防音・遮音・吸音の違いとは? 空気伝播音・固体伝播音から考える住宅の音対策 Living Insight vol.15
取材/LWL online編集部
防音・遮音・吸音は何が違うのか。住宅の音対策を考えるには、まず音が「空気伝播音」と「固体伝播音」という異なる経路で伝わることを理解する必要がある。話し声やテレビの音、足音やサブウーファーの低音では、求められる対策も異なる。本稿では、防音・遮音・吸音・防振の役割を整理し、ホームシアターから寝室まで、快適な音環境をつくるための基本を解説する。
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防音・遮音・吸音の違いを知る前に。音には2つの伝わり方がある
住宅のなかで問題になる音の伝わり方は、大きく「空気伝播音」と「固体伝播音」の2つに分けて考えることができる。
空気を通して伝わる「空気伝播音」とは?
空気伝播音とは、その名の通り、空気の振動として伝わる音のことだ。
人の話し声やテレビの音、スピーカーから再生される音楽などが代表的な例である。
たとえばホームシアターで映画を観るとしよう。音はまず空気中を伝わり、壁やドアを振動させる。そしてその振動が反対側の空気を再び振動させることで、隣室へ音が伝わる。
窓やドア、換気口、壁の隙間などを直接通って音が回り込む場合もある。
そのため、空気伝播音を抑えるには、壁や床、天井などの遮音性能を高めるだけでなく、窓やドアなどの開口部、隙間、設備配管の貫通部まで含めた対策が必要になる。
建物を振動して伝わる「固体伝播音」とは?
一方の固体伝播音は、床や壁、柱、梁といった建物の構造体が振動し、その振動が離れた場所まで伝わることで発生する音だ。
上階を歩いたときの足音、物を床に落としたときの衝撃音、洗濯機などの設備機器が発する振動、ホームシアターのサブウーファーによる重低音、太鼓を叩いた時の低音が代表的な例である。
たとえば2階で物を落としたとき、その音は単純に空気を通して1階へ聞こえているわけではない。床に加わった衝撃が床材や梁などを振動させ、その振動が建物の構造を通じて別の場所へ伝わり、そこで再び空気を振動させることで「音」として聞こえている。
このような固体伝播音は、壁を厚くするだけでは抑えにくい。振動が構造体を伝わる経路そのものを切り離す、あるいは振動を伝えにくくする「防振」や「絶縁」の考え方が必要になるからだ。
このように、住宅で問題となる音の伝わり方は、大きく空気伝播音と固体伝播音の2つに分けられるのだが、両者が完全に分離して存在しているわけではない。空気中の音が壁を振動させて固体振動となり、別の場所で再び空気中の音になることもある。逆の場合もある。
そのため、住宅の音対策は、壁を厚くしたり、吸音材を貼るなどといった単一の方法だけでは解決しにくいのである。

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「防音」とは? 遮音・吸音・防振を含む音対策の総称
ここまでを踏まえると、「防音」という言葉の意味も理解しやすくなる。
防音とは、特定のひとつの工法や材料を指す言葉ではない。外部から室内へ入ってくる音を抑えたり、室内から別の部屋や屋外へ漏れる音を抑えたりするための、さまざまな音対策をまとめた概念として使われている。
その防音を実現するための代表的な手法が、「遮音」「吸音」「防振」なのである。単純に図式化すれば、「防音=目的」「遮音・吸音・防振=目的を実現するための手段」となる。
「遮音」とは? 音が反対側へ伝わることを抑える
遮音とは、壁や床、天井、窓、ドアなどを通って音が反対側へ伝わることを抑えることである。
たとえばホームシアターで映画を見ているとき、その音を寝室へ伝えたくない。あるいは道路を走る自動車の騒音を室内へ入れたくない。こうした場合には遮音性能が重要になる。
ただし「遮音」とひとことで言っても、空気伝播音と固体伝播音では対策の考え方が異なる。
空気伝播音の遮音では「質量」と「気密」が重要
話し声やテレビ、スピーカーの音などの空気伝播音に対しては、壁や床、天井、窓などに対して、音が伝わりにくくなるように対策を施す。
基本的な対策として、壁などの質量を大きくする方法がある。
一般に、重量のある材料ほど音によって振動しにくく、音を反対側へ伝えにくい。石こうボードを複数枚重ねたり、コンクリートなど質量の大きな構造を利用することで、空気伝播音は伝わりにくくなる。
さらに、壁を二重化し、その間に空気層を設けるなど、構造そのものを工夫して遮音性能を高める方法もある。

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また、質量を増やすことと同じくらいに重要なのが「気密性」の確保だ。
どれだけ遮音性能の高い壁をつくっても、ドアの隙間や換気口、コンセントボックス、配管の貫通部分などに音の通り道が残っていれば、そこから音は漏れてしまう。
住宅の遮音では、壁そのものだけでなく、「音がどこを通っているのか」を建物全体で考える必要がある。
固体伝播音では「振動を伝えない」防振・絶縁が重要
一方、足音や設備機器の振動、サブウーファーの低音など、構造体を通して伝わる固体伝播音に対しては、単に壁や床の質量を増やすだけでは十分ではない。
必要になるのは、振動が建物へ伝わる経路をできるだけ断つことだ。
たとえば音を発するものの下に防振材を設置したり、床を構造躯体から絶縁したり、壁や天井を建物本体から切り離して支持したりする方法がある。
スタジオやホームシアター専用室などの本格的な防音室では、床、壁、天井を建物本体から独立させる「浮き構造」や「二重構造」が採用されることもある。
同じ「音を漏らさない」という目的でも、空気伝播音の場合は質量・気密・二重構造などによる遮音、固体伝播音には振動を伝えないための防振・絶縁というように、必要な対策は異なるのである。
壁だけを対策しても音が止まらない「回り込み」
住宅の防音で注意したいのが、「回り込み」と呼ばれる現象だ。
たとえば隣室との間仕切り壁を高性能な遮音仕様にしても、音が天井裏や床下、隣接する壁、配管経路などを経由して反対側へ伝わってしまうことがある。「側路伝搬」と呼ばれるが、音は必ずしも最短距離を通るとは限らない。
壁の遮音性能だけを高めても、天井裏がつながっていたり、構造体を通じて振動が伝わったりすれば、期待した性能を得られないことがある。 高い防音性能を求めれば求めるほど、部屋全体をひとつのシステムとして設計することが重要になる。
「吸音」とは? 室内の反射音をコントロールする
遮音と混同されやすいのが「吸音」だ。
吸音とは部屋の外へ音が漏れないようにするための技術ではない。
室内で発生した音のエネルギーを吸収し、壁や天井などから繰り返し反射する音を減らすことを目的とする。
家具の少ない部屋に入ったとき、声が響いて聞こえることがある。床、壁、天井などで音が繰り返し反射しているために起こる現象だ。
カーテンやカーペット、布張りの家具などが増えると反射音が減り、響き方が変わる。これも吸音効果のひとつである。
吸音はホームシアターでは特に重要になる。室内空間では、スピーカーから直接届く音だけでなく、壁や天井などから反射した音も聴こえてくるため、反射音が多すぎると音像がぼやけることがある。

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しかし、吸音すればするほど良いというわけではない。吸音しすぎれば、空間から自然な響きが失われ、たとえば劇中に流れる音楽が不自然に感じられる場合もある。
そのため本格的な室内音響設計では、吸音だけでなく「反射」や「拡散」も含めて、部屋全体の響きを整える。
「吸音材を貼れば防音になる」とは限らない
住宅の音対策でよくある誤解が、「吸音材を壁に貼れば音漏れを防げる」というものだ。だが、吸音と遮音は役割が異なり、同一のものではない。
たしかに、吸音材を設置すると、室内の反射音が減るため、部屋のなかでは音が静かになったように感じられることがある。だからといって、隣室や屋外へ伝わる音が大幅に減るとは限らない。
吸音材の主たる目的は、あくまでも室内の音響を整えることである。部屋の外へ音が伝わることを抑えたいのであれば、壁や床、天井、窓、ドアなどの遮音性能を確保しなければならない。また、固体伝播音が問題になるのであれば、防振対策が必要になる。
「室内の響きを整える」のが吸音であり、「空気を伝わる音を反対側へ通しにくくする」のが遮音であり、「構造体を伝わる振動を抑える」のが防振なのだ。
ホームシアターの防音では「低音」と「防振」が重要

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住宅の音環境を考えるうえで、ホームシアターは非常にわかりやすい例だ。
映画のセリフや音楽など中高域の音は、主として空気伝播音として壁やドアを通じて隣室へ伝わる。
一方、爆発音など、サブウーファーが再生する重低音は、空気伝播音だけでなく、床や壁を振動させることで固体伝播音として建物内へ広がる。
そのため、ホームシアターの防音では「遮音壁をつくれば完成」というわけではない。
壁、床、天井の遮音性能やドアや窓の気密性の確保、換気や空調を含めた開口部の対策に加えて、サブウーファーやスピーカーから構造体へ伝わる振動を防ぐ必要がある。さらに、室内の吸音・反射特性も整える必要がある。必要に応じて計測を行いながら調整する。
特に低音は波長が長く、建築構造を振動させやすいため、本格的なシアタールームでは建築設計の初期段階から対策を検討すべきである。
音環境を整えることは、ウェルネスを整えること
住宅の音対策というと、オーディオルームやホームシアターを思い浮かべる人が多いかもしれない。
確かに、音楽や映画を高いクオリティで楽しむためには、オーディオ機器に加えて、遮音や吸音、反射、拡散、防振といった音環境の設計が欠かせない。オーディオルームやホームシアターは、いわば「音を積極的に活かすための空間」である。
一方で、これからの住まいを考えるうえで、同じくらいに音環境で重要になるのが寝室だ。
寝室では、豊かな響きをつくることよりも、外部から入ってくる道路や鉄道の騒音、隣室の話し声やテレビの音、上階の足音、さらには空調や換気、給排水設備などが発する音をできるだけ抑え、「静けさ」そのものをつくり出すことが求められる。
つまり、オーディオルームやホームシアターが「良い音を聴くための空間」だとすれば、寝室は「静けさをつくりだす空間」と言える。

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一見すると正反対のようだが、実は両者の目的は近い。
好きな音楽や映画に没入することも、静かな環境で心身を休め、質の高い睡眠を得ることも、人の快適性や健康、精神的な充足につながっている。どちらも住まいにおけるウェルネスを考えるうえで重要な要素なのである。
これまで住宅では、温熱環境や光、空気質といった要素が快適性やウェルネスの観点から語られることが多かった。「音」もまた、人の身体や感覚に常に作用している環境要素のひとつだ。
だからこそ、これからの住宅では、音対策を単なる騒音対策として考えるのではなく、どの空間で、どのような音を聞き、どのような音を遠ざけたいのかまで設計する必要がある。
音を豊かにすることと、静けさをつくること。
その両者を意識して住まいの音環境を整えることが、これからのウェルネス住宅に求められる視点である。
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