2026年京都モダン建築祭、約150件の参加建築を発表。安藤忠雄トークも開催
取材/LWL online編集部
京都に息づく近代・現代建築を期間限定で公開する「2026年京都モダン建築祭」が、2026年10月31日から11月8日まで開催される。
5周年を迎える今回は、13エリア・約150件の建築が参加。事前予約なしで自由に見学できる61件の「パスポート公開」に加え、専門家と建築を巡る約120コースのガイドツアー、安藤忠雄氏によるスペシャルトーク、建築と茶文化を結ぶ「東山大茶会」などが展開される。
テーマは「建築体験の密度を高める」。建築を短時間で数多く見るのではなく、その空間に身を置き、歴史を知り、街や人との関係を体感する。建築保存と文化継承を、滞在体験へとつなぐ9日間となる。

約150件の建築を通して、京都という都市を読み直す
寺社仏閣や町家の印象が強い京都だが、街を歩けば、明治以降に建てられた学校、銀行、教会、邸宅、公共施設、商業建築など、多様なモダン建築に出会うことができる。
「京都モダン建築祭」は、こうした京都に現存する建築を期間限定で公開し、街を歩きながらその魅力を発見する建築一斉公開イベントである。2022年、文化庁の京都移転を記念する事業として始まり、2026年で5周年を迎える。
今回は、北山・松ヶ崎、西陣、御所周辺、中京、岡崎、東山、京都駅・七条など、13エリアに約150件の建築が参加する予定だ。パスポートを使って事前予約なしで見学できる「パスポート公開」は61件。さらに、建物の所有者や設計者、建築史家などの専門家と巡るガイドツアーが約120コース用意される。
参加建築には、京都府庁旧本館、大丸ヴィラ、旧三井家下鴨別邸、同志社女子大学、京都ハリストス正教会、京都大学人文科学研究所分館、京都市京セラ美術館、京都府立図書館、無鄰菴、宮川町歌舞練場、丸福樓、京都駅ビル、京都大学花山天文台などが名を連ねる。


美術館や大学、教会、個人住宅、ホテル、店舗、浄水場、天文台まで、建築の用途と年代は幅広い。京都という都市が、伝統建築だけではなく、近代化や産業、教育、信仰、芸術、暮らしを受け止めてきた多層的な建築群によって形成されていることが見えてくる。


©Masaki Hamada(kkpo)
「たくさん見る」から、ひとつの建築に深く滞在する体験へ
2026年のテーマは「建築体験の密度を高める」。
建築イベントでは、限られた時間のなかで何件の建築を巡れるかが注目されがちだ。しかし、今回の建築祭では、短時間で多くの建築を巡ることだけを目的とするのではなく、ひとつの空間に身を置き、その建築が生まれた背景や、所有者、地域との関係を理解する。建築祭では、そうした滞在時間を含めて建築体験を設計するという。
期間中は、61件の建築を事前申し込みなしで自由に見学できる「パスポート公開」を実施。前期は10月31日と11月1日の2日間、後期は11月7日と8日の2日間で、一部では夜間公開も予定されている。
さらに、建築家や建築史家、所有者、施設関係者などの案内で巡る約120コースのガイドツアーも用意される。通常は立ち入ることのできない場所を訪ねるだけでなく、専門家の解説を通して、建築が生まれた時代背景や、設計者の思想、街との関係を読み解くことができる。ガイドツアーの抽選受付は9月4日から30日までを予定している。

保存するだけではなく、使い続けることで建築を継承する
歴史的建築を未来へ残すには、建物の形を保存するだけでは十分ではない。維持管理には継続的な費用と人の関与が必要であり、現代の社会との接点を失えば、その存在意義自体が見えにくくなる。
今回参加する建築には、かつての用途を受け継ぐものだけでなく、新たな役割を与えられながら使い続けられている建物も多い。
旧京都中央電話局を活用したAce Hotel Kyoto、元立誠小学校を再生したTHE GATE HOTEL 京都高瀬川 by HULIC、元清水小学校を生かしたザ・ホテル青龍 京都清水、任天堂旧本社社屋を改修した丸福樓などは、歴史的建築を宿泊施設として再生した例だ。
学校や事務所、企業施設として建てられた建築が、ホテルや文化施設、店舗へと姿を変え、人が訪れ、時間を過ごす場所として再び都市のなかで機能している。
こうした建築に宿泊したり、食事をしたり、文化体験に参加したりすることは、建築を単に消費することではない。建物を維持する経済的な循環を支え、その背景にある物語や価値を次の利用者へ伝える行為でもある。
建築保存を「立ち入りを制限して過去の状態を守ること」だけではなく、「現代の用途を受け入れながら使い続けること」として捉える。その視点は、今回の建築祭を貫く重要なテーマのひとつだといえるだろう。
安藤忠雄の「TIME’S」で始まる、新たな建築文化の拠点づくり
今回の参加建築のなかでも注目されるのが、京都・三条の高瀬川沿いに立つ「TIME’S」だ。

1984年に第1期、1991年に第2期が完成したTIME’Sは、安藤忠雄氏の初期を代表する商業建築のひとつである。高瀬川の水面近くまで人を導く階段やテラス、複数の通路が入り組む構成によって、建築と水辺、街路、そして人の動きまでもが一体化している。
一時期、テナントの撤退により閉鎖され、活用が待たれてきたTIME’Sでは現在、都市型の建築文化拠点「京都建築センター」の開設が進められている。建築ツアーの出発点となるだけでなく、ギャラリー、ショップ、ライブラリー、建築を学ぶプログラムなどを備え、京都の建築文化を日常的に発信する場を目指す。建築ツアーの収益を、貴重な建築の維持管理へ還元する循環も目指している。
年に一度、建築を一斉に公開する「祭」と、年間を通して活動する「拠点」が結びつくことで、建築文化は一過性のイベントから、都市の日常へと根づいていく。
TIME’Sそのものが、保存される建築であると同時に、次の建築文化を育てる装置へと生まれ変わろうとしている。
安藤忠雄氏によるスペシャルトークも開催
5周年記念企画として、安藤忠雄氏によるスペシャルトークも開催される。

撮影:閑野欣次
会場は京都芸術センター講堂。10月31日14時30分開場、15時開演で、定員は200名。通期・前期・U29の建築祭パスポート保有者は無料、一般は1,000円で参加できる。受付方法の詳細は後日、公式サイトで発表される予定だ。
京都の街や水辺と応答しながらつくられたTIME’Sは、安藤氏が後に世界各地で展開する建築思想の原点のひとつでもある。
京都建築センターの始動と建築祭5周年が重なる2026年、安藤氏が京都の建築や都市の未来について何を語るのか。今回の建築祭を象徴するプログラムとなることだろう。
「東山大茶会」が結ぶ、建築と茶文化

5周年特別イベントとしては、「東山大茶会」も予定されている。
茶会は、建築を背景として眺めるだけでなく、光や庭、設え、器、所作を含め、その空間を実際に使いながら体験する営みでもある。
東山大茶会では、建築と茶文化を結びつけることで、建物を見るだけでは得られない体験を提供する。
開催に向けて、7月18日から10月12日までクラウドファンディングも実施される。特別な茶会への参加権や限定グッズなどを用意し、集まった支援を建築保存に対する社会的認知の向上と、建築文化の継承へつなげるという。
その場所に人が集まり、新たな体験や記憶が生まれ続けることで、建築は次の時代へと渡されていく。これこそが文化の継承といえよう。
若い世代へ建築体験を開く「U29パス」
7月16日からは、建築祭パスポートの販売も始まった。
前期または後期の2日間を対象とするパスは、10月25日までの早割価格が各2,800円、通常価格が各3,000円。4日間すべてを巡る通期パスは早割4,800円、通常5,000円となる。
29歳以下を対象とした「U29パス」は、通期で早割1,800円、通常2,000円に設定された。保護者1名につき、中学生以下1名まで無料で同伴できる。
建築保存を持続的な文化活動へと発展させるには、建築を知る層を広げていく必要がある。若い世代が手頃な価格で多数の建築に触れられるU29パスは、将来の建築文化を支える市民を育てる仕組みともいえる。
建築祭への参加が、専門家や愛好家だけのものではなく、建築に初めて関心を持つ人や、京都を訪れる若い旅行者にも開かれていることは重要だ。
京都の街全体を滞在する建築ミュージアムに
京都モダン建築祭が提示するのは、建築を単独の作品として鑑賞するのではなく、街の歴史や暮らし、人の営みとともに体験する視点である。
歩いて建築を巡り、専門家の話に耳を傾け、茶文化に触れ、ときには歴史ある建築で一夜を過ごす。そうした時間の積み重ねによって、京都の街全体が、壁のない建築ミュージアムとして立ち上がってくる。
建築を開くことは、その価値を広く伝えることにつながる。そして、価値を知る人が増えることは、建築を守り、使い続ける力になる。
5周年を迎える「2026年京都モダン建築祭」は、名建築の公開イベントという枠を超え、建築保存、文化継承、観光、そして滞在体験を結ぶ新たな建築文化のあり方を示すものとなりそうだ。
開催概要
2026年京都モダン建築祭
- 開催期間:2026年10月31日(土)〜11月8日(日)
- パスポート公開:
- 前期:10月31日(土)・11月1日(日)10時~19時
- 後期:11月7日(土)・8日(日)10時~17時
- ※一部夜間公開あり。各建築により公開日時は異なる。
- 参加予定:約150件・13エリア
- パスポート公開:61件
- ガイドツアー:約120コース
- ガイドツアー抽選受付:9月4日〜30日予定
- 主催:京都モダン建築祭実行委員会
- 共催:京都市
- ※各建築の公開日時、参加条件、プログラムの受付方法は公式発表を確認されたい。
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取材
LWL online 編集部