日本発のアルミ家具「HIKOU」が韓国国立現代美術館へ。家具は作品鑑賞の一部になれるか

 取材/LWL online編集部

日本ベネックスの「EETAL」と韓国のデザインスタジオKUO DUOが共同開発したアルミ家具「HIKOU」が、韓国・国立現代美術館(MMCA)果川館の開館40周年企画に採用された。日本の精密板金加工技術から生まれた家具は、建築や自然、アートとどのような関係を結ぶのか。屋外空間に置かれたHIKOUを通じて、家具が鑑賞体験を支える可能性を考える。

光で自然・建築・作品を結ぶ、MMCA果川館40周年企画

韓国国立現代美術館(MMCA)の果川館は、ソウル郊外の豊かな自然環境に位置する。建築家キム・テス(Kim Tae-soo)の設計により1986年に開館し、建物の周囲には屋外彫刻や自然環境が広がるなど、建築とランドスケープが密接に結び付いた美術館として知られている。

開館40周年を記念して2026年7月10日に始まった「Imaginations in Light」は、その果川館の場所性を「光」という視点から捉え直す大規模なプロジェクトだ。ジェームズ・タレル、ジェニー・ホルツァー、フィリップ・パレーノ、李禹煥ら国内外のアーティストによる作品を通じて、光が自然、建築、芸術、鑑賞者の間に生み出す関係を探る。

MMCA果川館40周年企画Imaginations in Lightの外壁バナー
MMCA果川館の外壁に掲げられた「MMCA Gwacheon, 40th Anniversary: Imaginations in Light」のバナー

今回「HIKOU」の家具が置かれたのは、その展示空間を取り巻く屋外エリアである。来館者が腰掛け、足を止め、自然光や周囲の風景を眺めながら、次の作品へと向かうための場所をつくる。家具は展示作品そのものではないが、美術館でどのように歩き、どこで休み、何に視線を向けるのかという鑑賞者の行動に関わる以上、鑑賞体験と無関係な存在でもない。

韓国国立現代美術館・果川館の正面広場と限定色のHIKOU
円形の建築を中心とするMMCA果川館の正面広場。屋外空間に配置されたHIKOUの色彩が、階段や建築のグラフィックと呼応する
白樺の木々越しに見えるHIKOUのチェアとベンチ
白樺の幹越しに見えるHIKOU。チェアやベンチが、建築と植栽の間に滞在のための場所をつくる

紙飛行機の軌跡から生まれたアルミ家具「HIKOU」

「HIKOU」は、日本ベネックスが展開するコラボレーションプロジェクト「EETAL」と、ソウルを拠点とするインダストリアルデザインスタジオKUO DUOが共同開発した家具コレクションだ。

アルミ家具HIKOUをデザインした韓国のデザインスタジオKUO DUO
HIKOUをデザインした、ソウル拠点のインダストリアルデザインスタジオKUO DUO

その名称は、日本語の「飛行」に由来する。紙飛行機が空中に描く軽やかな軌跡から着想し、折り紙のような面の切り替えや、空気の流れを感じさせるシルエットをアルミニウムで表現している。単に紙飛行機の形態を模倣するのではなく、飛び立つ瞬間の緊張感や、浮遊するような軽さを家具の構造へと置き換えたデザインとなっている。

白い空間に展示されたブラックとホワイトのHIKOUチェア
HIKOU Chairのプロダクトビジュアル。アルミ板による曲面とパイプ脚が、紙飛行機を思わせる軽やかなシルエットを生み出している

コレクションはチェア、スツール、ベンチ、テーブルの4種類で構成される。

果川館の屋外広場に斜めに並ぶHIKOUのチェアとスツール
チェアやスツールを屋外動線に沿って配置。来館者が自由に腰掛け、建築や自然を眺めるための場所をつくっている

いずれも組み立て式で、軽量かつコンパクトに輸送できるよう設計された。アルミニウム板とパイプを用い、屋内外の双方で使用できる耐候性と、金属家具らしい構造的な明快さを備えている。

果川館への導入にあたっては、開館40周年企画のキーカラーに合わせた限定色を特別に製作した。限定色のHIKOUは、季節や時間帯によって変化する自然光を受けながら、建築や植栽の中に静かに溶け込む佇まいを見せている。

果川館の石張りの壁沿いに並ぶHIKOUチェアの背面
HIKOU Chair。折り曲げられたアルミ板の輪郭と鮮やかな限定色が、屋外空間に軽快なリズムを生み出す

長崎の精密板金技術を家具の表現へ

製造を担う日本ベネックスは、長崎県諫早市を拠点とし、精密板金加工を中核技術として産業機器などの設計・製造を手がけてきた企業だ。同社が2021年に立ち上げたEETALは、長年蓄積してきた板金加工技術を、家具やプロダクト、アートに近い領域へと展開するためのプロジェクトである。

金属板は、曲げる位置や角度、接合方法によって強度と表情が大きく変わる。薄く軽やかに見せながら、人の身体を安定して支えるためには、デザイナーの造形だけでなく、素材の特性を理解した加工設計と製造精度が欠かせない。

HIKOUでは、KUO DUOによる造形的な発想と、日本ベネックスが培ってきた精密加工技術が一体となっている。紙のように軽やかなシルエットと、屋外家具として求められる耐久性。その相反しやすい条件を、アルミニウムの板材やパイプ、曲げ加工、接合技術によって成立させた点が特徴である。

「座る」という行為から、美術館を捉え直す

美術館の屋外家具には、住宅の家具とは異なる役割が求められる。不特定多数の来館者が使用する耐久性や安全性に加え、建築、作品、サイン、植栽などと競合せず、それらの関係をつなぐ存在であることが求められる。

果川館の屋外通路に並ぶHIKOUのチェア、スツール、ベンチ
チェア、スツール、ベンチが緩やかに連続する屋外空間。家具の配置によって、通過する場所に立ち止まり、風景を眺めるための時間が生まれる

とりわけ果川館のように、自然環境と建築、屋外彫刻が連続する美術館では、ベンチやチェアが置かれる位置によって、来館者の視線や滞在時間、空間の感じ方も変わってくる。そこに座ることで、それまで通過していた風景が鑑賞の対象へと変わることもある。

家具は人の身体を空間につなぎ留める装置でもある。

「HIKOU」が今回担うのも、作品の前後に生じる時間を受け止め、来館者と美術館の間に新しい関係をつくることだろう。日本の板金技術から生まれた家具が、韓国のデザインと美術館建築、自然光の中に置かれた今回の試みは、家具の価値が製品単体の美しさだけでは決まらないことを示している。

建築やランドスケープの中でどのように使われ、人の行動や感覚にどのような変化をもたらすのか。HIKOUの果川館への導入は、家具を「置かれるもの」ではなく、空間体験を編集するものとして捉え直す機会となりそうだ。

「MMCA Gwacheon, 40th Anniversary: Imaginations in Light」開催概要

  • 会場:韓国国立現代美術館・果川館
  • 開幕:2026年7月10日
  • 会期:企画全体は2027年10月31日まで
  • ※展示内容や会期は作品・セクションによって異なる場合がある。

KUO DUO

EETALプロジェクト

株式会社日本ベネックス

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    LWL online 編集部

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