海外スマートホーム事情 - ISEが示すスマートホームの成熟。ガジェットから建築統合型スマートホームへ
取材/LWL online編集部
世界的なAV・システムインテグレーション展示会ISEは、公式記事「The smart home is growing up」で、スマートホームが個別ガジェットの集合から、照明、空調、映像・音響、ネットワーク、セキュリティを一体的に設計する領域へ移りつつあると指摘した。接続機器の数ではなく、住宅としてどのような体験を実現できるかがテーマとなっている。ISEが描く市場成熟の意味を読み解き、日本に必要な建築統合型スマートホームの条件を考える。
ISEが示す、住宅テクノロジー市場の成熟
世界的なAV・システムインテグレーション展示会Integrated Systems Europe(ISE)は、2026年7月22日、公式サイトの「ISE Insights」で「The smart home is growing up」と題する記事を公開した。
タイトルを直訳すれば、「スマートホームは成長している」、あるいは「大人になりつつある」「成熟しつつある」といった意味になる。副題は「Why residential technology is moving beyond gadgets(なぜ住宅テクノロジーはガジェットの先へ進みつつあるのか)」。
ここで語られているのは、単に市場が成長しているのではなく、これまで個々の製品や機能を中心に語られてきたスマートホームが、照明、空調、映像・音響、ネットワーク、セキュリティまでを含む「住宅全体の設計」へと領域を広げているということだ。その変化を、ISEは「スマートホームの成熟」として捉えている。
では、記事が描くスマートホームの現在地を、ポイントごとに見ていこう。
スマートホームはなぜ「ガジェットの集合」になったのか!
記事はまず、スマートホーム産業が歩んできた道を振り返る。
これまで市場を動かしてきたのは、新しい製品がもたらす「驚き」や「期待」だった。
新製品が登場するたびに機能が増え、これまでインターネットにつながらなかった機器もネットワークに加わった。その結果、住宅設備や家電をスマートフォンから操作することが当たり前になりつつある。
スマートスピーカーで照明を点灯する。外出先からスマートフォンで空調を操作する。防犯カメラの映像や玄関の施錠状態を外出先からアプリで確認する。こうしたわかりやすい機能を通して、スマートホームの便利さは広まってきた。
それは市場の成長を促し、住宅テクノロジーを一般の消費者にとって身近なものにした。
一方で、「スマートホームとはIoTガジェットを住宅に追加していくものだ」というイメージがコンシューマに定着してしまった。住宅そのものをスマート化するというより、インターネットにつながる製品を一つずつ買い足していくものとして理解されてきたのである。
いま、その構図が変わり始めているとISEは見る。
評価軸は接続台数から「住宅体験」へ
現在のラグジュアリーレジデンスで重視されているのは、接続された機器の数ではない。それぞれの機器が、住宅のなかでどれだけ効果的に連携しているかである。
住宅所有者の関心も、個々の商品や機能そのものから、それによって得られる体験価値や成果へと移りつつある。
ISEが挙げるキーワードは、快適性、ウェルビーイング、セキュリティ、サステナビリティ、そしてシンプルさだ。
たとえば、高性能な照明制御システムを導入すること自体が目的なのではない。時間帯や生活場面に合った光環境が生まれ、心地よく過ごせることに価値がある。空調も同様で、スマートフォンから操作できること以上に、季節や在室状況に応じて室温や空気環境が適切に保たれることが求められる。
セキュリティも、カメラやセンサーを数多く設置すればよいわけではない。外出時や就寝時に住宅全体が防犯モードへ切り替わり、異常が起きたときには確実に把握できることが重要になる。
つまり、評価の軸は「何台つながっているか」から、「住宅のなかでどのような体験が実現できるのか」へ移っている。ISEの記事が示すのは、スマートホームを見る尺度そのものの変化である。
スマートデバイスの購入と、スマートホームの設計は異なる
この変化を説明するため、ISEはスマートデバイスの購入と、インテリジェントホームの設計を明確に区別している。
ネットワーク対応のサーモスタットや音声アシスタントを購入するのは、消費者による製品選びである。
それに対し、照明、空調、エンターテインメント、ネットワーク、セキュリティを一体的に組み上げることは、専門家による住宅設計の領域となる。
どちらも「スマートホーム」と呼ばれるが、その成り立ちは大きく異なる。
単体のスマートデバイスは、既存住宅にも比較的簡単に追加できる。製品をネットワークにつなぎ、専用アプリを設定すれば、すぐにスマートフォンから操作できるようになる。
ただし、機器が増えるほど、アプリや操作方法も増えていく。個々の製品はスマートでも、住宅全体が一つのシステムとしてまとまっているとは限らない。
インテリジェントホームは、その逆の発想から始まる。照明、空調、カーテン、映像・音響、セキュリティなどを個別に動かすのではなく、暮らしの場面に応じて住宅全体を適切な状態へ整えることを前提とする。
そこで必要になるのは、製品を選ぶ知識だけではない。建築計画、設備設計、ネットワーク、操作インターフェース、運用、将来の更新までを見通した、専門的な設計とインテグレーションである。

図は生成AIによって作成
住宅所有者が求めているのは「複雑さ」ではない
ISEの記事で重要なのは、住宅所有者が複雑なオートメーションそのものを求めているわけではない、という指摘だ。
望まれているのは、一年を通じて心地よく過ごせる住宅である。家族との日常、友人を招く時間、在宅勤務、休息。そうした異なる場面を住宅が自然に支え、そのたびに居住者がシステムを意識したり、専門的な操作を覚えたりする必要がないことが理想となる。
ISEは、住宅テクノロジーは住空間の背景へ溶け込んでこそ成功すると表現している。
これは、従来のスマートホーム像を反転させる考え方でもある。
専用のタッチパネルやコントローラー、あるいはスマートフォン/タブレット/スマートスピーカーが数多く並び、それらを使いこなさなければならない住宅が、必ずしも高度なスマートホームとは限らない。
完成度の高い住宅では、高度な制御が行われていても、その複雑さは表に出ない。必要な操作だけがわかりやすく示され、日常的な設備制御の多くは、暮らしに合わせて自然に行われる。
機能を増やしながら、操作や管理の手間は減らしていく。そこに、成熟したスマートホームの姿がある。
テクノロジーを建築の初期段階から設計する
建築家・デザイナー・インテグレーターの協働
こうした変化は、住宅づくりに関わる専門家の仕事にも及んでいる。
記事によれば、建築家は設計のより早い段階から、住宅テクノロジーを支えるインフラを検討するようになった。インテリアデザイナーは、空間の美しさを損なわないためにシステムインテグレーターとの連携を深めている。デベロッパーも、住宅テクノロジーを追加オプションではなく、不動産の長期的な価値を形づくる要素として捉え始めている。
スマートホームを完成直前に付け加える設備と考えるなら、住宅の基本設計が終わったあとに必要な機器を選ぶことになる。
しかし、照明、空調、電動ブラインド、セキュリティ、映像・音響、ネットワークを本格的に連携させるには、設計の初期段階から検討しなければならない。
配線経路や制御盤のスペース、ネットワーク機器の設置場所、点検や交換のための動線を、あらかじめ建築計画へ組み込む必要があるからだ。
スマートホームは、設備工事の終盤に検討する「付加機能」から、建築設計の初期段階で計画する対象へと変わりつつある。ISEの記事は、その変化をはっきりと描いている。
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Basalte、Bang & Olufsen、Control4が示す方向性
市場の成熟に合わせて、メーカー側の提案も変化している。
記事では、その例としてBasalte、Bang & Olufsen、ADI|Snap One+Control4の3社の取り組みが紹介されている。
Basalteは日本でも流通している。代表的なタッチセンサー式キーパッド「Sentido」は、照明や音楽を直感的に操作できるほか、KNXだけでなく、Crestron、Lutronとの連携にも対応する。意匠性の高い操作デバイスが、建築統合型スマートホームのインターフェースとして機能する好例といえる。Bang & Olufsenは、プレミアムな映像・音響体験と、現代建築やインテリアに調和するプロダクトデザインを組み合わせている。ADI|Snap One+Control4は、照明、エンターテインメント、快適性、セキュリティを個別のシステムとして扱うのではなく、一貫した住宅体験へまとめるプラットフォームを開発している。
ここで提示された3社は、事業領域や製品こそ異なる。それでも共通しているのは、テクノロジーを目立たせるのではなく、建築やインテリア、暮らしの体験へ調和させようとする姿勢だ。
操作パネルやスピーカー、制御システムを見せること自体が、スマートホームの価値なのではない。それらが適切に連携し、住宅の快適性や美しさを損なわずに機能することが、成熟した住宅テクノロジーの条件なのである。
住宅のライフサイクルを支えるスマートホームへ
住宅テクノロジーの専門家が向き合う問いも、変わりつつある。
これまで中心にあったのは、「次にどの機器を設置するか」という問いだった。これから問われるのは、「住宅が使われる長い時間のなかで、テクノロジーが建築やウェルビーイング、日常生活をどう支え続けるか」である。
住宅は、数年で買い替えるスマートフォンなどのガジェットや家電とはまったく違う。数十年にわたって使われ、その間に住む人や家族構成、生活習慣も変わっていく。一方、機器やソフトウェア、ネットワーク技術は、住宅よりも圧倒的に短い周期で更新される。
だからこそスマートホームには、完成時の機能だけでなく、保守、交換、拡張、更新を続けられる仕組みが欠かせない。

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特定の機器やサービスが使えなくなるたびに住宅全体を作り直すようでは、長期的な価値を支えることはできない。
導入時の新しさだけでなく、住宅の時間軸に耐えられること。それもまた、スマートホームが成熟するための重要な条件である。
ホテルやオフィスの体験が住宅の基準を変える
住宅テクノロジーの変化は、住宅業界のなかだけで起きているわけではない。
住宅、ホスピタリティ、スマートビル、ワークプレイスの境界は次第に曖昧になり、それぞれの分野で培われた知見が相互に行き交うようになっている。
ラグジュアリーホテルやプレミアムオフィス、ウェルネス施設で体験した快適性や操作性が、住宅に対する期待にも影響を与えているという。
たとえばラグジュアリーホテルでは、宿泊者が設備の仕組みを理解していなくても、照明、空調、遮光、映像・音響を直感的に操作できることが求められる。プレミアムオフィスでは、在室状況や利用目的に応じて、照明、空調、映像、通信環境を最適化する必要がある。
ウェルネス施設では、光、温熱、空気、音といった環境要素そのものが、休息や回復を支えるように設計されている。
こうした体験に慣れた人ほど、自宅にも同じような自然さと快適性を求めるようになる。
ISEには、住宅テクノロジーだけでなく、スマートビル、ネットワーク、照明、音響、システムインテグレーションの専門家が集まる。異なる分野の知識が交わるISEという場そのものが、スマートホーム市場の変化を象徴しているというのが、記事の見立てである。
日本のスマートホームを「住宅インフラ」へ
ここまで見てきたのが、ISEの記事が描くスマートホーム市場の変化である。
では、この議論を日本の住宅市場に重ねると、何が見えてくるだろうか。
日本でも、スマートフォンで操作できる照明、エアコン、給湯器、電動カーテン、スマートロック、カメラ、ロボット掃除機などは着実に増えている。個々の製品の性能や使いやすさも、確実に向上している。
ただし、インターネットにつながる機器が住宅内に数多くあることと、住宅全体がスマートホームとして統合されていることは同じではない。
製品ごとに異なるアプリを使い、それぞれが別々のクラウドサービスにつながり、必要になるたびに居住者が操作する。これはスマートデバイスを集めた住宅ではあっても、住宅そのものを統合的に制御するインフラとは言い難い。
LWL onlineではこれまで、住宅に求められるスマートホームは、家電やIoTガジェットを後からつなぐ「デバイス統合型(IoTガジェット型)」ではなく、建築、設備、ネットワーク、インターフェースを一体で設計する「建築統合型(ラグジュアリー型)」であると主張してきた。
建築統合型スマートホームでは、照明、ブラインド(シェード)、空調、床暖房、シャッター、セキュリティ、映像・音響などを、住宅設備として計画的に接続する。その基盤となる配線、ネットワーク、制御盤、電源、インターフェース、保守経路も、設計段階から住宅へ組み込んでいく。
居住者の目に触れるのは、上質なデザインのスイッチや、洗練されたUIを備えるタッチパネル、必要に応じて使うスマートフォンの画面だけでよい。背後では複数の設備が複雑に連携していても、その複雑さを暮らし手に押しつけないことが重要だ。

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さらに、将来機器が交換されてもシステムは維持できること、クラウドやインターネットに不具合が起きても住宅の基本機能を操作できること、施工会社や管理会社が状態を確認し、長期にわたって保守できることも欠かせない。
これは、スマートホームを便利な付加機能として扱う考え方ではない。
給排水、電気、空調、通信と同じように、住宅の機能を支えるインフラとして位置づける考え方である。
建築統合型スマートホームこそ成熟の基盤
ISEの記事は、これからの住宅テクノロジーを決めるのは、次に登場する新しいガジェットではないと結論づける。未来を形づくるのは、シンプルに「よりよく機能する住宅」である、と。
照明、空調、セキュリティ、映像・音響が連携していても、居住者はその複雑さを意識しない。高度なシステムが導入されていても、操作はわかりやすく、建築やインテリアの美しさを損なわない。そして、完成時だけでなく、長い時間にわたって保守、更新、運用できる。
スマートホームが「成長する」「成熟する」とは、機能や接続機器の数を増やすことではない。テクノロジーが建築の一部として背景に溶け込み、居住者に意識されることなく、快適性、安全性、持続可能性を支え続けることである。
「The smart home is growing up」というISEのメッセージは、スマートホームをガジェットの市場ではなく、住宅設計とシステムインテグレーションの領域として捉え直す必要性を示している。
日本でも、スマートホームは個別製品をつなぐ仕組みから、住宅そのものを支えるインフラへと進まなければならない。その基盤となるものこそ、建築統合型スマートホームなのである。

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