【海外スマートホームニュース】脱クラウド依存のスマートホーム「One Raven」始動

 取材/LWL online編集部

クラウドではなく、住宅内で機器制御とデータ処理を行う。米国のスタートアップOne Ravenが、ローカルファーストのスマートホームプラットフォームを発表した。2022年のInsteon事件が浮き彫りにしたのは、機器を購入しても、その知能や機能までは完全に所有できないというクラウド依存型スマートホームの矛盾である。住宅を所有するなら、そこに組み込まれるスマートホームも所有できるべきではないか。「Your home is yours.」という思想から、脱クラウド依存へ向かう次世代スマートホームの潮流を読み解く。

「Your home is yours.」脱クラウド依存の潮流が鮮明に!

スマートホームの機能やデータを、クラウドではなく住宅内で管理する。米国のスタートアップOne Ravenが、ローカルファーストを掲げる新たなスマートホームプラットフォームを発表した。

中核となるのは、住宅内で機器制御とデータ処理を行う「One Raven Home Server」。月額料金や住宅内の行動データの収益化を前提とせず、スマートホームの機能、設定、データを住宅所有者自身が所有するという考え方を打ち出している。

2022年に発生したInsteonクラウドサービス停止騒動(通称Insteon事件)は、クラウドサービスが停止すれば、購入したスマートホーム機器であっても主要な機能を失いかねないという事実を、多くの人に突きつけた。それから4年。ここ10年ほど続いてきたクラウド依存度の高いデバイス統合型(IoTガジェット型)スマートホームの潮流に対し、「住宅の知能を住宅内へ戻す」という流れが、より鮮明になりつつある。

「Your home is yours.」住宅が自分のものであるならば、そこに組み込まれるスマートホームのシステムもまた、自分のものでなければならない。

ローカル制御を掲げるOne Raven Home Serverとスマートホーム操作画面
One Ravenは、機器制御とデータ処理を住宅内で行う「One Raven Home Server」を中核に、クラウドへの依存を抑えたスマートホームを提案する(出典:One Raven公式サイト)

スマートホームの知能を住宅内に置くOne Raven

米国アリゾナ州フェニックスを拠点とするOne Ravenは、2026年7月7日、プライバシーと住宅所有者によるシステムの所有を重視したスマートホームプラットフォームの始動を発表した

システムの中心に置かれるのは「One Raven Home Server」だ。サーモスタット、電気錠、漏水検知器、セキュリティセンサーなどの対応機器を住宅内のサーバーへ接続し、機器の制御やデータ処理を原則としてローカルネットワーク上で行う。

外部のクラウドへ住宅内のデータを送信しなくても機器が動作するため、インターネット接続や外部サービスの状態に、住宅の基本機能が左右されにくい。住宅外からも安全にシステムへアクセスできるとしており、ローカル制御を中心に据えながら、遠隔管理にも対応する構成となる。つまり、住宅内でのローカル制御を基本とし、外部クラウドへの依存を抑えたスマートホームプラットフォームとなる。

クラウドを前提としたスマートホームでは、インターネット障害だけでなく、メーカーによる料金体系の変更、機能の有料化、事業撤退、サービス終了によって、購入時に利用できていた機能が失われる可能性がある。

One Ravenが解説するクラウド型とローカルファースト型スマートホームの通信経路
クラウド型では操作命令が住宅外のデータセンターを経由するのに対し、One Ravenは住宅内のHome Serverから機器へ直接命令を送るローカルファースト構成を採用する(出典:One Raven公式サイト)

Insteon事件が突きつけたクラウド依存のリスク

その危険性を象徴する出来事が2022年に発生したInsteon事件である。

米国で長く展開されてきたスマートホームブランドInsteonのクラウドサービスが突如停止し、アプリや音声アシスタント、住宅外からの遠隔操作などが利用できなくなった。ローカルで動作を続けられた機能もあったが、利用者は機器を購入し、住宅内に設置していたにもかかわらず、サービス提供側の都合によって主要な機能を突然失うことになった。

ハードウェアは手元に残り、壁のスイッチもセンサーも住宅内にあるにもかかわらず、機器を連携させ、スマートホームとして成立させるための機能は、住宅所有者ではなく外部の事業者が握っていた。

つまり、利用者はスマートホーム機器を「所有」しているように見えて、実際にはその機能をクラウドから「借り続けていた」のである。

Insteon事件以降も、事業撤退やサービス終了によって機能を失ったスマートホーム機器は少なくない。こうした経験を経て、住宅の基本機能を外部サービスへ過度に依存させることへの警戒が、世界的に高まっている。

One Ravenの登場はその流れがより鮮明になったことを示すニュースといえる。

箱を開ける前からシステムが完成している

ローカルファーストに加えて、One Ravenのもうひとつの特徴は、消費者が個々のスマート機器を購入し、アプリを使って一台ずつ設定する方式を採らないことである。

住宅所有者は、サーモスタット、電気錠、漏水検知器、セキュリティセンサーなど、必要な機器を組み合わせてシステムを構成できる。各機器はOne Raven Home Serverとあらかじめペアリングされ、工場で設定を完了した状態で出荷されるという。

現場で個々の機器を登録し、それぞれのメーカーのアカウントを作成し、複数のアプリを行き来しながら設定する必要を減らすことで、施工時の負担と導入後のトラブルを抑える狙いがある。One Ravenは、この仕組みを「箱を開ける前から、システムが自らの構成を理解している」状態として説明している。

これは、コンシューマー向けのIoT機器を後から寄せ集めるデバイス統合型(IoTガジェット型)スマートホームとは、出発点が異なる。スマートホームを建物の完成後に追加する便利なオプションではなく、住宅会社やデベロッパーが、設計、施工、引き渡しのプロセスに組み込める住宅設備として提供しようとしているからだ。

SmartRentの経験を住宅所有者の市場へ

One Ravenを設立したのは、ルーカス・ハルデマン氏とサラ・ラウディブッシュ氏。両氏は、賃貸集合住宅向けスマートホームプラットフォーム「SmartRent」を手がけてきた人物である。

One Raven共同創業者のルーカス・ハルデマン氏とサラ・ラウディブッシュ氏
One Raven共同創業者のルーカス・ハルデマン氏(左)とサラ・ラウディブッシュ氏(右)。両氏は賃貸集合住宅向けプラットフォームSmartRentで培った経験を、住宅所有者向けのローカルファーストシステムへ展開する(One Raven プレスリリースより)

SmartRentは、賃貸集合住宅の所有者や運営会社を対象に、入退室管理、空調、漏水監視、設備管理などを統合するプラットフォームを展開してきた。ハルデマン氏は2017年にSmartRentを創業し、2024年までCEOを務めている。

One Ravenでは、その経験を住宅所有者の市場へ向ける。

賃貸集合住宅向けのシステムでは、建物の所有者や管理会社が設備とデータを管理する。一方、One Ravenが主な対象とする戸建住宅では、そこに暮らす住まい手自身が住宅の所有者でもある。

建物を管理する事業者のためのスマートホームから、住宅を所有し、そこで長期間暮らす人のためのスマートホームへ。同社は今回、建築・不動産テクノロジーに特化する投資会社Fifth Wallを中心とした、500万ドルのシード資金調達も発表した。調達した資金は、One Raven Home Serverと初期対応機器の量産、ローカル処理ソフトウェアの開発、販売・提携体制の拡充に充てられる。

2026年第3四半期には、最初の住宅会社とのパートナーシップを発表する予定としている。

賃貸住宅と所有住宅ではスマートホームの前提が異なる

賃貸住宅ではクラウド管理にも合理性がある

賃貸住宅と、購入した戸建住宅や分譲マンションの専有部では、住宅と住まい手の関係が異なる。

賃貸住宅では、住宅の所有者と、実際に暮らす入居者が異なる。入居者は一定期間その住宅を利用するが、建物や設備を所有するわけではない。

そのため、比較的短期間で導入でき、入居者の入れ替わりにも対応しやすいデバイス統合型(IoTガジェット型)スマートホームには、一定の合理性がある。クラウドを利用して複数の住戸をまとめて管理できる仕組みも、建物所有者や管理会社にとって有効な場合がある。

サービスが終了した場合も、住宅の所有者や管理会社が設備を更新するという判断ができる。SmartRentが賃貸集合住宅市場で成長してきた背景には、こうした事情もある。

所有住宅で生じる「住宅は所有、システムは借り物」という矛盾

しかし、購入した戸建住宅や分譲マンションの専有部では話が異なる。

住宅の所有者は、壁、床、配線、空調、照明、設備を含め、その住まいを長期間にわたって所有する。売却や相続が発生するまで、数十年間使い続けることも珍しくない。それにもかかわらず、住宅の照明、空調、電気錠、センサーなどを統合するスマートホームだけが、外部事業者のクラウドに大きく依存しているとすれば、奇妙な状態が生まれる。

住宅そのものは所有している。しかし、その住宅を制御する知能や機能、設定、データは所有できていない。

壁も配線も設備も自分のものでありながら、その設備を連携させるスマートホームシステムだけは、外部のクラウドから借り続けなければならない。クラウドサービスが停止すれば、自分の住宅であるにもかかわらず、その機能を自由に使えなくなる。

所有しているようで、所有できていない。住宅とスマートホームの所有関係に、ちぐはぐなねじれが生じてしまうのである。

住宅所有者がホームオートメーションの導入計画を検討するイメージ
戸建住宅や分譲マンションを購入する場合、スマートホームは一時的なガジェットではなく、長期間にわたって住宅の機能を支えるインフラとして考える必要がある
Image:Rawpixel.com /Shutterstock.com

住宅のインフラをクラウドへ預けてよいのか

スマートホームは、スマートフォンから家電を操作するためだけの仕組みではない。

照明、空調、電動シェード、電気錠、セキュリティ、漏水検知、エネルギー管理などが統合されれば、スマートホームは住宅の快適性、安全性、省エネルギー性能を支えるインフラとなる。

インフラである以上、インターネットが不安定でも基本機能が動作すること外部サービスが終了しても住宅の機能を失わないこと住宅の売却や相続時に次の所有者へシステムを引き継げることが求められる。

住宅を所有するのであれば、その住宅のインフラとなるスマートホームを、外部のクラウドへ過度に依存させるべきではない。

クラウドには、住宅外からの遠隔操作、ソフトウェアの更新、音声アシスタント、外部サービスとの連携など、多くの利点がある。

問題はクラウドを利用すること自体ではなく、クラウドが存在しなければ、住宅の基本機能まで成立しなくなることである。

ローカル制御を基本とし、クラウドは必要に応じて利用する。この主従関係を逆転させないことが、住宅のインフラとしてのスマートホームには欠かせない。

スマートホームを「借りる」のではなく「所有する」

One Ravenの発表で最も注目したいのは、ローカル処理という技術だけではない。

同社は月額料金を設けず、隠れた追加費用や住宅内の行動データを収益化する仕組みも採用しないとしている。住宅所有者が購入した機器だけでなく、そこに組み込まれた機能、設定、データまで、住宅所有者のものとして扱う考え方だ。

これはまさに「Your home is yours.」という思想に連なる。

デバイス統合型(IoTガジェット型)スマートホームでは、照明、空調、カメラ、電気錠、センサーなどが、それぞれ異なるメーカーのサーバーへ接続されてきた。

住宅内で何時に照明を点灯し、どの温度に空調を設定し、いつ玄関を開けたのか。住まい手の生活に深く関わる情報が、住宅の外部へ送られ、複数の事業者のクラウドに分散して蓄積される構造である。

One Ravenは、こうした構造を逆転させようとしている。

住宅内で発生した情報は、まず住宅内にとどめる。外部との通信は、住宅の機能を成立させるための前提ではなく、必要に応じて利用する付加的な手段とする。

スマートホームをクラウドサービスの端末ではなく、住宅所有者が管理し、継承できる独立した住宅インフラとして捉え直しているのだ。

One Ravenは建築統合型スマートホームになり得るか

One Ravenのプラットフォームは、MatterとThreadをサポートすると報じられている。異なるメーカーの機器を共通規格によって接続できれば、特定のクラウドやメーカーに依存しないシステムを構築するうえで有利になる。

ただし、現時点で公表されている対応機器は、サーモスタット、電気錠、漏水検知器、セキュリティセンサーなどに限られている。

照明制御、電動シェード、空調設備、家庭用蓄電池、EV充電、AV機器などを、どこまで一体的に制御できるのかは明らかになっていない。KNX、DALI、BACnet、Modbus、接点制御など、建築設備で利用されるプロトコルやインターフェースへの対応も未公表だ。対応するプロトコルがMatterのみであれば、コンシューマー向けのスマートホームにとどまる可能性が高い。

したがって、One Ravenを現時点でCrestron、Control4、Savant、Lutron HomeWorksなどと同等の建築統合型スマートホームシステムとして評価するのは早い。

一方で、住宅会社との連携、工場での事前設定、住宅内サーバーによるローカル制御という設計思想は、スマートホームを家電の延長ではなく、建築に組み込まれる設備として扱うための重要な条件を備えている。

今後、照明、空調、エネルギー、AVなどへの統合範囲が広がれば、デバイス統合型と建築統合型の間を埋める、新たな住宅プラットフォームへ発展する可能性もある。

「Your home is yours.」住宅の知能を所有する時代へ

ここ10年ほど、スマートホーム市場を牽引してきたのは、クラウドとスマートフォンアプリを中心とするデバイス統合型(IoTガジェット型)スマートホームだった。コンシューマー向けのスマートホームであり、導入しやすく、比較的安価で、消費者が自ら機器を追加できる。その手軽さによって、スマートホームは広く認知されるようになった。

しかし、住宅へ組み込まれる機器が増えるほど、信頼性、保守性、プライバシー、サービスの継続性、そしてシステムの所有権が問われるようになる。

住宅は数十年にわたって使われる。一方で、クラウドサービスやスマートフォンアプリの寿命は、それよりはるかに短い。

前述したInsteon事件は、住宅の知能を外部のクラウドへ委ねることの危うさを明らかにした。そしてOne Ravenは、その問題に対し、住宅内で機器とデータを管理し、住宅所有者自身がシステムを所有するという答えを提示した。

クラウドを中心に発展してきたスマートホームは、いま、その知能を住宅内へ戻そうとしている。

スマートホームを借り続けるのではなく、住宅とともに所有する。
「Your home is yours.」
この言葉は、脱クラウド依存へ向かう、次世代のスマートホームを象徴する言葉になり得る。

クラウド依存型とローカルファースト型スマートホームのシステム構成比較図
クラウド依存型では、機器の制御やデータ処理が外部サービスに分散する。ローカルファースト型では、住宅内のHome Serverを中心に基本機能が動作し、クラウドは遠隔アクセスなどの補助的な役割を担う
生成AIを用いて作成
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