ミケーレ・デ・ルッキが語る、建築と光のこれから。Artemide「Tolomeo(トロメオ)」からAI時代のデザインまで
fy7d(エフワイセブンディー)代表/遠藤義人
イタリアの照明ブランドArtemide(アルテミデ)Japan東京ショールームで、建築家でデザイナーのミケーレ・デ・ルッキのトークイベントが開催された。名作照明「トロメオ」の開発秘話から、建築における照明の役割、AI全盛時代のクリエーションに至るまで、知的刺激に富んだ内容だった。

2年越しに実現した「Beyond the Light」
「Beyond the Light:建築と光の新たな関係性」と題したこのイベントは、ミケーレがデザインしたデスクライト「Tolomeo(トロメオ)」が誕生から35年以上を経てもなお輝き続けるのはなぜか、知られざるエピソードを紐解くとともに、「これからの建築と光」のあり方について語るもの。デザインジャーナリスト木田隆子と2年前に持ち上がった対談企画がようやく実現した。

ミケーレは、トロメオをデザインした当時を次のように振り返る。
「トロメオのデザインは1985年から86年にかけてスケッチの段階から始めました。当時はバブル期で、それまでの時代があまりにもモノトーンだったこともあり、陽気でポジティブなものに変えていこうという空気がありました。前向きで何もかも新しいことにトライしようという活力にあふれていた時代。もっとも、建築学校を卒業して建築家になった私としては、仕事が全てデザインばかりだったのは少し不服だったんです」
そんな中でもミケーレは、常に新しいモノにチャレンジした。
「インダストリアルデザインと、技術、カルチャーをつないでいかなければならないという使命感がありました。新しいことを生み出すときには、その時の様々な常識を超えていかなければなりません。必ずしも破るということではなく、超えていく。そうしなければ新しいものは生まれないからです」

インダストリアルデザインの宿命と闘いながら成功するカギについて、さらに言葉を継いだ。
「インダストリアルデザインは、自動車工業に代表されるような大量生産品です。方や、イタリアの職人の工芸製品となると、数はあまり作れない。一つ一つ手作りで作っていかなければいけません。この二つの世界は完全に離れていましたが、私はこれらをつなげていかなければいけないと感じたんです。ミラノサローネが有名になったのは、それぞれのブランドや企業がプロトタイプといわれる試験的なものを展示したからです。その多くは職人の手によって作られました。私が建築家、そしてデザイナーとして分かったのは、市場が求めているものを作っても、それは絶対成功しないということです。私たちが生み出さなければいけないのはその先のものであり、いま市場には全く存在しないものなのです」
ミケーレは文筆家としての側面も持つひとりの人間として、アーティストなのか、デザイナーなのか、自問自答することがよくあると明かし、次のように考えを披露する。
「文書を書くのはなぜだ、だったら小説家になればいいんじゃないかって。じゃあ今からは建築家だけにするよって。でも最終的には、君はそのままでいいんだよって自分に言いきかせるようになりました」
ミケーレというひとつの人格の中にあって、トレンドに応じた表現方法はいろいろあって当然なのだ。
「私たちメンフィスは、常にファッションの世界というのはすごいなと感銘を受けていました。なぜなら彼らは、色やシーズンによる変化を受け入れ、工業製品として常に追いかけているからです。トロメオが生まれた80年代というのは、世界でも日本人デザイナーが多く活躍し、誰もが憧れた時代でした。まだ30代だった私が覚えているのは、三宅一生さんがデザイナーと呼ばれるのはいいが、スタイリストと呼ばれることを嫌っていたこと。三宅一生さんのデザインは一つ一つがすべて芸術的なものだったからです。 その時に私が感じたのは、建築、ファッション、デザインというものは、分かれた世界ではなく、文化としてつながっているんだということでした。『最も偉大なプロジェクトは人生設計だ』と言われるとおり、人間が快適に暮らし、より幸福を感じる生活を提案するのが建築家であり、アーティストであり、またファッションデザイナーなんです」

名作照明「トロメオ」はなぜ35年以上輝き続けるのか
大量生産と職人性をつなぐ、イタリアデザインの思想
「アンジーさん(アーネスト・ジモンディ)は私にとって特別な存在でした。彼は宇宙工学のエンジニアで、いつもロケットのことを考えていました。そして海が、船が好きでした」

トロメオは、アルテミデのアーネスト・ジモンディの元に毎年持参した20以上のランプのうちの、ひとつだった。
「当時建築家が使っていたタスクライトは、外側に線が巻き付けられたミッドガード・リヒトでした。みんなそれしかないから使っていましたが、もっと使いやすいものを開発しようと考えたのです。わたしたちがトロメオに求めたのは、ネジを緩めたりしなくても、どこに置いても、片手で向きや高さを変えられる機能でした。でも最初のトロメオは、ちょうど良い高さで止まってくれず、少し折り曲げるとバタンと落ちてしまうという問題がありました。当時生産管理をしていたジャンカルロ・ファッシーナが『当たり前だよ。使っているこの素材では滑るから』と、ポイントのところをナイロンで作ったところ、滑りながらも止まってくれるようになったんです。その功績に敬意を表し、ジャンカルロの名前も私と一緒にデザイナーとして付けました」

片手で動かせ、どこにでもなじむタスクライトへ
トロメオが成功した理由を聞かれたミケーレは、汎用性を挙げる。
「どこに置いても馴染むということです。これが会長室にあっても、家のダイニングテーブルにあっても、建築家が使う場であっても、会社員が普通のデスクで使っても。また古い家でもモダンな家でもどこにでも合います」



その後、大きいシェードのタイプ、シーリング、ブラケット等々バリエーションが増えた。「そのうちに遊ぶように(ユーモアの精神で)創りました」とミケーレは語る。トロメオはアイデンティティーが強いので、バリエーションを増やしても一貫性が保たれた。また、絶妙なバランスも奏功しているという。

「トロメオは大きな成功でしたが、同時に大きな問題になりました。私にとってはどこに行ってもトロメオのデザイナーと言われるようになり、アルテミデ社にとってもそれだけが覚えられ、他のランプを消してしまう存在になりました。半分は冗談ですが(笑)」
建築と照明は、ひとつのインスタレーションである
LEDが照明器具のフォルムを自由にした
照明器具のフォルムは、LEDランプの登場によって変わった。電球を使わなければならないという機能性が求められなくなり、フォルムの自由性が生まれたからだ。もっとも、ランプに固定型と置き型があることは変わらないとミケーレは言う。
「固定型というのはどのようにも変えることができませんので、やはり一定の照明にしかなりません。ですから必ず私は固定型と置き型、両方創るようにしています」

光が空間の安らぎと刺激を生み出す
話はさらに、建築と照明の関係、インスタレーションにも及んだ。
「建築の光には、自然光とランプの光があります。光というのは最も人間の感性に触るものなので、光は非常に建築人の中では重要なテーマです。ところが建築の本を読んでも光についてはあまり書かれていませんし、建築家も照明の重要性について話す人は少ない。実は、建築そのものは光の動きによって表情が全く変わってしまいます。つまり安らぎも刺激も両方光によって発生するものなのです。
例えば、部屋の大きさに関わらず、大きな部屋に感じらせることができる。使う素材によっても、その素材が持つ感覚が人に伝わります。部屋の中にあるものに光が当たることによって部屋の中にあるもの全てが生き生きと見えたり、沈んだりする。
私は建築とインテリアデザインは、一つのインスタレーションであると考えています。それは各部屋のインスタレーションである場合もあるし、建築というそのものが一つの巨大なインスタレーションであると思います。
一度建ってしまった建築物は容易に変更できないのに対し、インスタレーションならその時その時代によって表現を変えていくことができます。
寺院のようなモニュメントは、そこにそれがあること自体に意味を持っていますし、それを求めてまた人が集まります。そういったものは例外的で、私たちはいま大きな変動の時代を生きています。いきなり出てきたテクノロジーによって急速に技術が発達し、あっという間にトロメオが生まれた時から40年を経て社会は大きく変わりました。政治的にも民族的にも、人の暮らしの在り方やつながり方も変わりました。そういうことを考えると、地球にとってたった40年という一瞬の間に、大きなことがたくさん起こったと思います。
おそらく今、ずっと残る新しい建物を作ろうと思っても、出来上がった時点ではもう古くなってしまっているんです。建築をインスタレーションと捉えると、常に変えることができますので、その方がいまの時代に合っています」
ミケーレの言葉に木田は大きく頷きながら、日本とは異なり、ヨーロッパでは緻密なインスタレーションで常に変化しつつも古き良き建物自体は残されていることに想いを馳せている様子だった。
AI時代のデザインに必要な「時間の精神」
AIが均質化する時代に、個性はどこから生まれるのか
ミケーレがいまも大学で建築学部の1年生の人たちに投げかける問いがある。それは、「1年かけて『時間の精神』を理解しよう」というもの。
「『時間の精神』を理解できなければ、何もデザインすることができませんし、建物を造ることもできません。
それは幽霊みたいなものです。私たちの周りにも、皆さんの頭の中にも入ってきたり出てきたりしている幽霊。皆さんがデザインをご覧になったとき、これは古い、これは新しい、これは10年前のものだと感じられることがあると思います。これは今の時代性に合っている、昔のものがある、ちょっとまだ早すぎるね、と感じることがあると思います。もっとも、時は1分1秒と常に動いていますので、この『時間の精神』を肌で感じなければ、私たちが考えるプロダクトも建築も、完成した頃にはもう古いものになっているということです。
特に一番影響されるのは政治であったりコミュニケーションであったり、ジャーナリズムであったり、インスタグラムのようなソーシャルネットワークといったもの。それらが、どんどん時代を変えていっています。
もう一つ、今日私たちが生きている時代の大きなものとして、持続可能性であったり、AIであったり、みんなにとっても分かりやすいデータがあります。私たちがプロジェクトを考えたりデザインをするとき、AIの時代なんだということを忘れていては意味がありません。
もっとも、AIの影響を受けると、だいたいできあがるモノはすべて同じになってしまいます。にもかかわらず、私たちは多様性を求めています。AIのせいで、私たちの生活は難しくなったんです。調べればすぐ何でも答えが見つかりますね。ただAIが教えてくれるものというのは均一であって、これは与えられた情報であり、誰かが既に作った情報です。
つまり、AIがくれる情報は誰に対してもぜんぶ同じ情報です。それに頼ると多様性はなくなってしまいます。だからこそその中でさらに違うもの、個性的なものを人は求めています。デザイナーは常にほかとは違うものを作り続けていますし、建築家も同じです」

混沌の時代の中で見出す、木がもたらす温もり
旭川で披露された「CATASTA」と自然へのまなざし
昨年2025年に、ミケーレは旭川市の特別デザインアンバサダーとなり、旭川デザインウィークに合わせてミケーレ・デ・ルッキ展 ~ミラノと旭川のデザインの架け橋~」と称し、インスタレーション「CATASTA」を披露した。ミケーレとAMDL CIRCLEによって設計され、25年4月のミラノデザインウィーク期間中に展示されたものの発展形として、昭和木材が板材を提供、カンディハウスが制作設置したものだ。

そもそもCatastaとは木材の積み重ねを意味し、ミケーレ自身は「Catastaという言葉自体が詩」と表現している。単なる木材の積み重ねではなく、自然との繋がり、音や形、感触、匂いに至るまでの一連のイメージが込められていた。
それを前提にして今回のトークイベントでのミケーレの言葉を聞くと、彼の考え方がよりハッキリ浮かび上がる。
「今の社会は正反対のものが共存し、それによって進化しています。文学、芸術、映画そして工業生産、工芸、こういったものが全てが絡み合ってうまくつながって進んでいる時代です。カラーを使う時もあれば一切色のないものをデザインすることもあります。そしてまた時代もそこに大きな色をつけてくれるんです。例えば今ヨーロッパでの戦争が起きています。ミサイルが自分の見えない空の上を飛んでいると考えるだけでも、それは大きな私たちへの影響となります。こういった時代にあるからこそ、私は木という素材を最も大事にしています。木はそのような自然の存在であり、また私たちに温かみと安心感を与えてくれます」
そしてこうも付け加える。
「いつも私は混沌の中に生きていますが、それは今後も変わらないと思います」
[問い合わせ先]
- アルテミデ・ジャパン
- 東京都港区東麻布1-23-5PMCビル8・9F
- TEL:03-6230-9912
- https://artemidejapan.jp/
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fy7d(エフワイセブンディー)代表
遠藤義人
ホームシアターのある暮らしをコンサルティングするfy7d(エフワイセブンディー)代表。ホームシアター専門誌「ホームシアター/Foyer(ホワイエ)」の編集長を経て独立、住宅・インテリアとの調和も考えたオーディオビジュアル記事の編集・執筆のほか、システムプランニングも行う。「LINN the learning journey to make better sound.」(編集、ステレオサウンド)、「聞いて聞いて!音と耳のはなし」(共著、福音館書店。読書感想文全国コンクール課題図書、福祉文化財推薦作品)など。