ベッドは「小さな建築」へ。日本ベッド創業100周年、隈研吾氏と町田瑞穂ドロテア氏が描く寝室の姿
取材/LWL online編集部
日本ベッドは創業100周年を記念し、隈研吾建築都市設計事務所がデザインを監修したベッドフレーム「ウッドネスト」と最高峰マットレス「シルキーレーヌ」、町田瑞穂ドロテア氏によるファブリックベッドフレーム「アニバーサリー」を発表した。木組み、天然素材、テキスタイル、神経美学を通して、ベッドを家具から寝室体験の核へと捉え直す3製品。その思想を、7月7日のトークショーで語られた寝室の未来像とともに読み解く。
日本ベッド創業100周年、寝室全体を再定義する3製品
日本のベッド文化を支えてきた日本ベッドが、2026年に創業100周年を迎えた。
その節目に発表されたのは、隈研吾建築都市設計事務所がデザインを監修したベッドフレーム「ウッドネスト」と、同社最高峰のマットレス「シルキーレーヌ」。そして、LWL onlineの連載執筆陣でもある一級建築士・町田瑞穂ドロテア氏がデザインしたファブリックベッドフレーム「アニバーサリー」である。
木組みと天然木によって身体を包む「小さな建築」。最高級の天然素材と職人技を重ねたマットレス。色彩とテキスタイルによって感性を整えるファブリックベッド。
表現の方向はそれぞれ異なるが、3製品に共通するのは、ベッドを単独の家具にとどめず、建築、インテリア、素材、睡眠を結ぶ寝室の中心として捉えていることだ。
7月7日に東京・池上スタジオで開かれた「新商品発表会2026」では、隈研吾氏らによる「身体を包み込む小さな建築 ウッドネスト」と、町田ひろ子氏、町田瑞穂ドロテア氏による「寝室とファブリックベッド」という2つのトークショーも開催された。そこで語られたのは、単なる新製品の特徴ではない。心身を休め、感性を整え、さらにはテクノロジーやケアともつながる、これからの寝室の姿だった。

画像はプレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000091325.html)より
日本のベッド文化とともに歩んだ100年
そもそも日本ベッドは1926年、日本初のベッド製造会社「日本羽根工業社」として創業した。
洋式寝具の生産に着手し、国産初の連結式スプリングマットレスを商品化。その後も日本の住宅事情や生活様式の変化に合わせて、ベッドとマットレスの開発を続けてきた。
現在は、多数の独立したコイルによって身体をきめ細かく支えるポケットコイルマットレスを主力とする。なかでも細径コイルを高密度に配した「シルキー」シリーズは、日本ベッドを代表する製品として知られている。
創業100周年を記念する今回のコレクションでは、寝具メーカーとして蓄積してきた技術に、建築家とインテリアデザイナーの視点を加えた。
製品単体を豪華にするのではなく、ベッドを中心として寝室全体の体験価値を高めること。今回の発表は、単なる新製品の披露を超えた、「眠り」そのものの価値提案としての意味を持つ。
隈研吾氏が描いた、身体を守る「小さな建築」

画像はプレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000091325.html)より
木組みと国産ナラ材で構成する「ウッドネスト」
「ウッドネスト」は、隈研吾氏率いる隈研吾建築都市設計事務所がデザインを監修した木製ベッドフレームだ。
名称は、素材を表す「WOOD」と、巣や居場所を意味する「NEST」を組み合わせたもの。森の動物が小枝を集め、自らの身体を守る巣をつくる営みから着想を得た。
デザインの中心となるのは、日本の伝統的な建築技術を思わせる木組みである。角材を緻密に組み合わせることで、構造そのものを意匠として見せながら、木の温もりと、身体を包み込むような安心感を表現した。
主材には国産のナラ材とナラ突板を採用する。天然木ならではの木目や色は、時間の経過とともに変化し、使い込むほどに風合いを深めていく。
また、脚部をマットレスの直下ではなく外側に配置するアウトセット構造によって、木製フレームが宙に浮いているかのような軽やかさも生み出した。オプションとしてナイトテーブルとベンチも用意され、ベッド単体ではなく、まとまりのある寝室空間としてコーディネートすることも可能だ。
隈氏は、単なる眠るための道具ではなく、森の中に身を置くようなプリミティブな体験を目指したとコメントしている。いわば、ベッドフレームの構造と素材によって身体の居場所をつくり、暗い寝室の中で人を守る、ひとつの建築として捉え直すことだったのだろう。
天然素材と職人技を結集した「シルキーレーヌ」
「ウッドネスト」と組み合わせて提案されるのが、日本ベッドの最高峰マットレス「シルキーレーヌ」である。

画像はプレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000091325.html)より
同社の最上位シリーズ「シルキークチュール」から生まれたモデルで、表地の柄も隈研吾建築都市設計事務所が監修した。
モチーフとなったのは、竹ひごを不規則に編み重ねる竹細工の技法「やたら編み」。線が複雑に交差する表情をオリジナルの織地に落とし込み、光の当たり方によって繊細な陰影が浮かび上がる。
表地にはシーアイランドコットンを100%使用。中わたにはカシミヤと国産ウールを採用し、吸放湿性能に配慮した高機能ウレタンと組み合わせた。身体を支える支持層には、日本ベッドを象徴する細径ポケットコイル「シルキースプリング」を備える。
構造上の大きな特徴としては、接着による固定工程を設けず、糸で内部の素材を締める「ブラインドタフティング」で仕上げていることが挙げられる。各クッション材の動きを過度に拘束せず、詰め物本来の特性を生かしながら、深く柔らかな寝心地を目指している。
マットレスの厚みは27cm。希少性の高い素材を使用するだけでなく、織り、縫製、詰め物、スプリングという複数の技術を重ねることで、身体に最も近い寝室環境を構築した。
トークショーで語られた、AI・医療とつながる寝室の未来
7月7日の「新商品発表会2026」で行われたトークセッション「身体を包み込む小さな建築 ウッドネスト」には、隈研吾氏と、隈研吾建築都市設計事務所パートナーの宮澤一彦氏が登壇。編集者・ライターの山田泰巨氏がファシリテーターを務めた。
セッションでは、「ウッドネスト」を単なる家具ではなく、暗い寝室の中で人を守り、包み込む小さな建築として設計したことが紹介された。
国産天然木によるフレームは、複数の部材を単に組み合わせるのではなく、全体がひとつの存在に見えるようにディテールを整えたという。「シルキーレーヌ」についても、「やたら編み」をモチーフとした表布地の触感や陰影までを含め、寝室全体の体験として設計したことが語られた。
さらに、寝室の将来像にまで話が及んだという。寝室はこれから、睡眠を取るだけの部屋ではなく、心身を休める聖域へと拡張していく。そして将来的には、AIや医療などの機能が睡眠環境に統合され、ベッドが身体をケアするためのハブになる可能性も示された。
これは、LWL onlineがこれまで提唱してきた、テクノロジーを目立つ機器として置くのではなく、建築や設備の中に自然に埋め込む「Invisible Wellness」の考え方にも重なる。
木組みというある意味原初的と言っていい構造と、AIやヘルスケアという未来のテクノロジー。一見すると対極にある要素を、身体を守る寝室というひとつの目的のもとに統合すること。それが「ウッドネスト」の先に描かれた寝室の姿なのだろう。
町田瑞穂ドロテア氏が描く「やすらぎのアトリエ」
木の構造によって身体を包む「ウッドネスト」に対し、色彩とテキスタイルによって寝室の感性を整えようとするのが、ファブリックベッドフレーム「アニバーサリー」だ。

画像はプレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000091325.html)より
デザインを手がけたのは、インテリアデザインブランド「青山スタイル」を統括する一級建築士、町田瑞穂ドロテア氏である。
町田氏はLWL onlineで「住まいの詩学~美しく生きるためのインテリア」を連載中である。光、音、香り、素材、家具、アートなどを通して、住まいを機能の集合ではなく、人の感性や記憶、人生を受け止める場所として読み解いている。
「アニバーサリー」にも、その思想が色濃く表れている。
コンセプトは、フランス語で「やすらぎのアトリエ」を意味する「ラトリエ・デュ・カルム」。眠りを一日の終わりに訪れる休止時間としてではなく、心身を回復させ、翌日に向けて感性を整える時間として捉えた。
ヘッドボードには、伝統的な冠を思わせる柔らかな曲線を採用。その内側を額装のような意匠で構成することで、張地のファブリックを一枚の作品のように見せている。
「Sumiko Honda」の布地を寝室のアートに
「アニバーサリー」の張地にはファブリックコレクション「Sumiko Honda」を採用。
「Sumiko Honda」は、デザイナーの本田純子氏が自然の風景や光、草花の移ろいを、繊細な色彩と複雑な織組織によって表現する、メイド・イン・ジャパンのテキスタイルブランドである。
「アニバーサリー」では、織地の表情を生かした柄ありのブルーとイエローに加え、無地調のスモーキーブルー、スモーキーピンク、スモーキーグリーンを用意する。

画像はプレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000091325.html)より
柄ありのモデルは、ベッドそのものを寝室の主役として据える華やかな提案となる。一方、穏やかなスモーキーカラーは、壁面やカーテン、ラグ、照明などと調和しながら、空間全体を静かにまとめる。
町田氏は連載「素材の色・質感・光~空間に命を吹き込むディテール」において、素材の色や質感は視覚だけでなく、触覚はもちろんのこと、空間で過ごした記憶にも影響すると語っている。
「アニバーサリー」でも、布地はベッドを覆う表面材ではない。織り、色、光の反射によって、寝室の空気と過ごし方を変える中心的な素材として扱われている。

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町田ひろ子氏が語った「布地が暮らしを豊かにする」
7月7日に開催されたもうひとつのトークショー「寝室とファブリックベッド」は、2部構成で行われた。
Part1では、町田ひろ子アカデミー校長の町田ひろ子氏が「布地が暮らしを豊かにする」をテーマに講演。Part2では、「アニバーサリー」をデザインした町田瑞穂ドロテア氏が、製品に込めた思想とデザインコンセプトを紹介した。
町田ひろ子氏は、日本で初めて「インテリアコーディネーター」という職能を提唱し、長年にわたり住空間デザインの普及と人材育成に携わってきた人物である。
今回のトークショーで「布地」が中心テーマとなったことは象徴的だ。
カーテンや寝具では身近な布地も、ファブリックベッドでは家具の構造と一体化し、寝室で大きな面積を占めるデザイン要素となる。色、柄、織り、触感によって、空間に柔らかさや奥行きを与え、暮らす人の感情にも静かに働きかける。
「アニバーサリー」は、布地を単に装飾として追加するのではなく、寝室を構成する主役として扱う。その考え方を、町田ひろ子氏の講演と、町田瑞穂ドロテア氏による具体的なデザインの双方から示すトークショーとなった。
神経美学の視点から寝室を捉え直す
町田瑞穂ドロテア氏は「アニバーサリー」のデザインに、神経美学(ニューロエステティクス)の視点を取り入れたという。
神経美学とは、人が美しいものを見たときに生じる知覚や感情と、脳の働きとの関係を研究する領域である。
「アニバーサリー」では、水彩画のように色が溶け合う生地と、冠を思わせる流麗なフォルムを組み合わせ、穏やかで格調のある印象を生み出している。
LWL onlineの連載「“アート”のある暮らし~住まいで生まれる芸術との対話」でも、町田氏は神経美学に触れ、美しいものやアートが人の感情や記憶、空間での体験に与える可能性を論じている。
もちろん、特定の色や形が睡眠や健康に直接的な効果をもたらすと、単純に断定することはできない。しかし、毎日目にする色、手や肌が触れる素材、身体を預ける家具の形が、寝室に対する安心感や愛着を左右することは十分に考えられる。
眠る前に本を読み、一日を静かに振り返り、感覚を落ち着かせる。寝室をそうした時間のための場所として整えることも、これからのウェルネスデザインのひとつである。
寝室のラグジュアリーは「体験の統合」へ
「ウッドネスト」と「アニバーサリー」は、一見すると対照的なベッドフレームである。
「ウッドネスト」が、天然木の集積と木組みによって、森の巣のような原初的な安心感を生み出すのに対し、「アニバーサリー」は、色彩、曲線、テキスタイルによって、感性を整える私的なアトリエをつくる。
一方は建築的であり、もう一方は装飾的、芸術的である。
しかし、両者が目指す方向は大きく異ならない。
両者に共通するのは、ベッドを寝室の空間体験を決定づける存在として捉えている点だろう。そして「シルキーレーヌ」は、その空間と身体が直接触れ合う層を、天然素材と職人技によって支えている。
「ウッドネスト」はシングルからキングまでを用意し、税別価格は60万円から80万円。組み合わせる「シルキーレーヌ」は80万円から130万円で、いずれも2026年9月中旬の発売を予定する。
「アニバーサリー」はクイーンとキングの2サイズで、すべて受注生産。税別価格は柄なしが110万円から120万円、柄ありが130万円から140万円で、7月31日に発売される。
寝室におけるラグジュアリーとは、身体を支える機能、肌に触れる素材、目に入る色彩、空間を包む構造、そして心身を静かに整える時間。それらがひとつの体験として調和し、安心して自分を委ねられる環境である。
ベッドは家具から「小さな建築」へ。
そして寝室は、ただ眠る場所から、人の身体と感性を整える空間へ。
日本ベッドが創業100周年に提示した3つのモデルと、7月7日のトークショーで語られた言葉、そしてデザイナーのコメントは、日本の寝室がこれから向かう、「眠りにおけるラグジュアリー」の姿を示している。
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LWL online 編集部