東京・丸紅ギャラリーで特別展「美しきシモネッタ」開幕。日伊の芸術・文芸に描かれた“目に見えない美”の世界へ

オーディオ&サブカルライター/杉浦みな子 

日伊修好通商条約締結160周年、ならびにシモネッタの没後550年を記念した特別展が東京・丸紅ギャラリーにて開催中だ。ポリツィアーノの詩と辻邦生の小説、ならびにボッティチェリの傑作「プリマヴェーラ(春)」に焦点を当て、それらの作品に描きこまれた思想を探る展覧会である。

イタリア・ルネサンス期に表現された“見えない世界の美”を見る

11世紀から15世紀のヨーロッパは、国家や宗教の激しい分断が続いた時代だった。そんな中で生まれたのが「人文主義思想」。人間の自由と尊厳、調和を重んじ、キリスト教も異教も神の前では同一であるとする「反対の一致」の精神が唱えられた。当時の分断の時代を収束させようとする試みであり、現代の私たちにも深い示唆を与える思想だ。 

そしてまさにこの時代に活躍したのが、ルネサンス期のイタリア人画家、サンドロ・ボッティチェリ(1445-1510)。東京・丸紅ギャラリーでは現在、そんなボッティチェリのテンペラ画「美しきシモネッタ」が公開されている。 

在日イタリア大使館後援のもと、日伊修好通商条約締結160周年ならびにシモネッタ歿後550年を記念した企画展「イタリアと日本の文芸作品に描かれた美しきシモネッタ—」の中で展示されているものだ。会期は2026年9月30日まで。 

東京・千代田区の丸紅ギャラリーで9月30日まで開催中

美術史家であり図像解釈学の権威、エドガー・ウィント(Edgar Wind, 1900-1971)は、「偉大なる芸術作品においては時代の思想的深みが常に表面に表れているもので、神聖なる光は、それが詩的なヴェールに覆われてはじめて我々に届く」と断言した。 

人文主義思想の時代に描かれたボッティチェリの絵画も、単に目に見える世界を描き取っただけではなく、目に見えない存在を垣間見るための「道具立て」として機能した。そして、そんなボッティチェリの代表作にモデルとしてたびたび登場したのが、今回の特別展のタイトルともなった類稀なる美貌の女性・シモネッタ。彼女はまさに、当時の“目に見えない存在”を表現する象徴だったのだ。 

本展は、シモネッタが登場する作品として、ボッティチェリの代表作のひとつ「プリマヴェーラ(春)」を軸にしながら、イタリアの詩人・ポリツィアーノによる詩「騎馬槍試合のための詩」と、日本の作家・辻邦生による小説「春の戴冠」に焦点を当て、日伊それぞれの文化の中で描かれた美の背後にある“目に見えない存在”を探る。 

期待が膨らむオープニングセレモニー

本展の開幕に先立ち開催されたオープニングセレモニーでは、丸紅ギャラリーの館長・杉浦勉氏、および来賓の駐日イタリア臨時代理大使 ステファノ・ストゥッチ氏より、本展に寄せる想いが語られた。 

丸紅ギャラリー館長・杉浦勉氏

「当館の所蔵品の中でも重要かつ象徴的な作品である『美しきシモネッタ』を中心に、日伊国交樹立160周年を記念する展覧会を、企画内容について検討を重ねてまいりました。『イタリアと日本の両国に共通する価値観とは何か』『シモネッタに関連して何が表現できるか』を深く考察いたしました。 

そこで、ポリツィアーノの詩と辻邦生の小説を架け橋とし、作品の背景にある思想的文脈や、シモネッタという存在がどのように受容されてきたかを紐解く構成としております。一人でも多くの方に足を運んでいただき、イタリアと日本の美の交流を感じていただければ幸いです」(丸紅ギャラリー館長・杉浦勉氏) 

駐日イタリア臨時代理大使 ステファノ・ストゥッチ氏

「イタリア政府を代表いたしまして、本展の開催に心よりお祝いを申し上げます。私個人にとりましても、約3年前に初めてこの『美しきシモネッタ』を拝見して以来、本日皆様と共にこの素晴らしい瞬間を共有できますことを大変嬉しく思っております。 日伊国交樹立160周年の節目に、ボッティチェリの作品展をここ丸紅ギャラリーで開催できますことは誠に喜ばしい限りです。

二国間の文化交流はこの160年の間に常に強化し続け、そしてまた次の160年でさらに深まることでしょう。両国の協力関係は文化にとどまらず、科学研究、先端産業、サステナビリティ、宇宙分野など多岐にわたり発展しております。この展覧会で、日伊の文化の架け橋となったシモネッタの美を通して、皆さまがイタリアルネサンスの最も魅力的な瞬間を再発見すると共に、両国間の友情の深さに触れてくださることを確信しております」(駐日イタリア臨時代理大使 ステファノ・ストゥッチ氏) 

東西の芸術・文芸が交差する、名作の新たな鑑賞体験

本展の大きな魅力は、「イタリアの詩と日本の小説という文学作品の視点を通して、絵画の世界を読み解く」という多層的な構造にある。 

ルネサンス期のフィレンツェで異彩を放ったポリツィアーノの「騎馬槍試合のための詩」に刻まれたシモネッタの影。そして、その美意識と時空を超えて共鳴し、ボッティチェリの代表作「プリマヴェーラ(春)」の考察を紡ぎ上げた辻邦生の「春の戴冠」。日本の文豪が西洋美術の中に捉えた「不変の桜草の姿」は、観る者に絵画の新たな奥行きを感じさせる。丸紅ギャラリーで、時を超えた美の探求へ出かけてみてはいかがだろうか。 

<開催概要>
展覧会名: 日伊修好通商条約締結160周年・シモネッタ歿後550年記念特別展「美しきシモネッタ」 
会場: 丸紅ギャラリー(東京都千代田区大手町1-4-2 丸紅ビル3F) 
開催期間: 2026年8月6日(木)~9月30日(水) 
開館時間: 10:00~17:00(入館は16:30まで) 
休館日: 日曜日、祝日 
入館料: 一般 500円 
公式サイト: https://www.marubeni.com/gallery/ 

  • オーディオ&サブカルライター

    杉浦みな子

    1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://foriio.com/minako-sugiura

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