京都建築センターが安藤忠雄「TIME’S」に開設へ。市民が再開催した石上純也展が問う建築の公共性
取材/LWL online編集部
クラウドファンディング・プラットフォーム「MOTION GALLERY」で、2026年7月、建築文化の未来を問う二つのプロジェクトが京都と徳島で動き始めた。
京都では、安藤忠雄の代表作「TIME’S」を舞台に、建築ツアーや展覧会、ライブラリーなどを展開する「京都建築センター」の開設計画が進む。一方、徳島では、開幕直前に中止となった建築家・石上純也の展覧会を、市民や建築関係者の有志が新たな会場で開き直した。
一方は、都市の中心に建築文化の常設拠点をつくる試み。もう一方は、公開される機会を失った公共建築の計画を、市民の手で再び社会に開く試みである。
性格の異なる二つのプロジェクトに共通するのは、建築を一部の専門家や所有者だけのものとして扱わず、市民が見て、学び、議論し、支える文化へと変えていこうとする姿勢だ。
安藤忠雄「TIME’S」に生まれる京都建築センター
「京都建築センター」の舞台となるのは、京都・三条の高瀬川沿いに建つ「TIME’S」だ。

株式会社MotionGalleryプレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000110.000030743.html)より
TIME’Sは、安藤忠雄の設計により第1期が1984年、第2期が1991年に竣工した商業建築。コンクリートの壁と複雑な回遊動線によって、三条通の都市空間と高瀬川の水辺を立体的につないでいる。街路から建物内部へ、さらに川面へと降りていくような空間構成は、建築そのものが京都の都市構造を読み解く装置のようでもある。
今回、このTIME’Sの路面フロアに、建築ツアーの発着拠点、ギャラリー、ショップ、ライブラリー、学びの場を備えた都市型の建築センターを開設する。
プロジェクトを起案したのは、「京都モダン建築祭」「神戸建築祭」「東京建築祭」の事務局を担い、国内外で年間2,000本を超えるまち歩きツアーを主催する合同会社まいまい。日本で初めて建築センターの名を冠した「けんちくセンターCoAK」を立ち上げた川勝真一も参加する。空間設計はMIDW architectsとstudio archeが担当し、2026年8月のプレオープン、9月の本オープンを目指している。
都市全体を展示空間にする建築ツーリズムの拠点
欧米の建築都市では、建築センターがツアーや展覧会、教育プログラムの拠点として機能している。建築を収蔵品として館内に閉じ込めるのではなく、街そのものを展示空間として捉え、人々を実際の建築へと送り出す仕組みだ。
京都建築センターも単にTIME’Sを見学するための施設なのではなく、京都市内に点在する近代建築や現代建築を巡るツアーを企画し、その収益の一部を建築の維持管理へ還元する。建築専門の企画展や書籍、グッズを扱うほか、京都にゆかりのある建築家や建築史家が選書するライブラリーも整備する予定だ。
さらに、建築の魅力を一般の人に伝えるガイドやナビゲーターを育成する「建築ラーニング」も構想されている。年に一度開催される京都モダン建築祭と、年間を通じて運営される常設拠点をつなぐことで、建築をイベントとして消費するだけでなく、日常の文化として定着させようとしている。
注目すべきは、名建築を保存対象として閉じるのではなく、実際に使い、人が集まる場所にすることで価値を継承しようとしている点だ。
建築を守ることは、必ずしも竣工当時の姿を固定することではない。建物が社会との関係を失えば、たとえ物理的に残っていても、その文化的な意味は薄れていくこともあるだろう。建築センターという新たな用途を与えることは、TIME’Sをもう一度、京都の都市文化の中で動かす試みともいえる。
開幕直前に中止された石上純也展、市民の手で再開催
徳島で始まったもう一つのプロジェクトは、建築と社会の関係を、より直接的に問いかけている。
建築家・石上純也が設計した「徳島文化芸術ホール(仮称)」の計画を紹介する展覧会は、当初2026年6月に徳島市内の倉庫で開催される予定だった。しかし、模型や設計資料の搬入後、開幕直前に開催中止が決まった。

株式会社MotionGalleryプレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000110.000030743.html)より
開催中止の経緯は、すでに複数のメディアで報じられている。中止の経緯について、展覧会側は会場運営者から「県有地の使用をめぐって徳島県から要請があった」と説明されたとしている。一方、徳島県側は、中止を要請したのではなく、建物所有者から相談を受けたものであり、最終的な判断は所有者によるものだとの立場を示している。
両者の説明には相違があり、経緯は慎重に見極める必要がある。その一方で、建築関係者と市民は再開催に向けて動き始めた。建築家や建築士、文化関係者、市民らによって「石上純也展実行委員会」が結成された。
彼らは新たな民間会場を確保し、「石上純也展―徳島文化芸術ホールへと続く、風景と建築の思想―」として、7月11日に展覧会を開幕させたのだ。
会場は徳島市東船場町の竹内ビル1階。会期は8月30日までを予定している。
実現しなかった公共建築を社会の記録として開く
展覧会の中心となる徳島文化芸術ホールは、2021年の公募型プロポーザルを経て設計が進められた公共建築だ。
花びらのようなテラスが幾重にも重なる計画で、実施設計の段階まで進んでいたが、2023年に整備方針と建設地が変更され、従来案は事実上停止した。

株式会社MotionGalleryプレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000110.000030743.html)より
今回の展覧会が投げかけるのは、実現しなかった建築をどのように扱うべきかという問いである。
完成しなかったからといって、設計図や模型に価値がないわけではない。とりわけ公費によって進められた公共建築の計画は、市民がその内容を知り、検証する機会が確保されるべき公共的な記録だ。それは、その時代の行政判断や都市政策、文化観を伝え、数年後、数十年後、あるいは数百年後に、2020年代の徳島で何が起きたのかを証言する記録となるはずだ。
もちろん、市民が内容を見て、別の計画と比較し、何が起こり、何が失われ、何が選ばれたのかを考えることには、建築鑑賞を超えた公共的な意味がある。
当初の展覧会に向けては約2,000枚の実施設計図や大型模型が準備されたとされる。ただし、再開催された展覧会では、設計図の公開について徳島県との協議が続いており、展示が一部にとどまる可能性も案内されている。
それでも、いったん閉ざされた展示を、市民が自ら会場と資金を集めて開き直した事実は重い。ここで問われているのは、一つの建築案への賛否だけではない。公共建築について市民が知り、考え、意見を交わす場所を、誰がどのようにつくるのかという問題である。
建築祭と保存・再生を支えてきたMotionGallery
今回の二つのプロジェクトは、MotionGalleryが継続してきた建築分野への支援の延長線上にある。京都、神戸、東京などの建築祭では、普段は入ることのできない建築を市民に開き、街を歩きながら建築を体験する機会を支えてきた。

株式会社MotionGalleryプレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000110.000030743.html)より
一方、旧尾崎邸、中銀カプセルタワービル、三鷹天命反転住宅、旭館などでは、保存、再生、部材の継承、アーカイブといった多様な取り組みをクラウドファンディングによって後押ししてきた。建築を体験として開くことと、文化資産として未来へ残すこと。その二つの流れが、京都建築センターと石上純也展へとつながっている。
クラウドファンディングが市民を「関係者」に変える
二つのプロジェクトはいずれも、MotionGallery通じてクラウドファンディングを実施している。
京都建築センターは、開設に必要な資金として400万円を目標に掲げ、9月15日まで支援を募集する。石上純也展は、第1目標を300万円、追加目標を500万円とし、8月31日まで募集を続ける。
クラウドファンディングの役割は不足する事業費を補うことだけではない。
支援者は、完成した施設や展覧会を受動的に訪れる観客ではなく、その実現過程に参加する当事者になる。支援者の数は、その建築や文化活動がどれだけ社会に必要とされているかを可視化する指標にもなり得る。
一方で、本来は行政や文化機関が担うべき公共的な役割を、市民の善意や個人の負担だけに委ねてよいのかという課題も残る。クラウドファンディングは、公的な責任に代わるものではない。むしろ、既存の制度では拾い切れなかった文化的価値を社会に示し、次の制度や支援を動かすための起点と捉えるべきだろう。
建築の価値は竣工後、社会との関係のなかで育つ
京都建築センターと石上純也展は、それぞれ異なる方法で建築を社会に開こうとしている。
京都では、完成から40年以上を経た名建築に新たな機能を与え、人と街をつなぐ日常的な拠点をつくる。徳島では、実現しなかった公共建築の記録を公開し、市民が考えるための場所を取り戻す。
そこから見えてくるのは、建築の価値は、設計や竣工の時点だけで決まるものではないということだ。
建築は、使われ、語られ、手入れされ、時に批判されることで、社会の中に位置づけられていく。どれほど優れた建築であっても、人々との接点がなければ、その価値を次代へ手渡すことは難しい。
住宅についても同様だ。建築の価値は、意匠や設備、資産価格だけで測られるものではない。長く使い続けられる仕組みや、設計思想を理解して維持する担い手、周囲の環境や文化との関係まで含めて、初めて豊かな建築文化が形成される。
建築を「社会全体で支え、育てるもの」へ。京都と徳島で始まった二つのプロジェクトは、建築が社会との関係のなかで価値を更新していく、その変化を鮮明に映し出している。
京都建築センター/石上純也展 クラウドファンディング概要
京都建築センター
- 起案者:合同会社まいまい
目標金額:400万円
募集期間:2026年9月15日23時59分まで
開設予定:2026年8月プレオープン、9月本オープン
拠点:TIME’S(京都市中京区)
https://motion-gallery.net/projects/archicenter
石上純也展―徳島文化芸術ホールへと続く、風景と建築の思想―
- 主催:石上純也展実行委員会
目標金額:第1目標300万円、追加目標500万円
募集期間:2026年8月31日23時59分まで
会期:2026年7月11日~8月30日
会場:竹内ビル1階(徳島市東船場町)
https://motion-gallery.net/projects/ishigami-tokushima
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取材
LWL online 編集部