エットレ・ソットサスの展示販売会がメトロクス東京で開催

 取材/LWL online編集部

20世紀のデザインに色彩や装飾、ユーモアを取り戻し、ポストモダンの潮流を牽引したエットレ・ソットサス。メトロクス東京では2026年9月5日から10月31日まで、その創作と思考の変遷をたどる展示販売会「Ettore Sottsass Collection Fair」を開催する。オリベッティの希少なヴィンテージプロダクトやメンフィス、ビトッシなどの作品、30年以上にわたり収集されたアーカイブを通して、ソットサスが機能の先に見いだした「感情を動かすデザイン」の意味を読み解く。

プロダクトは道具か、それとも物語か

椅子は座るためのもの、照明は空間を照らすためのもの、収納家具はモノを収めるためのもの。プロダクトには、それぞれ果たすべき明確な機能がある。

しかし、私たちが住まいのために家具や照明を選ぶとき、機能だけを比較して決めているわけではない。ある家具に愛着を抱き、長く使い続けたいと感じる背景には、形や色、素材、手触り、記憶、さらには、そのモノが語りかけてくる物語がある。

エットレ・ソットサスが生涯を通して問い続けたのも、こうしたプロダクトと人間との関係だった。

メトロクス東京で開催される「Ettore Sottsass Collection Fair」のテーマは、「Function → Emotion」。会場ではソットサスの創作と思考の変遷を「秩序」「懐疑」「解放」「爆発」という4つの章によってたどり、合理性を追求した初期の工業デザインから、既成概念を揺さぶる実験、そして色彩や遊び、生命力を解き放った作品群へと至る軌跡を紹介する。

名作プロダクトの単なる展示にとどまらず、プロダクトは便利な道具であるだけなのか、それとも人の感情や価値観に働きかけ、暮らしの風景を変える存在になり得るのかという、ソットサスが投げかけた問いを、実物のプロダクトを通して考える試みである。

オリベッティで確立した工業デザイナーとしての地位

イタリアの建築家・デザイナー、エットレ・ソットサスのポートレート
エットレ・ソットサス。工業デザインから家具、照明、陶器、建築まで領域を横断し、20世紀後半のデザインに大きな影響を与えた

エットレ・ソットサスは1917年、オーストリアのインスブルックに生まれた。トリノ工科大学で建築を学び、第二次世界大戦後にミラノを拠点として建築家、デザイナーとして活動を始める。

1958年にはイタリアの事務機器メーカー、オリベッティのデザインコンサルタントに就任。大型コンピューター「Elea 9003」をはじめ、タイプライター、計算機、オフィス家具など、当時の先端技術を人間の日常へと接続する数多くの製品を手がけた。

代表作のひとつが、ペリー・キングと共同でデザインした1968年のポータブルタイプライター「Valentine」である。鮮烈な赤色のボディーと、持ち運び用ケースを兼ねた構成によって、事務機器という無機質な存在を、個人が携行し、愛着を持って使うパーソナルな道具へと変えた。「Valentine」はMoMAのコレクションにも収蔵されており、機械の性能だけでなく、所有する喜びや使う人の気分までデザインしようとした、プロダクトデザイン史に残る象徴的な一作である。

黒と白の筐体で構成されたオリベッティの計算機「Summa 19」
オリベッティの計算機「Summa 19」。機械としての機能を明快に整理しながら、使う人との距離を縮める造形が与えられている

ソットサスは、機能そのものを否定していたわけではない。むしろ高度な工業生産の現場を熟知していた。そのうえで、「プロダクトは機能だけを満たせばよいのか」と問い始めた。

モダニズムの合理性に生じた「懐疑」

20世紀前半の建築とデザインを牽引したモダニズムは、合理性、機能性、標準化、大量生産を重視した。過剰な装飾を排し、機能に即した形をつくることは、工業社会に適応した新しい生活環境を実現するための重要な理念だった。

一方で、その方法が広く普及するにつれ、均質で無機質な空間や、地域性、歴史性、人間の感情を排除したデザインへの反発も生まれていく。

ソットサス自身も、初期には機能主義的、合理主義的なデザインに取り組んでいたが、1960年代になると、その枠組みを超え始める。そこから生じたのが、家具を建築や彫刻、祭祀的なオブジェのように扱う試みであり、日常の道具に象徴的な意味を与えるデザインだった。

オリベッティのオフィス家具システム「Synthesis 45」のデスク
オリベッティのオフィス家具システム「Synthesis 45」のデスク。合理的な構造とモジュール性のなかに、色彩を取り入れたオフィス環境を提案した
黄色い脚部と茶色の座面を持つオリベッティ「Synthesis 45」のタイピストチェア
「Synthesis 45」のタイピストチェア。機能性を基礎としながら、鮮やかな色彩によって従来の無機質なオフィス家具とは異なる表情を与えている

この動きは、1960年代末からイタリアで展開したラディカルデザインやアンチデザインと結びつく。建築やプロダクトを、既存社会へ適応するための道具ではなく、社会や暮らしのあり方を批評するためのメディアとして捉える潮流である。

ポストモダンは「派手なスタイル」ではない。メンフィスが解放した色彩と物語

ポストモダンデザインという言葉から、原色、幾何学模様、非対称のフォルム、装飾的な家具を思い浮かべる人は多いだろう。しかし、ポストモダンデザインを「派手なスタイル」として捉えるだけでは、その意味を十分に理解したことにはならない。

近代デザインが掲げた普遍的な合理性や、「正しいデザイン」という単一の基準に対し、歴史、地域性、個人の感情、ポピュラーカルチャー、ユーモアなど、複数の価値を再び持ち込もうとした。機能が形を一義的に決定するという前提を揺さぶり、ひとつのモノが複数の意味や解釈を持つことを認めたのである。

ソットサスが活動に参加したStudio Alchimia(スタジオ・アルキミア)、そして1981年に中心となって結成したデザイナー集団「Memphis(メンフィス)」は、こうしたポストモダンの精神を最も鮮烈に可視化した。

とりわけメンフィスの作品には、鮮やかな色、非対称な幾何学形態、人工的なラミネート材、異なる時代や文化から引用されたモチーフが混在する。そこではプロダクトが静かな背景に徹するのではなく、見る人に語りかけ、驚きや違和感を生み出す主役となった。機能主義やモダニズムへの批評とともに、プロダクトに表現性、感覚性、物語性を与えた。

黒い基部と緑色の部材で構成されたアルテミデのテーブルランプ「Pausania」
エットレ・ソットサスがデザインしたアルテミデのテーブルランプ「Pausania」。機能的なデスクライトの構成に、建築的で象徴性の高い造形を与えている

代表作「Carlton」は、本棚であり、間仕切りであり、彫刻のようなオブジェでもある。斜めに伸びる棚板と非対称な構成によって、収納家具に求められてきた安定性や秩序をあえて揺さぶった。使いやすいか、そうでないかという二者択一では捉えられない、家具と空間の新しい関係を提示したのである。

エットレ・ソットサスがデザインしたメンフィスの収納家具「Carlton」のミニチュア
1981年に発表された「Carlton」のミニチュアモデル。本棚、間仕切り、彫刻的なオブジェという複数の性格を併せ持ち、機能と装飾の関係を問い直したメンフィスの象徴的作品である

希少なヴィンテージとアーカイブを一堂に展示

今回のイベントでは、メトロクスを運営するメトロポリタンギャラリーが1993年の創業以来取り扱ってきたソットサスやオリベッティのプロダクトと、30年以上にわたり収集してきたアーカイブコレクションが紹介される。

展示・販売されるのは、「Valentine」をはじめとするタイプライターのほか、オリベッティのオフィス家具シリーズ「Synthesis 45」のデスク、プリンターテーブル、コートラック、ペーパーバスケット、当時の広告ポスターなど。さらにMemphis、Bitossi、Alessiなど、ソットサスが関わったブランドの製品も並ぶ。

工業製品、家具、陶器、照明、グラフィックを横断する展示によって見えてくるのは、特定のスタイルに回収できないソットサスの姿だろう。

合理的なオフィス環境を構築するシステム家具と、動物や建築物のような姿を持つメンフィスの照明。量産を前提としたタイプライターと、儀式的な佇まいを持つ陶器。一見すると相反するが、いずれにも「人とモノとの関係をどのようにつくるか」という共通の問いが流れている。

なぜ、いまソットサスなのか

近年、ソットサスの仕事はあらためて世界的に再評価を受けている。2017年の生誕100年を機に、欧米の美術館を中心として大規模な回顧展が開催され、その評価はさらに高まった。2026年現在、ミラノ・トリエンナーレでは、ソットサスが1960年代半ばに設計した住宅インテリア「Casa Lana」が恒久展示され、その周囲では関連展「Ettore Sottsass Design Metaphors」も開催されている。

日本でも、アーティゾン美術館が2026年6月23日から10月4日まで、日本初の大規模なソットサス回顧展「エットレ・ソットサス——魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」を開催。家具、セラミック、機器類、ガラス器、写真、ドローイングなど100点を超える作品を通じて、その全貌を紹介している。

こうした再評価の背景には、効率と最適化によって均質化していく現代の暮らしに対し、ソットサスの作品が、感情や個性、曖昧さを取り戻す手がかりを示していることもあるのではないだろうか。

デジタル技術によって住宅設備を自動化し、室温や照明、音環境を精密に制御できるようになった現在だからこそ、住空間には合理性だけでは測れない「心を動かす要素」が必要になる。

住まいに「物語」を置くということ

勘違いされやすいが、ラグジュアリーな住空間とは著名なブランドの家具を集めた空間と同義ではない。住まい手自身の記憶や文化、価値観が反映され、そこに置かれた一つひとつのプロダクトが暮らしの物語をつくっていること。そうした個別性こそ、ラグジュアリーな住空間を形づくる重要な条件のひとつだろう。

その意味でソットサスの家具やプロダクトは、空間を整えるための背景ではなく、住まい手との対話を生み出す存在である。

強い色彩を持つ一脚の椅子、あるいは用途を超えた彫刻的なキャビネットは、空間全体の秩序をあえて揺さぶるかもしれない。しかし、その小さな違和感こそが、均質なインテリアに個性や生命感をもたらす。

「プロダクトは道具か、それとも物語か」。ソットサスが投げかけた問いは、ソットサスが投げかけた問いは、機能と感情のどちらか一方を選ぶという二項対立ではない。機能を満たした先にどのような感情が生まれ、どのような人生が営まれるのかを考えるための問いである。

住まいの性能や利便性が高度化する時代に、人はなぜ家具を選び、なぜ特定のモノに囲まれて暮らしたいと思うのだろうか。

「Ettore Sottsass Collection Fair」は、希少なプロダクトを鑑賞し、購入できる機会であると同時に、デザインと暮らしの根源的な関係を見つめ直す場となることだろう。

開催概要

Ettore Sottsass Collection FairFunction → Emotion プロダクトは道具か、それとも物語か。」

  • 会期:2026年9月5日(土)~10月31日(土)
    営業時間:平日12:00~18:00/土曜日11:00~19:00
    定休日:水曜日、日曜日、祝日
    会場:メトロクス東京
    所在地:東京都港区新橋6丁目18-2
    入場料:無料
    事前予約:不要

公式サイト

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    LWL online 編集部

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