Intelligent Residence Notes ①:住宅は30年、Wi-Fiは5年。ネットワークにも寿命がある

 取材/LWL online編集部

住宅は30年単位で考えられる一方、Wi-Fiルーターやアクセスポイント、スイッチングハブなどのネットワーク機器は、数年単位で規格や性能、セキュリティ要件が変化していく。スマートホーム、在宅ワーク、防犯カメラ、AV機器、蓄電池、EV充電器までがネットワークにつながる時代に、「とりあえずWi-Fiが届けばよい」という考え方は限界を迎えつつある。重要なのは、最新機器を入れることではなく、将来入れ替えられる余白を住宅側に残しておくことだ。住宅寿命とネットワーク寿命のズレから、これからの住宅ネットワーク設計を考える。

住宅は30年、Wi-Fiは5年。スマートホーム時代のネットワーク設計とは?

住宅は、長く使うことを前提にしてつくられる。構造体、外壁、屋根、配管、電気設備、造作家具。素材や設備ごとに更新周期は異なるものの、少なくとも住宅そのものは、10年、20年、30年という時間軸で考えられる。

一方で、住宅の中に張り巡らされるネットワークやIoT機器は、まったく別の時間軸で動いている。Wi-Fiルーター、アクセスポイント、スイッチングハブ、ネットワークカメラ、クラウド接続型のスマートホーム機器やIoTガジェット。これらの機器は住宅設備のように見えて、実際にはIT機器である。つまり、住宅設備に比べて更新サイクルが短い。

ここに、現代の住宅設計における見落としがある。 床材やキッチン、照明器具の選定には時間をかける。しかし、住宅の通信インフラについては、「とりあえずWi-Fiが届けばよい」「メッシュWi-Fiを置けば何とかなる」と考えられがちだ。だが、住宅の中でスマート家電、照明制御、セキュリティ、音響、映像、在宅ワーク、オンライン診療、さらにはエネルギーマネジメントまでがネットワークにつながる時代に、その考え方は危うい。

これからの住宅に必要なのは、最新のWi-Fi機器を入れることだけではない。むしろ重要なのは、「ネットワークは必ず更新される」という前提で、住宅側を設計しておくことだ。

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住宅の寿命とWi-Fiの寿命は一致しない

住宅は30年単位で考えるべきものだ。もちろん、建物の構造や管理状態によって寿命は変わるが、少なくとも家を建てる、あるいは大規模リノベーションを行うとき、多くの人は数年で使い捨てるつもりでは計画しない。

しかし、Wi-Fi機器の寿命はそこまで長くない。物理的に壊れるという意味だけではなく、規格、処理能力、セキュリティ、管理機能、接続台数への対応力が、数年単位で古くなっていく。

たとえば、少し前まで家庭用Wi-Fiの中心だったWi-Fi 5は、現在ではWi-Fi 6、6GHz帯へ拡張したWi-Fi 6E、さらにWi-Fi 7へと進んでいる。新しい世代になるほど、単純に最高速度だけでなく、多数の機器が同時に接続されたときの効率、遅延の少なさ、混雑した環境での安定性が改善されていく。

住宅内の端末数も、かつてとは比較にならない。スマートフォンやPCだけでなく、テレビ、ロボット掃除機、照明、空調、ドアホン、監視カメラ、給湯器、蓄電池、EV充電器までがネットワークに関わる。ラグジュアリー邸宅や別荘では、ホームシアター、マルチルームオーディオ、遠隔監視なども加わり、接続機器が100台規模になることもある。

要するに、5年前には十分だったネットワークが、5年経過すると住宅では不足することがあるのだ。たとえ機器が壊れていなくても、住宅側の要求水準が変わってしまう。本稿でWi-Fiの寿命を「5年程度」と表現するのは、物理的な故障年数ではなく、規格、セキュリティ、接続台数、住宅側の要求水準を見直す目安としてである。

Wi-Fiは「家電」ではなく、住宅の基礎インフラ

Wi-Fiルーターは、家電量販店で購入できる。そのため、どうしても「家電」の延長として捉えられやすい。調子が悪くなれば買い替える。電波が弱ければ中継機を置けばいい。速度が足りなければ新しいルーターにすればいい。一般的な住まいであれば、それでも対応できる場合は多い。

しかし、接続する住宅設備や機器が高度化すればするほど、ネットワークは家電ではなくなる。

スマートホームにおいて、ネットワークは各設備をつなぐ神経系である。照明、空調、シェード・カーテン、セキュリティ、AV、給湯、特殊設備、エネルギー設備、各種センサー類。これらの設備を連携させ、遠隔から確認・操作できるようにし、必要に応じて管理会社や施工会社が保守できるようにするのであれば、ネットワークは住宅設備そのものになる。

問題になるのは、ネットワークが「目に見えない設備」であることだ。キッチンや家具、照明器具は、完成時に良し悪しがわかりやすい。素材感、意匠、光の出方、動線との関係を確認できる。一方、ネットワークは、入居当初にスマートフォンがつながれば、問題がないように見えてしまう。この「問題がないように見えてしまう」のが問題なのである。

ネットワークが本当に問われるのは、数年後である。接続機器が増えたとき、新しいWi-Fi規格の機器が出てきたとき、防犯カメラの台数を増やしたとき、子どもがオンライン授業を始めたとき、別荘を管理会社と共同で運用するようになったときなど、こうした変化に耐えられるかどうかで、住宅のネットワーク設計の質が見えてくる。

リビングにWi-Fiネットワークが広がるスマートホームのイメージ
スマートフォンやPCだけでなく、照明、空調、AV機器、セキュリティ、各種センサーまでがネットワークにつながる時代。Wi-Fiはもはや単なる家電ではなく、住宅を支える基礎インフラになりつつある
Image:vectorfusionart /Shutterstock.com

問題は「古くなること」ではなく、「交換できないこと」

ネットワーク機器が古くなること自体は避けられない。むしろ、古くなることを前提に考えるべきだ。問題は、機器が古くなったときに交換できない住宅になっていることである。

電源が足りない。熱がこもる。ケーブルの行き先が分からない。機器を交換しようにも、どの配線を触ればよいのか判断できない。
これでは、ネットワークは住宅のインフラではなく、ブラックボックスになってしまう。

天井裏や壁内に配線を隠すことは、美しい住宅において重要だ。しかし、隠すことと、触れなくすることは違う。高級住宅であればあるほど、見えない部分にこそ、将来の更新性を持たせる必要がある。

たとえば、主要な部屋には有線LANを引いておく。アクセスポイントを設置できる位置には、PoE給電を前提としたLAN配線を想定しておく。情報分電盤やネットワークラックには余裕を持たせる。予備の空配管を用意し、将来の引き替えができるようにする。ケーブルにはラベルを付け、図面にも反映する。
こうした地味な設計が、5年後、10年後の住宅価値を大きく左右するのだ。

天井裏に配線されたLANケーブルと住宅の配線計画
ネットワーク機器は将来更新される。新築やリノベーション時には、天井アクセスポイントや有線LAN、PoE給電、空配管を想定しておくことで、数年後の交換や増設に対応しやすくなる
Image:Alberta Archives /Shutterstock.com

「全部Wi-Fi」は避けるべし。無線時代こそ有線LANが重要になる理由

近年は、あらゆる機器が無線でつながる。だからこそ、「有線LANはもう不要ではないか」と考える人もいる。だが、住宅設計においては逆である。Wi-Fiが重要になるほど、有線LANの重要性も増していく。

詳細は過去記事(スマートホームに有線LANはまだ必要か?)を参照いただきたいが、理由は単純だ。

Wi-Fiは空間を共有する通信であり、壁、床、家具、ガラス、金属、近隣の電波などの影響を受ける。特にRC造、地下室、大開口のガラス、遮音室、防音室を持つ住宅では、電波が思うように届かない場所が生じやすい。

一方、有線LANは安定している。アクセスポイント、テレビ、ホームシアター、ワークスペース、NAS、防犯カメラ、制御機器など、安定性が求められる機器は有線で支える。そのうえで、スマートフォンやタブレット、ロボット掃除機、センサーなど、移動する機器をWi-Fiで支える。この役割分担こそが重要だ。

これからの住宅には、Wi-Fiがきちんと働けるように、その土台となる有線ネットワークの骨格を整えることが必要なのだ。

無線は便利だが、住宅のすべてを無線に委ねると、将来の自由度はむしろ下がる。アクセスポイントや監視カメラを追加したくてもLANが来ていなければ、完成後に大きな工事が必要になる。

建築統合型スマートホームは、更新計画まで含めて設計する

IoTガジェット型ではなく、建築統合型スマートホームを導入する住宅では、ネットワークを「一度入れたら終わり」の設備として考えるべきではない。空調や給湯器と同様に、定期的に見直す設備として扱うべきだ。

目安としては、Wi-Fiルーターやアクセスポイントは5年程度で見直す。もちろん、環境によってはそれ以上使える場合もある。しかし、住宅内の接続機器数、利用サービス、セキュリティ要件、Wi-Fi規格の進化を考えると、5年はひとつの現実的な点検周期になる。

同時に、ネットワーク全体を構成要素に分けて考えておくべきだ。

インターネット回線を受けるONUやモデム。ルーター。スイッチングハブ。PoE給電。ここまでは家庭内のネットワークの上流に相当する。
そして、Wi-Fiアクセスポイント。NASや録画機器。CrestronのCP4に代表されるホームオートメーションコントローラー。セキュリティ機器。ざっくりとした分別となるが、これらをひとつの機器に集約してブラックボックス化するのではなく、ラックや盤の中で役割ごとに整理しておくと、交換や拡張がしやすくなる。

広大なラグジュアリー邸宅では、家庭用ルーター1台にすべてを任せるより、ルーター、スイッチ、アクセスポイントを分けた構成のほうが合理的である。アクセスポイントを複数用意し、必要に応じてVLANで来客用、IoT用、管理会社用、オーナー用のネットワークを分離する。こうした設計は、速度を上げることが目的ではなく、住宅を安全に、長く、柔軟に使うためのものだ。

ネットワーク機器に接続された多数のLANケーブル
住宅ネットワークは、ルーター1台だけで完結するものではない。ルーター、スイッチ、PoE、パッチパネル、アクセスポイントなどを役割ごとに整理し、交換しやすい状態にしておくことが重要だ
Image:Roger Asbury /Shutterstock.com

住宅は長く使う。だからこそ、ネットワークは入れ替えられるようにする

住宅のネットワークは、入居した瞬間が完成ではなく、むしろ、そこから更新が始まる。

家族構成、働き方、AV機器、別荘の管理体制は、時間とともに変わっていく。その変化を受け止められる住宅こそ、これからの「テックに強い住宅」だ。

その点で、ネットワークも更新に耐えうるように、余白を設けておく必要がある。

「住宅は30年、Wi-Fiは5年」という言葉は、Wi-Fi機器を5年で必ず入れ替えるべきだという意味ではない。住宅とネットワークでは、時間の流れ方が違うということだ。ネットワーク機器はIT機器であり、住宅設備に比べてライフサイクルが短く、入れ替わりも速い。

逆に、住宅は長く使う。だからこそ、変化の速い部分を交換できるようにしておく必要がある。盤やラック、スイッチのポート、アクセスポイントの設置位置に余白を持たせておきたい。

こうした設えは、完成後には見えにくいが、数年後の暮らしを確実に左右する。

スマートホームにとって重要なのは、住宅の中にある設備を、長く、安定して、必要に応じて更新しながら使える状態に保つことである。その土台にあるのがネットワークだ。 美しい住宅を長く使うためには、ネットワークにも寿命があることを前提にしたい。最新機器を入れることよりも、更新できる余白を残すこと。その発想こそ、「住宅×テック」の中核を担う設計思想になる。

住宅ネットワークの構成図。ネットワークラック、ONU、ルーター、PoEスイッチ、アクセスポイント、有線LAN、Wi-Fi機器の関係を示している
住宅ネットワークは、ネットワークラック、ONU、ルーター、PoEスイッチ、パッチパネル、アクセスポイントを整理し、固定機器を有線LANで支えることで、スマートホームの安定性と更新性を高めやすくなる
生成AIにて作成

FAQ

Q1. 家庭用のWi-Fiルーターは、何年くらいで買い替えるべきですか?

一概には言えませんが、5年程度をひとつの見直し目安にするとよいでしょう。壊れていなくても、接続台数の増加、Wi-Fi規格の進化、セキュリティ更新、通信速度、管理機能の面で古くなることがあります。特にスマートホーム機器、防犯カメラ、在宅ワーク環境が増えている住宅では、定期的な点検と見直しが必要です。

Q2. メッシュWi-Fiを入れれば、有線LANは不要になりますか?

不要にはなりません。メッシュWi-Fiは便利ですが、無線で中継する以上、電波環境の影響を受けます。安定性が必要なアクセスポイント、AV機器、防犯カメラ、ワークスペース関連機器などは、有線LANで支えるほうが確実です。Wi-Fiを快適に使うためにも、あらかじめ有線の骨格を整えておくことが重要です。
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Q3. 新築やリノベーション時に、最低限考えておくべきネットワーク設計は何ですか?

主要な部屋への有線LAN、天井アクセスポイント用のLAN配線、情報分電盤またはネットワークラックの設置、PoE給電の想定、空配管、ケーブルラベル、ネットワーク図面の整備は検討しておきたい項目です。また、ラグジュアリー邸宅や別荘では、VLANによるネットワーク分離も必要不可欠でしょう。オーナー用、来客用、IoT用、管理会社用のネットワーク分離まで考えておくと、将来の運用が安定します。

プールを備えたモダンな高級住宅の外観
住宅は長い時間軸で使われる。だからこそ、Wi-Fiやネットワーク機器のように更新サイクルの短い設備を、将来入れ替えられるように設計しておくことが重要になる
Image:dotshock /Shutterstock.com

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