増え続ける「余剰電力」をどう活かすか? 東京電力エナジーパートナー(株)・中村剛氏が語る、スマートホーム普及がもたらすエネルギーの未来図
オーディオ&サブカルライター/杉浦みな子
太陽光発電の普及に伴い、同時に増えていく「余剰電力」というミスマッチ。これまで送電網を支えてきた大手電力会社の目線から見て、このインフラの課題を解決する切り札となるのが、「スマートホーム」の進化と普及だという。東京電力エナジーパートナー(株)の中村剛氏に、日本のエネルギー環境が抱えるリアルな課題と、住宅と都市のスマート化がもたらす「スマートコミュニティ」へのロードマップを語っていただいた。

東京電力エナジーパートナー株式会社勤務。2002年「TVチャンピオン」スーパー家電通選手権優勝。動画マガジン『くらしのラボ』を拠点に、“家電王”として多角的なメディアで暮らしの情報を発信中。一般社団法人LIVING TECH協会顧問。慶應義塾大学SFC政策・メディア研究科修士課程にて、エネルギー経済学を学ぶ(1997年4月~1999年3月)。無類のネコ好き。
住宅のスマート化は、より良いエネルギーマネジメントへの切り札
日本のエネルギー環境は、今まさに転換期を迎えている。中村氏は、現代の太陽光発電によるエネルギー問題のジレンマについて語った。
中村:「国や自治体によるこれまでの補助金制度の流れで、太陽光発電は広く普及しました。今、新築の戸建住宅にはほぼ太陽光発電システムが組み込まれます。それ自体は良いことですが、発電のピークが『快晴の昼間』という単一の条件に依存するため、パネルが増えれば増えるほど、同じ時間帯に供給過多が起こります。
つまり、太陽光発電同士がライバルとなり、電力が余ってしまうミスマッチが起きる。地域全体の送電網(グリッド)が受け入れられる容量を超えてしまう現象です。これまで東京電力の供給エリア内では行われていなかった、太陽光発電の出力制御(発電した電力を抑制すること)もついに実施されるようになりました」

電力が余るなら、自家消費すれば良いという話になる。使い先としてはエコキュートだったり、高効率なヒートポンプ式の乾燥洗濯機だったり、電気自動車(EV)へのチャージだったりが挙げられる。しかし、一般ユーザーが毎日天気予報を見て、手動でそれらを切り替えるのはなかなか大変だ。しかも、外出中には切り替え操作自体ができない。
中村:「その課題をどう解決するか? そこで出てくるのが、スマートホームシステムなのです。スマート化された家が『そのときに最適なエネルギーマネジメント』を自動で行ってくれる仕組みがあれば良い。発電量が増えたときに、『今なら洗濯乾燥機で電力を使おう』といった判断と実行を、住宅が自動でしてくれるスタイルですね。
快適に暮らすため、時には命を守るために、夏の暑い時は冷房をつけ、冬の寒い時は暖房をつける。そこで使うエネルギーは、電力会社の供給分もあれば、太陽光発電分もある。もしEVがあれば、停電のときはEVから取れるように備えておく。そんな住宅スタイルが当たり前になっていくことで、より良いエネルギーマネジメントが実現すると思います。電力事業者の観点で見ても、住宅はスマート化していかざるを得ないと思いますね」

最適なエネルギーバランスを自動で保ちながら、ストレスフリーで快適に暮らせる仕組み。それは、これからの住まいが目指すべきあり方と言えるだろう。中村氏は事業者の目線で、そんなスマート環境を整備する側は「ユーザーファースト」を忘れてはならないと語る。
例えば、スマートホームに組み込まれる機器を繋ぐひとつの指標として、国際共通規格「Matter(マター)」も策定され話題になっている。簡単に言うと、メーカーやブランドの垣根を越えて、ガジェットやスマート家電、スマートロックなどのデバイス同士を共通の言葉で通信できるようにするものだ(Apple、Google、Amazonなどが参加する標準化団体「CSA」が策定)。

中村:「業界の流れとして、家電やガジェットを繋ぐ規格としてMatterで共通化を行っていくことは良いと思って見ています。ただ、Matterができるのは機器同士が繋がることの定義。使い勝手とは別です。そもそも、Matterで繋がることでユーザーはどう得をするのか? という話ですよね。
ユーザーからすれば、Matterかどうかなんてどうでも良い。裏側でネイティブアプリが自動で連携を済ませてくれて、結果として『いつの間にか便利に繋がっていて使いやすくなっている』という未来がベスト。テクノロジーファーストではなく、ユーザーファースト。規格の策定はゴールではなく、その先にある暮らしが主役であるべきだと思います」
「スマートハウス」と「スマートホーム」。曖昧だった二つの言葉の定義
さて、中村氏がこれからのエネルギーマネジメントの切り札として語った「スマートホーム」だが、この言葉はかつて「スマートハウス」という言い方と明確な区別なく使われていた。しかし現在はその役割が整理されつつある。
中村:「スマートハウスとは、躯体など住宅そのものの構造を軸にした言葉になっています。太陽光パネルや蓄電池、高断熱などエネルギー設備を指す、いわば『モノ』を中心とした概念ですね。
対してスマートホームは、ユーザー軸で語られる言葉になっています。IoTやAIを活用し、住まう人が『何ができるか』『どう快適になるか』を追求した、いわば『コト』を中心とした概念と言えるでしょう。
重要なのは、良い『モノ(スマートハウス)』がなければ、良い『コト(スマートホーム)』は起きないということです」
ハードウェアとしての優れた住宅設備と、それを使いこなすソフトウェアやユーザー体験が同時に存在してこそ、初めて真に豊かな暮らしが実現する。

より良い暮らしのための“エネルギー認識”。日本の住宅と住人が抱える課題
ここで、中村氏が整理した「モノ」と「コト」を、少し掘り下げてみよう。日本のエネルギーの現状と住宅のスマート化を、まずスマートハウスが表す「モノ」軸で語るとき、そこには「住宅が持つそもそものエネルギー効率性」という前提が浮かび上がってくる。
中村:「構造がしっかりした高断熱・高気密の家はエネルギー効率が良く、結果としてエネルギーコストを抑えられます。一方で、日本の古い住宅に多い低断熱・低気密の家ほど、余計なエネルギーコストを支払う悪循環が起きます。後者の場合、コスト高とも相まって日本人に古くから根付いた省エネ意識によって、エアコンの使用を我慢することにも繋がりやすい。
日本の住宅は、高温多湿であった地域性から、低断熱・低気密の住宅が多く、全館空調(セントラル空調)の普及が遅れました。そういった日本独自の歴史も絡んでいます」
そう、まず日本の住宅設計のスタンダードを、エネルギー効率の良いスタイルへ進化させていくことが重要なのだ。
中村:「全館空調を実現する場合は、家全体の空気を管理する大型の空調システムを設置する空調室を作る必要もあり、コストが上がるという課題もあります。ただ現在、ヒノキヤグループなどが展開している『Z空調(ゼッくうちょう)』などは、機密性・断熱性を高めた住宅で、ワンフロアごとに1台づつ適切にセレクトされた一般の家庭用エアコンを設置する形にして全館空調を実現しています。
そういうものが普及していけば、コストをそこまでかけずとも、全館空調でコントロールできる心地よい住宅が当たり前になっていくのではないかと思いますね」


続いて、スマートホームという言葉が表す「コト」軸で語るなら、上質なライフスタイルを叶えるためには、そこに暮らす我々の意識や行動も重要となってくる。中村氏は、日本人に根強い“エネルギー認識の課題”についても触れた。
中村:「日本の夏は暑いからエアコンが電力を食う、というイメージが刷り込まれていますが、経済産業省・資源エネルギー庁が毎年発行している『エネルギー動向』によると、実は冷房需要は年間消費電力量全体のわずか4%強に過ぎません。暖房需要や給湯需要がそれぞれ25%前後であることに比べると、実は少ないのです(※)。なので1年を通して考えたら、熱中症リスクを避けるためにも夏は我慢せずエアコンを使ってほしいです」
(※エネルギー動向最新値(2023年度値)によると、冷房4.2%、暖房24.2%、給湯27.7%)
超高齢化が進む日本において、住宅のスマート化は「命を守るインフラ」ともなる。夏場、自宅にエアコンがあるのに熱中症で亡くなってしまう人の痛ましいニュースは後を絶たない。
多くのエアコンには「自動運転機能」が付いている。内蔵センサーと連動してエアコンが風量や運転モードを自動でコントロールし、快適な室温を効率的にキープする機能だが、これが機能していないパターンも多いのだという。
中村:「先ほど申し上げた通り、そもそも夏場のエアコンは電力を食うというイメージが強く、電源を入れないで我慢してしまう人も多いんですね。
そしてもうひとつ、実は、省エネ法の計測基準の関係で、多くのエアコンは出荷時に『自動運転機能』がオフのデフォルト状態になっていて、知らないと機能をそもそもオンにしないのです。こういった課題をひとつひとつ解消すべく啓蒙活動を行いながら、環境を整えていく必要があります。
ゆくゆくは、住宅のスマート化が進んで、家が自動で室温をセンシングし最適な温度調整をしてくれることが普通になれば、こうした悲劇は防げるでしょう。スマートホームは、単なる贅沢ではなく、これからの安全な暮らしの標準装備なのです」

エネルギーが結びつく「スマートコミュニティ」の未来
冒頭でお伝えした通り、現在の日本では国や自治体の取り組みもあり、個人宅での太陽光パネルや蓄電池(バッテリー)の導入が進んでいる。そしてそれらをより良く使いこなすために、住宅の本格的なスマート化が叫ばれるフェーズになっていると言えよう。
同時に中村氏は、太陽光発電で発生する余剰電力の課題はむしろこれからどんどん増え、いずれ限界を迎えるという面を指摘する。実際、太陽光発電が進んでいる海外でも、やはり同じような課題があり、出力制御は起きているという。
これに対応するものとして、中村氏は個々の「スマートホーム」が地域単位で結びつく「スマートコミュニティ」という未来予想図を描いた。そこにあるのは、各家庭で自家発電した電力を蓄電池に溜めて、地域で集めて分け合うようなスタイルだ。

中村:「すぐの実現はなかなか難しいと思いますが、今後、超高齢化社会で日本の人口が減少し、インフラの維持が困難になると、都市は必然的にダウンサイジングを迫られます。
人口が少なくなった状況をイメージすると、例えば移動手段なんかは、自動運転を前提としたスマートEVへと移行していくでしょう。すでに現在もカーシェア市場が伸びていますが、ゆくゆくは車は地域で使う公共物になっていく可能性があります。しかもスマート連携するスマートEVは単なる移動手段ではなく、都市のデータ(病院の予約状況、レストランの空き情報など)と紐づく『移動型デバイス』となり、それが地域単位で活用されるようになるかもしれない。
仮にそういう時代になったときには、車に続いて地域のみんなで太陽光発電した電気を運用していく『スマートコミュニティ』のようなあり方も、受け入れられやすくなると思うんですよね。さらにそれが進むと、いつしか瞬間的に電力がコモディティ化して、電気代が実質フリーになるという展開もあるのではないかと」
中村氏は、そんな「電力フリー」の未来に繋がる興味深い例として、2025年に海外で実施された余剰電力に関する取り組みを挙げた。
中村:「私が注目しているのが、オーストラリアで話題になった『1日に3時間、決まった日中の時間に電力を無料にする』という非常にドラスティックな脱炭素・電化の施策です。まさに、どうせ余っているなら電気を無料で提供しようという内容ですね。
一見すると、消費者は年間数百ドルも電気代が安くなって万々歳ですし、『電気がタダになる時代が来た』と魅力的に響きます。でも、太陽光発電設置等の補助金財源は税金なので、結局別の形ではコスト負担しているとも言えます。なお、エネルギー事業者の目線で裏側を紐解くと、太陽光発電で作りすぎた電力が昼間に余っているので、『この時間に一斉に消費しよう』と、行政が人々の行動変容を促しているという見方もできます」
消費者にとっては電気代が減り、電力会社は減収するが、その原資には多くの税金が投入されている。支払い方のポケットが変わっただけという側面もあり、興味深い流れだ。さらにこのオーストラリアの取り組みは日中の特定の時間だけだが、例えば補助金などで蓄電池(バッテリー)が街に普及していった場合、溜めておいた電力も活用することで、無料化の波は夜間や別の時間帯に広がっていくパターンも考えられる。
ではそんな極端な変化が起きたとき、街全体の電力をどうコントロールするか。地域単位で賢くエネルギーをマネジメントする、「スマートコミュニティ」の活きる未来が見えてくる。
この、太陽光発電の普及によって生まれた「余剰電力をどう活かすか?」という課題は、住宅のスマート化と結びつきながら、我々の暮らし方とエネルギー認識のアップデートに繋がっていく。スマートハウスという「器」に、スマートホームという「命」を吹き込んだ交点の先に見えてくる、「スマートコミュニティ」という未来図。それは、我々が目指すウェルネスでラグジュアリーな社会の姿かもしれない。
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オーディオ&サブカルライター
杉浦みな子
1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://sugiuraminako.edire.co/