ヘティヒとミーレが示す「動く家具」の未来。小空間を変えるコンパクトリビング

 取材/LWL online編集部

ミラノデザインウィーク2026で、Hettich(ヘティヒ)とMiele(ミーレ)が発表した「Miele Compact Living: Kitchen Unit powered by Hettich」。ワークスペース、キッチン、ダイニングをひとつの家具の中に統合し、生活シーンに応じて姿を変える未来型ユニットである。今回は、このコンセプトを支えるヘティヒの家具金物技術に焦点を当て、小空間における新しい住まいの可能性を読み解く。

「Miele Compact Living: Kitchen Unit powered by Hettich」とは

LWL onlineでは先日、ミーレがミラノデザインウィーク2026で発表した最新コンセプト「Designed to Move with You」について紹介した。その中でも「Miele Compact Living: Kitchen Unit powered by Hettich」について触れたが、今回は改めて、このコンセプトを支えるヘティヒの家具金物技術に焦点を当てたい。

ミーレのビルトイン家電がもたらす調理体験と、ヘティヒの可動機構・収納機構・昇降システムが組み合わさることで、家具は固定された箱ではなく、暮らしの時間に応じて姿を変える「動くインフラ」へと変化する。

都市生活者に求められる「小さくても豊かな住まい」

都市部の住空間では、面積を無限に広げることはできない。そのため、「何を削るか」ではなく、「限られた空間の価値をどう高めるか」が問われる。

コンパクトな住宅において、ワークスペース、キッチン、ダイニングをそれぞれ独立して確保することは容易ではない。しかし、実際の生活を見れば、それらの機能が常に同時に必要とされているわけではない。朝はコーヒーを淹れながら仕事を始め、夕方には調理を行い、夜に食卓を囲む。機能は一日の時間の中で、順番に立ち上がり、また消えていく。

「Miele Compact Living: Kitchen Unit powered by Hettich」の興味深い点は、こうした生活の時間軸を、家具の動きとして具体化していることだ。空間を固定的な間取りとして捉えるのではなく、時間と行為に応じて変化するものとして設計する。その発想こそがコンセプトの核にある。

ひとつの家具が、ワーク、クッキング、ダイニングへと変化する

ユニットは生活シーンに応じて3つのモードへと切り替わる。

クッキングモードとワークモードを切り替えるMiele Compact Living
左はクッキングモード、右はワークモード。ひとつのユニットが生活シーンに応じて異なる機能を担う(写真:ミーレ社)

ワークモード:キッチンとダイニングが仕事場になる

一つ目は「ワークモード」である。
ヘティヒの昇降システム「LegaDrive(レガドライブ)」によってテーブル面が作業に適した高さに調整され、整理されたワークスペースが生まれる。同時に、コーヒーマシンなど必要な機能にはアクセスできる。コロナ禍以降、住まいの中で仕事をすることが日常化した現在、キッチンやダイニングの一部が自然にワークスペースへと変わる意味は大きい。

ワークスペースとして使えるMiele Compact Livingのワークモード
テーブル面を作業に適した高さへ調整し、コンパクトな住空間の中にワークスペースを生み出す (写真:ミーレ社)

クッキングモード:ビルトイン家電が必要なときに現れる

二つ目は「クッキングモード」。
ワークトップは人間工学的に使いやすい高さへと上昇し、ヘティヒの回転・旋回システム「FurnSpin(ファーンスピン)」によって、オーブンやコーヒーマシンなどのビルトイン家電が視界の中に現れる。さらに「AvanTech YOU(アバンテック ユー)」の引き出しに収納された調理器具へもスムーズにアクセスできる。

ビルトイン家電とワークトップを備えたMiele Compact Livingのクッキングモード
ワークトップが調理に適した高さへ変化し、ビルトイン家電や収納へスムーズにアクセスできるクッキングモード。 (写真:ミーレ社)

ダイニングモード:機能を隠し、空間の静けさを取り戻す

家電や収納が単に「隠されている」のではなく、必要なときに最適な位置へ現れるという点が重要である。収納の発想というよりも、空間の振る舞いをデザインする発想に近い。

三つ目は「ダイニングモード」だ。
調理が終われば、FurnSpinによってビルトイン家電は再び家具内部へと収まり、ワークトップはテーブルとして機能する。キッチンとしての機能的な表情は後退し、住まいは落ち着いたダイニング空間へと変わる。

調理のための設備が、食事の時間にまで視覚的なノイズとして残り続けない。この切り替えは、空間の美しさだけでなく、暮らしの気分にも深く関わっている。

ダイニング空間へ変化したMiele Compact Livingのユニット
調理機能を視界から抑え、落ち着いたダイニング空間へと表情を変える (写真:ミーレ社)

家具金物はもはや「見えない部品」ではない

ヘティヒは1888年創業の家具用金物メーカーであり、ヒンジ、引き出しシステム、スライドレール、昇降機構など、家具の機能と品質を支える技術を手がけてきた企業である。

家具金物という言葉からは、扉の開閉や引き出しの動きを支える裏方の部品を想像しがちだ。だが、今回のコンセプトにおいてヘティヒの技術は単なる機構部品ではなく、家具そのものを動かし、空間の使い方を切り替え、暮らしのシーンを変化させるための基盤技術として機能している。

本コンセプトには、ヘティヒの家具金物ソリューションが採用されている。

FurnSpin(ファーンスピン)は家具の要素そのものを回転・旋回させ、家電を必要なときだけ前面に出す。AvanTech YOU(アバンテック ユー)はシーンに応じて収納へのアクセスを滑らかにし、LegaDrive(レガドライブ)はワークトップの高さを無段階に調整する。これらが組み合わされることで、家具は静的な造作物ではなく、住まいの中で能動的に振る舞う存在になる。

これはある意味、「家具のスマート化」とも言える。ここでいうスマートとは、単にアプリで操作できるという意味ではなく、使う人の行為に応じて、空間の物理的な形が変わるという意味でのスマートである。

FurnSpinやAvanTech YOUを採用したMiele Compact Livingの収納機構
回転・旋回、引き出し、昇降といったヘティヒの家具金物技術が、家具そのものの振る舞いを変えていく (写真:ミーレ社)

小空間のラグジュアリーは「変化の質」に宿る

ラグジュアリーな住まいというと、広さ、素材、眺望、装飾性が語られがちである。しかし都市居住の現実において、真に求められる豊かさは、必ずしも面積の大きさだけで決まるものではないだろう。限られた空間の中で、生活のシーンがどれだけ自然に切り替わるか、その精度が、これからの都市型ラグジュアリーにおける重要な価値になる。

「Miele Compact Living: Kitchen Unit powered by Hettich」は、その意味で、コンパクトリビングを「妥協の住まい」としてではなく、「高密度に設計された豊かな住まい」として提示している。必要な機能を、必要な時間に、必要な姿で立ち上げる。そして使い終えたら、再び空間の静けさを取り戻す。この往復運動こそが今回のコンセプトの最大の特徴である。

「Transforming Spaces」を体現する、家具と設備の新しい関係

ヘティヒが掲げる「Transforming Spaces」という考え方は、今回のコンセプトにおいて非常に明確に表れているといえるだろう。

これまでキッチンは、住宅の中で比較的固定された設備として扱われてきた。配管、電源、収納、作業台、家電が特定の場所に集約され、その配置が空間の使い方を決めていた。しかし、都市生活においては、設備が空間を固定するのではなく、暮らしに応じて空間が変化することが求められている。

ミーレのビルトイン家電は、調理体験の質を担う。一方、ヘティヒの家具金物技術は、その家電をどのように住空間の中へ現し、隠し、どのように人の動きに寄り添わせるかを担っている。この両者の組み合わせは、家電と家具、設備とインテリア、キッチンとリビングの境界を緩やかに更新する。

住まいにおいては、光、空気、温熱環境、音、動線、そして家具の動きまでもが、暮らしの体験を形づくる要素になっていく。「Miele Compact Living: Kitchen Unit powered by Hettich」は、そうした都市生活者の未来を小さなユニットの中に凝縮して見せた。小空間であっても、暮らしは豊かに変化できる。家具が動くことで、空間もまた動き出す。今回のコンセプトは、これからの都市の住まいづくりに向けた重要なヒントを示している。

ヘティヒ社公式ウェブサイト

ドイツにあるヘティヒの本社ショールームHettich Forum
1888年創業の家具用金物メーカー、ヘティヒ。写真はドイツにあるヘティヒ・グループ本社ショールーム「Hettich Forum」 (写真:ヘティヒ社)
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