる
塗装やメッキではないことから、アパレルブランドにも採用されている

初日の夕方に行われたオープニングイベントでは、開発メンバーがトークセッションを展開。トーク後には、「Tone of Black」を使用したHAL’S RECORDのYosuke Ikeda(http://www.hals-jazz.com)によるDJパフォーマンスが行われ、VAGUE KOBEからドリンクが振る舞われた。

漆黒のステンレスを“聴く”スピーカー「Tone of Black」

今回の主役は、基材であるステンレスそのものを黒く発色させる、唯一無二の技術を生かした「ABEL BLACK PROJECT」の第2弾「Tone of Black」。素材、プロダクト、空間、そして音のエレメントが呼応しながら、黒が感覚と意識に及ぼす影響を提示する。

ご覧いただくとわかるように、素材表現を明確に示すため、平面素材を立体的なプロダクトへと展開。聴覚を含む五感に働きかけるアイテムとして開発されたことがうかがえる。

Teruhiro Yanagihara Studioは、シンプルな折りや曲げによって生まれる微細な傾斜角が、独自の光と奥行きを導き出すことに着目。「Listening to Black(黒を聴く)」というコンセプトのもと、ミニマルな四角いボックスから無限の表情を導き出すべく、スピーカー「Tone of Black」を開発した。

眺める位置によって印象の異なる黒が現れる非対称のフロントパネル、素材の端まで色が巡り、垂直面と水平面で見えがかりが変化するディテールを強調したVカットのエッジ、Abel Blackの奥行きを体現するヘアライン仕上げと、均一な光を反射する鏡面仕上げの使い分けなど、細かなエレメントの積み重ねによってデザインが構築されている。

会場には、フロア型とブックシェルフ型の2種類の「Tone of Black」が展示され、サウンドクリエイターのSOUND COUTUREによって、それぞれに合わせたオリジナルサウンドが流された。

作曲の出発点はいずれも、スピーカー「Tone of Black」が持つ固有の音を知ってもらうこと。そのため、誰もが耳にしたことのあるピアノをテーマに旋律を描いている。そこに、IDM(Intelligent Dance Music)やクラシカルといった異なる音楽的背景を重層的に重ねる手法を採ったという。

3階に設置されたブックシェルフスピーカー「SMALL」では、漆黒のステンレスが持つ凜としたたたずまいから得たインスピレーションに基づき、Lchからは“線の波”、Rchからは“点の波”が放たれた。両者が合わさることによって、空間全体に、繊細で香り立つように漂う音の波を再現した。

一方、4階に設置された「LARGE」には、会場となったVAGUE KOBEのオーナーがレバノン出身であるという背景から、中東の音楽性を採り入れた。弦楽器やパーカッションの重低音域が、コンクリート製のバックロードホーンのように、鉄筋のフロアを轟かせた。

DSPとマルチアンプ駆動で引き出すクリアな音

サウンドシステムを担った音響エンジニアの福岡功訓は、次のように語る。

「スピーカーにはすでに100年の歴史があり、やり尽くされている中で、まったく新しいことにチャレンジしてほしいという依頼を受けました。しかも、上がってきたデザインも箱型の比較的スタンダードなものでした。そこで、いっそ背面を開放し、DSPを駆使して、高音域から低音域までを各ユニットに振り分けるマルチアンプ駆動とすることで、クリアな音質の再現を図りました」

内振りにしたデザインは、JBLの「S2600」を思い出させる。福岡はコンサートや店舗、レコーディングの現場を歩いてきたベテランで、デジタル技術を駆使した音合わせに長けている。

アナログの良さは理解しているものの、サンプリングレートが向上し、ユニット自体の性能も高まっている現在では、アナログアッテネーターを使うよりも、デジタル処理の方が高域特性に優れると語っている。

洗練されたデジタル技術によるアクティブ駆動の採用は、目に見える漆黒から目に見えない音の波動を生み出す本プロジェクトにおいて、当然の帰結といえるだろう。

「Tone of Black」は、VAGUE KOBEで引き続き展示・販売されている。

「Tone of Black」製品仕様

LARGE

  • 素材:ステンレス(Abel Black)、クリ無垢板
    仕上げ:ヘアライン
    寸法:W665×D500×H1065mm
    質量:80kg
    形式:3ウェイ
    使用ユニット:Hi 1インチ、Mid 6.5インチ、Low 15インチ
    インピーダンス:Hi、Mid、Lowすべて8Ω
    最大出力:Hi 70W、Mid 400W、Low 1400W
    再生周波数帯域:40Hz~20kHz
    アンプ:Powersoft MEZZO 324A、602A
    価格:4,930,000円(税別)

SMALL

  • 素材:ステンレス(Abel Black)
    仕上げ:鏡面
    寸法:W245×D200×H315mm
    質量:14kg
    形式:2ウェイ
    使用ユニット:Hi 3/4インチ、Low 7インチ
    インピーダンス:Hi 4Ω、Low 8Ω
    最大出力:Hi 30W、Low 120W
    再生周波数帯域:40Hz~24kHz
    アンプ:Powersoft MEZZO 324A
    価格:2,550,000円(税別)

漆黒のステンレス「Abel Black」とは

アベル株式会社 「ABEL BLACK PROJECT」

アベル株式会社は1965年創業。60年以上にわたり、ステンレスの表面処理に特化した技術開発を重ね、特徴的な発色を持つ素材を提供してきた。意匠性と機能性、そして品質の高さには定評がある。

漆黒のステンレス「Abel Black」は、酸化皮膜をナノレベルでコントロールすることによって、従来にはない金属のリアルな質感と、豊かな色表現の融合を実現した特殊素材である。

光の反射率を1%以下にまで抑え、角度やボリューム、用途、加工、仕上げによって、物質性や奥行きが無限に変化することから、ホテルやブティックの内装材、システムキッチン、エレベーターの意匠パネル、高級車の外装材、宇宙開発の現場などで使われている。耐熱性、耐候性、耐食性が高く、色剥がれの心配がないことに加え、リサイクル可能なのも長所だ。

公式サイト

プロジェクトを支えたクリエイター

Teruhiro Yanagihara Studio

2002年、デザイナーの柳原照弘が設立。日本、フランス、英国、オランダなど、複数の拠点から参画するスタッフとともに、空間、家具、プロダクトデザイン、テキスタイル、香りのデザインまで、多岐にわたるプロジェクトを手がける。

2024年4月にミラノで開催したABEL BLACK PROJECT「Some Thoughts on Blackness」展のディレクションと作品制作を担当。以来、断続的に意見交換を行い、本展が第2弾のコラボレーションとなる。

【音響設計:福岡功訓】

ギター製作、楽器のリペア、ローディを経て、PA、レコーディングエンジニアに。2009年に音響会社Flysoundを設立。現在はコンサートやイベントの音響、レコーディング、空間音響の設計・施工などを行う。

【サウンドデザイン:SOUND COUTURE

東京を拠点に、ブランドや空間のコンセプトから紡ぎ出すオリジナルの音を通じて、音と空間の調和をデザインし、その場所ならではの“音の設え”を形にするサウンドデザインチーム。

[エキシビション開催概要]

  • fy7d(エフワイセブンディー)代表

    遠藤義人

    ホームシアターのある暮らしをコンサルティングするfy7d(エフワイセブンディー)代表。ホームシアター専門誌「ホームシアター/Foyer(ホワイエ)」の編集長を経て独立、住宅・インテリアとの調和も考えたオーディオビジュアル記事の編集・執筆のほか、システムプランニングも行う。「LINN the learning journey to make better sound.」(編集、ステレオサウンド)、「聞いて聞いて!音と耳のはなし」(共著、福音館書店。読書感想文全国コンクール課題図書、福祉文化財推薦作品)など。

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