エットレ・ソットサス日本初の大回顧展、アーティゾン美術館で開催。《カールトン》とポストモダン・デザインの核心
取材/LWL online編集部
東京・京橋のアーティゾン美術館にて、2026年6月23日(火)から10月4日(日)まで、「エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」展が開催される。エットレ・ソットサス(1917-2007)は、20世紀イタリアデザインを語るうえで欠かすことのできない建築家/デザイナーである。オリベッティでのプロダクトデザイン、ポルトロノーヴァ社での家具、そして何といっても1981年に結成した国際的デザイナー集団「メンフィス」によって、彼はモダンデザイン以後の価値観を鮮やかに切り開いた。
本展は、石橋財団が近年注力しているデザイン分野のコレクションから、ソットサスの初期から晩年にいたる作品を一挙に公開するものである。日本初のソットサス大回顧展であり、アーティゾン美術館にとっても初の本格的なデザイン展となる。
あわせて、同館では「瀧口修造 書くことと描くこと」展も開催される。両展の開催に合わせ、ペア割チケットやステッカー付き平日限定チケットなど、数量限定のスペシャルチケットも5月26日(火)より販売が開始された。

なぜソットサスはポストモダン・デザインの中心人物だったのか
ソットサスの名を広く世界に刻んだのは、1981年にミラノで結成された「メンフィス」である。メンフィスは、ソットサスを中心に、ミケーレ・デ・ルッキ、マルティーヌ・ベダン、ナタリー・ドゥ・パスキエ、マイケル・グレイヴスら国際的なデザイナーが参加した集団であり、家具、照明、テキスタイル、セラミック、ガラス、金属製品などを横断的に発表した。メンフィスはソットサスが創設した国際的デザイン集団であり、その作品群はポストモダン・デザインを象徴するものとして語られてきた。
それまでのモダンデザインは、合理性、機能性、量産性、ミニマルな造形を重視してきた。すなわち「かたちは機能に従う(Form follows function.)」というモダンデザインの思想に連なるものである。もちろん、産業社会における重要な到達点であり、生活を豊かにしたことは否めない。だが、ソットサスはその過度な合理主義が、生活から色彩や物語、ユーモア、感情を奪ってしまうことに敏感だった。
彼がメンフィスを通じて提示したのは、機能だけでは説明できないデザインである。家具でありながら彫刻のようであり、日用品でありながら儀式具のようでもある。そこには、モダンデザインの思想に対する、明確な異議申し立てがあったのだ。
《カールトン》が示した家具と彫刻のあいだ
ソットサスの代表作として広く知られるのが、1981年にメンフィスから発表された《カールトン》である。アーティゾン美術館の本展紹介にも掲出されているこの作品は、本棚であり、間仕切りであり、引き出しを備えた収納家具でもある。しかしその姿は、通常の家具というより、トーテムのような存在感を放つ。左右非対称の構成と斜めに交差する棚板、鮮明な色彩、そして幾何学的なパターンで構成され、家具でありながらも、空間の中にひとつの「出来事」を生み出す装置でもある。
いわば〈家具〉という言葉に斜線を引く作品である。家具でありながら、家具という制度そのものを揺さぶる。ソットサスがポストモダン・デザインの中心に立った理由は、まさにこの点にある。
「反機能」ではなく、生活に感性を取り戻すためのデザイン
メンフィスのデザインは、しばしば「反機能的」、あるいは「装飾的」と語られることがある。しかし、ソットサスの仕事を単なる奇抜さとして見ると、その射程を見誤る。彼が疑ったのは、機能そのものではない。機能だけで暮らしを語り尽くそうとする態度である。
暮らしとは効率や合理性だけで構成されるものではなく、たとえば住まいには、色があり、記憶があり、身体感覚がある。家具は、単に用途を満たすだけではなく、日々の時間に表情を与える。
アーティゾン美術館の展覧会紹介では、ソットサスが過度な合理性の追求に疑念を持ち、人々の生活、人生、運命を明るく照らそうとした人物として紹介されている。 その意味で、彼のデザインは「反機能」ではなく、むしろ機能主義が見落としてきた、人間の感情や想像力をもう一度住まいに呼び戻す試みだったのだ。
ポストモダンとは暮らしをひとつの正解から解放することだった
ポストモダンという言葉は、ときに難解に聞こえる。しかしデザインの文脈でいえば、それはモダンデザインが掲げた単一の正解、すなわち合理的・均質で、普遍的なデザインへの疑問から生まれた動きだった。
ソットサスとメンフィスが提示したのはオルタナティブである。工芸と工業、あるいは歴史とポップカルチャーが混ざり合ってよい。デザインは、ただ効率を求めるためだけではなく、人が自分の感覚を取り戻すためにも存在していいだろう。
《カールトン》がポストモダン・デザインのアイコンとされるのは、その形が目立つからという理由ではなく、家具を「用途のための物体」から、「空間と人の関係を変える存在」へと変換する力があったからだ。
合理性に優れた住まいは快適である。しかし、合理性だけで完結した住まいは、どこか無言になりすぎることがある。ソットサスが問いかけるのは、空間にもう一度、遊びや祝祭性、感情の余白を取り戻すことではないだろうか。
その意味で、本展は単なるデザイン史の回顧展ではなく、現代の住まいやインテリアを考えるうえでも、示唆に富む展覧会となりそうだ。
「瀧口修造」展も同時開催。書くことと描くことのあいだへ
同時期には、アーティゾン美術館5・4階展示室にて、「瀧口修造 書くことと描くこと」展も開催される。
瀧口修造(1903-1979)は、昭和期を代表する詩人であり、美術批評家である。1920年代にシュルレアリスムの影響下で詩作を始め、1930年代から戦後にかけて、美術に関する思索と著述を重ねた人物として知られる。1960年頃からは、自身で「デッサン」と称する造形作品の制作にも本格的に取り組んだ。
本展では、石橋財団が所蔵する瀧口作品のうち約半数を一挙に公開。詩作、美術批評、展覧会企画、作家との交流など、瀧口の活動全体を視野に収めながら、「書く」ことと「描く」ことの関係を再考する。
ソットサス展と瀧口修造展。デザインと言葉、プロダクトと詩、あるいは造形と批評。一見異なるふたつの展覧会は、いずれも20世紀の表現者が、合理性や制度の外側にある感性をどのように形にしたのかを問いかけるものでもある。
数量限定のペア割チケット、ステッカー付き平日限定チケットを発売
両展の開催にあわせて、アーティゾン美術館では数量限定のスペシャルチケットを販売する。いずれのチケットでも、「エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」展と「瀧口修造 書くことと描くこと」展の両方を鑑賞できる。
「マジカルペア割チケット」は、対象期間内に利用できるペアチケット。1名で2回来場する場合にも利用でき、日時指定予約は不要。価格は2,200円(税込)で、販売期間は2026年5月26日(火)10:00から9月18日(金)19:30まで。利用可能期間は2026年6月23日(火)から9月18日(金)までとなる。
「ステッカー&平日限定期限付きチケット」は、対象期間内の平日に利用できるチケット。日時指定予約不要で、各展のオリジナルステッカーが1枚ずつ、合計2枚付属する。価格は1,200円(税込)。販売期間は同じく2026年5月26日(火)10:00から9月18日(金)19:30まで、利用可能期間は2026年6月23日(火)から9月18日(金)までの平日限定となる。
通常チケットは日時指定予約制で、ウェブ予約チケットが1,200円(税込)、窓口販売チケットが1,500円(税込)。高校生以上の学生はウェブ予約により無料で入館できる。

開催概要
エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
- 会期:2026年6月23日(火)〜10月4日(日)
会場:アーティゾン美術館 6階展示室
主催:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館
後援:駐日イタリア大使館
瀧口修造 書くことと描くこと
- 会期:2026年6月23日(火)〜10月4日(日)
会場:アーティゾン美術館 5・4階展示室
主催:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館

- 開館時間:10:00〜18:00
- ※毎週金曜日は20:00まで。入館は閉館の30分前まで
- 休館日:月曜日
- ※7月20日、9月21日は開館。7月21日、9月24日は休館
- 会場:アーティゾン美術館
- 住所:東京都中央区京橋1-7-2
- アクセス:JR東京駅、東京メトロ銀座線・京橋駅、東京メトロ銀座線/東西線/都営浅草線・日本橋駅から徒歩5分
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