オーディオテクニカ「Analog Market 2026」亀有SKACで開催。アナログを五感で味わう1カ月

 取材/LWL online編集部

オーディオテクニカが、体験型プロジェクト「Analog Market 2026」を2026年9月2日から10月4日まで、東京・亀有のSKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)で開催する。レコードやライブ、マーケットに加え、高架下という環境そのものを生かしたListening Roomも展開。アナログを単なる音楽フォーマットではなく、音、振動、素材、建築、そして身体を通して味わう“フィジカルな体験”として捉え直す1カ月となる。

アナログは懐古ではない、未来だ。五感と身体で音楽を味わうということ

アナログとは、デジタルではないものを指す言葉なのだろうか。

ジャケットを手に取り、レコードに針を落とし、音が鳴り出すまでのわずかな「間」を待つ。フィジカルな音楽体験。そこには、クリックひとつで目的の音楽へ到達するストリーミングとは異なる時間が流れている。

LWL onlineでは、2025年に築地本願寺で開催された「Analog Market 2025」についても取材している。

築地本願寺で開催された「Analog Market 2025」の会場風景
2025年に築地本願寺で開催された「Analog Market 2025」。LWL onlineでも、音楽を身体と五感で味わうアナログ体験として取材した

アナログレコードを単なる音楽フォーマットとしてではなく、人間の感覚や時間のあり方を問い直すメディアとして提示されていたことが記憶に残った。

Oswalds Mill Audio(OMA)の巨大なホーンシステムを用いた「Deep Listening」では、床に座り、身体ごと音へ身をゆだねる。一方、レコードマーケットでは、一枚一枚ジャケットをめくりながら、まだ知らない音楽と偶然に出会う。

LWL onlineではその体験を、「アナログは懐古ではない。それは、感覚を研ぎ澄まし、空間とともに音と向き合うための方法」と捉えた。そこにあったのは、スピードや効率を重視する音楽体験とは正反対の価値であった。

オーディオテクニカも、Analog Marketをレコードだけに限定してはいない。同社は1962年、レコードカートリッジの製造からスタートした企業である。Analog Marketでは「アナログ」を、人の感性や人間らしさそのものへと広げて捉えている。プロジェクト自体も創業60周年を契機に始まり、レコード、ライブ、蚤の市などを横断しながら展開されてきた。

ここでいう「アナログ」とは「古い技術」ではなく、感覚を研ぎ澄まし、音楽と対峙する、フィジカルな体験価値である。

デジタル化された生活のなかで薄れていきやすい、身体を伴う行為そのものなのである。

なぜAnalog Market 2026はSKACへ? 都市の「余白」を文化へ変えるSKWAT

そして今回、Analog Marketの舞台としてSKACが選ばれたことは、Analog Marketがこれまで提示してきた「アナログ」の射程をさらに広げる。

SKWATは、設計事務所DAIKEI MILLSを率いる中村圭佑氏らによって2019年に始動したプロジェクトである。その名前は、空き家や遊休地などを「占拠する」行為を意味する「SQUAT」に由来している。欧州のスクワッティング文化から着想を得つつも、都市に生まれた空き物件や余白を一時的に使い、文化を生み出す場所として再び社会に還元していく活動として日本で展開されてきた。

完成された商業施設をつくることそのものが目的ではないことに注目してほしい。すでにある建築や使われなくなった場所に存在するものを読み替え、別の価値を与える。

これは、ある意味で極めて「アナログ」な態度でもある。

今回の会場となるSKACは、JR常磐線の高架下にあった倉庫を活用した文化拠点。この空間にはDAIKEI MILLSのほか、アートブックのtwelvebooks、レコードショップVDSなどが共存し、物流や在庫といった本来ならバックヤードに隠される営みまで含めて、空間の一部として提示する構成がとられている。

過去の時間を刻んだレコードや本が並び、鉄骨やコンクリートといった既存建築の記憶が残る場所に人が集まり、また新しい文化が生まれていく。そこには、中沢新一が『アースダイバー』で描いた、都市を現在の表層だけで捉えるのではなく、その下に折り重なる土地や時間の記憶を読む視点とも響き合うものがある。

Analog MarketとSKWAT。

両者に共通しているのは、既に存在するものの中から、まだ見えていない価値を掘り起こすことなのかもしれない。

Analog Market 2026の開催告知ビジュアル。Audio-Technica、VDS、SKWATがSKACで共同開催
「Analog Market 2026」はAudio-Technica、VDS、SKWATの3者が企画・制作。東京・亀有のSKACで約1カ月にわたって開催される

高架下の「振動」までもが音楽になる。Listening Roomで都市を聴く

その思想を象徴する企画が、会期中常設される「Listening Room」である。

一般的なリスニング環境では、外部の騒音や不要な振動は再生音を乱す要因として抑制の対象になる。一方、今回のListening Roomは、その発想とは異なる。

会場がJR高架下に位置することによって生まれる「振動のある環境」そのものを生かし、日常に存在する音へ意識を向ける空間として設計されるという。通常なら再生環境から遠ざけたくなる外部の音や振動を、このListening Roomではむしろ体験を構成する環境の一部として捉えている。いわば、音楽だけを聴くのではなく、自分がいる場所そのものへ耳を開いていく試みと見ることもできる。

音楽と環境音、再生された音と都市の音。その境界を少しずつほどいていけば、普段なら無意識に通り過ぎている音にも気づくことになるだろう。

電車が高架を通過する気配も、建物に伝わる振動も、足音や話し声も、さらに「間」に生まれる静けさも、「音」である。この場でしか味わうことができないリスニング体験が立ち現れる。

中沢新一は、小林武史との対談で、人間の音楽には「合理化できないズレ」があると語っている。そうした視点を重ねれば、ここでの音楽体験もまた、耳だけで処理する情報ではなく、空気の振動や空間の揺らぎを身体ごと受け止めるフィジカルなものとして見えてくる。

昨年、築地本願寺での「Deep Listening」が静謐な空間に身体を沈め、音楽そのものへ深く入っていく体験だったとすれば、今回のSKACでは対照的に、耳を外へと開き、都市そのものを聴く体験へと広がっていく。

Analog Marketというプロジェクトの射程が、オーディオから「聴くという行為」そのものへと広がっていることを感じさせる。

カートリッジの針先や素材の違いを聴く「Listening Station」

もうひとつの常設企画「Listening Station」では、よりオーディオテクニカらしいアプローチからアナログの感覚へ迫る。用意されるのは、ヘッドホンの材質やレコードカートリッジの針先形状の違いによって、音がどう変化するのかを聴き比べる体験である。

ヘッドホンを構成する木や金属などの素材、そしてレコード溝に接する針先の形状。こうした物理的な違いが、最終的な音の聴こえ方を変えていく。レコード再生では、溝を針先がなぞって拾った機械振動をカートリッジが電気信号へ変換し、アンプやスピーカーを経て再び音として立ち上げる。その意味では、最初から最後まで物質を介した体験である。

ジャケットを指で持ち、レコードをターンテーブルへ置き、針を落とし、音が空気を震わせる。

こうしたひとつひとつの動作まで含めて音楽を体験することが、「アナログ」の豊かさなのだ。

レコードから古物、クラフトへ。週末に生まれる「交換の場」

Church of Sound、Field Recording Workshopも開催

Analog Marketのもうひとつの魅力が、モノとの偶然の出会いだ。

会期中の週末にはライブやワークショップなどを予定。9月12日・13日には全国から総勢24店舗が参加予定のレコードマーケット、9月19日にはロンドンの教会を拠点に音楽を聴く場をつくってきた「Church of Sound」、9月26日・27日にはField Recording Workshopなどが計画されている。

さらに、古物やクラフトなどが集う蚤の市も開催される予定だ。

手に取って重さを確かめる。素材を眺める。誰かと話す。知らない音楽に出会う。

前回のAnalog MarketをLWL onlineでは、蚤の市を単なる物販ではなく、モノに刻まれた時間や記憶まで手渡されていく「交換の場」と捉えた。

一枚の中古レコードには、その盤が作られた時代が刻まれている。角の擦れたジャケットや盤面のわずかな傷さえ、そのモノが通過してきた時間の痕跡である。

そして今度は、それを手にした人の時間が重なっていく。

スマートフォンをタップすれば瞬時に音楽へアクセスできる世界とは異なる、モノと時間の循環がそこにはある。

「便利さ」の先へ。Analog Marketが問い直す音楽と身体の関係

デジタル技術によって、音楽を聴くことはかつてないほど便利になった。筆者も毎日スマートフォンやアクティブスピーカーを使って、サブスクで音楽にアクセスしている。膨大な楽曲に瞬時にアクセスでき、アルゴリズムは次に聴きたい曲まで予測してくれる。その利便性を否定する必要はない。

ただし、便利になるほど、私たちは何かを「待つ」必要がなくなり、自分から探し、触れ、耳を澄ます機会も少なくなっていく。

高架下の空間へ足を運び、レコードを探し、音を聴くとともに、建築を感じる。

SKWATが都市の余白から新しい価値を見つけ出すように、Analog Marketもまた、効率化された日常のなかに取り残されている感覚の余白を掘り起こす場所になるのかもしれない。

アナログは、目で見て、耳で聴き、手で触れ、身体で空間を感じながら、これからの豊かさを考えるためにある。

都市の高架下で一カ月間続く今年のAnalog Marketは、そのことを思い出させてくれそうだ。

「Analog Market 2026」開催概要

  • 会期: 2026年9月2日(水)~10月4日(日)
  • 定休日: 月・火曜日(祝日は営業)
  • 時間: 11:00~19:00
  • 会場: SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)
  • 住所: 東京都葛飾区西亀有3-26-4
  • アクセス: JR常磐線「亀有」駅より徒歩12分
  • 入場料: 無料 ※一部ライブなどは有料
  • 主催: 株式会社オーディオテクニカ
  • 企画・制作: Audio-Technica、VDS(Vinyl Delivery Service)、SKWAT

公式サイト

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    LWL online 編集部

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