Living Insight vol.7 ―なぜ北欧では照明文化が発達したのか?
取材/LWL online編集部
北欧インテリアを語るとき、家具やテキスタイルと同じくらい重要な存在が「照明」である。ルイスポールセン、レ・クリント、アルテック、セクトデザイン、&Traditionなど、北欧には世界的な照明ブランドが数多く存在し、PH 5、PH アーティチョーク、A330S ゴールデンベル、A331 ビーハイブ、フラワーポットといった名作ランプも生み出されてきた。
では、なぜ北欧ではこれほどまでに照明文化が発達したのか。理由は、よく言われるように単に「冬が暗いから」だけではない。北欧の人々にとって照明とは、部屋を明るくするための道具であるだけでなく、住まいの空気を整え、時間の質を変え、心地よさをつくるための生活文化だった。
光が少ない地域だからこそ、光の質に敏感になった
北欧の冬は長く、日照時間も限られる。さらに太陽の高度が低いため、自然光は日本の夏のように強く降り注ぐものではなく、斜めから淡く入り込む。そのため、繊細な光として感じられる。北欧の住まいでは、自然光だけに頼るのではなく、人工照明によって室内の明るさや陰影を丁寧につくる必要があった。
ただし、部屋全体を均一に明るくすることではなく、むしろ北欧の照明では、まぶしさを抑え、必要な場所に柔らかく光を届けることが重視されてきた。ダイニングテーブルの上、ソファ横の読書灯、窓辺の小さな灯りなど、光を分散させることによって、部屋の中にいくつもの居場所が生まれる。
「まぶしくない光」を追求したルイスポールセン
北欧照明を語るうえで欠かせないブランドが、デンマークのルイスポールセンである。なかでもポール・ヘニングセンが手がけたPHシリーズは、北欧照明文化を象徴する存在といえる。
代表作の「PH 5」は1958年に発表されたペンダントライトで、グレア(不快なまぶしさ)を抑えた柔らかな光として知られる。光源を直接見せず、複数のシェードで光を反射・拡散させる構造により、食卓を明るく照らしながら、目に刺さるような眩しさを避ける。これは、照明を「照度」ではなく「光がもたらす空間の質」として考える北欧らしい発想だ。
同じくポール・ヘニングセンによる「PH アーティチョーク」も名作として知られる。幾重にも重なる羽根状のシェードが光源を隠し、器具全体から柔らかく光が広がる構造は、照明器具を単なる光を発する器具ではなく、空間の彫刻として成立させている。

Image:Peony and Pear /Shutterstock.com
紙を折る技術から生まれたレ・クリントの柔らかな陰影
デンマークのレ・クリントも、北欧照明文化を代表するブランドである。1943年創業の同社は、手で折り上げるプリーツシェードで知られる。その原点は、建築家P.V.イェンセン・クリントが20世紀初頭に折ったランプシェードである。現在もクラフトマンシップを大切にした照明づくりを続けている。
レ・クリントの魅力は、紙やプラスチックシートを折ることで生まれる、柔らかな光と繊細な陰影にある。シェードそのものが光を拡散し、部屋全体に穏やかなリズムを与える。強い光で空間を支配するのではなく、素材と形によって光を和らげる姿勢は、北欧的な照明観をよく表している。

Image:Alexander Sobol /Shutterstock.com
アルテックとセクトデザイン。フィンランド照明に見る自然素材の美学
フィンランドのアルテックも、照明文化を語るうえで欠かせない。アノイ&アルヴァ・アアルトによる「A330S ゴールデンベル」は、ヘルシンキのサヴォイ・レストランのために1937年にデザインされた照明である。釣鐘のようなフォルムと、下方に落ちる穏やかな光が特徴だ。
また「A331 ビーハイブ」は1953年にデザインされたペンダントライトで、蜂の巣を思わせる丸みを帯びたフォルムが目を引く。シェードを通して暖かく拡散された光が広がり、北欧モダンの柔らかな空間をつくり出す。
近年のフィンランド照明では、セクトデザインも注目される。フィンランド産バーチ材を用いたハンドメイドの照明は、木を通した柔らかな光が特徴だ。自然素材、建築的なフォルム、温かい陰影を組み合わせることで、現代の住まいにも北欧的な光の感覚を持ち込んでいる。
北欧照明は「一灯で明るく」ではなく「複数の光で整える」
日本の住宅では、天井中央のシーリングライトで部屋全体を均一に照らす考え方が長く一般的だった。一方、北欧の住まいでは、ペンダントライト、フロアランプ、テーブルランプ、ウォールランプなどを組み合わせ、空間の中に複数の光だまりをつくる発想が根づいている。
明るさの不足を補うためだけではない。食事、読書、会話、くつろぎといった行為ごとに、ふさわしい光を用意するためである。たとえばダイニングには低めに吊ったペンダントライトを、リビングには視線の高さに近いフロアランプを、窓辺には小さなテーブルランプを置く。こうした光のレイヤーが、空間に奥行きと落ち着きを生み出す。
デンマークの「ヒュッゲ」という言葉が示すように、北欧では暖かな雰囲気や親密な時間が大切にされる。キャンドルの柔らかな光がヒュッゲを象徴するものとして語られるのも、そのためだ。照明は、視覚環境であると同時に、心の状態を整える装置でもある。

Image:Anymayy /Shutterstock.com
北欧の照明文化は暮らしの哲学を映している
北欧の名作照明を見ていくと、共通しているのは「光源をどう見せないか」「まぶしさをどう抑えるか」「素材を通して光をどう柔らかくするか」という問いである。
ルイスポールセンのPHシリーズ、レ・クリントのプリーツシェード、アルテックのアアルトの照明、セクトデザインの木製ランプ。いずれも、照明器具そのものの美しさだけでなく、そこから生まれる光の表情に価値を置いている。さらに、ヴァーナー・パントンによる「フラワーポット」(&Tradition)や「パンテラ」(ルイス・ポールセン)のように、彫刻的で遊び心のある照明も、北欧デザインの豊かさを示す存在だ。
北欧で照明文化が発達したのは、暗さを克服するためだけではなく、限られた自然光を大切にしながら、人工の光によって住まいの時間を美しく整えるためだった。照明を選ぶことは、単に器具を選ぶことではなく、どのような夜を過ごしたいか、どのような食卓を囲みたいか、どのようにくつろぎたいかを考えることでもある。
北欧の照明文化がわたしたちに教えてくれるのは、明るさの量よりも、光の質を選ぶことの大切さである。住まいの豊かさは、家具や素材だけでなく、空間に広がる光の質によって大きく変わるのだ。

Image:SARMDY /Shutterstock.com
-
-
取材
LWL online 編集部